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第12話:いざ反抗作戦!・Ⅰ

「おはようございますっ」


今日も薄暗いバーの朝。

太陽の光を入れる訳にはいかない隠れ家の生活の2日目を迎え、無事に昼夜感覚がマヒし始めてくる。

だから、眠い頭を吹き飛ばすためにちょっと明るい挨拶を心がけてみたが・・・


「あの跳躍の魔導書どこに行った?」

「あぁ?あれはたしか・・・ビールサーバーのとこだな」

「それは俊足のほうじゃ無かったか?」

「いいや、跳躍もそこの筈だ」


なんだか皆あわただしい。

明日が作戦当日だから、忙しのは仕方ないんだけどね。


「おはよう、ユイちゃん」

「あ、マリナさん。おはようございます」


そんな中でも、マリナさんは優しく挨拶をしてくれる。

格好も、いつもの馴染みの修道服。

いつの間にか応急処置だけではなく、しっかりと修繕していたみたい。


しかもよく見ると、丈が少し詰められていたり、腕や肩に革製のパッドがあったりと、少しアレンジされているようだ。


「いよいよ作戦は明日だけど、ちゃんと休めた?」

「え、ええまぁ、睡眠はいい感じです」


作戦日程的には、今日の夕方ごろからもうこの町を出るらしいので、実質ここで摂る最後の睡眠が今朝になる。


「この作戦はユイちゃんの魔力が肝だもの、他の人を手伝おうとか思わないで、しっかり休んでおくのよ」

「あ、それでなんですけど・・・」

「何かしら?」

「今回、大量に魔力を出す必要があるじゃないですか・・・?それで、今以上にもっと魔力を出せる方法とか無いのかなぁって」


昨日ふと思ったことを聞いてみた。


「うーん、そうねぇ」


マリナさんは私の体を凝視しながら考え込む。


「ユイちゃんは、人の魔力精製の仕組み、覚えてるわよね?」

「は、はい。確か、空気中のミストを、体の中の感応器が吸って、エーテルに変えるって・・・」

「そう。よく覚えてたわね」


いきなり褒められて、えへへ、と自然に笑みが出る。


「で、ユイちゃんの体には、全身色んな所に沢山感応器があったはずね」

「ええ、確かに」


・・・具体的にどこか、というのは忘れちゃったけど、背中とか、腕とか、お腹とか、脚とか、とにかく全身に大量にあったってのは覚えてる。


「沢山の魔力を扱いたいなら、今まで意識してなかった感応器も気にしてみるといいかもしれないわ」

「な、なるほど・・・」


試しに、スカートのスリットに手を突っ込んで、自分の太ももを触る。

・・・確か、ここも感応器があるって言われてたなぁって。


「あ、今やると外の騎士に見つかるかもしれないから後でね」

「わ、わかりました・・・」


危なかった。

魔力だけなら破壊力は無いし、とぶっ放してみる所だった。

っていうか、つまりこれもぶっつけ本番って事じゃない?


