第15話:アウフタクトの日常・Ⅱ
「出たぞ、ダイオウガニだ!」
3人の前に現れたのは、まるで岩のような外観の巨大なカニ。
噂通り、牛一頭分はあるんじゃないという一対のハサミと、
それぞれが家の柱みたいな無数の脚、そしてそれに支えられるちょっとしたステージみたいな胴体。
私がイメージしていた、あの美味しい蟹とはかけ離れたモンスター。
「・・・・・・」
蟹だから、鳴き声とかは無いけれど、その巨体が微かに動く度に、
ギイギイと何かが擦れ合うような音が響く。
そんなとき、蟹の胴体から生えている、多分目のような突起が動く。
・・・私達を見てる?
「とりあえず距離取るわよ!」
目の前の蟹が恐らく視線を向けてきてるのを感じてなのか、
レナール先輩が叫んだ。
「はい、先輩!」
「わかった!」
3人皆が一斉に散会、とまでは行かなくとも、ある程度の距離を保ったまま離れるように走ると、
「・・・・・・!」
蟹はその両腕のハサミを高く振り上げ、そして勢いよく地面に突き刺す。
またもバスンッ!!という音と共に砂が巻き上げられて、
ハサミは砂に深く刺さっていた。
「あんなもん、直に喰らったら即死だな」
「あのサイズなら足で蹴られても大怪我よ」
皆、蟹の思わぬ攻撃力の高さに警戒を全開にする。
カイン君は腰にある剣を引き抜き、重心を低く構える。
当然ちゃあ当然だけど、レウン君よりも熟練した構えだ。
レナール先輩も、懐から太いブレスレットのようなものを取り出し嵌めた。
・・・先輩の十八番は呪いだって言ってたけど、それに違わずなんか禍々しいブレスレットだ。
そして私はと言うと、先輩からもらった護身用の銃をとりあえず構える。
間違いなく自分で撃った方が強力だけれど。
「あいつの殻にはとんでもなく硬い岩が付いてる。下手な攻撃は効かないぞ」
剣を正面に構えながらカイン君が私たちの方を見て言ってくる。
確かに、全身見るからに堅そうだ。
だから私を呼んだのかな・・・
「じゃあ、ユイさんの本気、見せて貰おうかしら」
「私!?」
「そ、その魔導具じゃないわよ」
「あ、そうだよね・・・っ!」
思わず引き金を引きそうになった銃型の魔導具を下ろし懐に仕舞う。
考えても見れば、こういう状況に対応するために私が呼ばれたようなものだ。
勢いでプロポーズみたいな事言い出すカイン君に下心があるとはあんまり思えないし・・・
っていうか、護身用に威力の抑えられた氷の弾丸が、このお化け蟹に効くとは思えない。
銃を仕舞い、フリーになった右手をカニに向ける。
蟹は相変わらず、その大岩のようなハサミを振り回し威嚇しているので、間違いなく近寄れない。
「サンダー・・・」
手に平に雷の力を集めながら、魔法の呪文を呟く。
別に言わなくても撃とうと思えば撃てるんだけど、やっぱり精度とか威力とか、その辺りはちゃんと唱えながら撃った方がその魔法のイメージが強まる分強い。
「スパーック!!」
放たれた雷は、けたたましい轟音と閃光、爆風をまき散らしながら、私が魔法を唱え切るよりも先に蟹に着弾する。
毎度の事だけど、すぐ近くで雷が落ちたみたいな音がするのでビビる。
命にかかわる事じゃ無かったとは言え、一回感電したしね。
でも、あの巨大で岩のような蟹も、これで立派で美味しい電熱調理の焼きガニに・・・
