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第10話:反撃の光・Ⅲ

歩くだけで床が軋む宿屋の一室。

一足お先にシャワーを浴び終えた私は、替えの服に着替えていた。

デザインは一切変わらない、例の暴走体質用の衣装だけど。


もう慣れっこではあるんだけど、逆にこればかり着続けていて、ちょっと飽きに入ってきている。

オシャレが楽しめないとは何たる体質か。

とはいえ、この体質のおかげで今を生き延びている訳だし、文句も言えない。


「・・・うーん・・・」


手のひらのを前に掲げて、光の魔力を生み出す。

眩い光が放たれて、部屋全体を明るく照らす。

騎士たちの弱点は光だと言っていたし、実際に色々混ぜたとはいえ光の魔法で倒す事は出来た。


でも、本当にこの自治区を救うことは出来るのかな・・・


実の所、騎士を倒す事が出来たという希望と、たった3体にあそこまで苦戦した、圧倒的な威圧感と恐怖、

その二つの感情に揺れていたりする。


相手を一撃で倒す事が出来る私の魔法と、私を一撃で殺す騎士の剣。

そんな綱渡りみたいな戦い、避けれるものなら避けたい。


「ねえリズちゃん、私どうしたらいいんだろ?」


ポケットから魔女結晶を取り出し話しかける。

当然何にも返事は帰ってこないけれど、それでも一人で貯めこんでるよりかはマシだった。


そうこうしている内にマリナさんもシャワーを終え、ボロボロになった修道服を抱えて、下着姿で出てきた。


別にそれが恥ずかしいとかそういう感情は無いから別にいいけど、着替え、忘れちゃったのかな。

と思うのもつかの間、マリナさんはそのままの恰好で、袋から裁縫セットのようなものを取り出し、修道衣を縫い始めた。


「あ、直すんですね」

「ええ、修道服は貴重なものだから、今はこれしかないの」


そう言いながら、マリナさんはテキパキと戦いで付けられた傷を縫って修繕していく。

マリナさんも手際いいなぁ・・・

手先が器用な人って憧れる。


「ねえ、ユイちゃん?」

「はっ、はい!」


作業をボーっと眺めていたら、突然マリナさんから話しかけられた。


「もしかして、迷ってたりするかしら?」

「え・・・な、何をですか?」

「このレジスタンス活動、続けるかどうか」

「そっ・・・それは・・・」


迷ってない、なんてことは全くないけれど・・・でも・・・


「確かに、ユイちゃん含め、皆の力を以てすれば、勝利も夢じゃないわ。けれど当然、それには命の危険が付き纏う。悩むのは当然の事」


完全に見透かされてる。

だったら正直に言うしかないか。


「そう・・・ですよね。勝てるって事はわかりました。でもやっぱり、怖いです」

「やっぱりそうよね」

「勿論私はこの村・・・自治区は救いたいって思ってますし、レイル君達だって、もう仲間だと思ってて、でも・・・」

「今はそれでいいわ」


言葉に詰まり、どもる私の言葉を上書きするようにマリナさんが言う。


「誰かの死、自分の死、そんな事を一朝一夕でなんて決められない。それは当然の事。それを今決めろだなんて言わないわ」


マリナさんは、裁縫の手を止めること無く、こちらを見ながらそう優しく語る。


「けど、そう悠長にしていられないのも事実。だから、これからの活動にはついて来てもらうわ。でも、もし途中で怖くなって、逃げたくなったらいつでも言ってね。とりあえず、全力でアウフタクトまでは送り届けるわ」

