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第9話:新たなお仕事、新たな冒険・Ⅱ

「私の魔力なら・・・何とか出来るはずです」


ストラド自治区を襲った、ヴェルス侯爵とか言う人の圧政の魔の手。

それを救うには、とんでもなく強い騎士の存在がネック。


なのだとしたら?


右手を高く掲げて、力の遠慮なく雷をぶっ放した。


バァァァン!


と、最早雷の音では無い爆音と閃光が巻き起こり、ビリビリと空気の振動が伝わってくる。

相変わらず、私自身に何の被害も無いのがおかしいくらいの威力だと思う。

見た目的には私に雷が直撃してるもんこれ。


光が収まって暗闇に目が慣れてくると、

もう見慣れたのか平然とした顔のマリナさんと、訳が分からず固まっている男の子二人。


「・・・まさか・・・アンタだったのか・・・?あの雷は・・・」

「山の天気が荒れてきた訳じゃ無かったんだ・・・」


「あれ・・・?もしかして昼間のアレ・・・聞かれてた・・・?」


そんな事を言われて、右手を高く掲げたまま私も固まってしまう。

数時間前に二度ほどぶっ放した記憶がある。

まぁ・・・あれだけ大きい音出してたら聞こえるよね。


「でも、これだけの力があればアイツらに対抗できるかもしれない・・・!」

「これで・・・勝てる・・・?」


でも、実際にパワーを見せつけてあげたら、二人の目に希望の光が宿ったように見える。


「頼む・・・!俺たちに協力してくれないか!?」


そのうち大きい男の子の方が、握手を求めて右手を差し出してくる。


「だから、最初からそのつもりで・・・」


とりあえず悪手に応じて右手を下ろし相手の手を握ると、


「俺はレイルだ、これからよろしくな!」


と凄まじい気負いで手を握ってくる。

そう言えば、今の今まで名前聞いてなかったね。


「ぼ、僕はレウンです」


小さい方の男の子も、レウンだと名乗ってくれる。

名前も似てるし顔つきもそっくり。兄弟かな?


