第8話:魔女の真実・Ⅰ
「おめでとう!乾杯!!」
「乾杯!!」
2人、木製の小さいタルみたいなジョッキをお互いにぶつけ合う。
当然中身はジュースだけど。
今私は、リズちゃんの家で、戦勝会の真っ最中。
オーブンでは今まさにケーキのスポンジが焼かれている真っ最中。
リズちゃんが魔法で簡単に作ったクリームとカットフルーツも準備済。
生地をこねるのも、クリームを混ぜるのも、フルーツを切るのも、全部リズちゃんの風の魔法。
そして今オーブンが動いているのもリズちゃんの火の魔法。
因みに、私も水と凍りの魔法を使えるので、生地に入れる水は私の水魔法産だし、、クリームとフルーツを冷やすのに、氷の魔法を使った。
・・・魔法、便利過ぎるよね。
「でもほんとに助かったよ!凄い威力だったね!」
そんなケーキの焼き時間に、席に座って向かい合う形で駄弁っている。
対面のリズちゃんは物凄い笑顔だ。
「あはは・・・あれだけが私の取柄だから」
「あんなに魔力使って、体は大丈夫なの?」
「うん。不思議とどんなに魔法を使っても、体力的にはキツくはならないんだよね」
「いいなー。私はバンバン魔法使うとすぐバテちゃうもん」
「一応お医者さんには、感応器がどうなってるかはわからないよ?って言われたけど・・・」
マリナさんが言うには、普通の人は魔法をずっと使い続けるのは、精々15分くらいが限界らしい。
集中力や体力よりも、先に体内の魔力が尽きてしまうことが原因らしいね。
私がぶっ続けで魔法を使おうとすると、集中力や体力を使い果たしても魔力を使い切れない・・・
というか、生半可な魔法だと、消費量より精製量の方が上回って絶対に使いきれない。
だからこそ、肌を外気に晒して常に放出を促していないと、体内に蓄積してとんでもない事になってしまうのだけれど。
「まぁでも、今回はそれに助けられたからね!」
「ならいいけど・・・」
強すぎるパワーを割と持て余しがちな私は、未だ向き合い方が分かってない。
さっきみたいに、パワーが生かせる状況もあるにはあるけれど、今の所デメリットの方が多い。
「もっとユイちゃんは自身持った方が良いと思うんだよねぇ」
「え?」
「だってそんな凄い力を持ってるんだよ?絶対活躍出来るって!!」
「そ、そうかなぁ・・・?」
今の所、魔法を使った活躍と言えば、畑の水やり、フウオウワシの群れを撃退する、バグを倒す、
そんな感じだ。
威力とか、物量方面での活躍はまぁ・・・出来てるのかもしれないけど。
「そうだって!世の中は適材適所で出来てるんだから、長所に目を向けていけば大活躍できるよ!」
「う、ううむ・・・」
「少なくとも薬草集めるしか能のない私よりは色々出来るんじゃないかな・・・?」
「えぇ?そんな事無いと思うけど?」
絶対リズちゃんの方が活躍してると思う。
1人で暮らして、お店に薬草を卸してるんでしょ?
立派に自立してるって事だし。
私はほら、マリナさんにおんぶにだっこ状態で、自立とは程遠い状態だからね。
「いーや、将来的に跳ねるのは絶対にユイちゃんだね!」
「将来的かぁ・・・」
将来的には元の世界に帰りたいんだけどなぁ・・・
とは言えない私だった。
「結局の処この世は魔法が上手く使える人が強いからねー」
「うまくは使えないんだけどね」
「いつか上手く使えるようにはなるって!そうしたら後はもう、魔力の量と質の世界だからね。そうなればもう、ユイちゃんの独壇場だよ」
「そ・・・そうかな・・・?」
「ぜーったいそうだって!!」
私の両手をさらに包み込むような勢いで握りしめて、猛烈な勢いで肯定してくるリズちゃん。
ただ、どう考えても、まともな人生は送れないような気はしてくる。
この世界の基本的な道具である、魔導具が使えないし・・・
「でも、それなら頑張ってみようかなぁ」
「それがいいよ!」
だとしても、何にも出来ない要介護人間よりは、誰かの役に立てる人でありたいっていう気持ちはある。
そうなれば、私にはもう、唯一の長所である、膨大な魔力を社会貢献に生かせるように練習していくしかない。
・・・何も知らない、できない私を救ってくれたマリナさんの為にも。
そう決意したその時、下からパサリと音がして何かが落ちた気配がした。
「っ?」
咄嗟に下を確認すると、古ぼけた紙切れが床に落ちている。
これは確か・・・
手に取ってそれを確認した時に思い出す。
あぁ、マリナさんに持たされた、毒見用の確認魔方陣だ。
結局使ってなかったけど、まぁ、リズちゃんのお菓子とか食べても特に何も起きて無いし、いいよね。
「あーっ!それ、毒見の魔方陣?」
「あっ」
ただ、それがリズちゃんに見つかるのはまた別問題。
手料理を振舞ってくれる状況でそんなもの持ち込んでるなんて知られたら、失礼以外の何物でも無い。
魔方陣ってだけならワンチャンごまかせるかな、とも一瞬思うよりも先に、毒見の魔方陣だとバレている。
「え、いや、あの・・・」
どうしようかと口ごもる私に、リズちゃんは椅子から立ち上がり、ずいずいと迫ってくる。
「それねー、昔は私も使ってたなー」
「あっ、え・・・?」
「やっぱり薬草と毒草を間違える訳にはいかないからね」
「あっ、そ、そうなんだ・・・」
「今はもう、目で見分けられるよ!」
どうやら私の事を懐疑的な目で見ている訳では無さそうで、少し安心。
・・・そう言えば、宿でマリナさんから貰った時は、触っただけで何も載せて無くても、何に反応してるのかぼんやりと紫色に光ってたけど、
ここではうんともすんとも反応してない。
・・・森の中で、空気が綺麗だからかな?