「ありがとうございました。とりあえず、私はまた屋根裏で休んでますね」

「ええ、時間になったら呼びに行くわ」


そう言いながら、私はまた屋根裏にリターンすることになる。

実際、私の仕事は魔力を貯めておくことで、他の人の作戦準備の手伝いをするわけじゃないのだ。


とはいっても、魔力を貯めるのに必要な儀式とかも特にないし、ただゴロゴロしてるだけなんだけどね。




そして夕方。


「ユイちゃん。作戦の時間よ」

「はっ、はいっ」


マリナさんに起こされて飛び起きる。

見ると、暇つぶしの為に持ってきた魔法の教科書は、ほとんど読めていない。

どんだけ寝てたんだろ・・・


「今のうちにこの町を出立するから、これに着替えておいてね」


そう言って、以前着ていた変装用のワンピースを手渡される。

マリナさんはもう、あのラフな格好に着替えているようだ。


「日没までにここモールを抜けて、明日朝までにストラディウム北の城付近の外壁に向かうわ」

「・・・」


いつもよりも低く真剣な声に、自然と身が引き締まる。

今回はすぐ作戦に移るので、着替えは最低限。

ケープとスカートだけ脱いでワンピースに着替えた。


「ここに来た時と同じ水路を通って、町を出るわ」

「・・・わかりました」


気を引き締めながらブーツの紐も締めていると、レウン君とレイル君もやって来る。


「こっちは準備OKだ。そっちはどうだ?」

「あ、うん。今終わったよ」


私には武器らしい武器は無いので準備は簡単。

ギルド証とか魔女結晶とか、その辺をポケットに入れておけば済む。


レイル君もレウン君も、武器を綺麗にコートの中に隠し、パッと見は何も持ってないように見える。


「他のレジスタンスの面々は、私たちが出た後に行くらしいわ。一応、挨拶をしていきましょう」


緊張の面持ちで屋根裏からバーのある階にぞろぞろと降りていくと、他のレジスタンスのメンバーも、真剣な表情で集まっていて、ピリピリとしている。

私も勿論、レウン君も気圧されている。


「おう、そっちも準備できたか」

「はい。おかげさまで」


首に反故の宣誓・・・例の対魔族ペンダントを下げたアンダリスさんが、ドスの効いた声で呼びかけて来る。

意味も無く私はそれにビビッてしまって声が出せず、それにはマリナさんが答えた。


「今回の作戦はあんたらがメイン。あたしらの事は気にせず暴れてきなよ」

「そう言う事だ。俺らの事を気にして二の足を踏む、なんてことはするなよ?」


アリッサさん、バークレイさんもやる気だ。

そして、私たちに自分のことは心配するな、と言ってくれる。


「何、俺らは簡単にゃ死なんよ。倒せなくても騎士とは何度かやり合ってるしな」

「ご心配には及びません」「我々はプロですので」

「「御武運をお祈りします」」


イルフリードさん、アルさんベルさんも、真剣な顔つきだ。

恰好は変装しているからか、前見た時とは全然違うけど・・・


「では、私たちはこれより、管制区ストラディウムへと出立致します」


マリナさんが、十字架を偽装した楽器ケースを構え直す。


「俺らも死ぬつもりはない。絶対にこの作戦、成功させてやろう!」


・・・

・・・レイル君と、マリナさんの視線が私とレウン君に刺さる。

あ、これ私も一言コメント求められてる?

そう思った矢先、


「が、頑張ります!勇者に相応しい、活躍が出来るように・・・!」


とレウン君に先を越される。

私大トリ!?

どうしよう、

思い出せーっ

生徒会とかでスピーチとかしたあの日の事を・・・!