「・・・あれっ」
なってない。
「・・・・・・」
蟹は何も言って来ないけれど、
雷はまるで効いてないとでもいうかのように、さっきと変わらず暴れている。
よく見れば、胴体の一部分が焦げているような気がするけど、それだけだ。
「なんだと・・・!?」
「あれで倒れないの?」
横の二人も驚愕してる。
「て、手加減はしてないからね!?」
「それは分かってるわ」
「むしろあれで手加減してたなんて言われたら俺がビビってるな!」
一応弁明は入れて置いたけど、杞憂だったようだ。
「とはいえ、アレが効かないと分かった以上、ピンチは私達よ」
「となると、やっぱり岩のない所を探すしかないか・・・」
相変わらず、ハサミをハンマーのように振り下ろしてくる蟹の一撃を何とか躱しつつ、
3人で取り囲むようにして距離を取る。
飛ばされた砂が、若干汗ばんだ肌に張り付いて来て気持ち悪いけど、今は洗い流してる余裕がない。
暫く、蟹を観察するように3人で立ち回っていたころ、
「あいつ、腹の一部分、岩が無いぞ!」
とカイン君が叫んだ。
「ホント!?」
カイン君と私では立ち位置が違うから、私の方からはそんなのは見えないけれど、この状況でわざわざ嘘をつくなんて事は無い・・・と、思う。
そう思った矢先、蟹はハサミを大きく振り上げながら、私とレナール先輩の方に、脚をせわしなく動かしながら向いてくる。
確かに蟹の腹、つまり下になっている部分に、小さく白い私も知っている蟹の腹のようなものが見えた。
でもその次の瞬間、カニがハサミを振り下ろし、私と先輩はその衝撃というか、巻き上がる砂に巻き込まれてしまった。
「うわっ」
「ひゃあぁ!」
受け身は取れなかったけど、幸い転倒した先は砂浜、
また服も体も砂まみれになる以外には大したダメージは無い。
「・・・っ、腹の下ねぇ」
「あそこを狙うのは厳しいかなぁ・・・!」
よろよろと身を起こし敵とその弱点を確認する。
相手の動きは遅くて、当たらないように動くのは楽だけど、足場は悪く、直撃したら一発で終わりだから心を落ち着かせて慎重に狙っている余裕は無い。
バリアも張ってる最中はこっちからも仕掛けられないので、弱点を狙うために解除した瞬間押し潰されたんじゃ意味がないし。
しかもあのバリア、どうも物理的に重い一撃にはあんまり有効じゃなさそうな気もする。
「じゃあ、協力して狙うしかないな!」
「どうやって!?」
蟹を挟んで反対側に居るカイン君の提案意耳を傾ける。
「こいつを何かしらの方法でひっくり返して、そこを狙う!」
「何かしらって何よ!」
「なんかこう、下からズバーンってする感じの、何かないか?」
「し、下からズバーン・・・?」
そんなざっくりした感じで言われても・・・
あの巨大な蟹を下からひっくり返せそうなもの?
・・・うーん、
噴水みたいに下から勢いよく水を噴き出せば、ひっくり返したり出来ないかな?
「で、できるかも・・・でも、」
「でも?」
丁度近くに居るレナール先輩に一応話を持ち掛けてみる。
「下から思いっきり水を噴射すればひっくり返せないかな?」
「なるほど、それは名案ね!」
「でも、下に潜り込むのがそもそも無理と言うか・・・」
「別に潜り込む必要は無いでしょう?魔法だけそこに撃てばいいじゃないの」
「え、そんな事できんの??」
初耳!
