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第11話:残されたもの・Ⅱ

「さて、ややこしい事になったが、ここがレジスタンスの隠れ家だ」


カウンターの向こうにいる男性。

えーっと・・・


「アンダリスさん」


あ、そうそう。アンダリスさんは、バーテンダーのような丁寧なお辞儀をしていた。

それに対して、マリナさんがゆっくりと近寄って行くので、私はその後をついて行く。


「ご歓迎、ありがとうございます。こちら、アウフタクト聖堂教会から来た、ビショップ級シスター。マリナ・レイフィールと申します。それと、」

「えっと、ユイ・リクエ・レイフィールです」


多分、教会式の挨拶なのだろう、不思議なお辞儀をするマリナさんんと、普通のお辞儀をする私。

もしかしたらこの世界としての常識は逆なのかもだけど。


「なるほど、聖堂教会から・・・」

「ビショップ級だって!?かなりの高位者じゃないか・・・!」

「あぁ、もしかしたらの一手が打てるかもしれないね」

「なっ・・・レイフィールさん、ビショップだったのか・・・!」


急にざわつく。

やっぱりマリナさん凄い人だったんじゃん。


「すまないね。ビショップ級ともあろう人がこんな薄汚れたバーなんかに」

「構いません。隠れ家というのは、元来こういうものですから。それよりも・・・」


でも、マリナさんはそんなざわつきにも一切動じず、話を進めていく。


「あまり時間はありませんから、レジスタンスの近況をお聞かせ願えませんでしょうか?」


マリナさんは、背負っていた楽器ケース・・・に偽装した十字架を私に預けて、手近なテーブルに紙を広げ、付属の椅子に腰を下ろした。

・・・このケース重っ!


「あ、あぁ。わかった」


アンダリスと名乗ったその人は、慌ててカウンターから出てきて、マリナさんが座ったテーブルのそばまでやって来る。


「まずは、構成員から」

「そうだな。ここに在中してるのはのは、俺と、バークレイ・・・そこの眼鏡と、アリッサ・・・海賊みたいな女。そのほかに今出払っている奴が3人。計6名だ」

「レイル君らは?」

「あいつらは各地のレジスタンス支部を転々として、情報の共有なんかをしてもらってる」

「なるほど、だからあんな場所で出あったのね」

「そ、そう言う事です・・・」


マリナさんは、話を聞きながらすらすらと紙に情報を書き連ねてゆく。

私が授業で黒板を板書していたときよりずっと速い。


「あと、ここモールにはもう一個隠れ家があるが、そっちには10人ほどのメンバーが居るらしいぞ」

「・・・私やレウン君たちを含めても20人。少し心許ないですね」

「まあな。解放軍、なんて言っちゃお粗末すぎる戦力だ。だがまぁ、それには致し方ない側面もあってな・・・」

「黒騎士、ですね」

「そうだ。俺らはずっとあれに手をこまねいてきた。数も力も圧倒的。正体も分からない相手に、希望を失って出て行くメンバーも多いんだ」

「やはりそうでしたか・・・」

「何件か倒した報告もあるんだが、どれも生き埋めだの崖から落とすだの、正直規模が大きすぎて戦略には組み込めねぇ」


アンダリスさんは何とも言えない苦い顔をしながら語る。

楽器ケースに押しつぶされないよう、必死で耐えつつ話を聞いていると、やっぱりレジスタンス活動は上手く入っていないようだった。

理由は勿論、あの例の騎士。

あれ、とんでもなく怖いし、強かったもんね。


「・・・一応、大方の状況は掴めました」


一報のマリナさんも、神妙な顔つきで、筆をおいた。


「物資の量を見る限り、資源調達にはあまり苦労はしていないようですね。ただ、相手の物量と戦闘力に押され、大規模な反抗作戦は行えておらず、そうしている間に、レジスタンス全体の士気が落ち込んでいる・・・そんなところでしょう」

「・・・ああそうだ。冷静に分析すると、そうなるな」

「状況的には芳しくないですね。ですが一応、こちら側の情報も、共有しておきましょう」


そう言うと、マリナさんはこっちを見てアイコンタクトを取って来る。

この荷物をそっちに持って来いと?

あのこれ、今支えてるだけで大分精一杯なんですけど!?


それでもなんとか引きずってでも持っていこうとしたとき、ふっと急に荷物が軽くなる。


・・・あれ?