「わ、私に出来る事は精一杯頑張ります。皆も精一杯、頑張って行きましょう!そして、もう一度、ここに皆で集まりましょう!」


それなりに締めっぽい事は言えたと思う。

大きい声は出せないけど、思いは伝わったのか皆で腕を振り上げて、気分を盛り上げる。

頑張って、目標を達成して、そして、みんな無事に帰る。

当たり前だけど、大事な目的。


「では、行ってきます」



そうして私達4人は、バーを後にする。




--------------------------------------------




そこからの道のりは、さほど険しいものじゃあない。

だって、変にキョロキョロしないで堂々と町を歩きつつ、隙をついて水路に入る。

後はまぁ・・・あの汚い水路を足を滑らせないように進むだけ。


外に出れば更に危険度は下がって、

騎士も居ない、荒野と森の中間のような乾燥地帯を歩くだけだった。


ペースも私に合わせてゆっくり目にしてくれるし、4人も居るから、急にバグが出てきても速攻で対処してくれる。


流石にお気楽気分、とはいかないまでも作戦を開始するころにはもうボロボロのヘトヘト、みたいにはならなくて良かった。


そうして移動を続け、夜の帳が降り始めたころ、



「さて、この辺りが作戦開始地点ね・・・」


マリナさんが、目の前の壁を見上げながら立ち止まる。


「モールの壁より、ずうっと高いですね・・・」


モールの町にも、侵入者を阻む外壁はあった。

でも、こちら、管制区ストラディウムの外壁は、その2倍ほどの高さのある、

まさに城の壁、とでも言うべき様相だった。


そう、ここは管制区ストラディウムのすぐ北。

打ち倒すべき敵、ヴェルス侯爵の本拠地と思われる、ストラディウム城に最も近い外壁のそばに居る。

私達の作戦は、ここから始まるのだ。


「作戦決行は明日。私たちは早めに寝ましょう」

「そうですね」


マリナさんはその外壁のすぐそばの大きな木の下にキャンプ設営を始める。

キャンプと言っても例のごとく野宿ではあるんだけど・・・


根元に防水性のシートを張り、地面に携帯退魔石を刺す。

今回はあまり目立つことは出来ないので明かりは無し。

真っ暗闇の中、4人分のシーツが並び、携帯用の水と干し肉を頬張る。

当然火も使えないので、常温のお肉。


「んんーっ堅い!」

「ごめんね、火を通せないとこれが限界なの」

「ま、硬いジャーキーみたいなもんだって考えればイケなくも無いよ」


今までで一番質素な夕食だったけどしょうがないね。

干し肉を咥えたまま見上げたストラディウム城は、壁越しにも分かるほど、怪しく紫色に光っていた。





--------------------------------------------




翌朝。


久しぶりに太陽の光で目が覚める。


「う、ううーん・・・!!」


屋根裏ように狭いスペースでも無いので、

思いっきり伸びをすることが出来る。


「おはようユイちゃん。今日は早起きね」

「マリナさん、おはようございます」


見ると、レイル君とレウン君はまだ寝ている。


「なんか久しぶりの朝日で、起きちゃいました」


朝日で私たちのキャンプは明るく照らされている。

同時に外壁の向こう、ストラディウム城も朝日に照らされていて、怪しい紫色の光が中和されて美しい城の外観が明らかになる。



あそこにこのストラド自治区をこんなにした元凶が居るんだね。

一歩間違えれば死と隣り合わせな作戦。

それを肝に銘じながら、自分を奮い立たせる為に深呼吸をする。


「すー・・・はーー・・・すー・・・はーー・・・」


久しぶりの緑の空気に肺が満たされて気持ちいい。

全身に涼しい朝の風が吹き抜けて、それがお腹に当たって、少し冷えて、嫌な予感がして止める。

こういうの、元の世界でもやってたなぁ、と思いに耽っていると、


「うーん・・・」

「・・・っ!朝か・・・」


二人が起きて来る。


「二人ともおはよう」

「ユ、ユイさん、おはようございます」

「ん、あれ、先に起きてたのか」


もう完全に私が最後に起きるものだと認識されてる。

まぁ、今までは実際そうなんだけど。


「さ、早めに朝食と片づけをして、作戦に備えるわよ」


マリナさんが、手に何かの串料理を持って、レウン君達に近寄って行く。


「あ、あれ・・・作戦開始って何時でしたっけ?」

「そうね・・・今が日の出だから、あと3時間くらいかしら?」

「3時間・・・」


具体的な数字を出されると、朝ののほほんとした感じから、一気にピリッとした空気に変わる。

あと3時間で闘いが始まる・・・


そう思うと、ふと突然以前の騎士に襲われた時の記憶がフラッシュバックして、手足が震えて来る。


「・・・」


「・・・ユイちゃん?」


いつの間にか私の元にやって来たマリナさんが、焼き鳥のような串を差し出してきているのに、

声をかけられてようやく気が付く。


「あ、すいません、マリナさん」

「もしかして、怖いの?」

「え、ええまぁ、少しだけ・・・」


はにかみながらそう答えはしたけれど、きっとそれがごまかしだって事はマリナさんにはばれてるだろう。

そう思った矢先、


「っ!?」


いきなりマリナさんに抱きしめられた。

持ってた串を取り落とそうとするのを堪えながら、今の状況を確認する。


「ちょ、ま、マリナさん!?」


結構な力で抱きしめられていて抜け出せない。

その上で、柔らかい感触と体温が伝わってくる。

あと、金属の装飾が潰される感覚も。


「・・・ごめんなさいね。こんなことに巻き込んで」

「え、いや、あの・・・」

「最初のお仕事の時も、ローチェ村の時も、今回も、私はユイちゃんをいろんなものに巻き込んでばかり。本当はね、もっとユイちゃんには平和に、のんびりと暮らしてほしかったの」

