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第13話:魔剣の勇者・Ⅱ

ギイイイイイィィィィ・・・


と、立て付けが悪いのか、長年使ってないのか、そんな重苦しい音を立てながら扉が開く。


「扉、重くない!?」

「こんだけでかい扉なんだから普通だろ・・・多分」


力仕事担当の兄弟が結構苦戦している。

総統重い扉なんだろうなぁ、と思いつつ、私も警戒しながら待機する。


この先は、城の中で最も大きい部分。洋風の城でここを何というのかは知らないけれど、和風の城で例えれば天守閣の部分。

昨日外から見た時に怪しく光っていた部分

しかし、扉を開けた瞬間攻撃が来る!なんてことは無く、静かな暗い空間が広がっていた。

部屋の壁も天上の距離感もあんまり掴めない程広い、ホールのような空間。


「あんなバケモンに守らせておいて何にもないのかよ?」

「そ、そんなことってあるのかなぁ・・・?」


一行は思わせぶりな雰囲気からの何もない展開に、拍子抜けしながらパキパキと音を立てながらホールを進んでいく。


・・・パキパキ?

城のホール、人工物でそんな足音鳴る?


「ユイちゃん、光を」


マリナさんも違和感を覚えたのか、私に照明を要求してくる。

その声色は低く、本気モードに入っている。


「は、はい」


両手の間に光の魔力を集め球を作り、上空にぽんと打ち上げる。

打ち上げ花火のように光が昇って行って、ある程度上った所で弾け、蛍光灯くらいの明るさになる。

便利だから覚えておいた明かりの魔法。


その魔法によって照らされたホールは・・・


「んなっ」

「えっ!?」

「こ、これは・・・」


ホールは、一面植物に覆われていた。

植物園とか、そう言う綺麗な感じじゃない。

床も、壁も一面見た事も無い蔓植物に覆われ、窓が全て覆われ太陽光が遮断されている。

さらに、床のところどころに木の根のようなものが張り巡らされていて、それが全てホールの奥に続いている。

これがあのパキパキの正体かな?


その木の根が続いているホールの奥には、最早樹齢を想像するのが馬鹿馬鹿しいほど太く巨大な木の幹が鎮座している。


「・・・でっか・・・」

「ここは・・・何の部屋だ・・・?」


隣に居るレイル君と一緒に、ポカンと口を開けてそんな頭を使ってないセリフしか吐けない。

大理石の床にレッドカーペット、やろうと思えば5人くらい座れそうな玉座、何段重ねなのかもわからないシャンデリア、

そんなテンプレートなお城の部屋を想像していた私のイメージは一瞬で崩れ落ちた。

城のど真ん中に・・・この・・・何?


人は本当に驚くと困惑するばかりで何のリアクションも取れないという、いつかのバラエティー番組の検証を思い出される。


「でも、この部屋からはとても強い魔力を感じるわ。警戒は怠らない事」


マリナさんはこんな状態でも警戒を解かず、冷静に分析してる。

やっぱり場数が違うのかな。

それに倣って、私も心を落ち着かせて床の植物を冷静に観察してみる。


・・・あ、これ、下の食堂にもあった気がする。

記憶違いの可能性は勿論あるけど、葉っぱの形とかが一緒な気がした。


「あの、これもしかして・・・」


3人に、一応それを報告しようとしたとき、

右足首に不思議な感覚が走る。


・・・?


そう感じた途端、それと同じ感覚が、左のふくらはぎ辺りにも感じて、思わず下を見る。


「ちょ、ちょっ!?」


見ると、足元にあった木の根のようなものから新たな根が伸びて、それが足首に巻き付いている!

振り解こうとしても木の根は固く脚は動かない。

しかも右足首と左ふくらはぎ、両足やられてしまって動けない!!


「なっ!?こいつ生きてる!?」

「うわぁ!?何これ!?」


兄弟の声がするので思わずそっちを見ると、レイル君とレウン君の足にも、私と同じ木の根が巻き付いている。

というか、周囲の根っこが急に伸びて辺り一面根だらけになってる!?


「皆気を付けて!まずは自分に巻き付いて根を解いて!手遅れになる前に!」


マリナさんが叫ぶ。

そうだけど!でもどうしよう!?

えーっと、えーっと・・・!