と思うのも束の間、反対側から人の顔が覗く。


「レウン君」

「あの・・・て、手伝うよ」

「あっ、ありがとう」


レウン君は、見た目こそ私と同年代・・・中学生くらいだけど、やっぱり木こりとして仕事をしてるせいか、楽々と荷物を運ぶことが出来た。

・・・つまり、レウン君にほとんどを手伝ってもらった。


「二人ともありがとう」


マリナさんは、私たちにきらりと笑顔を見せると、すぐに荷物の中に手を突っ込み、何かの紙を取り出して、状況説明を始めた。

マリナさんが話し始めると、このレジスタンスの他のメンバー、ええっと・・・バークレイさんとアリッサさんも近くにやって来た。

内容は勿論、私たちがここに来た経緯、村であった事、騎士の事、そして、

レウン君がもつ、結束の剣の事。



「・・・そうか・・・騎士は魔族だったのか。だったらあの強さにも説明が付くな」

「魔族とはまた厄介な物を・・・」


レジスタンスの男性2人は腕を組んで難しい顔をする。

一方、アリッサさんはというと、


「でもこれで希望は見えた。魔族には光だろ!」


なんて拳を皆に突きつけて来る。

でも、それにレイル君が待ったをかけた。


「待て。確かに魔族には光だけど、そこら辺のパワーの光魔法じゃ鎧や剣に弾かれて終わりだ」

「でも、そこのメンツで倒せはしたんだろう?」

「あー、それなんだがな・・・」


レウン君が気まずい目で私を見て来る。

何でそんな目で見るの・・・

変な目で見られて私がまごついていると、マリナさんが動き出した。


「ええっと、アリッサさんよね。ちょっとこの辺りで人目を避けれる場所、あるかしら」

「まさにここがそうなんじゃないか?」

「そうではなくって、そうね・・・男性の目を遮れるところ、かしら」


そしてそれにはアンダリスさんが答える。


「それならバーカウンターの奥を使えばいい。裏のキッチンスペースならここから死角だ」

「ありがとうございます。ユイちゃん、アリッサさんちょっとそこに行きましょう」

「あ、ああ」

「は、はい」


マリナさんに言われるがままに裏のキッチンスペースへと付いて行った。

そこも実質倉庫のようになっていて、所狭しと食料やら何やらが詰め込まれている。


「騎士を倒せたのは、とある理由があるの」

「はぁ、理由?」

「ユイちゃん。ちょっと服、バサバサしてみてくれるかしら」

「え、あ、はい」


言われるがまま、ワンピース状になっているアウターの裾を持って、バサバサしてみた。

多分、服の内側に籠った魔力が、ブワッと噴き出てると思う。

なんとなく、自分でもそんな感じがする。


「うっ!?」


途端、アリッサさんは、まるで何かとんでもなく臭いものを嗅いでしまったみたいな声を上げながら、ふらふらとした足取りで離れて行ってしまった。

え?ちょ!?


私そんなに臭かった!?

水路の臭い?それとも魔力の貯まり過ぎで蒸れてた?


なんとなく腑に落ちない気分になった私は、ちょっと服の胸元のボタンを外し、襟の開口部の部分を嗅いでみた。

・・・と、特に変なのは感じないけれど・・・


とりあえず、服を着直し、ちゃんとボタンをかけなおしてから辺りを見渡すと、

アリッサさんは深呼吸をしてた。


「あ・・・あのぉ・・・」

「あー、いやごめんね。エーテルに酔っちゃってね」

「酔った?」


エーテルって私の体から放出されてる魔力の事だったよね?

アリッサさんは、口調葉柔らかいけれど、確かにほんのちょっと体調が悪そうに見えなくも無い。


「いやさ、私人のエーテルをちょっと感じ取れる体質なんだけど、その量のエーテルは初めてでね・・・でも納得。こんだけのトンデモエーテルがありゃ、騎士は倒せるわな」

「それでも、結構大変でしたけどね・・・」


主に時間稼ぎをしてくれたマリナさんが。


「あと考えられるのは、そのレウンの結束の剣とやらか」


アリッサさんは続いてレウン君の方を見て言う。


「まだ覚醒はしてないって話だけど、すればここの元凶すら倒せるかもって話だったな?」

「ええと、伝承の上では、です」


淡い光が見え隠れするレウン君の剣は、敵を倒す伝説の剣!感はまだない。

まだ見ぬ元凶どころか、騎士を倒すのも、まだ難しそう。


「どちらにせよ、火力を小数人に依存するのは無謀だ」


そんな中に更に入りこんできたのはバークレイさん。


「伝承に語られる伝説の剣と、超常の魔力を持つお嬢さん、そしてビショップ級のシスター様。切り札としては十分すぎるかもしれないが、元凶の正体が掴めぬ以上その切り札は大本に全戦力投入したい」


