第11話:残されたもの・Ⅳ
「この二つの話から、共通点を探しましょう」
古くかび臭い本を3人で囲んで、相談が始まる。
「とは言っても、連れてた人が死ななかったって事くらいしか・・・」
「片方は王が勇者で、もう一方は敵が王ですしね・・・」
これといって共通点は見当たらない。
「勇者となる者の素質や、敵の正体は関係無さそうね」
「光の刃を使わない、みたいなのもありませんでしたね」
そうなんだよね。どっちも、魔力を吸う光の刃は思いっきり使ってる。
っていうか、どっちも村サイズだとか、王宮を貫くだとか、
とんでもない規格外サイズになってる。
流石に魔力をケチったとか、そういう線も無さそう。
「他に、共通してある描写は無いかしら」
「あとは・・・それ以上剣が大きくならなかった、とか?」
片方は、弟子の援護は無駄だったって感じだったけど。
「もしかして・・・」
レウン君が呟く。
「光の剣のサイズには上限があったりするんじゃないですか・・・?」
「えっ?」
思わず聞き返した。
「どっちも、光の剣が巨大になってから仲間が魔力を送る描写があるじゃないですか・・・?でも大きくならなかったり、仲間が死んでなかったりするのって、もしかして、剣が吸える魔力量に限界があるとかなんじゃないかって・・・」
「それだ!」「それよ!」
私とマリナさんが叫んだ。
「さ、300人も仲間が居れば、一人一人の負担が少なくて、結果死ななかった、っていうのはあり得ますよね?」
「黎明の魔術師といえば、現代魔法の開祖セーメインの事よ、きっと。彼の超一級品の魔力と、それを大量に貯めこむ技術さえあれば、きっと犠牲を払わずともそれだけの魔力を捻出できる可能性は、ゼロじゃないわ」
やや興奮した感じの私とマリナさんだったけど、すぐに調子を取り戻し、マリナさんが続ける。
言ってる事はあんまり良くわかんないけど、多分こっちの世界では当たり前の事なんだろうね。
「こほん、総括すると、あの結束の剣は仲間の魔力を死ぬまで吸い取って自らの力に変える魔導剣。ただし、その許容量には上限があって、それを上回る量の魔力供給があれば、仲間の命を奪うほどの吸収は行われない・・・と」
そう言いながら、私を見る。
「つまり、ユイちゃんの魔力があれば耐えられるって事ね」
「やっぱり私なんですね・・・」
薄々、というか完璧に感づいていたけれど、そりゃあそうだよね、って感じ。
だって伝承が300人で、私は600人だからね。600人。
1クラス40人が5組で200人。それが3学年で600人。
全校生徒規模の魔力が詰まってる。
そう考えると頭おかしいよねこれ。
1人だけ全校生徒分の予算を使えるみたいなものだし。
生徒会長かよ、って感じ。
私副会長だけど。
「勿論、まだ謎が残っているし、これで全てが解決、とはいかないけれどね」
「謎・・・ですか・・・?」
「ええ、ユイちゃん一人で何とかなるなら、何故今までその剣はその宮殿を貫くほどの光を見せていないのか、とかね」
「あぁー・・・確かに」
数日間、ほぼ一緒に過ごしてるわけだし、私の魔力は滅茶苦茶に吸われててもおかしくないんだけどなぁ・・・?
結束の剣は、仲間の魔力を吸って、光の刃を生み出す剣・・・
「・・・もしかしてレウン君、私の事仲間だと思ってなかったり、する?」
「えっ!?そ、そんな事無い筈・・・ですよ?」
ずずいと近寄って追及してみると、レウン君は目をキョロキョロさせながら手をワタワタさせる。
すっごい怪しい所作だけど、嘘をついてるようにはあんまり感じない。
「それはそれで、他の人の魔力を吸っちゃう可能性があるから危険よね。レイル君とか「あそうだ!入り口にレイル君待たせてるじゃん!」
「あ、そう言えば」
「じゃあ、とりあえず有効打も手に入った事だし、一旦情報共有も兼ねて帰りましょう」
そうして私たちは教会を後にする。
ここで、大切な物を守るため、伝える為に散って行った人たちの分も、私たちは頑張らなくてはいけない。
本当は埋葬までやっておきたかったけれど、それは騎士の脅威が去ってから。
「・・・なんかいいのは見つかったか」
「わひゃあ!?」
教会を出たとたん、
すぐ横から話しかけられる。
「ち、近・・・っ!」
「仕方ないだろ、教会の前で堂々と突っ立ってるわけにもいかないからな」
「そ、そうなんだ・・・あそうそう、結構いろんな物が見つかったよ」
「そうか。そりゃあいい」
「何にせよ、他のレジスタンスの人にも報告しなければならないし、一旦帰りましょう」
教会の前で駄弁るのも、あんまりよくはないんだよね。そう言えば。
「ユイちゃんは着替えてからね」
「あ、はい」
町歩くときはまたあの変装に着替え直さないといけないの面倒くさいなぁ・・・!