「私はマリナ・レイフィール。よろしくね」

「あ、わ、私はユイです。よろしくお願いします」


そうだった、私達側も名乗ってないね。

とりあえずちゃんと名乗ったからヨシ。

一通り名乗り終え、協力体制を敷いた後は、年長者でもあるマリナさんが音頭を取る。


「これからの行動指針だけれど、とりあえず二人のお家に案内してもらえるかしら?」

「家?」

「そう。レジスタンスと言ってもまだ子供でしょう?身柄を受け持つ以上、やっぱりご両親に話は通しておきたいの」

「い、家はその・・・」

「うん・・・」


歯切れの悪い二人。


「親に言えない事でも?・・・まさかご両親はレジスタンスに反対してるとか」

「そうじゃないんだ、そうじゃないんだけど・・・」


レイル君は、苦い顔をしながらマリナさんを見ている。


「・・・まずはその理由から聞い方が良さそうね」

「・・・ですね」


思わず私も頷いてしまった。

だって明らかに何か隠してんだもん。


「私も協力するって言ったけど、隠し事はやめて欲しいな・・・」


不安だし。

それに、また仲良くなった後、実は○○でした。

ってなって良くない別れを迎えるのはもう嫌だ。

私だって異世界出身者だって事はまだ言ってないけど、それもいつか話そうと思ってる。

仲良くなって、敵じゃないってわかってからだけど。


「それは・・・」

「教えて。お願い」


マリナさんと私、両方に見つめられて、レイル君は顔を赤くしながら、ゆっくりと答えた。


「別に・・・親に会わせたくない訳じゃなくて」

「だったら一体、一体どういう理由があって・・・」


「それは僕が原因なんです・・・!」


いきなり、今まで黙っていたレウン君が大きな声を上げながら立ち上がる。


「僕が剣を抜いたから・・・」

「「剣?」」


マリナさんと私で、レウン君の腰に下げられている剣を見る。

言い方は悪いけど、粗末な鞘に納められた、若干汚れ、さび付いているようにも見える手持ち部分。

でも、よく見ると汚れ一つなく綺麗な輝きを放つ宝石が埋め込まれている。


「その剣がどうかしたの?」

「その剣は"結束の剣"っていうんだ」


マリナさんの問いかけに、レイル君が答え、話し出した。


「結束の剣は、俺たちの村にある古びた祠に祀られてる剣で、友情の力でパワーアップする、って、聞いた事がる」

「聞いたことがある?」

「ああ、その剣はレウンが偶然抜くまで、誰にも抜けなかったんだ。選ばれし勇者以外には決して抜けない伝説の剣。それがこの結束の剣なんだ」

「へぇ・・・」


なんか、ゲームの設定みたいだね、とは流石に言えない。


「って事はそのレウン君が選ばれし者、って事なのかしら?」


当然の帰結に行き着くマリナさん。私も同じことを思ってる。

しかし、


「いいや。多分違うと思う。レウンは引っ込み思案だし、戦いだって上手くない」

「狩人なのはお兄ちゃんの方で、僕はただの木こりだから・・・」

「そう。剣を抜いたのだってわざとじゃなくて、うっかり躓いた拍子にぶつかって抜けただけだしな」

「そ、そうなんだ・・・?」


うっかりで抜けてしまう伝説の剣って何なんだろう・・・とも思うけど、

少し前に普通に私のバリアで防がれてたし、伝説の剣って事自体がただの噂なのかもしれない。


あと、今お兄ちゃんって言った?やっぱりこの二人兄弟なんだ。


「そんな有様を見たら、俺はぶっちゃけこれが伝説の剣だなんて思えなくてさ、でも、村の皆は違うみたいで、"勇者の誕生だ!""救世主だ!"って盛り上がっちゃってな・・・」


どうしていいかわからない。そんな顔をしながらレイル君は話し続ける。


「でほら、ストラド自治区は今ご覧の有様だろ?もうすっかりこの現状を救ってくれると信じ切っちゃって」

「僕にそんな力は無いのに・・・」

「実際、この剣が凄い力を発揮したことなんて一回も無いんだ。これが」


多分、私もどうしたらいいかわからない、って顔をしてる。


「そんな中で滅茶苦茶歓迎ムードで村を送り出されて、流れで出てきちゃったのが今の俺たちだ」

「そういう事情があったのね。話してくれてありがとう」


「なんなら村で用意できる最大の装備とか道具も貰っちゃって・・・」

「だから、今村に戻ったらどういいう反応されるかどうか・・・」


気まずそうな顔をする二人。

確かに私も嫌だなぁ・・・勘違いで、そんな能力も無いのに勇者扱いとかされたら。

真正面からぶつけられる好意と希望を無下には出来ないし・・・


この空気感をバッサリと断ち切ったのは、やっぱり頼れる我らがマリナさん。


「でも、私達も結局レジスタンスとしてここを救うと協力した以上、ご両親たちの希望に沿う仲間が出来たって事だし、歓迎はしてくれるんじゃないかしら?」


確かに?


「そ、そうですよ!勇者一行に仲間が出来たって報告なら、きっと大丈夫じゃないですか?」

「だから、俺とレウンは別に勇者じゃないって」

「名前なんてそう厳密な物じゃないわ。それに私たちがこれから成し遂げようとしていることはそういうものよ」

「た、確かに・・・」


「って訳で、明日になってからでいいからレイル君たちの村に案内してもらおうかしら。私達もそんなに連日の野宿に耐えられるわけではないから宿も欲しいものね。ね、ユイちゃん?」

「え?あ、はい。そうですね!」


宿は欲しい!

それは心底思う。

こんな森のど真ん中じゃお風呂にも入れないしぐっすりと寝る事も出来ない。

よね?


「・・・柔らかいお布団とか出せる魔法って無いのかな・・・


そんな事を思っていたら、ぼそりと本音をつぶやいてしまう。

当然、他の3人に聞かれて顔真っ赤状態だが、そこに更に追い打ちが。


「野宿に寝心地を求めんなよ・・・」

「い、いいでしょ!?その・・・気持ちよく寝られないんだから・・・」

「あ、でもユイさん・・・雷の魔法使えるんなら、それっぽい事出来るんじゃないですか・・・?」

「それっぽい・・・とは・・・?」

「えっと、全身を雷の滞留の力で覆って、ふわふわ浮きながら寝るんです・・・って、どこかの絵本で読みました・・・」

「それは・・・ちょっと遠慮しようかな・・・」


それバチバチうるさそうだし、

寝ながら出力調整はきっと無理。

あと怖いし。






--------------------------------------------

翌日



「・・・よう・・・・・・ます」


何か聞こえる気がする。

・・・ぼんやりとした頭ではそれ以上の事は考えられない。


「おは・・・・・・ござい・・・」

・・・言葉かな?


「マリ・・・さん、この子、起きな・・・けど・・・」

「・・・ちゃん?じきに起・・・わよ」


会話が聞こえる?


「うーん、水でもかければ起きるか」

「はい!起きました!」


微睡んでいる間に大惨事になる所だった!

寝起きの女子に水ぶっかけるのは最低だと思うよ!?

未遂だけど!


「ユイさん、おはようございます」


目を開けた先に居たのは、えっと、幼い方だからレウン君。


「お、おはようございます・・・」


水をかけようとしたのはレウン君じゃないよね?

兄の方だよね?


「あ、ユイちゃんおはよう」


頭上からマリナさんの声も聞こえて来る。

体を起こして周囲を確認すると、

目の前のレウン君は片手に何か飲み物のようなものを持ってるし、

マリナさんは昨日釣って干しておいた魚を焼いているし、

川の方でレイル君が水を汲んでいるのが見える。


「み、皆早起きなんですね・・・」


なんとなく気恥ずかしい気分になりながら、

男子の目があるせいで着替えられなくて、寝相の影響でシワになってしまっているスカートを手で整える。

この辺もいい感じに出来る魔法って無いのかな・・・?


