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第8話:魔女の真実・Ⅱ

「よっし!完成!!」


擬態するバグを打倒し、戦勝パーティを開いていた私とリズちゃん。

いつの間にかやる事は、中断していたぬいぐるみ作りへと移っていた。


ぬいぐるみ作成も、ここに来てからが初めてで、

リズちゃんに教えてもらいながらたどたどしく作っている。


それでも、何とか、私が作ろうとしている物の形は見えて来てるので、もう少し頑張れば形にな・・・


って、んんん?


完成?


想像していない単語を耳にした私は、とっさにそちらを振り返る。


そこには、


「ほら見て?そっくりだと思わない??」


まさに"ぬいぐるみ版私"と言えるようなものがあった。

ぬいぐるみ特有の頭でっかちなシルエットや、ボタンの目や刺繍の口とかのシンプルな造形はそのままに、ややクセのある長髪の感じとか、ちょっと隙間多めの衣服とか、そう言った部分は可愛く再現されていて、

もし私が魔法でぬいぐるみに変えられてしまったら、こうなるんだろうなぁ、って思えるほど、ハイクオリティなぬいぐるみになっていた。


・・・この世界、実際に魔法があるからあんまり冗談じゃ無いのかもしれないけど。


「うわ・・・凄い・・・」

「慣れればこれくらい簡単だね!!」


得意げに胸を張るリズちゃん。

実の所、お互いにお互いのぬいぐるみを作ると言う方向性で作っているので、

私もリズちゃんのぬいぐるみを作ってはいるのだけれど、出来は歴然というか、まだ人型の原型が出来てきた程度でこれからリズちゃんに寄せていく、という所なのに、もうこの段階で負けている気がする。


「これは当然、ユイちゃんにプレゼントだからね!」

「自分のぬいぐるみかぁ・・・」


傍から見るとちょっとイタいな、

って気持ちも一瞬浮かんだけど、流石に言えない。


いやでもクオリティは凄いし、教会に帰ったら自分のお部屋に飾っておこう。


「それにしても、本当にクオリティ高いなぁ・・・」

「これも!薬草の見分けと同じで経験と練習あるのみだよね」

「やっぱりそうなるよねー」


現実は厳しい。

私もああいうの作れるくらい手先が器用になれれば、将来役立ちそうなんだけどね。

今の服を自分で修繕できたりしそうだし。


「大丈夫!ちゃんと私が編み出したコツとか、全部教えてあげるから!」

「うん。わかった。お願い!」


リズちゃんの方はもう完成してしまったので、残りの時間は私のぬいぐるみ作りを手伝ってくれる形になった。

とはいっても、実際に作業するのは私でリズちゃんはアドバイス係。


お互いにお互いのぬいぐるみを作って交換し合う、という目的を考えるとあんまり手出しするのも違うと思ったんだろうか?