「・・・もしかして、遠隔起動、知らない?」
コクコクと勢いよく首を縦に振りながら肯定の意を示す。
それを見ていたレナール先輩はいつものちょっと気持ち悪い笑みを浮かべてテンションを上げる。
「カイン!今からユイさんに遠隔起動魔法教えるから、ちょっとカニの気を引いてて!!」
「え、あ、あぁ、いいけど!!」
先輩はカイン君にカニの対処をを押し付けると私に向き直る。
「遠隔起動魔法って言うのは簡単に言うと、感応器以外の場所から魔法を撃つ技ね。なんとなくわかると思うけど、自分の手の届かない所から魔法が出せるから便利よ」
確かに思い返せば、マリナさんやリズちゃんは手のひら以外の所からぱっと魔法を撃ったりもしていた気がする。
アレを私も出来るようになれば便利かもしれない。
わざわざ手を上にあげないでもシャワーを浴びる事が出来るようになる。
「で、そのやり方なんだけど、実はめちゃくちゃ簡単よ」
「そうなの?」
「魔法はエーテルを変換させて放つっていうのは知ってるわよね?」
「うん」
そうやって魔法をレクチャーしてもらっている間にも、視界の端ではカイン君が魔法と声で蟹を挑発しながら逃げ回っているのが見える。
・・・ゴメン、カイン君。
「だから、遠隔起動魔法のやり方は、まず自分のエーテルを魔法を起動させたい所まで放出して移動させるの・・・今回は試しに半起動状態でやってみようかしら」
先輩は右手の手のひらを明後日の方向に向けると、ひらりとその手を翻す。何が起きているのかは分からないけど、先輩がその方向をじっと見つめているので、一応、私も目で追ってみる。
先輩も先輩で、かなり丁寧に、マイペースに教えてくれている。
これ、教えてもらえるのはありがたいんだけど、このペースでいいのかな??
「で、放ちたい位置にまで移動出来たら、そのエーテルを意識して魔法を起動する!」
そう言いながらレナール先輩はパチンと指を鳴らすと、
視線の先で急に濃い紫色に光る、全く読めない複雑な文字が書かれた魔方陣が出現して、魔方陣の中心から、これまた紫色に光る鎖が飛び出した。
「これが遠隔起動魔法の仕組み。コツはまとまったエーテルを放出することと、体から離れたエーテルを意識すること。これが出来れば普通の魔法と同じように撃てるんじゃないかしら」
得意げに語る先輩の後ろで、さっき飛び出した紫色の鎖はまたもやのようなものに戻って、風に吹き散らされていく。
つまり、手を振ったタイミングで魔力をエーテルのまま放っていて、指を鳴らすタイミングで、そのエーテルを使って魔法を発動したって事なんだろう。
でも、あれは結局なんの魔法だったんだろ。
「試しに全然関係ない所に一回撃ってみたら」
「はいっ、先輩」
「・・・そう、これ!このノリが欲しかったのよ!」
締まらないなぁ・・・
と内心で思いつつ、口には出さずに実践してみる。
魔力・・・エーテルをエーテルのまま放出するのはストラディウム城でやった事だ。
今も全身から垂れ流されているらしい魔力も使えるに越したことは無いのだけれど、今の所私はそれを感じ取れないので、いつも魔法を使う時に感じている、体内から湧き出て来る力を意識する。
「・・・むむむ」
例のように、胸元、というか心臓の辺りにある魔力が手のひらに集まってくるのは感じる。
後は、これをこの場で魔法にしないように気を付けながら飛ばしてみるだけ・・・
「なあまだか!?」
「もうちょっと待ちなさい!!」
背後で二人の声と、重い何かが叩きつけられる音、蟹の関節が軋む音が聞こえて来る。
・・・気を取られるな、集中しろー?
とにかく、目には見えないけれど今手のひらにあるはずの魔力を、近くの砂浜辺りに飛ばしてみる。
目には見えていないので、イメージだけど。
実際手のひらからどこかへとエネルギーが飛んで行った感覚はする。
でもこれ、どこ行ったか分からなくなっちゃうなぁ・・・
ともかく、後はその魔力を魔法にして・・・
「・・・凍れっ」
初めてなので、ちゃんと声に出して魔法を放つ。
が、魔法は上手く発動せず、何も起きない。
・・・おかしいなぁ
再度挑戦してみるが、やっぱり上手くいかない。
ちらりとレナール先輩の方を見てみると、先輩はなにやら虫眼鏡のような手持ちのレンズを手に、私の方を見ていた。
「そこらじゅうあなたのエーテルだらけで凄い見づらいけど、ちゃんとエーテルは出てるわよ。後は放ったエーテルの位置を正確に把握して、そこに正しく指示を遅れれば行けるはずね」
・・・もしかして、その虫眼鏡で私のエーテルでも見てるんだろうか?