とりあえず何か魔法を使うために両手を前に持ってこようとしたら、両手が何かに引っかかって動かない。

そうしている間に、腰と両手首にも根が巻き付いてきてしまった、

え、これヤバくない!?

足も手も動かせないし、重心も固定されて身動きが取れない。

そんな状況に急に怖くなってくる。


待って、待って!?


助けて!!


「た、助けて!」


叫んでる間にも足の根の締め付けが強くなってきた気がする。

嫌だ嫌だ嫌だ!!


「とにかく何か魔法を撃つのよユイちゃん!」


マリナさんも、迫って来る根を光の剣で斬り裂いている。

でも助けてくれそうな感じじゃない。


魔法!?魔法、魔法・・・

えーっと、何でもいいや!!

とにかく破壊力があるもの・・・雷!!


キリキリと全身を根が締め付けてくる中、感じ取れるだけの魔力を全て雷属性に変えて解き放つ。

瞬間、光魔法にも負けない閃光と、

ビシャァァァァンッ!!

というすぐそばに落雷したような爆音と、

全身を瞬時に駆け抜ける激痛、


「キャアアァァァ!?」

「ア"ァァア"ア"!」


という私と、他の誰かの悲鳴が響く。

・・・悲鳴?


周囲に焦げ臭い臭いが広がる中、

半泣き・・・いやマジ泣き状態の私。意識がハッキリしてくる。

お、思いっきりぶっ放したら私も感電した・・・

意にそぐわず体が跳ねたもんね。マジで自滅で死ぬかと思った・・・怖っ。


でも、それで全身の拘束は解けたみたい。

辺りの根っこや蔓は全て焼け焦げて灰になっている。


「はぁ・・・た、助かった・・・」


まだ心臓はバクバクしているけれど、対処法が分かっただけでもありがたい。

・・・次は自滅しないように気を付けよう。


「・・・うぅ・・・」


胸を撫で下ろす傍らで、うめき声が聞こえる。


「・・・ゆ、ユイさん・・・それは、やりすぎ・・・」


横に居たのはレイル君。

プスプスと煙が上がっている。


「あ、あれ・・・もしかして・・・」

「巻き添え・・・喰らったよ」

「うわっ、ごめんなさい!!」


レイル君は、見た目こそそんなに変わっている訳では無いけれど、煙は上がっているし、髪の毛の端っこからパリパリと帯電してる。

・・・完全に私の雷のせいだね。うん。


「でも、おかげで近くの根は全滅したみたいだな・・・」

「いやほんと・・・ごめんなさい」

「・・・俺が雷属性使える人間で良かったよ」


私はひたすらに謝り倒すしかない。

少し前に、巻き込むなよって言われたばかりなのに!!


「ごめんなさい!ほんっとうに、ごめんなさい!!」

「い。いや、そこまで言ったつもりじゃ・・・」


「二人とも!」


謝りまくる私と、それを聞いているレイル君の元に、光の粒子を纏ったマリナさんが駆け寄って来た。


「大丈夫?凄い雷だったけど・・・」

「え、えぇ、なんとか・・・」

「あ、あははは・・・」


大丈夫かどうかは正直微妙な私は苦笑い。

他人を巻き込んだし、私自身感電したし、どちらかというとダメかもしれない。

そのせいで、


「あ、そうだ、レウン君は!?」


どうにもいたたまれなくなって、つい話題を逸らしてしまった。


「レウンはきっと大丈夫だろ」


レイル君が余裕そうに言うのとほぼ同時に、レウン君も駆け寄って来る。


「く、草刈り用の魔法を使えてよかった・・・」


やって来るレウン君の足元にはかまいたちみたいな風が吹いていて、周囲の植物を刈り取っている。

あ、その魔法便利だなぁ・・・


「とりあえず、全員無事なようだな」


銃を取り出し、完全に臨戦態勢に入ったレイル君がこの根が集まる大樹を睨み付ける。


「明確に敵意を持って襲ってきた以上、あの木に何かがあるのは間違いないわね」

「もう・・・今度は何なんですか一体・・・」


知らないものと戦い続けて、結構精神的に来ている私は、何故か怒りが込み上げて来るけど、それを発散する気力も無い。

これがあれか、ストレスってやつだきっと。

嫌だなぁ、胃潰瘍とかになったら・・・

なんて思っていたら、


ゴゴゴゴゴゴ・・・


辺りがいきなり揺れ始める。


「な、何だ!?」

「皆、気を付けて・・・!」

「じ、地震・・・?」

「じ、じしん・・・って何です?」

「えっ!?」


地震無いの!?