「慣れないうちはその魔方陣を使うのがいいね。見分けられるようになるにはものによっては10年くらいかかるから」
「うん。目で判断しようとは、思わないなぁ・・・」
山菜とか薬草とかは、専門家にお任せだね。
10年かかるなんて、リズちゃん、何歳からこの薬草取りしてるんだろ?
っていうか、リズちゃん何歳なんだろう・・・?
その後、無事ケーキは焼き上がり、
パーティを中断し、盛り付け作業に入る。
「盛り付けは何がいいかな?」
スポンジケーキにクリームを塗りたくりながら、リズちゃんが聞いてくる。
「え?フルーツじゃないの?」
「まぁそうなんだけどさ、ちょっと切り過ぎたよね」
「確かに・・・」
キッチン横のテーブルには、山盛りのフルーツがあり、それを残さずカットしてしまった。
それも正直、魔法でスパッと切れるフルーツに私が興奮してしまって、もう一回、もう一回とせがんだからなのだけれど・・・
「乗せきれなさそうだから、いくつか選んで乗せるしか無いね」
「ゴメンね。あんなにストック消費しちゃって」
「良いよ良いよ!どうせユイちゃんが居ないんじゃ一人でしか食べないし」
「え?でもほら、薬屋の人と仲良さそうだったよ?」
「ジェイク?あー、あいつフルーツ苦手だし」
「へぇ・・・」
確かにあの人からはあんまりフルーツ好きそうな気配は感じないけども。
なんてことを駄弁りつつ、盛り付けるフルーツを選別していく。
苺のような果物、オレンジのような果物、
メロンのような・・・でも、網模様が碁盤の目みたいに整ってて、いまいち無機物感のある果物。
少なくとも見た目だけはちゃんとしたフルーツケーキのようになるように揃えていく。
味は・・・どうだろうね?
今の所、見た目から想像した味と全然違う!
って料理は見てないけど・・・
「さて、こっちはクリーム塗り終えたけど、由依ちゃんはどんな感じ?」
「こっちもフルーツ、選び終えたよ」
木製のお皿に並べたカット済みフルーツをリズちゃんの元へ持って行く。
「よしよしよし・・・ここからが本番だね・・・盛り付け方でケーキの完成度が変わるよ!!」
「そうだね・・・」
ケーキの見た目は、8割トッピングで変わると言っても過言ではない。
フルーツのチョイスと、盛り付けのテクニック。
二人の技量が今試される!
・・・私、お菓子作りの経験はそんなに無いんだよね。
「因みにリズちゃんは、ケーキ作りって、どう?」
「あんまり無いよ。クッキーとかならあるんだけどねー」
「そうなんだ・・・」
前途多難な気配がする・・・
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今日はもう少し、森の奥まで行ってみる事にした。
準備に時間がかかって、昼過ぎにはなってしまったが、まだ間に合うだろう。
北の森に伸びる道は、村長曰くから東にある湖に流れる、川の源流となる滝まで伸びているらしい。
今回はとりあえずそこまで行ってみるつもり。
もしその場で魔女に遭遇しても良いように、完全防備、かつ識魔法による状況調査を兼ねながら道を進んでいく
すると、
何もない道に突然、今までにない光景が広がった。
「・・・これは・・・」
そこにあったのは、まるで巨大な獣でも通ったかのような跡。
バキバキに折れた木々の枝が散らばっている、そんな状況が、それなりに広範囲に出来上がっている。
勿論、自然にできた物じゃない。
「・・・魔女・・・だと決めつけるのは早計ね・・・」
この破壊の後からは、魔女の痕跡はあまり感じられない。
とはいえ全く感じないわけでも無いため、可能性は捨てきれない。
ここらでクマのような狂暴な猛獣が出たという報告は無いけれど、
それでも万一と言うこともある。
新しく猛獣が出たのであればそれもまた問題ではあるし、警戒しなければならない。
一応、周囲を探索してみると・・・
「・・・足跡・・・」
それは、この大きな破壊の跡のすぐ近くにあった。
草木に紛れるように、ここから東の方へ繋がっている痕跡。
地面は草で覆われている部分が多い為、足跡からは正確な情報は掴めない。
・・・これは・・・
色々な仮説が脳裏をよぎる。
しかし、一つ言える事は、間違いなくここで、人、あるいは魔女によって、ここで何かがあった事だけ。
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「「完成ーーー!!」」
二人しか居ない家で、二人で叫ぶ。
目の前には、やや不格好ではあるものの、立派に盛りつけられたカラフルなフルーツケーキ。
素人二人で作ったケーキにしては、よくできた方だろう。
「って訳で、早速食べようね!」
「え、冷やさなくていいの?」
元々は冷えてた物とはいっても、常温で置いてたり、焼き立てのスポンジの上に盛り付けたりで、結構ぬるくなってるはず・・・
「その方が美味しいかな?」
「そのハズだけど・・・」
っていうか、普通は要冷蔵の食品じゃないの?