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「・・・なんてこった・・・それがその伝説の剣とやらの能力なのか・・・」
レジスタンスの隠れ家に戻った私たちは、そこで見つけた対魔族用のペンダントと、結束の剣の本当の能力について話した。
・・・その時に「いい話と悪い話があるんだけど、どっちから聞きたい?」っていう映画のテンプレみたいなことをしたのは内緒ね。
ともあれ、ペンダントに関しては、これはレジスタンスの希望だ!
と大喜びしてくれた。ここと、あともう一つのレジスタンスの全員に用意できるほどの数は無いけど、2~3人で一組くらいで使えば問題はない数だ。
問題は結束の剣の方。
私の膨大な魔力があればなんとかなる可能性はあるとはいえ、下手すれば勇者であるレウン君以外皆殺しにになりかねない剣。
流石に衝撃だろうね。
「・・・なんてヤバイ剣なんだ・・・」
「でも、悪しき者を討つ唯一の手段の可能性だってあるんだろ?」
「そこのお嬢さんの魔力も相当だから、それで何とかできる可能性はあるが、ね」
騎士対策で暗かったバーが、物理的にも気分的にも暗くなってしまった。
その暗い雰囲気を吹き飛ばしたのは、ここのリーダー、アンダリスさんだった。
「だったら俺が生贄にでもなんでもなってやる俺一人の犠牲で自治区全体が救われるんならそれでいい!後で石碑でも建てといてくれよな!」
「ま、そうだね、元々レジスタンスなんかに志願した時点で死ぬ運命みたいなもんさ。じゃ、あたしは銅像でも建てて貰おうかな」
それに、アリッサさんも乗って来る。
なんか張り合ってるけど。
「ふ、運命共同体か。まあ、ここでじわじわと絞殺されるか、騎士に一息で斬り殺されるかよりはマシな死に方かもな。俺はそうだな・・・俺の名のついた図書館でも作って貰おうか」
バークレイさんまで。
・・・死んだあと何を残すかまで考え始めてる。
「み、皆さん・・・」
「って訳だ。あとの連中は知らんが、皆レジスタンスに参加してる以上己の命なんてもう捨てたと思ってる連中も多い。思いっきり使ってもいいぜ」
「あ・・・ありがとうございます!」
深々と頭を下げるレウン君と、その腰に下げられている結束の剣。
見た目は変わって無い筈なのに、ちょっと禍々しい装飾に見えてきてしまっているその剣は、今は何の反応も返さない。
そんな中、
「それまでにレウン、その剣早めに覚醒させとけよ」
とアリッサさん。
「か、覚醒・・・ですか・・・」
「ああ、だってその剣、まだ本調子って感じじゃなさそうだしな」
「そ、それは・・・」
「一応、伝承だと悪しき者と対峙した時その力を発揮すると書いてあるぞ」
「ほう?じゃあ、ぶっつけ本番って事か、燃えるねぇ」
「え・・・えええ・・・?」
まるで、物理的に両肩に重りが伸し掛かったんじゃないかってくらい肩を竦めるレウン君。
表情は角度的に見えないけど、凄い顔をしてるに違いない。
「そうと決まれば、あいつらに連絡を回して、早速作戦を立てるぞ!」
「ああ」「オッケー!」
「え、ちょっと、早くないですか!?」
私達調査から戻って来たばかりなんだけど!?
急に盛り上がったテンションに狼狽えていると、アンダリスさんは真剣な表情でこちらを見て言う。
「教会の騎士が襲撃されたんだ。あっちだって黙っちゃいない筈。あんまりもたついてると全家屋にガサ入れられてここが見つかっちまう可能性もある」
「そ、そっか・・・」
「できれば、そのガサ入れに合わせてストラディウムを襲撃して奇襲をかけたい。そのためには、奴らより先に計画を立てないとな!」
その一理ある理由と、テンションの高さに気おされて、何も言えず引き下がる私。
そうだよねー。教会の騎士倒しちゃったもんね。
そりゃあ、警戒もするか・・・
「確かに行動は早い方が良いわね。ここだって、あくまで裏の入り口を利用しているだけで騎士の監視が
ある大通りを使ってる。実はただ泳がされているだけ、という線だって否定できないわ」
「・・・そう考えると怖いですね」
マリナさんも、作戦の決行は早いに越したことは無いという意見で一致しているようだ。
「今日中に作戦立案。翌日に、もう一つのレジスタンスに共有、明後日に準備期間、作戦結構は明々後日、それくらいのスケジュールが良さそうね」
「だな、物資はあるといっても、出番なんて当分無いと思ってて、仕分けも終わってねぇ。あたしの戦装束はどこだったかな・・・」
「ま、そんな感じだ。あとはまぁ、切り札の二人には、しっかりと心身整えて貰わなくちゃな」
「は、はい!」「が、がんばります・・・」
二人して上ずった返事を返す。
これ本当に大丈夫??