教えてもらっている私が言えた口ではないけれど、それは私も正しいと思う。


「そうそう、基本は縫い目を裏側に隠して・・・」

「ふむふむ」


「はい。これが私の服の生地ね!」

「これ・・・そのまま使っちゃっていいの?」

「当然!その方が良い出来になるでしょ?」


そんな感じで、二人の共同制作は進んでいった。


しかし・・・


「あ、もう夕日が」

「完成しなかったね・・・」


気が付けば、日が傾いて来ていて、窓に夕日が差し込んでいる。

手元のぬいぐるみは、人型としてはほぼ完成はしているものの、髪の毛と衣服が作り途中、といった感じだ。

もう少し頑張ればできそうだけれど、これ以上続けると外が暗くなってしまう。


これは明日に持ち越しかな・・・


「そろそろ帰らないと」

「そうだね!じゃあ、これはまた取っておくね」


と、リズちゃんは私の作りかけのぬいぐるみと、完成した私のぬいぐるみを出窓にあるカゴに並べていく。

ちゃんと二人が横に並んでいるように。


「じゃあ、また明日ね!」

「うん。また明日」


リズちゃんに手を振りながら、そのままの流れで玄関のドアを開ける。

少し日が傾いて、やや涼しくなった風が吹いている。


スカートの体をあまり成していないスカートの隙間から風が吹き抜けて、思った以上の寒さを感じてしまう。

まだまだ涼しい部類だけどね。


「あー・・・どうしよっかなー」


作業を終えた後に、改善点とか、新しい発想とか出てきてすぐに作業に戻りたくなってしまうのは割とありがちなのかもしれない。

でも、暗くなる前に宿に帰るという門限もあるし、そこは守らなくてはいけない。

それに、例のバグの事も伝えないといけないしね。


夕日に照らされた森からは、どこからかカラスのような鳥の声が聞こえる。

どう考えてもうるさいのに、どうしてか心が落ち着いていく感じがあった。


村に帰っても、人の影はあまり見えない。

田畑の多い田舎の夕暮れがどういうものかはあまりよく知らないけれど、昨日や一昨日と、さして村の様子は変わっては居ないみたい。


マリナさんはもう宿に帰ってるだろうか?

マリナさんのお仕事の調子はどうなんだろうか?

今夜の晩御飯は何だろうか?


そんないろいろな事を考えながら、私はその足でのんびりと宿に向かった。




-------------------------------



足跡を辿る。


草木をかき分けながら進むには決して向いていない修道着。

けれど、聖堂教会の正装として、そして対魔女用の防具として、これを脱ぐわけにはいかない。

かといって傷がつくと防具としての能力が下がるため、慎重に足を進める。


教会の為に、この村の為に、ユイちゃんの為に、そして、私の為に。


絶対に、魔女は打倒さなければいけない。



そうして捜索を続けていたら、とうとう夜になってしまった。


・・・けれど、


「・・・ついに見つけたわ」


ついに見つけた、魔女の根城。


そして、それと今まで集めたデータから導き出す、行動パターンや警戒エリア。


・・・これは・・・もしかすると・・・!



-------------------------------


宿に戻った私に待っていたのは、誰も居ない部屋だった。

まだマリナさんは帰って来てないか・・・


アームカバーやブーツ、ケープにスカートを脱ぎ捨てて完全やお部屋スタイルに切り替える。

キャミソールにパンツだけなので、お部屋スタイルと言うかズボラスタイルと言った感じだけど、

その上に着ているケープもスカートも金属パーツでちょっと重い上にチャラチャラ音がするので、楽に過ごしたいならこのスタイルしか無かったりする。


どうせこの姿を見る可能性があるのはマリナさんしか居ないし、そのマリナさんとは、一緒にお風呂に入らなければならないので、下着程度なら今さらと言った感じ。


まだこの世界に来て、こんな服を着るようになって、まだそんなに時間たってないハズなのに、なんという慣れ方なんだろう。

一々こんなので恥ずかしがってる余裕がない、っていうのはあるかもしれないけれど。


だって、一刻も早く、元の世界に帰りたいのだから。


とはいっても今はマリナさんの仕事が先に入ってるからやれることも少ない。

とりあえず、ベッドに寝っ転がりながらマリナさんが戻ってくるのを待とう。


・・・



・・・



そうして待っていたら、


コンコン、


とドアを叩く音がする。

マリナさんかな?と思って、


「はいっ、大丈夫ですよ」


とドアの向こうに聞こえるように返事をした。

が、


「失礼します」

「えっ、あっ・・・!」


そこに居たのはマリナさんではなく、夕飯を持ってきた宿屋の女将さんだった。


「だ、大丈夫です!!はい!!」


咄嗟に今の格好を見られるわけにはいかないと、ベッドの上にあったシーツを羽織る。


「夕飯をお持ちしましたけれど・・・お一人しか居らっしゃらないようですね」

「マリナさんは、見てないんですか?」


シーツを巻いたまま、女将さんに聞いてみる。


「お昼ごろに一度見てからは、まだ見ていないですね・・」

「そうですか・・・ありがとうございます」


どうやら女将さんもまだ見ていないようだ。

マリナさん、遅いなぁ。

やっぱり頑張ってるのかな?


「とりあえずご夕飯はお1人分、置いておきますね」

「分かりました。私の分はそこに置いておいてください」


シーツから腕だけをにゅっと伸ばし、部屋のテーブルを指す。

その意図は伝わったようで、女将さんはちゃんとそこに料理を置いて言ってくれた。



今日の夕飯は、麦ごはんのようなものと、川魚の煮付け風の料理、キノコのスープ。

もういまさら○○っぽい、って言わなくていいかな。

味も殆ど変わらないし。


けれど、静かな部屋で1人で食べる夕食は、美味しは美味しいのだけれど、なんとなく、物足りない感じもするのであった。


そうして腹を満たした後も私はマリナさんを待った。

・・・その間特にやる事も無くて暇になってしまったので魔法の練習でもしながら。



しかし、いつまでたってもマリナさんは戻ってこない。

マリナさんが居ないとお風呂入れないんだけどなぁ・・・


もしかして、マリナさんの身に何かあったのかも!?

