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第14話:勝ち取った平和・Ⅳ

数日後、


あわただしい復興作業はストラディウムやモール以外の小さな村々にも波及し、

ストラド自治区は今最も忙しい地域になっただろう。


この地域全域で犠牲になった者たちの葬儀をモールの教会で終えて、

アリッサさんのお見舞いに行って、

ユーリト家に再度挨拶に行って・・・



そして遂に今日、私とマリナさんはアウフタクトに帰る日が来た。

いくらカレンさんが居るとはいえ、流石にアウフタクトの教会を開け過ぎたので、あまりこちらに長居はできない。


なのに、この日作業がひと段落した訳でもないのに、モールの門にはレジスタンスの人々が全員集合して、私たちの別れを見送る体制が出来上がってしまっていた。


「そうか、帰るのか」

「ええ、あまり本家を放置しておくわけにもいかないですから」


門の出入り口にある小型の馬車の前で、アンダリスさんとマリナさんが話している。


「きっとあんたらが居なかったらこの自治区の解放は叶わなかった。だから、俺らにとってあんたらは救世主に等しい」


アンダリスさんは、マリナさんだけでなく私の方も見ながら、その大柄な体に似合わない礼をした。

とはいえ、バーのマスターらしく黒いベストとシャツ姿なので様にはなっている。


・・・が、その次の一言でそんな感想は全て吹っ飛んでしまった。


「だから、あんたらの銅像をモールに作りたいんだが・・・」

「なっ!?」


銅像!?