雰囲気からなんとなくわかってたけど、やっぱりこのバークレイさんはレジスタンスの頭脳的な存在なんだと思う。

今も、メガネをクイってしてるし。


「となると、残る大量の騎士を相手するのは俺たちだ。であれば、足止めレベルでもかまないが俺たち凡人が騎士と渡り合える何かが必要になる。当然、ここの魔力に依存しない何かだ」

「それが難しんだよなぁ」

「最悪、光属性を持つもののみでも構わない。何か、アイデアが欲しいな」

「って言われてもなー・・・」


そんな事を言いながら、バークレイさんはバーカウンターに置いてある角砂糖のビンを開け、2粒ほど掴んで口に放り込む。

頭を使うのに糖分を使うってのは分かるけど、モロで行く?


さらに一方のアリッサさんは、ワインか何かのビンを開けてる。

フリーダムというかなんというか・・・だからレジスタンスやってるんだろうけど。


「それに関して、一つ提案があります」


悩む二人に対して、マリナさんが挙手をした。


「この町にある、聖堂教会に一度行ってみようと思います」

「聖堂教会か・・・あそこは騎士たちの侵攻の真っ先にターゲットになって以来、どうなってるのか分からねぇな」

「そうですか・・・ではやはり、何か残されている可能性は十分にあります。聖遺物の一つでも残っていれば状況は好転するでしょう」

「とはいうがな、あそこは常に騎士が見張ってる。どうするよ」

「い、一体くらいなら、何とかなりますよ・・・!」


始めて自分で提案した。

大人たちがどんどん話を進めていくのがなんか申し訳なく思ったのもそうだし、

そこが一番、私が仕事できる場面だと思ったから。


「何とかなるにしても、もたついたら増援を呼ばれておしまいだぞ。やるなら速攻か、奇襲だ」

「速攻・・・何とかして見せます」


前は威力重視で色々混ぜたりして長い準備時間をかけたけど、そこを省略するなり、事前にやっておくなりすればなんとかなるはず。


「ユイちゃん、大丈夫?」


マリナさんも心配してくる。


「でも他に方法は・・・」

「正直言うと、無いわ」

「・・・ですよね。だったら、私がやらないと!」


腕を胸元辺りまで持ち上げて、やる気のあるアピールのポーズをする。

何かを守るため、その目的を達成するためにこの力を使うって決めたんだから!


「あんたにそれが出来る力があるってのは私は分かってる!だから作戦は任せな!バークレイが良いのを立ててくれるぜ」

「お、俺かよ・・・」

「よろしくお願いします!」

「・・・ったく」


でも、知識とか戦略とかは、大人に頼る事にはなるよね。

私、戦いはド素人だから。





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モール市の一角。

そこは簡素な住宅街で、木造の家が立ち並ぶ。

そこに一か所、白く輝く塔があった。

それは、ここストラド自治区唯一の聖堂教会支部で、結構式に映えそうな綺麗な白い協会が、


・・・あった。


今は、あちこち破壊され、ステンドグラスのようなものもバキバキで、見るも無残な有様になってしまっていた。

そんな教会には誰も寄り付かず、周囲の住宅には人も住んでいない。

この教会の周辺だけがゴーストタウンになっている。


そんな中を私は、


「あ・・・暑い・・・」

「あとちょっとよ、頑張って!」


まるで真夏のマラソン大会のような状態で、ふらふらになりながら歩いていた。

これから大事な作戦なのに何故、


いや寧ろこれから大事な作戦だからこうなっていた。



バークレイさんが立てた作戦。

それは、あらかじめ一撃で倒せるほどの出力の光魔法を発射寸前で止めておいて、

見張りの騎士にあえて敵意が無いように見せかけ接近し、周囲に見つからないようピンポイントにぶっぱなす、というシンプルな作戦。


けれど、あんまり強い光魔法は、当然野ざらしで貯めてたら、見た目にも目立つし、接近しようものなら魔力的にも感づかれてしまう可能性がある。


だから、


視覚的にも魔力的にも存在を覆い隠せる外套を羽織り、その下で魔法を貯め、直前で脱ぎ去って放つ、という事になった。

街中でいきなり外套を脱ぎ捨てる露出狂ムーブも大概だけど、その覆い隠せる外套というのが問題で、

滅茶苦茶厚着なのだ。

しかも、通気性の悪い素材とか分厚い生地とかも挟んでるし、


とんでもなく重くて蒸れて暑い!

