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第7話:友達・Ⅲ

今日も私はリズちゃんの家にいる。



「まずは属性のもつ特性を感じとる事かなー」


「特性を感じる・・・?」


今回はお料理でもぬいぐるみ作りでもなく、

特性複合魔法の勉強。


昨日見たあれは、まさしく魔法、といった感じだった。

今までのただ水が出るだけ、雷が出るだけ、とは違って、


いやそれもそれでビックリするほど不思議ではあるんだけどね?


でも、特性複合魔法はそんなレベルを遥かに越えていた。

自在に曲がる炎とか、透明の石とか、物語の中の世界の奇跡が今ここにある。


それを私が使えるようになるのが今回の目標らしい。


・・・本当にできるのかなぁ・・・?



「とりあえず、あの木に向かって冷気でも出してみてよ」


リズちゃんと私は、家の前のちょっと開けた場所に居る。

そこから見える森の一角を指しながらリズちゃんは言った。


あの木と言われても、指された先には木しかない。


「えっと・・・どの木?」


「んー、まぁどれでもいいよとりあえずどれか一本の木に当てるつもりで」


「ええ?」


割と平然と言ってのけたけど、私の氷魔法がどれだけ広範囲に拡散するか知ってるよね?

湖まるごと凍らせるんだよ?


「まーまー、とりあえずやってみてよ」


「い、一応手加減はするよ?」


どうしてもやらなきゃダメらしいので、出力を落として、とりあえずやってみる。


「吹雪の力・・・」


できるだけ小さい範囲に・・・


ひとつだけちょっと赤い木があったので、それをターゲットに、意識を集中させる。


「今ここに参らん!」


ゴォォッ!

と掌からは、雪混じりの水色の光が瞬き、あっという間に視界を埋め尽くす。


実物は見たことないけど、まさに吹雪といった感じだった。


また出力の調整ミスった気がする。

ここまでする気は無かった。


・・・けど、



「・・・やっぱり一本の木なんて無理だよ・・・」


吹雪が過ぎた後には、あたり一面霜で覆われた木々が広がっている。

一本どころか、そこら一帯だ。

まるでそこだけ雪国のようだ。

・・・まぁ、湖の方を見ると、まだ融けきってない氷の固まりとかまだ残ってるんだけどね。



「まぁ、こんなもんかなー」


「・・・」


まるで、はじめから出来ないことがわかってたみたいな口ぶりで、リズちゃんがトコトコと歩きながら近寄ってくる。



「じゃあ次は雷の魔法で同じ事をやってみようか」


「雷?わかった」


また右手をさっきの霜で覆われた木に向ける。

・・・正直ここら辺の木々には悪いことしてると思う。


「・・・雷よ、」


掌からにバリバリと雷の魔力が集まってくる。

氷ほどじゃないけど雷も雷で周囲を凪ぎ払うようなパワーは出る。

少なくとも、上空に撃った雷で、足元の植物がダメなるくらいは。


それでも、前狙った木と同じ木をターゲットに、意識を集中させた。


「っ瞬け!」


雷特有のフラッシュと、爆音のような雷鳴、空気が焼けるような感触が、五感に襲いかかる。


私への被害は無いにせよ、やっぱり怖いことには代わりない。


一時的に麻痺してしまう五感が収まった後、そこに広がっていたものは・・・



「あ、ほら!上手く言ったよ!」


「え?あ、ホントだ」


霜で覆われた木々の中で、一本だけが黒く染まり、プスプスと黒煙を上げて燻っている。


明らかに焼け焦げた跡だった。


「実際は後ろの数本もやられてるけど、範囲はピンポイントになったでしょ?」


またもはじめからわかってたようなリズちゃん。


「どうして氷だとできなくて、雷だと出来たと思う?」


「ええ?・・・えぇと・・・」


本当に先生みたいな雰囲気出してくる!


うーん、氷だとだめで、雷だと出来る・・・

・・・でも今回の勉強って特性複合魔法だし・・・


「と、特性・・・とか・・・?」


ズルい答えの導きだし方な気はする。


「そう!この二つの違いは特性にあるの!」


私の答えは正解だったようで、リズちゃんは上機嫌で解説を始めた。


「まず、氷の特性は、"固定"と"減衰"。範囲を絞るには向かないねー」


そんなことを言いながら、リズちゃんは空中に10センチ位の氷の塊を作り出した。

それはそのまま空中にとどまっていて、落ちる気配が無い。


「空中にも"固定"できたりするから、これはこれで便利だけどね」


上から氷をぺしぺしと叩いても、既に台の上に乗っているかのように、氷はびくともしない。


「そして、雷の特性は"指向"と"滞留"。この指向の力が重要なんだよね」


リズちゃんは、パチンっ、と指を鳴らすと、

ドォンッ!