「・・・」

「そうすれば、後はカレンが面倒を見てくれるはず」


それは私を精一杯気遣っての事だったと思う。

今は決めきれない。でも後で逃げたくなったらいつでも逃がしてくれる。、

だけど、


「・・・マリナさんはどうなるんですか・・・?」

「私?私はユイちゃんを送り届けた後、戻って戦うわ」

「それじゃあ、レジスタンスは・・・?」

「そうね・・・ユイちゃんが居なくなったら、戦況はだいぶきつくなるわ。でも、教会がやられているなら、私は引けない。だから、最悪の場合は・・・」

「そ、それはだめです!!」


最悪の場合、それを聞く前に遮るように叫んだ。


「そんな・・・マリナさんが戦い続けるような事になるんなら・・・私は逃げません!」


もうこれ以上、私の為に私の大切な人が失われていくなんて光景は見たくない。

スカートのポケットに入っている魔女結晶を、ポケットの外から握りしめた。

着替えたての服がもう皺だらけになっちゃうけど、気にはならなかった。


「もう・・・誰かを犠牲になんて、したくありません!」


ここでやっと、私の覚悟が決まったのかもしれない。

国や、村が、といってもあんまりピンと来なかったけど、大切な人がとなると一度経験がある以上、どうしても

強く感じざるを得ない。

私には力がある。それは国を救うなんて代物じゃないかもしれないけど、目の前の人を守るには、十分な力だ。

だったらその力、大切な人の為に使わないで何になるの?


「ユイちゃん・・・」


ちょっと語気強めに言ってしまったからか、マリナさんが目を丸くして固まってる。

ほんの少しの硬直の後、マリナさんは元の顔に戻って、


「そう、だったら、皆で力を合わせて、誰も欠けないように頑張るしかないわね!」

「はい!」


とお互い、拳を突き合わせた。

ピースサインは流行って無かったのに、こっちは知ってるんだ・・・

こんな状況で、そんな余計な事を考えた私がちょっと悲しい。






「ふう、応急処置としてはこんなものね」


そんなこんなでマリナさんが作業を終え、修道服をパンパンと叩きながら整えている。

見た感じ、どこに傷があったのかは分かるけど、穴はちゃんと塞がっていて、マリナさんの言う通り、とりあえず応急処置として穴をふさいだ、という感じ。

ただ、自分で大きく切り裂いたスカートの裾は、今の道具で直すのは無理があったのか、紐で軽く繋ぐだけになっている。

これはこれで編み上げ見たでちょっとおしゃれ。


「これからの事は、一旦ユーリト家に向かいましょうか」

「そうですね」


身なりを整えた私たちは、今後の事を話すべくユーリト家へ向かう。

当然私も。

私は、マリナさんについて行くと決めたんだから。




--------------------------------------------


「失礼するわね」


まだ2度目だけれど、まるで居候している人の部屋にでも入るかのような雰囲気で、というかまんまアウフタクトの教会で私の部屋に入るような感じでユーリト家へ入っていく私達。


「あぁ、レイフィールさんね。どうぞ」


部屋の奥からはそんな歓迎ムードの声が響いてくる。

この関係になるの早すぎない?