かくして、モールレジスタンスの面々+私とマリナさんによる、大反抗作戦が始まったのであった。
私は作戦の立案とか、そう言うのは無理無理のムリなのでしないけど、作戦の中核を担う存在ではある。
だから、一応会議に参加はして話を聞いているし、作戦が私の体力とか、その辺を見越して実現可能かどうかを意見する、位の事はした。
とりあえず作戦開始までは時間があるし、あと3日、しっかり体を休ませておこうね。
隠れ家なら、魔力が籠る変装用の服装でいる必要も無いし。
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翌日。
隠れ家となっているバーの3階、というか実質屋根裏部屋のようなスペースを簡易な間仕切りで仕切ったカプセルホテルですらないスペースで睡眠を摂ったレジスタンス達。
こんな環境でも、野宿よりマシだと割と寝れてしまった私の適応力がなんか嫌だ。
ちょとした布のパーティションだけでも、安心感が違う。
睡眠中の魔力放出が生命の肝となっている私にとっては、薄着でいる事への抵抗感の無さは結構死活問題だしね。
日程的にはもう一つのレジスタンスへの連絡の日。
こちらとしてはやる事は特にないので、作戦に向けての準備ってところかな。
「おはようございます」
太陽の光を拝めないので、まだちょっと眠い目を擦りながらバーカウンターに降りてゆくと、見慣れない人影がある。
「ん、例の凄い魔力の嬢ちゃんかな?」
「えっ、あ、はい・・・ユ、ユイです」
そこに居るのは、プロアスリートか、ハリウッドアクションの俳優か、みたいなマッチョでほどほどなヒゲを蓄えたおじさんが居た。
恰好も、シンプルなシャツとボトムスだけど、張った筋肉の形が見える位パツパツだった。
私の倍くらい身長あるんじゃないの・・・?
そのサイズさに戦いていると、その人の影からひょっこりとアリッサさんが出て来る。
「こいつはイルフリード。あたしらと同じレジスタンスだよ。タフネスならアンダリスより上だね」
「ああ、よろしくな」
「よ、よろしくお願いします・・・」
握手がもう、完全に握りこまれてるような感じの握手になってしまった。
少し鍛えてて筋肉のある男子がちょっといいなと思う時もあるけど、ここまで行くと威圧感の方が強い。
片手でマシンガンとか持ってそうだもん。
・・・と思ったけど、よく見ればレイフリードさんが座ってるテーブルに、でっかい槍と盾が立てかけられてある。
うん。これくらいなら持てるよね。この人。
そんな新たなメンバーに戦いていると、
「「おはようございます」」
と、二人分の声がハモった声が聞こえて来る。
聞いた事無い声だ。
振り向くと、そこには二人の人が居た。
両方とも、レイル君未満レウン君以上。高校生の前半くらい・・・?
で、二人ともそっくりでほぼ同じ顔をしている。双子かな?
そして更に二人とも中性的な顔つきで、男子なのか女子なのか分からない。
・・・なんか、こんな人うちの科学部にも居た気がする。
そしてもっと特徴的なのがその格好で、
なんというか、ゴムか皮かみたいな妙な光沢のある、タイトな黒い全身タイツのような衣装の上に、
ショートパンツくらいの丈の黒のボトムスと、ポケットの多い、これまた黒のベストジャケットといういで立ち。
一目見た感想は一つ。
・・・スパイ映画の人だ・・・!
某、不可能任務映画で見たことある!って感じ。
「あ、あなた達ももしかして・・・」
「はい」「モールレジスタンス、諜報担当、」
「ベルです」「アルです」
「「よろしくお願いします」」
「よ、よろしくお願いします・・・」
さっきのレイフリードさんとは別ベクトルで固まってしまう。
感情を殺した、ちょっと機械的かつ、ピッタリそろった挨拶は無機質で、
恰好も合わさって、なんだかロボットとか、アンドロイドとか、そういう雰囲気を感じる。
そういう世界じゃないとは分かってるんだけどね?
その二人にも、アリッサさんが補足を入れてくれる。
「アルとベルも、あたしらのレジスタンスさ。情報収集とか、その辺が任務」
「へ、へぇ・・・」
「ちゃんと人間だぞ。ゴーレムとかマリオネットとか、そう言うのじゃないからな」
「わ、わかりました・・・!」
思わず失礼な質問をする前に補足してくれて助かる。
「あと、こいつら双子の兄と妹だ。間違われるのには慣れてるけど、できれば覚えてやってくれ?」
「え、そうなんですか?」
「私が双子の兄のアルです」「私が双子の妹のベルです」
少しタイミングをずらしたお辞儀。
よーく見聞きすれば、確かに立ち居振る舞いとか、声に差がある気がする。
中性的で整った顔って、ここまで男女でそっくりになるんだ・・・
「「次の作戦、よろしくお願いしますね」」
と、二人がさっきまでよりもちょっと感情を露わにしながら、
ニコリと笑う。
片方が男子で、もう片方が女子。
なんかこう・・・体感した事のないドキっとした感情が駆ける。