「うわぁぁっ!」


と大きな雷の音と光が巻き起こり、


「・・・え、ええ?」


さっきまで私のすぐ真横にあった氷の塊が粉々に砕けてその場に留まっていた。


い、今雷でこの氷に当てたの・・・?

すぐ横に私が居るのに・・・?


「ほらね。雷の力を使えばミニメルト単位で狙いを絞るのも余裕な訳」


とドヤ顔で語るリズちゃん。

が、私はと言えばすぐ真横で起きた閃光と爆音で、正直それどころでは無くて、

心臓がバクバクと高鳴り、今この瞬間生き残っていることを確認するしか無かった。


「え、えっと、つまり・・・?」


それでもなんとか言葉を振り絞って答えを返す。


「氷の魔法じゃ狙いを絞るのは大変だけど、雷だとそれは簡単。・・・そして」


リズちゃんは右手を高く掲げながら語り続ける。

多分私に語り掛けているんだろうけど、視線は湖に向いてる。


「もし、氷の魔法に、雷の属性の力を上乗せする事が出来たら・・・?」


高く掲げた右手に視線を向けたら、その手の平の上には、ドライアイスのような白い冷気のようなものが渦巻いている。

さっき私が放った物のようだ。

それを眺めていると、冷気の渦からパリパリと音がし始め、渦に雷のような小さな光が混ざる。


「氷の魔法を、まるで雷のように発射したりが出来るんだよ!」


リズちゃんが掲げた右手を正面に持ってきた瞬間、

渦は一気に爆発し、真っ白なレーザーのような何かが、私の視界を真っ直ぐ横切る。


私が起こした吹雪のような冷たい風もない。

雷のような轟音も無い。

ただ視界を横切るだけの白い光だったけれど、それが収まった後、光の先を見てみると・・・


「どう?便利でしょ?」

「うわ、凄っ・・・」


湖には、ほんの10センチ・・・えーっと、10ミニメルト・・・だっけ?

10ヤヤメルト・・・だっけ・・・?

とにかく、それだけの幅の氷が、真っ直ぐ対岸まで伸びている。

地面にも、同じ幅で凍り付いた跡があった。


「指向の力なら広がらない分パワーが集中するから、小さな魔力でも大きな威力が出せたりするんだよね!」

「へ、へぇ・・・」


何をやっても大味な破壊力になってしまう私にとっては、かなり便利なのかもしれない。


「雷にはもう一つ、滞留の特性があるけど、こっちを使うとその場にとどまる吹雪みたいなのも作れるね」


そう言いながら突き出した右手にはまたパリパリと帯電する冷気の渦が発生していた。

でも今度はさっきのビームのようなものでは無く、手から離れたそれは徐々に膨張していって、


半径1メルトくらいの冷気が渦巻く塊がゆっくりふわふわと湖に向かって進んでいった。


「使い方次第で全く別物の魔法が使えるんだよ?難しい詠唱も必要なし!」


そんな輝く笑顔と裏腹に、

冷気の塊は湖の上を進み、通りすぎる場所を次々と無慈悲に凍らせてゆく。


「じゃあ、早速やってみよう!」

「えぇ!?」


唐突な無茶振り。


「え、いやちょっと待って?私やり方も何も・・・」

「こういうのはさ、実践で感覚掴むのが一番なんだって!」

「た、体育会系・・・」

「?」


キラキラした目で見て来るリズちゃんとは裏腹に、げんなりと肩を落とす私。

しかし、そんな目で見つめられては断る事も出来ず、


「じゃあ・・・やってみるよ」


と、いう事を聞く他なかった。


とりあえず手を湖の方に持って行って、氷の魔力を集め始める。


ここまではすんなり。

青白い結晶混じりの光が手のひらの先で渦巻いている。


問題はここから。

これに雷の力を混ぜるとなると、中々意識を集中させなければならない。


氷の方の意識を散漫にしないように気を付けながら、雷もそこに一緒に出すように意識する。

暫くそうしていくと、氷の渦の中に、パリパリと小さな音が混じり始め、青白い光と共に黄色い閃光のようなものが混ざり始めた。

出来た・・・!?


