第10話:反撃の光・Ⅳ
「試しにユイちゃん、触ってみたら?」
魔道具の一種だと、マリナさん自身も言っていた魔道剣
それに触ってみたら?
なんて、なんてことを!?
マリナさんだって、私の暴走体質の事、知ってる筈だよね?
「だだだだ、大丈夫ですか!?私が触っちゃっても!?」
そりゃあ焦る。
けれど、
「普通の人が触ってあれくらいなら、ユイちゃんが触っても大事には至らないはずよ」
と平然としたマリナさん。
「だ・・・だったら少しだけ・・・」
恐る恐る。本当に少しづつ県に手を伸ばしていく。
手が剣に近寄る度に、心臓の鼓動が早まっていく感じがする。
そして、もうあとちょっとで触れる!って所までいって、
「さ、触りますよ!?」
と一言告げてから、意を決して、剣の持ち手に人差し指をピトっと付けてみた。
「「「・・・・・・」」」
剣は眩い耀き、どころかさっきの弱弱しい光すら放たない。
あれ・・・おかしいな・・・
持ち手の別の所を触ってみても、うんともすんとも言わない。
「あ、あれぇ・・・?」
試しに、普通に剣の持ち手を握ってみたけど、結果は変わらず。
尚、剣が重くて持ち上げられなかったからその辺は試してない。
「な、何も起きないな」
「ユイちゃんには反応しないのかしら?」
「ま、まさか、壊しちゃったとか・・・!?」
雷で電化製品が壊れるとかたまに聞くし、強すぎる魔力に魔道剣が壊れたとか、そう言う事は・・・
「あ・・・僕は光りますね・・・」
その後レウン君が剣を手に取ったら、剣は淡い光を取り戻した。
よかった・・・壊した訳じゃなさそう・・・
その後他の人も触って確かめてみたけれど、光らせることが出来たのはレウン君ただ一人だった。
そしてその結果、皆で出した結論は・・・
「「「やっぱりレウン君は選ばれし者!」」」
「なっ・・・」
レウン君は驚いてるけど、そりゃあそうだよね!
結果出た力があの弱い光だったとしても、レウン君にしか出せないんなら、レウン君は勇者!
って事になる。
「で、でも・・・」
「結果として出力される力が弱かったとしても、レウン君のみが発現できるのは事実。この光も、今はまだ弱いだけで、本当はもっと強力な物である可能性は十分にあるわ」
「伝承だと、脅威を討つって言ってるほどだしな」
未だ迷うレウン君に皆で畳みかける。
「私は、レウン君の事、勇者だと思うよ?」
「今はまだその力を発揮できなくても、いつか絶対、花開くと思ってるわよ」
「え、えっと・・・」
「ええ、だから、その時までは私があなたを守るしその力が覚醒する手伝いもする。だから、このレジスタンス活動、協力してくれるかしら?」
トドメとばかりに差し出されたマリナさんの右手を、
「わ、わかりました・・・」
レウン君はゆっくりではあるけれど、握り返す。
「さて、これで交渉成立ね。これで私達4人は正式にレジスタンス・・・いいや、勇者一行として活動していく事になるわ」
「ゆ、勇者一行・・・」
「一応、伝承通りならキーパーソンは勇者、つまりレウンになるな」
「ぷ、プレッシャーが・・・」
「そんな気追わなくていいわ。それよりも、明日出発の予定だから、ちゃんと準備、しておいた方がいいわ」
「うん。どうせ騎士を倒すのは私だろうし・・・」
緊張で震えているレウン君を、皆で勇気づける。
ふと気が緩むと、何でこんなことしてるんだろう、当気持ちになるけれど、気にしてはいけないんだと思う。
実際、本当にあれが伝説の剣ならば、このレジスタンス活動に必要なのは私よりレウン君なのだから。
「マールさん」
と思っていたら、マリナさんが突然、母親であるマールさんに向き直る。
「この旅路、恐らく険しく、危ない道のりになると思います」
「・・・」
声色も真剣だし、一気に場が引き締まる。
「ですが、このマリナ・レイフィール。お子さん達は私が責任を持って、お母様の元へと無事に返すとお約束します」
真剣な顔で、そう告げるマリナさんの表情にハッとする。
そうだよね・・・これからの戦いは文字通り、命を懸けた戦いになるんだよね。
それはレウン君たちは勿論、マリナさんだってそうだし、私もそう。
でも、だからこそこの力を使って戦うと決めたんだよ。
うん。
そして、その覚悟の表れともいえるマリナさんの宣言に、マールさんはというと、
「ええ、分かったわ。あなた達が騎士を打ち倒せるほど強いという事は分かっているし、必ずやレウン達を英雄にしてくれると、信じているわ」
「・・・ありがとうございます。ですがもし、私たちが活動している最中に、この村が襲われた場合は、自身のの命を最優先して行動して下さい。金や家、尊厳などはどうとでもなりますが、命だけは取り戻せないものですので・・・」