「まっ、マリナさん・・・」


抱きしめられて表情は分からないけれど、マリナさんの声も震えている。


「もっと私がしっかりして、強くあれば、こんなことにも・・・」

「ま、マリナさんっ」


思わず、大き目の声を出してしまった。


「あの・・・今回の関しては、寧ろ私が首を突っ込んだというか、なんというか・・・」


威勢よく返したはいいものの、続く言葉が上手く紡げない。


「この力も、ただの変な体質で終わらせるんじゃなくって、誰かの為に使うって決めましたから・・・だから、こんな目に遭っても、後悔は・・・してないです」


それは、ここに来る前から決めてた事。

今更揺らいだりはしない。

私自身の為に、私の周りの人たちの為に、私の住む場所の為に、私の大切な友達の為に、この規格外な魔力があるのだと、リズちゃんは教えてくれた。


「・・・ユイちゃん」


マリナさんは、ゆっくりと私を解放する。


「・・・いつの間にか、大人になったわね」

「そ、そんな事は無いです・・・きっと・・・」


解放され、やっと表情を確認することのできたマリナさんの頬には、うっすらと縦線一本、朝日に光る跡が出来ている。


「私は・・・私がこの世界でやるべきことを、見つけられただけです」

「それが、大人になったって事なのよ」


気が付けば、手足の震えはすっかり収まっているし、目の前のマリナさんの顔も晴れやかだ。

だからこそ、


その後ろで気まずそうにこちらをチラチラと見て来る兄弟が目に付く。


「あの・・・そろそろ止めにしませんか・・・?そこの二人もなんか気まずそうですし・・・?」

「え?あ、そうね・・・」


そう言いながら、若干飛び退くような勢いでマリナさんが離れる。


「ぼ、僕は見てませんよ・・・?」

「お、俺もだ・・・」


そこの二人、嘘はいけないぞ。


とりあえず、焼き鳥を食べて作戦に備えないとね。

レウン君たちやマリナさんと違って、私は少し先にお仕事がある。




--------------------------------------------


3時間後。


「ふーっ」


軽く息を吐き、目の前の黒い物体を見上げる。


「何とか間に合ったようね」


と、隣に居るマリナさんも、それを見上げている。


その黒い物体とは、鉄でできた巨大な杭。

太さ3メートル、長さ10メートルにも及ぶ超ド級の鉄杭だ。


金属性の錬成の力で私が作った。

当然、そんなサイズの杭、簡単には生み出せず数時間の時間を要した。

それでも中は空洞になってしまった。

でも、この作戦の第1段階では大切な武器だ。


「あとは、作戦開始を待てばいいんですよね」


一応、確認を取る。

これを扱えるのは私だけだから。


「ええ、そうよ」


横のマリナさんも、満足げな顔で頷く。

こう、マリナさんが嬉しそうだと、つられて私も嬉しくなる。

そう思った矢先、


「あっ」


マリナさんが小さく呟き、懐から小さな石ころを取り出す。

それはほんのり赤く光っていて、中にモーターでも仕込まれているかのようにブルブルと震えている。


「作戦、始まったみたいね」


それは、レジスタンスの間で共有した連絡手段、というか作戦開始を知らせる合図のようなものだ。

元々は1つの石だったものを、3つに砕いて各チームに配る。

その石は、どういう原理か、欠片に魔力を注ぐと振動し、砕いた破片側も震えるという代物。


それが震えているという事は・・・


「さあ、作戦開始よ」

「「「はいっ」」」


十字架を取り出すマリナさんの声に合わせて、私達子供組も気を引き締める。

あ、一応私は20代だよ?精神年齢は17位だけど・・・


レイル君は、背負っていた銃を構え、レウン君も、木に立てかけていた剣を手に取る。

普段は武器の無い私も、今回は鉄杭という武器があるのでそれに触れる。


作戦としては、まず、例のレジスタンスがもう一つのレジスタンスと協力し、ストラディウムを正面入り口から襲撃をかけて陽動、その隙に、


私がこの外壁と城の壁を鉄杭でぶっ壊して奇襲する。


という、シンプル&強引な作戦。


だから、私の仕事は、すぐに始まる。


「じゃあ、行きますよ・・・!」


皆に声をかけてから、鉄杭に雷の魔力を注ぎ込む。


「・・・っ」


バリバリという雷の音と光が鉄杭を余すところなく包み始め、巨大な鉄杭はより一層えげつない物体へと進化する。

帯電させた杭は、指向の力を得ているので、私が狙った方向へ高速で飛ばすことが出来る。


つまり私がこれからやる事は・・・


「そーーーーれぃっ!!!」


鉄杭を、城壁の方向へと思い切りぶっ飛ばす!!



ドォォォォンッ!!

と重苦しい音を立てて、鉄杭は城壁に突き刺さる。

まあ、流石にバス位のサイズの鉄の杭、刺さって貰わなきゃね。


でも、これで終わりじゃない。

ここから更に、


「っバリアーーーッ!!」


金属性の拒絶のバリアを鉄杭から放出!

それによって、


バアアアンンンン!!!


と城壁は、杭が突き刺さった場所からはじけ飛んだ。

元々3メートルほどの杭だったのに、その杭によって、実に15メートル程城壁に穴が開く。


これが、レジスタンスの人達と考えた、攻城破壊魔法。

えーっと、何だっけな・・・


そうそう、


「エクスプローシヴ・パイル」!!



・・・この作戦専用の魔法だし、わざわざ名前付ける意味はあるのかは分からにけど、

ともかくこれで穴が開いた。

いざ、作戦開始!!

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