が、それで気が緩んでしまい、ブワっ!と氷の魔力が広がってしまい、辺りに冷たい風が放出されてしまった。

むき出しのお腹や足、顔等に風邪をひきそうな風が吹き抜ける。


「うわっ!だ、大丈夫!?落ち着いて!」


手で顔を覆いながら、リズちゃんの声が聞こえる。

強すぎる魔力の勢いで、はっきりとは聞こえないが、何とか言葉としては認識できる。


「わ、分かった!」


一旦深呼吸を挟んでから、もう一度氷に意識を注ぎ、広がってしまった氷の魔力を集めなおす。

やっぱりそれ自体は上手くいくんだけど、次が難しい。


意識が散って、広がりそうになる魔力を何とか押しとどめたまま、別の属性の魔力を発生させるのは、中々レエルの高い技術だ。


そしてそして、何度かのチャレンジの末に、


「あ、もしかして出来た・・・?」


手のひらの先には、青白い吹雪のような渦と、雷のような黄色い閃光が混ざり合うように渦巻いている。

色こそ綺麗なものの、それは嵐の中心みたいな光景な気がする・・・


「おぉ!後はそれを特性に従って放つだけだね!!」


リズちゃんのテンションもうなぎ上りだ。

まぁ、私もリズちゃんも氷の魔力の余波で霜だらけなんだけど・・・


とはいえ、これで準備は出来た!

後はこれを、湖に向かって解き放つ!

と、手のひらで渦巻く魔力に力を入れた瞬間、


ドォォォォォ!!


と激しい音と光と衝撃が煌めき、周囲を覆い尽くした。


「え、きゃあぁぁ!?」

「ちょ、うわわわっ!!」


びりびりと皮膚すら振動させるほどの衝撃に、熱いのか冷たいのかもわからず思わず悲鳴を上げてしまった。


麻痺した目と耳が回復した後に残された光景は、


吹き飛ばされた水しぶきがそのまま凍ったような塊や、逆に凍った湖面が何かに抉り取られたかのような溝などが広がる、地獄みたいな光景だった。


「あ、あれぇ・・・?」


明らかに上手くいったとは思えない光景に、思わず首をかしげる。

そんな私と、目の前の光景を見たリズちゃんが、難しい顔をしながら近寄って来た。


「うーん、多分、氷と一緒に、雷の指向の特性じゃなくて、雷そのものをぶっぱなしちゃった感じかな・・・」

「そ、そうかも・・・」


確かにあの時感じた感触は、雷の魔法を単体で売った時と似ていた。

轟音とか、閃光とか、衝撃とか・・・


「次は、雷を混ぜるというよりも、雷の持つ、向きを定める力を混ぜるイメージをした方が良いかもね」

「向きを定める・・・難しい・・・」


ほんのさっきまで、魔法の特性の存在すら良く知らなかった私だよ?

いきなりそう言われても良くわからない。


「できればもう少し具体的に・・・」

「そうだなー、雷の魔力が、一本の線として伸びるのをイメージして、そこを氷が通る感じ?」

「あ、それなら何とかなるかな・・・?」


より具体的なアドバイスを貰った私は、再度湖の方を向き、再チャレンジしてみる。

この湖大丈夫かな・・・

今まで通り、まずは氷の力を生み出し、手のひら周辺に集め、それを維持したまま、次に雷を同じ場所に混ぜていく。


一度成功できたし、次も上手く行く・・・というのは割と甘い考えで、

結局二度目も何度もチャレンジする羽目にはなったものの、


なんとか前と同じく、二つの魔力が渦巻く状態に持っていく事は出来た。


後は、アドバイス通りにやってみるだけ。


雷の魔力を一本の線として・・・


混ざり合う魔力の渦から、雷のを強く意識する。

・・・うん。感じる。


それが、湖の対岸まで、一直線に伸びるイメージをする。

まるで、橋を架けるように。


そう意識していくと、渦巻いていた魔力の球体が、少しずつ円錐形に変わっていく。

イメージしていた一本の線に対して、矢印を描くように。


これは良い傾向かもしれない。

橋を引くイメージは出来た。


後は、その橋を渡るように、氷の魔力を・・・


「解き放つっ!」


思わず口に出すくらい集中してしまった氷の魔法は、

耳をつんざく轟音も、視界を覆う閃光や吹雪も無く、イメージの中でだけ存在した、魔力の橋とほぼ同じ位置を、真っ白な光が駆け抜けていった。

ほんの一瞬。

ただそれだけだったけれど、湖の対岸の木の一本が、ぽっかりと大穴を開けたうえで氷漬けになっているのを見ると、

あの一瞬であれだけの力がまっすぐに飛んで行ったことがうかがえる。


・・・これは、もしかして?