「・・・肝に銘じておくわ」
失われる物の羅列の中に尊厳が含まれているのが、なんだか怖くて、だからこそ本気を感じる。
大人たちの真面目なやり取りに、子供3人は何も言えなかった。
「じゃあ、ユイちゃん。私達も宿に戻って支度しましょうか」
「え、あ・・・は、はい!」
急にテンションが戻るもんだから、すぐに対応が出来ない。
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翌日。
遂にこの村を出る日。
レウン君とレイル君が、マールさんや村人たちに応援され、真面目に何かを話し合っている様を、遠くから眺めていた。
「ねぇ、マリナさん」
「ん、なぁに?」
「あんなこと言っちゃって、本当に大丈夫だったんですか?」
「大丈夫って?」
「ほらあの・・・絶対に無事に返すっていう約束・・・」
覚悟の表れだったとしても、結構責任の重い約束だと思う。
それにマリナさんはユーリト家の3人を見ながら、
「ええ、確かに大きく出たとは思うわ。でも、あれくらい言わないと、親は不安を拭いきれない」
と、真面目な声で言う。
「いくら伝承に伝わる勇者に見初められたからと言って、いくら目の前で脅威を打ち倒す様を見せつけられたって、親というのは子供が心配なのよ」
「・・・」
「だから、あれくらいしっかりと宣言して、安心させてあげないとね。勿論、ああ言ったからにはちゃんと守るわよ?」
「そ、そうですよね」
流石に口だけじゃあないよね。
「とはいえ、命をかけて守るのなら、ダメだった時それを伝える人は居ないのだけれどね」
「ちょっ・・・怖い事言わないで下さいよ・・・」
「大丈夫、ユイちゃんはちゃんと返すわ」
「マリナさんもです!」
マリナさん、本当に自分を犠牲にしかねないから危ない。
実際、騎士と戦う時は自ら率先して囮役になったしね。
って駄目だダメだ!
あんまり暗い話を最初に持ってきちゃ!
えーっと、
そうそう、ここを出るにあたって、皆新しい服に着替えたんだよね。
マリナさんは、教会の人だとばれないよう、前のローブよりももっと大規模なイメージチェンジ。
頭は、シスター特有のあの被り物を脱いで、少しカールのかかった綺麗な金髪を露わにしてるし、
胴体は、オフショルダーでラフな感じのカットソーに、防御力がありそうな革製のコルセットをしてる。
ちょっと露出多くないですか?って聞いたら、
これから厳しい戦いになるのだから、これくらいは許容しないとね。って言ってた。
魔法の効率はどれだけ感応器を外気に触れさせられるか。だから、魔法主体の人は本気を出せば出すほど露出は増えていくわけだけれど、やっぱりこの辺りの違和感がまだぬぐえない。
そして一番変わったと思うのが、修道服の時の足首丈のロングスカートは違って、今は細身のパンツルックだという事。
今まではあんまり意識してなかったけど、マリナさんの足は結構長くシュッとした感じで、
なんというか、"大人のカッコいいお姉さん"なイメージが全面的に出てきててちょっと緊張する。
そして、持っていた十字架がそのままだとモロバレなので、いつの間にやら大きな楽器ケースと化していた。
実際に中にはハープが入っていて、マリナさんはハープが弾けるらしいのだけれど、その格好でハープはなんか場違いなんじゃないかなぁ・・・とも思わなくはない。
修道服でハープだと本当に雰囲気にバッチリなんだけどね。
一方で私はというと、元の魔力の放出に特化した、露出多めの衣装とは打って変わって、せいぜい胸元がVネックカットになってる程度の地味目で大人しい感じの衣服へと変わっている。
理由は、前にも言ったけど、露出が多い=本気で魔法を使う、という風潮の世界なので、街中であんまり露出多めの恰好だと、何か荒っぽい事をするんじゃないかと怪しまれる可能性があるらしい。
アウフタクトなら、戦いを生業にする冒険者もいっぱいいるから平気なんだけど、こっちで行動を起こす前にレジスタンスだとバレたら面倒くさいしね。
とはいえ、当然そんな服着続けていたら魔力が籠って大変な事になるので、人目を避けて定期的に服を脱いで放出する必要はある。
手間がかかるし、どっちかって言うとそっちの方が露出狂っぽくて嫌だけど仕方がない。
そんな感じで、暗い空気を消すために二人の服を思い返していたら、さっきまでやっていた何かが終わったのか、兄弟二人がこっちに向かってくる。
二人はもうレジスタンスとして動いているためか、元々目立つような恰好でもないし衣服はあんまり変わってない。
精々色が変わった位?
