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第2話:異変・Ⅰ


・・・


・・・・・・



はっと目が覚める。



寝惚けた頭を強引に起こすようにぶんぶんと左右に首を振る。

・・・それはたいした効果は得られなかった。




だけど、記憶は徐々に戻っていく。



そうだ、私は今、昨日まで住んでいた世界とは違う世界にいる。





見慣れぬ木製の壁や家具を見渡し、それが夢や幻覚の類ではない事を確認する。

そっと壁に手を触れ、その感覚を確かめる。


ざらざらとした木材の手触りが、私の手に擦れる。


やっぱり、これは現実・・・



寝間着を脱ぎ、着替えようとベッドの横にあるテーブルを見るとそこには、

今まで着ていた制服の代わりに、別の服が置かれていた。

着てみると、それはとてもシンプルなデザインで、

襟付きのTシャツと、ロングスカートから成るものだった。

生地は厚めで、伸縮性はあまり無い。

ちょっとザラザラしてるかな・・・?

けど肌が傷つくほどじゃなさそうだし、普通に着る分には問題は無さそう。



下着の類は無かったので、昨日からつけて居るものをそのまま付けた。

・・・二日連続で同じパンツっていうのもあれだけど、替えがないからしょうがない。

いくらロングスカートだからってノーパンでいるわけにもいかないし。



そんな服に着替えて寝室を出る。






「あ、おはよう、ユイちゃん」

「おはようございます」

そこでは、マリナさんが朝食を作っていた。


カレンさんと、子供たちは、部屋に飾ってある十字架に、祈りを捧げている。

それが、ここが教会の一施設である事を再確認させられる。



「案外早起きなのね。昨日はだいぶ遅かったのにね」

時計を見ると朝七時。


「いつもこの時間に起きてたので、慣れてるのかもしれません」

「ふぅん。あ、そうだ、その服、私が勝手に選んじゃったけど、嫌じゃない?」

「あ、はい。大丈夫です」

「よかった。その服は、この町で親しまれてるレメル地の服よ」

「レメル・・・?」

聞いた事は無かった。

「・・・まぁ、大衆向けの生地よ。私が今着てるのもそう」

「へぇ・・・」

絹とか、麻とか、こっちにもあるんだろうか。

ナイロンやポリエステルは・・・なんとなく、無さそうな気がする・・・気がするだけだけど。



ふと朝日を浴びたくなった私は、窓から外を覗いてみた。



朝日が眩しい窓の外は、少しここが高いところにあるのか、屋根が並んでいるのが見える。

煙突から煙が立ち上っているのは、皆朝食を作っているからだろうか。



やっぱり見慣れない景色。

「はぁー・・・」

自然とため息が出る。



結局一日、無断で家を開けちゃったな・・・

お母さんとかお父さんとか、怒ってるかなあ・・・








ここで保護されている子供たちやカレンさんと朝食を摂り、

二人は学校へ向かった。

カレンさんは、じゃ、行ってくるよ、と言って、何処かに行ってしまった。

教会の仕事専門って、昨日言っていたし、多分それだろう。



「私は何をすればいいですか?」

マリナさんと二人きりになった私は、これからどうすればいいか聞いてみた。

何にせよ、元の世界に戻りたい。

そのために、何をしなきゃいけないのか。


「そうねぇ・・・朝の家事が終わったら、一緒に平原に出かけましょう」

昨日、マリナさんが教えてくれた、私が最初に訪れた場所に、

私が元の世界に戻るヒントを探そうって。