一瞬、西郷隆盛像みたいなやつを想像してしまうが、


「・・・申し出はありがたいですが、それはご遠慮させていただきますわ。個の誇示は教義に反しますので」


マリナさんは即否定。

因みに私も、


「は、恥ずかしいので、私も、遠慮させてください・・・」


と。

いやぁ、町のど真ん中に私の像は恥ずかしいって。


「そ、そうか・・・それは残念だ」


すごすごと引き下がるアンダリスさん。

そして、それと立ち位置を入れ替えるように今度は、


「だから銅像はアタシにしとけって言ったんだ」

「シスター・レイフィールの銅像なんて恐れ多いったらありゃしないよ」


バークレイさんとアリッサさん。

そう言えばこの二人、作戦の前に銅像がどうとか話してたような気がする。

二人とも正装といった感じで、バークレイさんは金の刺繍がなされたジャケットを、

アリッサさんは銀の刺繍の入る、羽織りのようなものを着ている。


「で、アタシとバークレイ、どっちの銅像が相応しいと思う?レイフィールさん」

「「えぇ・・・?」」


急な無茶振りに二人とも固まってしまう。


二人してお互いを見合い、どうすればいいのかをアイコンタクトで会話する。

というか、私が一方的に、マリナさんに結論を委ねた。


「そ、そうですね・・・いっそ、お二人合わせた像を作ってしまうというのは・・・」


「二人か・・・この二人だと、等身大の像を作るにはちょっと銅が足りないんだ」

「そうでしたか・・・確かに、銅は復興に際しても重要な資材ですものね」

「あぁ、どっかに強力な金属性の使い手でも居りゃあいんだけどねぇ」


そんなアリッサさんの言葉に、皆が反応し、視線が一点に集まる。


・・・私に。


「金属性の・・・使い手・・・」


ええ、やりましたとも。

30センチ四方くらいのでっかい銅の塊を出してあげた。

見た目はちゃんと10円玉とかと同じ銅色をしている金属。

・・・ちゃんと銅になってるかは分からないけど・・・


もしかしたら雑念が混ざって、妙な合金になってたりはするかもしれない。


ともあれ、これで二人の銅像問題は解決し、二人の間にもお別れムードが漂ってくる。


「しかし、もう行くのかぁ」

「一応、私たちにもやるべきことはありますので」

「仕方ないさ、自分の為でも、人の為でも、一か所に留まって出来る事には限界があるからな」

「だな。あたしもオルケス王国とか、ストラド自治区に来て多くの学びがあったよ」


二人も別れに関しては惜しんでいる様子はあまりない。

むしろ、その門出を祝ってくれているような視線を感じる。

実際はアウフタクトに帰るだけなんだけれども。


「でも、いつか旅行でもいいから寄ってくれ。その時には、平和で豊かな自治区を見せてやるさ」

「敵は去ったんだ、ま、復興は年単位でのんびりやってくさ」


・・・どっちなんだろう。

中の良さそうな二人は、お互い和やかな雰囲気のまま集団に混ざっていった。


次に出てきたのは、イルフリードさん。

戦場で見る重厚な鎧でも、バーで見るシンプルでワイルドな姿でもなく、黒を基調とした、どちらかと言うと牧師さんのような格好にも見える。

体格のせいで全然そんな印象にはなっていないけれども。


「本当に、お世話になりました、ビショップ・レイフィール様」

「結局、貴方様は今後どうするのでしょう?」


あの後聞いたのだけれどイルフリードさんは、あの城の元騎士であり、そして聖堂教会の信徒でもあるらしい。いまそのどちらの人員も壊滅状態である事を考えると、恐らく引く手あまたである事は想像に難くない。


「・・・しばらくは騎士と神父の任を平行しようと思います」

「それは、中々に重労働だとは思いますが?」

「ええ、ですので、その復興の活動の傍ら騎士と神職の人員探しを主としてやっていく事になるでしょう」

「ふふ、それは素晴らしい活動ですわ。貴方様に聖なるお導きがあらんことを」


マリナさんがイルフリードさんに対し十字架を切るような仕草をして、それをイルフリードさんがありがたそうに受け取っている。

この辺りは、聖堂教会を信奉する人たちならではのやり取りだろう。


アウフタクトに居た頃は、教会に来る人たちにそれをしているのをたまに見る事があった。

高位の聖職者にのみ許される行為、洗礼・・・だったかな?


それを受け取ったイルフリードさんは今度は私の元へとやって来る。

近づくと、私との体の大きさの差が鮮明になり、圧迫感が凄い。


「お嬢さんに言いたい事はあの時粗方言ってしまったが・・・まぁ、そうだな」


大柄な体にピッタリな、野太く力強い声だけれど、

そこに含まれている感情はとても優しい。


「やはり、知識を得るには旅に出るなどして見聞を広めるのも良いだろう。風の噂ではオルケス王国の東の町でも、非常に強力な魔力を持つ者が居るそうだ。そう言った者と知り合う事でも、君の体の秘密に迫れるかもしれんな」

「・・・良く覚えておきます」


東の町かぁ・・・

オルケス王国はかなり東西に広い国で、ここはほぼ最西端といえる場所。

向かううとしてもだいぶ後にあるだろうけど、知っておくに越したことは無い。


「あとはそうだな、当たり前の事だが・・・その力は、時に支配者にもなりうる力だ。使いどころは、間違えるなよ」

「それは、わかってます」


私も、強く頷いた。

そこに関してはしっかりと意思表示していきたい。

この力は、大切な人を守るために使いたいと、そう、誓ったのだから。


「ふ、なら平気そうだな。お二人とも、この度は、本当に、ありがとうございました」


イルフリードさんは不敵に笑うと、丁寧に礼をして戻っていった。


次はアルさんとベルさん。

今日は二人別々の男性らしい服と女性らしい服を着ていて、どちらがどちらなのかよくわかる。


「お二方、本件は、真にお疲れさまでした」

「此度の戦役はこの自治区が存続する限り永遠に語り継がれる事になるでしょうね」

「うっ、それは恥ずかしい・・・」


お仕事を重ねて実績を積みたいとは言ったものの、流石にそこまでされるのは恥ずかしい。


「でしたら、私達で工作し貴女の存在を歴史から抹消することも出来ますが・・・」

「そ、それはそれで寂しいような・・・」

「では、あくまでもレジスタンスの一人として名を連ねる程度にしておきましょう」


うん。それが良い落としどころだろう。


「じゃあ、それでお願いします」

「事実を知っているのは、ここに居る我々だけですし、口裏合わせ程度で何とかなりましょう」


機械のような整ったお礼をする二人を見ていたら、後ろからマリナさんの声がする。


「あまり歴史にあれこれと付け加えたり、内容を変えたりするのは好ましい事ではないのだけれど、まあ、ユイちゃんがそう言うなら仕方ないわね」

「それはその・・・申し訳ないです・・・」

「いいのよ」


そう言うとマリナさんは、私の横へ達、アルさんとベルさんに声をかけた。


「だったら、私の扱いも同じにしてもらえるかしら。私達二人はあくまでもレジスタンスのお手伝い。自治区の存亡をかけた戦いは、現地に人々の手によってなされた、と。その方が伝承としても聞こえは良いでしょう?」