とえも言えぬ不安が頭をよぎったりしたが、マリナさんの身に何かが起きるイメージは全然湧かないし、

今どこで何をしているのかもよく知らないので、私にできる事は何もなかった。



そして、そうこうしているうちに時計の針が天辺を回ってしまう。

・・・今日はもう、帰ってこないのだろうか?


どちらにせよ、これ以上私が起きていても出来る事は何も無いし、逆に私の明日に響いてしまう。

諦めて寝てしまおう。


・・・と、その前に、お風呂に入れなくても体は綺麗にしておきたい。

そう思って、タオルに水の魔法を使って濡れタオルにして、全身をくまなく拭いてから寝巻に着替えた。


明日になったら、帰って来てると良いんだけど・・・


そう思いながら、さっき剥いでしまったシーツを整え直してからベッドに潜り込んだ。





-------------------------------




「・・・んん・・・」


頭がぼんやりとしている。


朝特有の、ふにゃふにゃとした寝起き。


・・・


・・・起きないと。


もぞもぞとベッドから這い出す。

逃げていく魔力を感じながら周囲を見渡す。


周囲は朝特有の静寂に包まれていて、すっかり静まり返っていた。

マリナさんは!?


横のベッドを見るが、ベッドの綺麗に整えられていて、そこに人が居る気配は無い。


「マリナさん!?」


寝る前にも、そして起きた後にも姿の見えないマリナさんの存在に、急に目が覚める。

朝の寒さも忘れて、キャミソールだけの姿のまま布団を飛び出し、隣のベッドを捲りあげて周囲を探す。

けれど、姿はない。


「マリナさん!!」


その勢いのまま、部屋のドアを跳ね開けた。


「きゃっ!!」

「うわっ!!」


目の前には、昨日の女将さんが居た。


「レイフィールさん、お目覚めですか、おはようございます」

「えっと、はい・・・おはようございます」


・・・じゃなくて!!


「えっと、マリナさん、戻って来てたり、してませんか・・・?」

「ええ、深夜に一度、戻ってきましたよ。ただ、少し前にもう出て行ってしまいましたね」

「そ、そうですか。ありがとうございます」


そ、そうなんだ、戻って来てたんだ・・・

私が寝てる間に帰ってきて、そして、起きる前に出て言ったんだ・・・

マリナさん、そんなに動き続けて大丈夫なのかな?


「では、お着替えが終わったころに、朝食をお持ちいたしますね」

「え?あ・・・あぁっ!!」


今の私寝巻の薄っすいキャミソールのままだ!!


「よ、よろしくお願いしまーす・・・」


まるで蛇が巣穴に帰るような勢いで、ささーっと室内に撤退し、音もなくドアを閉めた。

本当何やってんの私!

寝巻のまま外出るなんて!


・・・とにかく、ちゃんと着替えよ。



女将さんが朝食を持ってくるまでは大分時間的余裕があって、付けにくいアームカバーもちゃんと付けられるだけの時間があった。


届いた朝食はサンドイッチで、レタスやトマトの挟まる、典型的なBLTサンドだ。

まぁ、今の所どこにも豚を見たこと無いので、本当にベーコンなのかは怪しい。


落ち着いたらまたリズちゃんの所に行くか・・・と思いつつサンドイッチを齧っていると、

テーブルにマリナさんが使っていた地図が広げられている事に気が付いた。


「マリナさん・・・どんな事してるんだろ」


興味本位で覗き込んでみると、

地図にはこの村と、その周辺の様子が描かれていて、そこに、

"痕跡あり"

"被害地点"

"予測範囲"

等と言ったメモと、色々な家の個所にチェックマークと×マークか書かれていたり、

道に沿って線が引かれたりしている。

これは・・・魔女の居場所の地図・・・かな?


「あっ」


そんな中、地図の右端、村から外れた東の池の付近に、大きく〇が書かれていた。



・・・あれ?


東の池の畔・・・の家・・・?

・・・待って?