とは思うものの、まあ仲間だと認知はされているので、妥当なのかもしれない。


ともあれ、迎え入れられた以上は挨拶に行かないといけないし、最初に案内された応接間のような部屋へと向かう事にした。

部屋にはいつもの3人。

マールさん、レイル君、そして、鞘に入った剣を握りしめているレウン君の姿があった。


「こちらの方針は固まったので、とりあえず挨拶をと思ったのですが・・・」


マリナさんは部屋全体を見渡してから一言、


「・・・まだお取込み中、でしょうか?」


これは私にもなんとなくわかった。

部屋全体の雰囲気が・・・というか、3人全員の表情が割と暗いかんじだった。

ギスギス、とまではいかないものの、あんまり居心地のいい空間じゃない。


「ええまぁ、レウンがまだ、決意できてないみたいで」

「そうですか。まあ、大事な局面ですからね」

「ええ、こればっかりは仕方がない事です」


母親同士の井戸端会議のようになっている二人をよそに、私はレウン君とレイル君の方を見ると、レイル君が私を見て手招きしている。

本当はマリナさんに許可とか取った方が良いんだろうけど、この二人なら大丈夫だろうと、ソファの方へと近寄って、二人の対面の位置に座ってみた。


「なぁユイさん、レウンのやつ、元気づけてくれないか?」

「え?」

「こいつ、あの騎士との戦いの後からずっと落ちこんでるんだよ」

「・・・確かに」


レイル君の横に居るレウン君を見ると、確かに顔が暗い。

元々テンションは高い方では無かったけど、今は何時にもましてローというか、闇の底みたいな落ち込みようだた。


「あの・・・なんかあった?」


一応、元の世界では生徒会に所属して、お悩み相談的な事をやっていたので、話を聞いてみる。


「え、えっと・・・何かあったって訳じゃないんですけど・・・」

「うーん・・・」


真っすぐ攻めたんじゃダメかぁ・・・

じゃあちょっと回り道とかしていこうかな。


「あ、そうだ、あの戦いのとき、私の手を引っ張って、間一髪助けてくれたよね?」

「あ、は、はい」

「あの活躍が無かったら、多分私死んでたと思う。ありがとね」

「い、いえ・・・!僕に出来る事なんてそれくらいしか無いですし・・・」

「そ、そんな事無いと思うけど・・・」

「いえ!実際勇者だなんだって持て囃されてますけど、僕は全然そんな自覚ないんです!」


あー・・・なるほど?


「でも、剣は抜けてるんだよね?」

「そりゃあそうですけど・・・でも、抜けたからと言って、凄い力を発揮するでもなくって、ぶっちゃけだただのちょっと光るだけの重い剣でしかないですし・・・」


レウンはそう言って、手に持っていた剣を鞘から引き抜いた。

確かに、古く年代物の剣って感じはするし、取っ手部分のサビとは裏腹に磨かれた刀身は、それ自体がうっすら発光しているようにも見える。

光る時点で、この剣がただの剣じゃないってのはなんとなくわかる。だって金属は自力で発光なんてしないし。

ただ、確かに今までその剣が伝説の剣っぽい活躍をしたところは見たこと無い。


「だから、僕は仮に勇者だったとしても、その力を引き出せない失格勇者なんじゃないかなって・・・」

「そっか・・・そういうので悩んでたの・・・ううむ」

「だとすると、運動神経もあんまりよくない僕が居ても足手まといというか」

「いや、でも私を救ってくれたのはレウン君だし・・・」

「でもやっぱり村の声援を背負っていくのは重くて・・・ユイさんのほうがよっぽど勇者だよね」

「うっ・・・」


こうなって来ると私にはお手上げ。

剣だの魔法だの、伝説だの、そういう分野の知識は全くなくて、アドバイスしようにも何を言っていいのやら。

レウン君の自信喪失は深刻な感じだし、下手に私が手を出すと逆効果になりそう。


どうしていいかわからず、手を焼いていると、


「ちょっといいかしら」


と、マリナさんの声。


「本当はもっと前に聞きたかったのだけれど、その剣は、一体どういう剣なのかしら?」


マリナさんは、レウン君の持つ剣に視点を定めたまま、対面の椅子に座る。

ポジション的には私の隣の位置。


「ここストラド自治区に限らず、世界には魔剣や、宝剣と呼ばれる剣がいくつか存在しているわ。そして、それらの正体は魔道剣と呼ばれる代物」

「あ、あの・・・ちょっといいですか・・・?」


話に割って入る、というか水を差す感じにはなっちゃったけどどうしても聞いておきたいことが。


「なあに、ユイちゃん?」

「その、魔道剣とは一体・・・」


もしかしたら基礎中の基礎みたいなものかもしれないけど、知らないものは知らない。

聞くは一時の恥、効かぬはナントカというし。

勿論、マリナさんはそれについて丁寧に教えてくれた。


「魔道剣っていうのは、要するに魔道具の一種よ。魔道具としての魔法効果を仕込んだ剣。例えば、魔力を込めると刀身が燃え上がる剣とか、そういうのがあるわね」

「へぇ・・・そんなのもあるんですね」

「そう。基本的に魔剣とか呼ばれるのは、遥か昔に作られて、今も現存している強力な魔道剣であることが多いの。だから、その結束の剣も、そういうものかと思ったのだけれど・・・」

「じゃあ、私は触れませんね・・・」


危なかった。うっかり触る所だった。

うっすら光ってた以上、何の能力も無い剣ではない事は事実だし・・・


「だから、その剣がどういう剣なのか、そういう話は伝わってたりはしないのかしら?それ次第では、レウン君、あなたが正真正銘の勇者である証明も、活躍する方法もわかるかもしれないわ」


あ、マリナさん、ひっそり私とレウン君の話聞いてたな?