「もう出発のやり取りは終わったの?」
「ああ、あんまりここで長々と話してる余裕も無いしな」
「そ、そうだね。早めに侯爵を倒さないと・・・」
応援の声を背に、二飛の表情は覚悟が決まっているように見える。
当然、私も気が引き締まる。
村の外は乾いた土地が広がっているだけだけれど、この先には確実に、倒すべき敵が居るのだから!
「ところで、」
4人が村の外へ一歩踏み出そうとしたとき、レイル君がいきなり引き留めた。
「次の目的地とか、決めてるのか?」
「あっ」
そう言えばそんな話してない!
マリナさんなら何か考えてるよね?
とマリナさんの方を見てみる。
「そうね。ストラディウムは今は入れないのよね?」
「ああ、入り口はどこも封鎖されてる。壁を登って入るのも現実的な高さじゃないだろうな」
「・・・となると、」
これ、今考えてる?
まあ、マリナさんの考えなら突飛な物にはならないだろうって安心はあるからいいけど・・・
「やっぱりモールに行くのが一番かしらね」
「モールか」
「た、確かに、モールの町なら、情報収集は出来そうですね」
モール!
えっと・・・モールって確か・・・
「確か・・・アウフタクトとの交易の拠点になってた町・・・でしたっけ?」
「そう。この自治区では2番目に大きい都市ね」
よかった、合ってた。
「そしてそこには聖堂教会の支部があったはず。一応、そこの様子も見ておきたいわ」
「・・・マリナさん」
レイル君が言うには、教会は圧政に屈し、騎士が言うには、教会は既に潰した、そう言っていた。
やっぱりマリナさん的にも気が気じゃないのだろう。
「ただ、大きい街だけあって警備は厳重だぞ?」
でも当然、大きい町なんだから、騎士もいっぱいいるってレイル君たちも言ってた。
危険度は高いよね。
「そうですよ、ちょっと、危なくないですか・・・?」
その辺り、私も不安なのでマリナさんに聞いてみると、
「ハッキリ言って、村の事を考えるならば、外堀を埋めている時間はないわ。出来るだけ最短ルートを通って行動をしていきたいわね」
「それもそうだな・・・」
「た・・・確かに・・・」
実際の所、私たちに残された時間はあまりなのも事実。
あぁ、難しい問題。
「確かに賭けにはなるかもしれないけれど、私たちが力を合わせれば上手くいくと信じているわ」
「モールの町も、出入り口は警備が厳重だけど、抜け道は知ってる。一応、協力は出来るぞ」
「確か、隠れ家も作りました・・・」
みんなが次々とアイデアの提案や、今までやってた事の報告をしてきて、話が固まって来る。
一方の私は、特に良いアイデアも無いし、当然事前にやってた事も無いので、
「え、えっと・・・その・・・」
あたふたすることしかできない。
すると、
「ユイさんなに手をわたわたさせてんだ・・・」
と冷たいツッコみが突き刺さる。
「あ、いや・・・私、何も出来てないなって・・・」
「ユイさんは主砲だからなぁ・・・いつでもあの魔法撃てる準備とかしててもらいたいかな」
「あ、そうか!そうだよね。うん」
主砲・・・
今の私をこの上なく表現してる言葉、なのかも。
レウン君はまだ覚醒?してないし、レイル君は決め手に欠けるって言ってたし、
マリナさんは何か対策は立ててるっぽいけど、雑に吹っ飛ばせるのは多分私だけだと思う。
そうだなぁ。
もっと素早く確実にあの光の魔法を撃つ方法も身に付けなくちゃね。
あれを撃つたびにマリナさんが囮になってたんじゃマリナさんが持たない。
「とりあえず、あまり派手に動くことはできないから、早めに移動しましょう」