マリナさんは、私やアルさん、ベルさんだけでなく、ここに居るレジスタンスの皆に宣言するように、大きな声で辺りを見渡すように語り掛ける。

私達二人は陰の功労者的な扱いになるようだ。

戦勝会の日に、この二人に言われたことを考えると、自分で自分の身を守れるようになるまでは、悪目立ちしない、そういう立場の方がいいのかも。


それを聞いたアルさん、ベルさんはというと、


「わかりました。ではそのように」

「もっとも、我々もここの出身では無いのですが」


なんて、

対するマリナさんも、


「いいのよ。こちらはほんの数日前に個々に来たばっかりの新参者なのよ?」


と。

普段真面目な二人が冗談のような事を言い合う光景は、なんだか新鮮だ。


皆でふふふと軽く笑い合い、二人は人ごみに帰り、見えなくなってしまった。




その後も、様々な人たちの別れの挨拶を交わし合い、

そして、最後に残っている二人こそが、レイル君とレウン君。

衣服こそ見慣れた皮の服だけれど、二人ともその懐に武器は無く、手ぶらの状態。

小さな変化だけれど、ここが平和である何よりの証拠だろう。


「もう、行っちまうんだな」

「なんだかんだ、長くて短かった気がします・・・」


ちょっとカッコつけて斜に立っているレイル君だけれど、実際あれだけの戦場を潜り抜けてきたのもあって、それなりに様になっている。

何時着いたのかは分からないけど頬に付いている傷跡がそれを物語る。

一方のレウン君はほぼ棒立ちだけれど、それでもやっぱり貫禄が出たような気がする。


「二人とも、親の言う事はちゃんと聞いておくのよ?」

「「はい」」

「心配をかけるなとは言わないけれど、その分のお返しはちゃんとすること」

「「わかりました」」


そんな二人も、マリナさんの忠告にはしっかりと返事をした。

それを聞いて、昨日の故郷への挨拶を思い出してしまう。


レウン君達と私たちは、挨拶に行ったタイミングが違うので直接は見てはいないのだけれど、どうもマールさんは、二人が帰って来るのを見るなり、大号泣で抱きしめたりしていたらしい。

それこそが、親子愛と言う物だろう。


その話を聞いたときに、私はマリナさんではない、私の本当の両親を思い出して泣いてしまったので、それ以降マリナさんもその話を振る事は無かったが、流石にこの場では仕方ないだろう。

私も、また潤んで来てしまった涙腺を締めつつ、平静を装っている。


マリナさんとの挨拶を終えた二人は、今度は私に向き直る。

が、


「その・・・世話になったな」


何故かガッチガチに緊張し出すレイル君。


「・・・もしかして、緊張してる?」

「い、いやな、実際闘いの最中はそんな事気にしてる余裕は無かったんだけどさ・・・よく考えれば、同年代の女子と寝食を共にするって、結構ヤバい事だったんじゃないかって・・・」

「なっ・・・」


今更そんな事言う!?

涙腺が引っ込んだよ!

見れば、レウンくんも顔がちょっと赤いまま俯いている。


「いやホント、やましい気持ちとかは無かったからな!マジで」

「・・・」


思い返せば、危うい記憶が出るわ出るわ。

実際の所、このストラド自治区に来てからの数日間、野宿というか・・・レイル君かレウン君のどっちかあるいはどっちもと寝食を共にしている回数の方が多い気がする。

風紀委員から問題提起が入って、生徒会会議が始まるレベル。


なんかそう思うと、なんかアレだなぁ。

青春にしてもタチが悪いというかなんというか・・・


「って言うかだな?ユイさんの恰好もその・・・アレだぞ!」

「これは魔力の為に仕方なく着てるんであって・・・っていうかその責任私なの?」


それは聞き捨てならないよ!?

着てないと死ぬ衣装のせいにされたらたまったものじゃあない。

好きでお腹出してる訳じゃないんだよ!


・・・そういう説明してたかどうか覚えてないけど!