「はい。じゃあ片付けを手伝いますね」

「うん。ありがとう」





-------------------





「ふぅ・・・やっぱり二人だと早いわねー。しばらくずっと一人だったから随分と助かるわぁ」

「あの、カレンさんは・・・?」

「カレンさんは、朝は教会の方のお掃除をしているわ」

「そうだったんですか・・・じゃあ、あの子たちはどうなんですか?」

「あの子たちはまだ学校に通わせてる身だから、あまり勉学の邪魔はさせられないわよね」

「そうですか・・・あ、あの・・・私は学校に行ったりはするんですか?」

「あー・・・そうねぇ・・・あなた、高校生・・・?だっけ?」

「はい」

「高校生って、学生なのよね?」

「そ、そうですね・・・」

「それって、何歳くらいの学校なの?」

「えっと・・・16歳くらいですね」



私は20歳超えているけど、中学卒業時点から5年間意識不明だったので、

そこから教育課程を再開して、高校生になった。





「16歳からは王都の方に行かないと学校機関がないのよね」

「そ、そうなんですか」

「ええ、それ以上は高等教育だからね」

高校生も一応は義務教育を外れた高等教育なので、そういう意味では大差はないのかもしれない。

でも、近所に高校がないっていうのは不便だなぁ・・・




「じゃあ、その王都っていうのに行かないと学校には行けないんですね?」

「貴女の場合、魔法の事全然知らないし、市民登録も無いから、今すぐに行っても無理だと思うわ」

「あ・・・そうなんですか・・・」

やっぱり、戸籍上は私は今戸籍無しって事になるのかな・・・

お役所に行けば戸籍の発行とかしてくれるかな・・・?


「まぁ高等教育は受けなくても普通に生活は出来るし、魔法については私が教えてあげるから心配はいらないわ」

市民登録の無い住民だって、この町にもいっぱい暮らしているもの。


とマリナさんは笑って言う。

結構アバウトな世界なのかなここって・・・







家事を終え私たちは外に出る支度をする。


・・・と、言っても、私が持ってきた荷物は、

ノートや教科書、筆記用具、スマホ等、学校に持っていくものくらいしか無い。


向こうで何が見つかるかはわからないので、

何か書くための道具一式と、写真を撮るためにスマホを持っていくくらいだろう。

昨日ちょっとだけ飲んだスポーツドリンクはどうしようかな・・・口付けた後、常温で放置しちゃったから、捨てちゃおうかな・・・


スクールバッグに最低限の荷物だけ入れた私は、一足先にリビングで待っていると、

少し遅れて、マリナさんもやって来た。


しかし、マリナさんは、不思議なものを担いでいる。

・・・十字架?

長さ1メートルくらいの大きい十字架だ。

いくらシスターだからって、わざわざそんな大きい物持っていかなくても・・・


「マリナさん、なんで十字架なんて持ってるんですか?」

「これ?これは魔道具よ」

「それも、魔法の道具なんですか?」

「ええ、悪を討つ聖なる光を纏う聖者の十字剣よ」

「・・・えぇ?」

マリナさん・・・今、なんて言いました・・・?

悪を討つ・・・?

十字剣・・・?

何しに出かけようとしてます・・・?


「あ、そっか、ユイちゃんは知らないわよね」

「何がですか?」

「町の外にはね・・・出るのよ」

「え?」

「人間を襲う、化け物がね」

「!!」


人間を襲う・・・化け物・・・?


何!?何それ!?


私知らないよ?


ここに来るまでも、そんなの見なかったよ!?