まぁ、いいや。

レウン君の目をしっかりと見つめるマリナさんの目は優しい。母親モードだ。

でも、その答えは意外な所から飛んできた。


「それは私が知ってるわ」


声の主はマールさん。

やっぱりそういうのは大人の方が知ってるのかな。


「でも、具体的にどう言う剣か、って言うのは伝わっては居なくて、伝承程度だけれど・・・」

「それでもかまいません。貴重な情報です」

「それなら・・・」


マールさんは軽く咳ばらいを入れてから、その剣の伝説について話し始めた。


「その剣は、時が来るその時まで眠り続ける。その剣は、時の脅威に対抗しうる物にのみ心を開く。その剣は、意思を束ね一条の刃となりて脅威を討つ。その剣は、使命を終え次第再び眠りにつく・・・これがこの村に伝わる伝説ね」


「なるほど、マール・ユーリトさん、ありがとうございます」


伝説を聞いた後、マリナさんは考察タイムに入り、独り言なのか皆に伝えるのか微妙なラインの声量で話し始める。


「・・・時が来るまで、は分かるわね。ヴェルス侯爵の登場を脅威と認識したのでしょうね」

「だろうな。あいつがトップを取ってから、この自治区は変わっちまった」

「次の、脅威に対抗しうる者にのみ心を開く。これが剣が抜けるという事ならば、レウン君こそ、脅威に対抗しうる存在だという事になるわ」

「で、でも、僕、木こりですよ・・・?そんな力なんて・・・」

「ええ。でも伝承を信じるならば、そう判断するほかないわ。あなたにそんな力が無い、のではなくその力にまだ気が付いていないだけかもしれない」

「・・・」


レウン君は黙ってしまった。

なんか、魔法を使えもしないのに、君には600倍の魔力がある、って言われたかつての私を思い出す。

そんな事言われても・・・みたいな表情。私はなんとなくわかるよ。


「そして3つ目。意思を束ねて光の刃となす・・・これはどういう事かしらね」

「結束の剣というからには・・・やっぱり皆の力を合わせるとか、そんな感じですかね・・・?」

「そうだとしたら、もっと強力な剣になっていてもおかしくはない筈だけれど・・・この村の人は皆勇者については協力的なのだし・・・」

「で、ですよね・・・皆の力を合わせたにしては、あの光は弱すぎですよね・・・」


もう本当にほんのりレベルの光で、私の魔力だと逆に出すのが難しそうなくらいほのかな光だった。

間違いなく、みんなの力を合わせた、なんて光量じゃあ、ないよね・・・


「光?その剣、光るの?」


でも、マリナさんはそれに食いついた。


「え、えっと・・・ちょっとだけ・・・」


弱弱しく呟くレウン君が剣を引き抜くと、そんな態度と同調してるんじゃ・・・?

みたいな微かな光量の光を纏う刀身が出て来る。


「確かに光ってる・・・伝承は事実かしら?でも、脅威を討つ光の刃・・・という感じでは無いわね」

「で、ですよね・・・」


頼もしくない光を放つ剣を、レウン君はそっと皆が囲むテーブルの上に置く。

レウン君が手を放すとその剣の光は消え、本当にただの剣に戻ってしまった。

それを見て、マリナさんがとんでもない提案をしてきた。


「試しにユイちゃん、触ってみたら?」

「えっ!?大丈夫ですか?」


触れる魔道具をことごとく暴走させてきた私が!?

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