・・・やっぱり世界が違うと文化が違うのかな。
「じゃあ、冷やしてみようかな」
そう言いながら、リズちゃんはまた手の平に青白い光を纏い始めて、それをケーキに押し付けるように向け始めた。
その光は・・・氷属性の魔法だったね。
氷属性なら私にも出来るはず。
リズちゃんがケーキ冷やしてるし、私はフルーツの方をやろうかな。
私も手の平に力を意識して、氷属性の力を集めてみる。
フワァッ、と青白い綺麗な光に、雪の結晶が混ざる。
あとは、この力をフルーツに押し付ける!
「あ、ちょっと待って!!」
・・・してたらリズちゃんに止められた。
「何?」
「これ、凍らせないように冷やすのは結構コツがいるから・・・」
「あ、そうなの?」
ふとフルーツに目を向けると、オレンジの一部がカッチコチになっていた・・・
やってしまった・・・
「ちゃ、ちゃんと冷やす方法、教えてあげるよ」
「うっ・・・ごめんなさい・・・」
その後、リズちゃんに氷の魔法で、凍らさないように冷やす方法を教えてもらった。
氷の冷たさを吹き付けるのではなく、氷の持つ属性的な力を流し込む感じらしい。
要するに、前にやった属性複合魔法の、特性の部分だけを使う感じ・・・かな?
なんとなく、前にやった魔法の復習みたいになった。
そして、いざそれを習得すれば、出力だけは自信のある私。
ケーキとフルーツ、その二つを同時に、一瞬でひんやりさせることが出来た。
案外私の魔力は、慣れれば使い勝手良いのかもしれない。
「あっと!端っこ凍り始めてる!」
「えっ?あ、ヤバ!!」
・・・慣れればね。
「それじゃあ、頂きまーす!!」
そして冷えて美味しくなったケーキとフルーツを囲んでパーティを再開。
包丁で切り分けて、皿にとる。
あれ、これもしかして1人半ホール?
多くない?
「うーん!!美味しい!!」
目の前では、既にケーキを食べ始めたリズちゃんが、恍惚の表情で頬張っている。
ここまで良い表情をされると、こっちまで笑顔になってくる。
私もケーキにフォークを入れ、口に運ぶ。
・・・
うん。美味しい!
丁度いい甘さと、クリームの舌触り。
そして、フルーツの酸味や甘みが合わさって、とても美味しいケーキだ。
味に肥えている訳じゃなから、専門的なコメントは出来ないけど、美味しい事はわかる。
「うん。確かに冷やした方が美味しいかも!!」
「でしょう?やっぱり冷やして食べるのが正解だって」
もさもさとケーキを頬張りつつも、話題に華を咲かす。
「ユイちゃんが済んでるのって、アウフタクトだっけ?やっぱりそっちだと冷やすのが普通?」
「ど、どうかな・・・?一応、私の家だと冷やしてたけど・・・」
こっちの世界の話じゃないけどね?
「記憶喪失だったんじゃないの・・・?」
「い、家ってのは、今暮らしてる場所の事ね・・・?」
そうだそうだ、教会には一応魔導具式の冷蔵庫みたいなのもあったし、多分、アウフタクトでもケーキは冷やす・・・よね?
「そっかー。やっぱり田舎に居るんじゃ常識が偏るなぁ・・・」
「リズちゃんは町に出たりはしないの?」
「うーん・・・私には無理かなぁ」
「あぁ・・・そ、そうなんだね・・・」
興味本位で聞いては見た物の、少し遠い目をして語るリズちゃんを見てると、
なんか込み入った事情があるのかな、と思ってそれ以上聞けなかった。
今回は楽しい戦勝パーティだし、湿っぽい話題は無し!
楽しい話題で染め上げて行こう!!
そうして私とリズちゃんの戦勝パーティは続き、
その後、中断していたぬいぐるみ作りに発展していった。