「そんな・・・そんなの・・・見たこと無いですよ・・・」

「そう、でも確かに、ここにはそういう存在は居るわ。魔法は戦闘向きのものが多いのだけれど、それもその化け物の存在がいるからね」

「そう・・・なんですか・・・」

「貴女が居た場所がどこなのかはわからないけど、無事にここまでこれたのは、案外幸運だったのかもしれないわ」

「・・・そこに、もう一度、行くんですか・・・?」

「だから私が一緒についていくのよ」

「マリナさん・・・」

「大丈夫。ここら辺のなら大したこと無いから」



・・・化け物が出る。



生きているうちに、現実でその言葉を聞く日が来るなんて、

昨日までの私は欠片も思っていなかっただろう。


街に野生動物が出没する事すらテレビでしか見たことのないような現代人だ。


なのにいきなり、化け物と来た。






信じろって言う方が無理がある。


けど、言ってるのがマリナさんだと、妙にリアリティを感じてしまうのだった。














「じゃあ、カレンさん、ちょっと出かけてくるから、その間、教会をよろしくね」

「はいよ、マリナさんもユイちゃんも気をつけてね」

「は、はい。気を付けます」


カレンさんにひと声かけてから、私たちは教会を後にした。





マリナさんと共に町を歩く。

私の事を理解してくれる人がそばに居るというだけで、昨日とは町の見え方がまるで違う。


昨日見た町の姿は、

異形そのもので、人も、建物も、看板も、私が見てきたそれと、似ているだけの全くの別物。そんな気がしていた。


だけど、今見れば、

町は活気に溢れ、朝の爽やかな日差しと風が流れ込む、平和な街並み。

閑静な郊外って感じだ。



昨日の不安感は、何処にも無かった。



流石にマリナさんの元を離れる勇気は無かったけれど。






そうこうしているうちに、町のゲートが見えてきた。


「この町が防壁に囲まれてるのも、その化け物を恐れてるからなのよね」

「そうだったんですか・・・」

「その化け物は、人を襲うけれど、退魔石と呼ばれる聖なる石には近づかないの。でもそれはとっても貴重だから、皆で固まって、町を作って、こっそり入り込まないように壁を作ったの。だから、町の中は基本的に安全よ」

「へぇ・・・」

「つまり、ここから出たら、安全は保障出来ないわ。気を付けてね」

「・・・はい」


いつになく真剣なマリナさんの声に、ちょっとびっくりしながらも、私は強く頷く。



とはいえ、ゲートをくぐった瞬間、空気が変わるとか、そんな事は特に無かった。

町の中と同じように、爽やかな朝の空気が漂っている。


「さて、ここからはユイちゃんに案内してもらう事になるわね」

「あ、はい・・・えーっと・・・確か、あっちの方だったと思います」


昨日の記憶を頼りに、私が最初に居た場所。

あの、喋る花が居たところを目指す。


うろ覚えではあるけれど、通って来た道を引き返す。

足跡でも残ってれば良かったんだけど・・・













記憶が微妙なので多少ウロチョロしながらも、

見覚えのある場所にたどり着く。


だだっ広い平原に、一輪の花が咲いているのが見える。

あれが喋る花なら、あそこが最初の場所だ。



「きっとあそこです」


二人が寄っていくと、その花がくいっとこちらへ振り向いた。


「あら、またアンタじゃない・・・まぁ、人間は見つかったようね」

「あら、こんなところに魂花が」

「こんにちはお花さん」

「またここにきたのね、今度は何の用?」

「私がここに来た痕跡を探すために来ました」


喋る花も、二回目ともなると、もう慣れた。

ここはそう言う世界なんだと、そう私の中で結論が出ている。



「痕跡ねぇ・・・ずっとここにいるけど、だれもここには来てないわよ」

「だったら、誰かに持ち去られてたりはしてないようね」

「じゃあ、早く探しましょう」

「そうね、まずは現場検証でもしましょうか」

「はい」


そこから、私が今までどうしてきたか、

花に水をあげたり、ちょっと歩いて疑問を抱いたり、花に問いただしたり、

ここで何をしたか、事細やかに話した。


「ふぅん・・・大体わかったわ」

「何か分かりました?」

「・・・いいえ、まだよ」



「・・・」

私とマリナさんが話しているのを、暇そうにお花が見ている。


「これから、その痕跡を物理的に、魔法的に探っていくわ」

「・・・アンタ達まだここであれこれする気なのね・・・」

暇そうに見ているんじゃなかった。自分の土地であれこれ勝手にやってるのを不満に思ってた。

ちょっと悪い気がしてくる・・・


「もうちょっとガマンしてね・・・お願い・・・」

「はぁ・・・」


ごめんね。





私は私が歩いた場所の地面を目を凝らして何かないか探す。


・・・しかし、短い草が生えているだけで、めぼしいものは見つからない。


・・・確かに、荷物を確認した時に落とし物とかは無かったしなぁ・・・


小さな花もところどころに咲いている。

何の花かはわからない。


・・・あ、クローバーだ。

何の草なのかよくわからない平原の中で、唯一これだけはわかる。


四葉のクローバーじゃない。普通の三つ葉だけど・・・


それは、生えているというより、落ちているといった感じだった。

どこにも根付いていない。

・・・見つけたクローバーはその一つだけだった。

クローバーって一個見つけたらいっぱいある気がするんだけど・・・

とりあえず唯一そのクローバーを拾っておく。栞にでもしようかな。


私が見つけた成果はこれだけだった。

・・・成果って言えるのかな?