そうなるとどっちかと言うと私自身が使いたくもあるけれど、大抵そういうのは魔導具で私が触れれば暴走してしまうのは想像に難くない。
「そこに一本草が生えてるでしょう?今そこにあなたのエーテルが貯まってるから、そこ目指して撃ってみなさい」
「わ、わかりました」
なので先輩の指示を元に魔法を使う。
実際、私がエーテルを放ったと思われる方向には砂浜の真ん中に一本だけちょろりと何かの草が生えている。
何をどうしてそこに生えたのかは分からないけど、いい感じの目印だ。
・・・しかし、その草の位置ははじめ私が思ってた位置よりもかなりずれてる。これは感覚でやるのかなり大変そうだなぁ。
そこを凝視して、意識を向け、そこに私の手の平に合ったときと同じエーテルがあると信じ、、
「・・・凍れ!」
と唱えると、その草周辺が一瞬水色に光り輝き、その一本の草を巻きむように氷の塊が生まれる。
「やったっ!」
思わずガッツポーズ。
・・・この世界ガッツポーズあるんだっけ?
まあいいや。とにかく成功した!
「行けたじゃない。案外筋いいかもしれないわよ?」
「言っても、先輩のアシストありきですけれどね!」
「そ、そう?ふへへへ・・・」
また口元が緩くなってる先輩を見つつ苦笑いをする私、
そんなとき、
「なあ、まだか??うわっ!」
カイン君の疲れてきている声が響く。
「「あっ、忘れてた」」
「おいっ!!」
そうそうそうだった!
目的はこの遠隔起動魔法を習得することじゃなくって、それを使ってこの化け物蟹を倒す事だった!
急いで様子を確認すると、カイン君は今も蟹を引き付けてくれていて、全身砂まみれだし、足取りも重い。
思ったより危なそうだ。
「は、早く助けないと!」
「待って」
急いでさっき覚えたばかりの魔法を使おうとする私を、レナール先輩は手で遮るように制す。
「どうせぶっつけ本番でやっても上手くいかないだろうから、ちょっと工夫するわ」
「工夫?」
聞き返すと、先輩は足元の砂に足でさっと円を描いた。
「遠くじゃ無くて、ここに魔力を貯めるのよ」
「ここに?」
「そう。ここで設置した後、私たちが離れる。多分その方が確実でしょ?」
「・・・あー!なるほど!」
確かにそうだ。
エーテルがここにあると分かっているなら、私が離れたとしてもこの円目がけて魔法を放てばいい。
逆転の発想と言うやつだね。
「・・・どうせなら魔方陣っぽくしておきましょう」
先輩がっその円の中に星やら文字っぽいものやらを書き込んでいる。
・・・それが原因で別の魔法が暴発したりしないだろうか・・・
とはいえ、魔方陣の知識がゼロの私が何か口出しできるわけでもなく、私はその魔方陣の場所に魔力が集まるよう、まるで砂の山でも作るかのように、
目には見えないエーテルの山を積み上げていく。
・・・積みあがってるよね?
マリナさんもリズちゃんも言ってたけど、魔法上達の第一歩はエーテルを感じ取る事、っていうのは本当なんだなぁ。
ストラディウム城でのあれこれは本当にまぐれで、私もまだまだなんだって事をまざまざと突きつけられる。
どれくらいの量のエーテルが、どれだけの水になるのかもあんまりよくわかってない私は、とりあえずありったけのエーテルをそこに置いていく事にした。
「・・・あなた津波でも起こす気?」
「えっ?」
虫眼鏡でそこを見ている先輩からはそんな事を言われてしまったが、もう今更な話。
・・・水を噴き出すときはちょっと控えめにしよう。
ともあれこれで準備完了だ。
カイン君と蟹が戦っている場所とは反対に逃げて、こちらに誘い込める位置取りをする。
「カイン!準備できたわ!」
「や、やっとか・・・!」
「だからこっちに走ってきなさい!」
「まだ走らされるのか!?」
「ごめんねー!!」
蟹の一撃を間一髪で避けたカイン君は、遠目で見ても嫌そうな顔をしている。
でも、設置型にしちゃったのだから仕方がない。
「あぁもう、仕方ないな!!」
カイン君が蟹に魔法を一発ぶつけて気を引いてからこちらに走り出す。
砂浜と疲労で今にも転んでしまいそうな危うい走りだけれど、躓いたりはしていない。
ざくざくと砂の上を走るカイン君が例の魔方陣の上を通過して、こちらに駆け込んでくる。
そして、一拍おいでドスドスと砂をものともせずにほぼ無傷の蟹が追って来て、
魔方陣に差し掛かる。
「今よ!!」
「・・・水よ、吹き上がれっ!!」
それと同時に、両手を魔方陣の方に向けて呪文を唱える。
場所は完璧、タイミングもピッタリ!