私が反論しかけたら、レイル君は少し何かを考えるような素振りをしてから、改まって私の方を向いてくる。


「ま、まあ、デリカシーに欠けるアレではあったな、うん」

「た、確かに私もその辺、あんまり説明してなかったかも・・・」


仲直りなのかなんなのか、

まあ一応、険悪な雰囲気にはならなかった。


そんな事よりも、なんだかんだで一緒に結構ヤバめな状況を切り抜けた仲間である事は変わりないし、

レイル君とレウン君にしっかりとした別れの挨拶をしよう。


軽く咳ばらいをしながら、二人の注目を集める。

私が話し始める時にたまにやってしまうありきたりな手法。


「と、とにかく、私はこれで帰っちゃうし、一応、ちゃんと挨拶はしとこうと思うんだけど・・・」


咳払い効果なのか、二人は真っすぐ私を見ながら黙っている。


「まずはレイル君から」

「お、おう」

「その・・・さっきはなんか揉めちゃったけど、よくよく思い返せばさ、結構レイル君に助けられた場面って多かったな、って思ってさ」

「そ、そうだったか?」

「そうだって、あの化け物の時間稼ぎの時も、木を燃やした時も、多分あのアシストが無かったら負けてた気がするよ?」


冗談抜きでね。

寧ろなんで今生きてんだろう?って数日間だったような気もする。


「でさ、そういう意味ではちゃんと感謝の意は伝えておかないとねって」


感謝は大切。いや本当に。

この世界に来る前も、来た後も、本当にいろんな人に助けられて、感謝を伝えてきた。

ただまあ、それだけの感謝を経験したとしても、面と向かって言うのは多少気恥ずかしい訳で、


「だからその・・・ホントに、ありがとう」


あぁやっぱり恥ずかしい!

別に何の気ないタイミングでさらっというのは余裕だけど、こう改まった雰囲気だと余計にね!

さて、対する面と向かって言い放たれたレイル君はと言うと、

こっちもこっちで凄い気恥ずかしそうな感じで、


「そ、そりゃあこっちのセリフじゃねぇかな・・・ほら、ユイさん達が居なかったら、今頃母さんは、っていうかこの自治区自体どうなってたか分かんねぇし・・・その、救って貰った度合いだと、断然俺らの方が重いって言うかさ・・・」

「そ、そうかな」

「だからその、感謝するべきはこっちなんだよな・・・その・・・ありがとうな」

「こ、こちらこそ・・・?」

「・・・」

「・・・」


なんとなーく返す返事も浮かばず、お互いにお互いの事を直視しきれないまま沈黙が続いていると、

遠巻きにいたアンダリスさんと、背後のマリナさんから、


「「青春だなぁ」」


なんて。


「「そういうのやめませんか!?」」


お互いにハモる二人。

なんで私はこんなところでラブコメみたいなことをしてるんだ!!



「つ、次はレウン君!」


とにかく、このノリを断ち切って、レウン君への挨拶に強引に移る事にした。

割と不意打ち気味なタイミングだったから、呼ばれたレウン君自身もビクゥ!と反応してる。

それに関しては悪かったと思ってるよ。


「レウン君はそうだなぁ・・・あの、作戦前に二人で夜空眺めた時、あったでしょ?」

「は、はい!ありましたね・・・」

「そこでさ、二人で思いっきり力を出して、見返してやろうって、言ったでしょ?」


詳しい文面は忘れたけど、多分そんな感じだったはず。

レウン君も頷いてるし。


「で、本番で私の事を信じてくれたのが、本当に嬉しかったんだよね。解放の、さらにその上まで行けたし」

「ぼ、僕も、ユイさんが思いっきり魔力を注いでくれたおかげで、遠慮なくあの剣の力を引き出せましたから・・・」

「そうなの?」

「は、はい。魔力が中途半端なまま下手に引き出しすぎると、お兄ちゃんとか、レイフィールさんが危なくなる剣だったじゃないですか・・・」

「あー、確かにね」


もし私の魔力の出力が中途半端だったら、レウン君の剣の解放度合い次第で、ヴェルス侯爵を倒せていないか、マリナさん達の命が危なかったか、あるいはその両方かだっただろう。