一方のマリナさんは、十字架を地面に突き立てて、金色の光の粒子を周囲に振りまいている。


その吹き荒れる粒子が、辺りをさまよっている。何かを探すように。



これも・・・魔法なのかな?

大量のホタルが飛び回っているようにも見える。


なんていうか・・・キレイだなぁ・・・



「・・・・・・・・・」

マリナさんは目を瞑り、静かに沈黙している。



「・・・・・・・・・あっ」

そんな時、マリナさんが小さく声を漏らした。


「マリナさん?」


スッと目を開けたマリナさんは、集まって来た光を十字架へと収め、私の方へ向き直って来た。

あの十字架には何かが出入りするような穴は開いてないのに、光はどこいっちゃったんだろう。


「明確な証拠じゃないかもしれないけど、何かを見つけたわ」

「何ですか・・・?」

マリナさんは、嬉しそうでもなく、悲しそうでもなく、不思議な表情をしている。


「この辺り、空間にちょっとだけ穴が開いてる・・・」

「もしかしてそれって!」

「多分、貴女がこの世界にやって来た空間の穴かもね」

「本当ですか!」

私が、この世界にやって来た穴・・・?

帰れるの?


「でもその穴、物理的な穴は開いてないわ」

「?」

「この穴は、今、魔法的概念しか通さない状態になってるわ」

「じゃあ・・・やっぱり・・・」

私は通れない・・・って、ことで、いいのかな・・・?


魔法的・・・概念・・・?


私はきっと魔法的概念じゃないだろうから、

魔法的概念しか通さない状態っていうのは、多分通れないんだよ・・・ね?



「一応、私の魔力粒子を潜り込ませておいたわ」

「・・・」

「その小さな穴はもう閉じちゃったけど、私の粒子の反応はまだあるわ」

「閉じちゃったんですか・・・?」

「うん・・・・・・でも、反応が残ってるから、穴の中の空間が消えたわけじゃないわね」

「それ、開き直す事は出来ないんですか?」


この世界と元の世界を繋ぐ手がかりなのに!


「この穴・・・ちょっと違うわ」

「えっ」

違うって・・・一体何が・・・?

難しい顔をしているマリナさんが、何を言いたいのかはよくわかってはいない。


「細かい事はわかんないと思うから、簡単に説明しちゃうけど、空間を開くには、空属性の魔法を使うんだけど、この辺りには、穴の痕跡はあったのに空属性の魔力は無かったの」

「・・・えっと?」

「・・・つまりね、私たちが使う、空間に穴を開ける方法とは、違う方法で開けられた可能性もあるわ」

「えっ・・・」

「帰る方法は、一つじゃない・・・と、言う事よ」

「えっ・・・!」


それは・・・!

「まだ、諦めるのは早いわね。まだ、私たちが知らない魔法があるって事ね」


「そうか・・・っ!」

まだ希望はある・・・!


・・・ある・・・?



・・・まだ、よくわかんないや。


正直言って、半分も理解できてない。




「そういえば、ユイちゃんは何か見つけたかしら?」

マリナさんが聞いてくるが私が見つけた物と言えば・・・


「すいません・・・こんなものしか・・・」

私は拾ったクローバーをマリナさんに見せる。

見つけたのはたったこれだけだった。



「まぁ、可愛い・・・でも、もしかして、それって、クローバー?」

「そうですけど・・・もしかして。見たことないんですか?」

「クローバーはトランプに出てくる、架空の植物の名前よ。本物は見たこと無いわね・・・」

「クローバーって・・・私の世界にしか無いの・・・?」

「そうね・・・実物は、存在しないとされてきたわ」

「そうなんですか・・・」

私は、持ってきたノートの真ん中に挟んで栞を作ろうとする。

町に帰ってきたら、もっと分厚い本に移そう。


「やっぱり、貴女はここで、別の世界からやって来たって事で確定なのかしらね」

「・・・はい、そうですね」

私がそう言った瞬間、何かざわっとした感覚がした。


寒気というか、気配というか、視線というか・・・





「・・・?」

「・・・来ちゃったわね」

マリナさんが真剣な声で呟き、片手で私の腰に手を回して、私を抱き寄せる。

「っ?」

「さっき言ってた、化け物よ」

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