生活のひと手間を全部魔法で何とかできないか考え始めた辺り、この世界にも適応してきたと自負してる。


「朝食、も、もうすぐできるらしいですよ」


まだ眠い目をこすっていると、レウン君が手に持っていたマグカップ的な物を手渡してくれた。

触るとほんのり暖かくて、見た目は、タダの水。つまり、お湯・・・?


「あ、ありがとう・・・」


試しに一口。

口に入れたとたん、中々の酸味が口を駆け巡る。

・・・レモンティー的な味だ!!


「んぇっふ!」


想像の外の味で、思わずむせてしまう。


「ちょ、だ、大丈夫ですか!?」

「ユイちゃん大丈夫!?」


目の前のレウン君と、少し遠くにいたマリナさんが駆け寄って来る。


「だ、大丈夫です、ちょっとむせただけですから・・・」

「「ならよかった・・・」」


本当に大丈夫。

思わぬ味覚にビックリしただけで、二口目から本当にただのレモンティーだった。


この世界に紅茶があるのは分かってるけど、こういう場で作れるインスタントな奴もちゃんとあるんだね。


「どうです?レモンガエルのダシ汁は」


「んえっふ!!」


何それ!!!???



--------------------------------------------


その後きちんと朝食を食べ、ストラド自治区、並びにレイル君らの村へと向かう勇者一行。


「ところで、ストラド自治区って、どの辺りからなんですか?」


歩けど歩けど森の中、一向にそれらしい目印は見えてこない。


「さぁ・・・多分、もう入ってるんじゃないか」

「え?でも入出国制限してるって・・・」

「こんな道ですらない辺境の土地、境界線なんて無いよ」

「元々このルートを選んだのもそういう理由があるからなのよ?」

「そ、そうだったんですか・・・」


監視の目が無いとか、忍び込みやすいとか、そう言うのは結構大事だって、

これが物語の世界でない以上、この身で体感していくしかない。

けど、


「でも、それじゃあ逃げ出したい放題じゃあ・・・?」

「この辺りはフウオウワシの縄張りだから、普通誰も近寄らないよ」

「ちょ、そんなところで野宿しようとしてたんですか!?」


フウオウワシって、あれだよね?

結構大きいし、凶暴だったよ!?

そして美味しい・・・は、関係無いね。


「えぇ、ユイちゃんなら倒せるかなーって、ね?」

「え?じゃないですよ!いやまあ確かに群れごとやったことありますけど!」

「だったら大丈夫。なんなら、あの魚捕りに雷を使わせたのもワシ避けの狙ってたのよ」

「そうならそうと言っておいて下さいよ・・・」

「ごめんね」


マリナさん、意外とお茶目な所があるんだよね・・・

そしてそれがたまに洒落にならない。

実際襲われてなかったからいいけどさ?


「ふ、フウオウワシを群れごとって・・・」

「いやでも、あの雷だぞ、もしかしたら・・・」

「一度食べてみたいんだよなー、フウオウワシ料理」

「今出てきたら食べられるかなぁ・・・?」


「そこの二人、聞こえてるよ!」


すこし前から聞こえて来るひそひそ話も丸聞こえ。

とてもこれからレジスタンス活動とやらをしに行く雰囲気ではない。

どちらかというとピクニックに近いような・・・


そんなやり取りをしていたら、ふと唐突に森を抜けた。

立ち並ぶ木々が一気に晴れ、丘の起伏の形が分かるような地形が現れる。

原っぱ・・・というには草に覆われきってはいないやや乾いた大地。

でも荒れ地というには緑の多い、そんな光景が現れる。


「森を抜けたな。あと少しだ」


レイル君が右・・・えっと、北の方を指さしながら言う。


「あそこに時計塔が見えるだろ?あれが俺たちの村だ」

「あ・・・えっと・・・あれかな?」


遠くの方に、木々に紛れるような形で、塔の先っぽのようなものが見える。

他にもいくつか煙が上がっていて、誰か人が居るのがハッキリと分かる。


「例の騎士共に目を付けられるような村じゃないけど、万が一のこともあるし挨拶は手短に済ませたい所だな」

「で、出来れば身体を綺麗にするくらいは・・・」


野宿と森の抜けるので、泥や汗でだいぶ汚くなってる。

口にしないだけで、ハッキリ言うと今すぐにでも自分の魔法を使って水浴びをしたい。

とはいえ、男子の目もある以上、ここで服を脱いで水浴びをするわけにもいかない。

なので、挨拶に寄るがてら、宿によって休憩しておきたいのは本音。


「もっと詳しい状況の整理もしておきたいし、一応、一泊するくらいの時間は取らせてもらうわよ」

「わ、わかりました・・・」


そうレウン君は言うものの、少し心配そうな顔をしてる。

レイル君もまた、険しい表情になっていた。


さっきまでのピクニック気分から一変、

もうここは圧政の影響下なのだと思い知らされる。


一歩間違えば危険地帯。

私の魔法は決して万能ではないと言う事を胸に、緊張の面持ちでレイル君が進む後ろを付いていった。

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