籠る熱と、蒸発しない汗で、体感温度はうなぎ上り。


氷魔法の一つでも使えれば幾分かマシなんだろうけど、片手では今まさに一撃必殺の光魔法がチャージされているため、他の魔法に割く精神的余裕は無い。


隠れている部分、隠れていない部分、全部が汗だくになりながら、何とか教会の前まで到達する。


「つ・・・ついた・・・?」

「ユイちゃんしっかり!まだこれからよ」


腕は外套の中に覆われてて、魔法のチャージに使われてしまってるので、額の汗はマリナさんが拭いてくれている。


『・・・なんだ貴様らは、ここは立ち入り禁止だ』


教会の入り口は木の板で封されていて、その前に、例の騎士が1体、大きな剣を携え待ち構えている。


「こ、この子の熱が酷くて・・・神父様に見て貰おうと思ったのですけれど・・・」


マリナさんは私を差しながらそんな事を言いだす。

私が籠る熱でフラッフラなのを利用してる!?

その辺のアドリブは作戦には無かったけど、いい感じだと思う。


「・・・」


私は体調悪そうにしてればいいだけだし。

っていうか普通に体調悪いし。


『フン、無知な人間だ。もうこの教会に、人など居ない』


「そんな!こんなに苦しそうなのに!?」


そう言いながら、マリナさんは私を騎士の前に差し出した。

距離的には、射程圏内に入った。


『・・・何度言わせれば気が済む』


騎士は、構えていた剣を振りかぶり、私ではなくマリナさんの方へ向けた。

その瞬間、パチン!と指を鳴らす音が聞こえる。

事前に決めた、行け!のサイン。


私は外套の首元の裏地に隠された取っ手を左手で掴む。

これを一気に引き下げれば、外套が真っ二つに裂ける仕組み。


思い切り引っ張ると、外套ははらりと肩口から左右に分かれ、地面に落ちる。

と同時に、右手に込めた、水の浸食と流動の特性を込めた、ネットリとした光の球を、騎士の腹部に押し付ける!

同時に、為に貯めた魔力を放出する解放感と、今まで密閉されていた上半身にさわやかな風が吹き抜ける爽快感が襲う。


『・・・な、貴様・・・!』


騎士は、驚いたような・・・多分、そんな感じの声を上げながら、手にした剣を取り落とす。

ガランッ!重い金属音の後、


『ぐ・・・ひ、光が・・・!』


と、騎士はそのまま膝から崩れ落ちて、黒い霧のようなものを鎧の隙間から噴き出して動きを止めた。



「た、倒した・・・んですよね?」

「やったわね」


鎧がそのままなせいで、いまいち倒せたのか袖ないのかわかりにくい騎士を前に立ち尽くしていると、

真横にマリナさんがやって来て、肩に手を置こうとして、


「あっ」


そのまま私の汗で滑って失敗した。


「・・・さ、先に背を拭いた方が良さそうね・・・」

「あと、着替えもなるはやで・・・」





マリナさんが持ってきた替えの服。

いつもの魔力放出が出来る服に着替え終わった頃、


「倒せたみたいだな」


と、レイル君とレウン君が合流してくる。

二人の仕事は人払いと監視。

元々人の寄り付かなくなったここだけれど、一応、という事らしい。


「・・・なんか、抜け殻みたいだね」


レウン君が、遺された騎士の鎧の頭を持ち上げ呟いている。

本当に、中身は消え失せてしまったかのように空っぽのようだ。

その鎧を見つつ、レイル君が言う。


「さて、こっから俺は教会の外を監視してる、皆は中を調査してくれ」

「うん」「ええ」「わかった」


そうここからが本番。

私、マリナさん、レウン君で、教会に何かヒントが無いか探さないと。


「じゃあ、外しますよ」


レウン君の合図で、入り口に封された木の板を剥がす。

今、3人は教会に足を踏み入れる。

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