あとは魔法が上手くいくだけ!
直後、砂で描いた魔方陣の目印の辺りがカッと青色に光り輝き、
ドォォォォン!!!
と、まるで爆音のような音と共に、蟹の腹の下から大量の水が吹き上がる。
それはまるで台風中継で見た港の大波ようで、
高さも、幅も凄まじい水の奔流が巻き起こる。
「・・・うわっ!!」
「冷たい!!」
その水しぶきは私たちの方にまで襲い掛かり、砂まみれだったあ私達は、一瞬にしてずぶ濡れに。
しかし、その威力を直下で受けた蟹も当然ただでは済まず、
数メートルの高さまで軽く回転しながら吹き飛んで、背中から豪快に墜落した。
相当な衝撃だったとは思うけれど、既に砂は濡れていて砂煙はあまり起きていない。
「・・・ひっくり返ったわ!!」
「よしっ!」
2度目は控えめなガッツポーズ。
ひっくり返った蟹は、その岩のような何本もの足と巨大なハサミをせわしなく動かして、元の体勢に戻ろうとしている。
その腹部には、確かに岩に覆われて居ない白い殻が覗いていた。
・・・っていうかひっくり返った蟹気持ち悪っ!!
「今だ、アレをやるぞレナール!」
「わかったわ!」
形勢逆転したからか、もう既に元気を取り戻しているカイン君が、僅かに見える、岩に覆われていない蟹の腹目がけて走り出す。
と同時に、
「・・・呪詛、縛式、"封鎖の檻"っ!!!」
レナール先輩が、腕のブレスレットを紫色に瞬かせながら叫ぶと、
蠢く蟹の脚の近くに無数の紫色の魔方陣が現れ、そこからさっき見た紫の鎖が次々飛び出してきて、蟹の脚やハサミを絡めとった。
それによって蟹の脚はがっちりと拘束されて動けなくなる。
こうなるとキモさも大分緩和される。
そういえばレナール先輩の十八番は"呪い"だっけか。
こういう事も出来るんだ・・・
「・・・今よ!」
「サンキュー!!」
蟹が動けなくなった隙を付いて、カイン君が蟹の腹へと昇り、弱点である白い殻に思い切りその剣を突き立てた。
・・・が、カイン君はそれを抜くこと無く蟹から転がり落ちるように退避する。
「ユイ!あの剣に雷を叩き込め!!」
「今なら剣を通じて体内に雷を叩き込めるはずよ!」
「えっ!?あ、わ、わかった・・・!」
ひっくり返すところまでで割と一仕事終えた感のある私だったけれど、まだ終わってないみたいだ。
「サンダー・・・!」
少し半身に体を開き、濡れて少し硬くなった浜をブーツで捉える。
いつもの右手の平にはバリバリと攻撃的な音と光が宿っている。
・・・これ、全身びしょ濡れだけど大丈夫かな?
いいや余計な事を考えるな私。
自分を意識するとまた自分も感電しかねない。
今はターゲットだけを狙う!
蟹はまだ相当な力が残っているのか、がんじがらめにされた鎖が今にも引きちぎられそうになっている。
焦らず、一呼吸おいて、
「スパーーク!!!」