そういえばこっちに来てから地震無かったような・・・

・・・って、そう言う事を話してる場合じゃ無くて・・・!


不気味な縦揺れは続き、城の全てが鳴動する。

地震にはそれなりに慣れている日本人の私も少し不安になる。

・・・この城耐震構造かどうか怪しいし。


重心を低く構えて転倒対策をして、頭上にバリアを張って落下物を警戒する。

それで揺れが収まるのを待っていると、ホールの奥の方から地響きのような重低音の、声・・・?

のようなものが聞こえた。


『・・・誰だ』


それは全員に聞こえたみたいで、4人全員が音のした方に振り向く。

私の幻聴とかじゃなくてよかった。


『そこに居るのは・・・誰だ・・・!!』


直後。バキバキと音を立てて、大樹の中心が縦に割け、その内部から何かが出て来る。

・・・それは・・・

木の枝や幹で作られた人の上半身のような形をしていて・・・

あ、いや、目や口のようなものも見える。


これは・・・これは一体、何だろう・・・?

一つ分かるのは、人っぽい見た目の人ではない何か、はとてつもなく気持ち悪くて、嫌悪感があるという事。

ゼッタイ近寄りたくない!!


『我は、デルクマリウス・ヴェルス。この地の支配者なるぞ!!』

「でる・・・ん?」


聞き覚えのある名前に固まってしまう。


「ヴェルス・・・だと・・・?」

「って事は、これがあの・・・」

「に、人間じゃあ、無かったんですか?」


「・・・多分、人間を辞めた、といった方が良いでしょうね」


今明かされる衝撃の真実。

というか、またあり得ない事が起きて頭がおかしくなりそう・・・


『人間か、その身も魔力も貧弱な弱者など、とうに超越したわ!』


植物で作られた人型の何かがしゃべる度、周囲の枝が、根が、うねうねと動く。

もう何これ!?

この理解が及ばない感情、共有できる人は居ないの?


と辺りを、というか他3人を見てみるけど、


「こいつが・・・この自治区を滅茶苦茶にしたんですね・・・」

「人の身を捨て化け物と化すなんて、救われない存在・・・」

「人を越えた、か、その割には本体はまだ人型みたいだな!」


あれぇ?

見慣れてるのか、それとも倒すべき敵、という認識が強いのか、

ドン引いてる人が居ない。


『今我に隷属を誓うのならば、命だけは助けてやろう』


そう言いながらヴェルス侯爵・・・いや、もう侯爵とは呼べない何かが腕を振るうと、

さっき焼き尽くした筈の木の根が一気に私たちの足元に滑り込んでくる。


『そこの女子など、とても旨そうだしな』

「ひっ」


もう嫌だ!!

見た目は完全に化け物だけど、中身はエロオヤジだったりしない!?

もうそれは最悪中の最悪なんだけど!!


「っ、末端の再生はお手の物、という訳ね」


さりげなくマリナさんが、私とアイツの間にスッと立ちながら、

私の周りで蠢いている根に光の矢のようなものを発射して地面に縫い止めてくれる。


「隷属なんてお断りだぜ!」

「そうです、絶対に、負けません・・・!」

「え、えっと・・・私もお断りです!」


拒絶。

なんなら金属性の拒絶のバリアも張っておきたいくらい拒絶。

もう足元を這う根や蔓すら触れたくないよ。


『そうか、なら無理やり服従させてやる!!』


化け物が大げさに腕を振りかぶり、口を大きく開けると、

今までそこらで蠢いていた木の根が一斉にこちらに向かってきた!

ちょ、ば、バリア!!