「やったね!大成功だよ!!」

「うん!出来た!」


まるで自分のことのように大喜びで駆け寄って来るリズちゃんに対し、

私も精一杯の笑顔とピースサインで返す。


「おっと、そのポーズは何?」

「え?コレの事?」


リズちゃんは私のピースサインを見て、不思議そうな目をしてくる。


「えっとこれは・・・ピースサイン、って言って、なんていうか、仲いい人同士でする、いい感じのサイン・・・的な・・・?」


改めてピースサインの説明を求められると結構困る。

特に理由とか無く使ってたからね。


「なるほど・・・友情のサインって事だね?」

「ま、まぁ、そんなところかな・・・?」


そ、それでいいよね・・・?

どうしよう。これがきっかけでこの世界で変な広まり方したら・・・


「ピースサイーン!!」


リズちゃんは見よう見真似で、私のピースサインを真似てポーズを取っている。

普通はピースするときにわざわざ口に出したりしないけど、まぁ、いいか。


私もリズちゃんに対してピースサインとポーズを取り続け、成功の喜びを分かち合っていた。




「でもほんとに上達早いよね」

「そうかな?」


その後、またリズちゃんの家に戻り、しばしのティータイムと洒落込んでいる私達。


「魔法を使うことそのものに対しては才能あるみたいだしね」

「才能っていうか、暴走っていうか」

「だからあとはもう慣れと知識の領域って感じがするね」

「うっ、まさに不足してる二つ・・・」


この世界出身では無いがために、知識と経験の無さがものすごくネックなのだ。

マリナさんからはゆっくりでいいよ、とは言われているけれど・・・

個人的には早く元の世界に帰りたいし、気持ち的には学生真っ盛りなので、何かを学ぶという事に抵抗は無い。


そんな事を思いながら、ふとリズちゃんの方を見ると、


「でも、今でも威力は一級品だし・・・ううむ・・・」


リズちゃんは腕を組んで、何か難しい顔をしながら悩んでいる。

その様子を暫く眺めていたら、何か決着がついたのか、ハッと顔を上げ、私の方をじっと見てきた。


「ねぇ、その魔法のパワーを見込んで、一つ、お願いがあるんだけど・・・」

「な、何かな・・・?」


リズちゃんの事だし、禄でもないお願いじゃないとは思うけど・・・


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「・・・ふぅ」


小さくため息をついた。

魔女の行動目的が掴めないまま捜索はどん詰まっている。


聞き込みや、村中の痕跡探索では有力な証拠を掴めなかった。


「・・・厄介なことになったわね」


だから、実際に失踪事件が起きたと言われる北の森へ来てみたのだけれど・・・


「魔女の痕跡が・・・薄い・・・?」


私には教会から貸与を受けた十字架がある。それによって、魔女の痕跡を探したり、対魔女戦術を行使したりできるわけだけれど、

そんな十字架の探知能力を以てしても、今回の事件は不可解な事が多い。


失踪事件が起きたのならば、そこに魔女が居るはず。

故に、そこには魔女の痕跡が残っている。


それは事実で、実際に事件があったと思われる、遺留品があった個所には、魔女が確かに居た痕跡が残されてい居た。


しかし、その反応はかなり薄い。

魔女の痕跡が薄い理由は主に3つ。

長い間そこに居なかったか、最後に立ち寄ってから長い期間が経ったか、そこに魔女とは違う高濃度の魔力を纏うものが居たか。


1つ目の理由だとしたら、相手は相当な手練れとなる。

2つ目は、最近起きた事件であるからに、この線は薄い。

残る3つ目は・・・高濃度の魔力を纏う存在なんて、大型バグか龍族、大精霊や悪霊位なものだけど、そんなものが居たという報告は上がっていないしこの線も薄いとみていいかもしれない。

あぁ、あとはユイちゃんもその部類かしら。

まぁ、ユイちゃんには、ここには近寄るな、って言ってあるし大丈夫だとは思うけど・・・


もう少し、奥まで踏み込んでみる必要があるかしら・・・

と作戦を考えながら、とりあえず今日はここまでと切り上げて、宿に戻る事にした。

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