私が全力の魔力を放つことが出来て、レウン君がそれを受け入れてくれて、それがお互いに通じたからこその勝利が今ここにある。


「剣は壊れちゃったけど、あれは間違いなく、二人の心が通じた一撃だったと思う!」

「あ、それなんですけど・・・」


なんとなくいい感じに締めようとしたところで、レウン君がそれをせき止め、懐から何かを取り出し、手渡してきた。

それは、布にくるまれた4,5㎝くらいの何か。


「これ、砕けた剣の破片の一つです。せっかくなので、ユイさんに一つあげます」

「あ、いいの?」

「もう使えないでしょうし、使うことも、無いんじゃあないかなって」

「確かに」


布を解いてみると、確かにそれは刀身の一部で、銀色に光っている。

光っていると言っても、太陽光を反射しているだけで、それそのものが発光しているわけじゃない。


「じゃあ、思い出としてもらっておくね」


布にくるみ直し、ポケットにしまう。

これはアウフタクトに帰ったらお部屋に飾っておこう。


「じゃあ、レウン君も、レイル君も、これでお別れだね」

「ああ」「そ、そうですね」

「またここに来るのは何時かは分からないけど、いつかは絶対に来るから、その時はよろしくね」

「任せとけって」


レイル君は少し前までの赤らみも消え失せ、いつもの勝気な表情に戻っている。

兄弟の顔は晴れやかで、この別れの場に悲しい雰囲気は微塵も無い。

私もその方が気が楽だ。


「あ、二人がアウフタクトに来るのでもいいけどね?」

「それは・・・どうなんでしょう、これからこの自治区を復興させてかなきゃいけないし・・・」

「うーん、そっか。ま、まだ皆若いしいつか何とかなるでしょ!」

「「そうだね!!」」


その時、遠くから

「それは俺らへの当てつけかー?」

なんて、アンダリスさんのような、そうでないような声も聞こえたけど、聞こえなかった事にした。


「んじゃあ、これで私の挨拶はおしまい、じゃあね!」


最期にとびっきりのすっきりした笑顔を見せつけて、二人も同じように笑顔を返してくれる。

どうせなら、こういう爽快感のある別れの方が良いよね。


これで一応、全員と挨拶はできたかな。

ふぅと小さく息を吐くと、横のマリナさんが優しく問いかけて来る。


「もう、大丈夫?」

「はい!大丈夫です!」


名残惜しいと言えば名残惜しいんだけど、アウフタクトの方も気になるというか、知り合いは居るしね。

それに、今が一番丁度いいタイミングのはずだ。

大丈夫だと頷いて返事をすると、マリナさんも頷き返してから、レジスタンスの皆さんの方へと向き直った。


「では、これで私達はアウフタクトへと帰ります。レジスタンスの皆さま、ひいてはここストラド自治区の全ての民に、神のご加護があらんことを」


マリナさんは胸の前で十字を描いてから、深いお辞儀のような事をする。

皆もそれに倣って頭を深く下げているので、私もお辞儀をしておいた。


お辞儀が終わると、私達は背後の馬車へ向かう。

馬車の幌の中には、いくつかの荷物と、それなりにクッション性が高そうな座席が二つ。

私はこれまでに3回馬車に乗ったけれど、1番乗り心地は良さそうだ。


皆が見守る中馬車に乗り込み座席に座ると、ギシリ、という音と共に馬車がゆっくりと動き出す。

滑らかで、寧ろ心地いくらいの揺れ。


ふとレジスタンスの皆の方を見れば、皆が皆手を大きく振っている。

勿論、私もそれに対して手を振り続けているし、マリナさんも小さいながら手を振り返している。



馬車が進むとともに、幌の後ろから見えるレジスタンスの皆の姿は小さくなっていくけれど手を振り続け、結局お互いにその姿が完全に見えなくなるまで続いた。





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外に出ると道の舗装が不十分だからか揺れは大きくなってしまったけれど、それでもお尻が痛くなるような事は無い。

乾いた大地、モールの町の城壁が遠くに見える位の所まで進んだとき、

ふとマリナさんが私に話しかけてきた。


「なんというか、思っていたより大事になっちゃったわね」

「・・・ですね」


マリナさんも、多分私もしみじみという顔をしている。

だって、元々は行商の人が来ないとか、そんな感じの話だった筈。

それがあれよあれよ言う間にこれだもんね。


「ゴメンね、色々巻き込んじゃって」

「いやいやいや!私が言い出したようなものですから、実際」


マリナさんは、あのレジスタンス活動に私を巻き込んでしまったと感じているらしい。

やっぱりどこまで行っても、マリナさんは私の母親として振舞おうとしてる。

それは頼もしくもあり、そして、申し訳なくもある。


「まあ、これでこの件はひと段落したのだし、しばらくはアウフタクトでのんびりして居ましょうか」

「・・・何も起こらなければ良いですね」


ふとそんな事を呟いてしまったが、これはもしかして、妹曰く"フラグ"なのではないかと、

少し背筋に寒いものが走る私なのであった。

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