「ああ、慎重に行くとなると・・・二日はかかりそうだな」
「また野宿なんですね・・・」
「女子には辛いかもしれないけど、レジスタンスってそういうもんだ。我慢してくれ」
「はぁい」
自分で選んだ道とはいえ、いまどき所の女子には過酷な道だよ。
強いて言うなら、飲み水とか、水浴び用の水とか、その辺りは自前で無尽蔵にだせるのは良い所かな。
あと、水の魔法って、今ある水を操るとか出来ないのかな・・・出来るんなら、汗とかその辺のケアも楽になるのに・・・
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そんな勇者ならびレジスタンス一行の紅軍は順調に進み、
1日目の夜を迎えようとしていた。
「なんとか1日迎えられましたね」
「ま、町や村以外は騎士の巡回もほぼないし、拠点を構えようとでもしない限り平和なもんだ」
土よりも砂が目立つ乾いた大地。
その一角にあった小さな池のほとりに、皆で腰を下ろし休息をとる。
歩き疲れてパンパンになった足を揉み解しながら辺りを見てみるけど、似たような事をしてる人は誰も無い。
あれ・・・?私だけ?
やっぱり私体力ないなぁ・・・
とは言っても、昔の事故の後遺症で、体の成長はストップしてしまっているので、これ以上の筋肉増強は望めない。
「もうすぐ暗くなるわね。その前に火を用意しておきたいわ」
荷物を置いて、近くの岩に座っている姿が妙に様になっているマリナさんが言う
「火・・・ですか・・・」
思い出されるのは、ここに来る前の野宿。
木に雷を落としてたき火を作ったあの一件。
じゃあやっぱりまた私が、と重い腰を上げたその時、
「じゃ、じゃあ僕、木を取ってきますね」
とレウン君が立ち上がる。
「レウン君が?」
「一応、僕の本職、木こりなので・・・」
「あっ、そうだった・・・」
そう言えばそんなこと言ってた。
レウン君は、そのまま池の畔に立つ一本の木を見て、懐から例の伝説の剣を抜いた。
「え、それで切るの?」
木こりって、斧のイメージがあるんだけど。
まさかのチョイスに思わずそう聞いてしまったけれど、レウン君はあまり気にした様子も無く、
「この剣、切れ味は良いし、サビもしないから木を切るの、楽なんです」
なんて言いながら剣を横に一振り。
カツーン!!
と小気味いい音を響かせて、剣は木に突き刺さる。
レウン君はそれをぬるりと引き抜くと、再度同じ場所に剣を叩き込んだ。
ホントに剣で木こりしてる・・・
レウン君は手慣れた手つきでどんどんと木を伐り進め、あっという間に一本切り倒してしまった。
「ふぅ、こ、こんなものでしょうか・・・」
「ええ、これくらいあれば十分すぎるほどね。ありがとう」
手で軽く汗をぬぐう程度で、息ひとつ切らしていないレウン君を見ると、やっぱりレウン君って勇者じゃなくて木こりの方が向いてるんじゃない?
て思ってしまうものの、それを言ってはおしまいだと思って何も言えない。
ともかく、木の用意は出来た。
ということは、
「じゃあ、次は私が・・・」
どうせ火をつけるのは私なのだろう、と、ちょっと魔力が貯まって蒸し暑くなってきた体を冷ますように、服の裾をパタパタと揺らしながら立ち上がる。
が、
「あ、いやあの、俺、火属性魔法使えるからさ」
「あ・・・そ、そうなんだ、へ、へー・・・」
レイル君の思わぬ申し出に、気恥ずかしくなりながら着席する。
そうだよね!火を起こすのに一番楽なのは火だよね!
・・・魔力の蓄積以上に顔が火照ってる。
恥ずかし!
もう食べるもの食べてさっさと寝ちゃおう!ね!
明日も早いし!ね!