ここ・・・リズちゃんの家じゃないの??


つまり・・・魔女は・・・・・・リズちゃん!?


・・・そんなことは無い筈。


でも、そこにマリナさんが向かっているとしたら・・・?




そんな事を思ってしまった私は、考えるより先に身体が動いていた。

手に持ったサンドイッチの残りを皿に放り、

その勢いのまま部屋を飛び出した。


荷物は、ギルド証と、毒見の魔方陣、護身用の銃型の魔導具くらい。


まだ朝霧の消えかけていない村。

普通に歩くと肌寒い気候も、全力で走る今の私には気にもならない。


一刻も早く、1秒も早くリズちゃんの元へたどり着く!


しかし、そんな気持ちと裏腹に、身体は付いてこない。


「はぁ・・・うっ・・・ふぅ、はぁ・・・」


森の中腹に差し掛かるころには、

息を切らせながら、もたつく足を無理やり前に進ませる。

そんな感じになっていた。


こんなにも体力が無いとは・・・


高校生としても、平均以下どころかぶっちぎり最下位みたいな基礎体力しかない私に、走って駆け付けるなんて行為はすさまじい難易度だった。


けど、やるしかない。


どうせ人間は身体の限界を超えるような運動は出来ないし、

だったらもう、限界まで走り続けるしかないよね!!



「はぁ・・・はぁ・・・」


心臓が信じられないくらい激しく鼓動して、肺からは血を吐きそうなくらい何かがこみあげてくる。

足も自分の体じゃないくらい、一歩が出ない。


踏み固められているとはいっても、所詮は土の道。

足場も決して良いとは言えず、何度も転びそうになる。


いいや、何回か転んだ。


既に衣服は土に汚れて、膝に小さな擦りむき傷がある。

折角の真っ白な衣服が薄っすら茶色になってる。



まだ森は抜けない。

けれど確実に前に進んでる!


よろめいて、転んで、起き上がって、次の一歩を踏み出す。

渇く喉は、水の魔法で水を生み出して潤した。



そんな工程を延々繰り返して、遂に森を抜けた。


見慣れた湖と花畑、そして一件の小屋が広がる。

私がやらかしてしまった雷で焼いた木や、凍らせた草花以外は、

見た限りまだ何か大変な事は起きていない気はする。


そんな安心感に、ふっと全身の力が抜け、花畑のど真ん中に倒れ込んでしまった。


「っふ・・・はぁ」


どさり、と勢いよく俯せに倒れたけど、花々がクッションになって、痛みはない。

起き上がるだけの体力は残ってるはずなのに、気が抜けてすぐには立ち上がれない。


それでも、何とかして頭を持ち上げて家を見たその瞬間、


ドォォォンッッッ!!


と耳を塞ぎたくなるような轟音と同時に、家の外壁の一部が吹っ飛んだ。


「・・・っ!?」


壁に使われたであろう木の破片が宙を舞い、湖にボトボトと落ちてゆく。


そんな・・・?

角度が悪くて、吹っ飛んだ外壁の中は見られない。

けど、家で何かが起きたのは事実だ。


「・・・嘘・・・・」


そんな衝撃的な光景に、気が付くと私は身を起こしていた。


・・・あそこで今何が起きているのか、確かめないと・・・


「はぁ・・・はぁ・・・」


覚束ない息を吐きながら、ふらふらとした足取りで家に向かい、

壁に寄りかかるようにしてやっとのことで玄関のドアを開けた先に待っていたのは・・・


「え・・・」


「・・・・・・・・・」

真剣な顔で十字架を抱える、汚れた修道服姿で立っているマリナさんと、


「っ・・・!」

昨日までの姿をうって変わり、切り裂かれたようにボロボロの衣服に身を包んだ、

辛そうな表情で、座っているのか寝ているのかも判別付かないほど崩れ落ち、荒い息を吐いているリズちゃんが居た。



「リ・・・リズちゃん・・・マリナさん・・・!?」


何がどうなっているのか、何をしていいのか、

何も分からず、とりあえず二人の名前を絞り出すように叫んだ。


私の声に、二人が気が付いて、こちらを振り向いてきた。


「「ユイちゃん・・・!?」」


そして、マリナさんが、普段聞かないような真剣な、威圧感すら覚えるような声で言った。


「離れてなさい!そこに居るのが・・・"魔女"よ!」

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