咄嗟にバリアを張ろうとしたら、


「ちょっといいかしら?」


マリナさんが一歩前に出る。

同時に、向かってきた根は全て光の剣に貫かれ動きを止めていた。


「この城には給仕さんや衛兵、その他沢山の人が居たと思うのだけれど、それらはどうしたのかしら?」


・・・確かに。

マリナさんの口調はゆっくりで優しいけれど、言葉の端々に威圧感がある。

こういう時のマリナさんが一番怖い。


『ああ、よく"利用させて"もらっているよ』


・・・利用・・・


『タダの人にも使い道はある。養分とかだ』


養分・・・


『それじゃあ足りないから、騎士共に集めさせたりもしたけどなぁ』


どうしても、たどり着きたくない結論にたどり着いてしまう。

もしかして、お城の人はもう・・・

いやでも・・・


・・・


「・・・そう」


マリナさんは軽くため息を吐きながら、力が抜けたようにトーンダウンし、

こちらを向いてきた。

その表情が、私の結論とマリナさんの結論が位置してるんだろうな、って確信させる。

そっか・・・


「ユイちゃん。レウン君、レイル君」

「「「・・・はい」」」

「あれは、全力を以て倒すわ。いいわね」


「・・・わかりました」


あれはエロオヤジとかそういうあれですらない。

もう、目の前にいるのはどうしようもないほどの悪なのだと。

まだ現代人の良識が残っているから、正直人殺しはしたくない。

んだけど、もう、我慢ならない。


この自治区に来てから、虐げられてきた人を見てきた。

既に事切れてしまった人を見てきた。

そして、今その口から全てを裏付ける言葉が出た。


それにもう、人でもないみたいだし。


・・・握りしめた拳に雷電が走る。

なんでこんな化け物になったのかは知らない。けど、それは寧ろ都合が良い。

・・・罪悪感なく、ぶっ飛ばすことが出来るのだから。

でもその姿は気持ち悪いから、嫌いだな。


「あなたは絶っっっ対に許さない!!」


どうしてあなたはそんなに邪悪になれるのか!!


握りこぶしを開けば、手のひらにはそこだけで発電所を担えそうな雷と、真夏を冬に出来そうな冷気が集まっている。


氷と雷の複合魔法。

人と仲良くしようとしていた、リズちゃんに教えてもらったこの魔法で、

お前を倒してやる!!


「喰らえぇぇぇぇぇ!!」


雷の指向の力で束ねた冷気が、ビームのような形を取って、超速で大樹に迫る。

このスピードなら外すことは無い。

相手は木だし。


思惑通り、青白いビームは大樹の、本体だと思われる人型のそれにに直撃し、

そこを貫き穴を開けた。

ビームだから穴こそ小さいけれどその奥にははっきりと城の外、青空が見える。


・・・あ、あれ?


いや、確かに本気でぶっ飛ばすつもりで放ったわけではあるけれど、

思ったよりあっさりというか、まさか一発でここまで行くとは・・・


「や、やったのか・・・?」

「も、もしかして、見掛け倒し・・・」


皆困惑してる。

マリナさんは黙っているけれど。


レウン君の剣は、穏やかに光っている。

その剣の本当の使い道って、こっちだったような気もするんだけど・・・


魔法を放った右手の行先を失い、

ぎこちなく腕を下げる。


・・・ど、どうしよう。


いや、倒せたのはいいんだけど。

何この気まずさ。


「あの・・・これって・・・」


いたたまれなくなって、3人に声をかけようとしたその時、


「・・・まだ、生きてるわ」


ぼそりと呟いたマリナさんの一言に、思わず穴の開いた大樹を見る。

大樹の本体があった場所は確かに穴が開いている。

しかし、


『効かんよ、そんなもの』


その穴が開いた場所とは違う場所に、あの人型の物が生えてきた。

まるで、新芽が芽吹くように。

それに驚いている内に、穴の方も、木が成長するように穴を覆い隠していく。


『この義体を潰せば死ぬとでも?そんな甘い話はないなぁ~・・・』


急に、ねっとりと、より気持ち悪い喋り方をし始めるヴェルス・・・の木。


『私はこの大樹全てなのだよ?根も、幹も、葉も!そんな軽く剪定するような攻撃じゃあ、一生倒す事なんてできないねぇ・・・?』


より嫌悪感の増した、というかエロオヤジ感の増した人型のそれは、うねうねと全身をくねらせる。


『生命の大樹ユグドラシルと一体化した私は、無限なのだよ!うははははははっははあ!!』


それが高らかに笑うと、辺りの枝や根もウニョウニョと踊り始める。

今度は一体何?

やってもやっても再生するって事!?

でも、絶望感とかよりも、シンプルに気持ち悪さが勝る動きに、吐きそうになる。

単純に、何もかもが最悪過ぎるこの敵!!

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