表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/84

第7話:友達・Ⅱ

唖然、


リズちゃんのリアクションは、まさにそんな感じだった。


「・・・」



私も何も言えない。


何故なら。




家の近くにある湖を、思いっきりスケートリンクに変えてしまったから。


風で揺らめく美しかった湖は私の魔法で凍りつき、

その形を保った、ざらついた表面を持つ氷塊になった。



「こっ、こんな感じなんだけど・・・」


少し気まずい顔をしながら、私はリズちゃんに向き直った。

手のひらからは、ドライアイスのように冷気が残っている。


本当は、小型の自動車くらいの大きさの氷を出そうとしただけなのに・・・


実際、車サイズの氷も目の前に転がっている。


その余波で池が凍ったのだ。


「・・・」


固まったリズちゃんは、少しの間を開けてから話し出す。


「すっ・・・スゴいね・・・でもこれ・・・なんかおかしくない?」

「そうなの、私の魔力、暴走してるらしいんだよね・・・」


まだ私の右手には、魔力の強い気配を感じて、それを必死で押し留めている真っ最中だ。

多分気を抜くと、また吹雪を巻き起こすことになる。


「暴走・・・だからかぁ・・・やけに強い、というか、あまりにも強すぎると思ったんだよね」


納得がいったのか、リズちゃんはうんうんと首を縦に振りながら近寄ってくる。


「・・・割と悩みの種なんだよね、これ」


ようやく右手の魔力が収まってきたので、手を下ろして力を抜いて、リズちゃんの方へと向き直る。


「確かに毎度毎度こんなんじゃ大変かもね」

「そうなの。前も一回くしゃみで魔法が暴発して部屋の壁に穴開けた事あるし・・・」

「それは大変だね・・・」


多分あのエピソードは一生使い回せるだろう。

・・・それ以上のトンデモエピソードが生まれない限り。



生まれそうだなぁ。


「これ。なんとかならないかな・・・?」


放っておけば湖の氷は融けるけど、壊れたものは勝手には直らない。


「そうだねー・・・」


リズちゃんは少し考えてから、1つの案を出してきた。


「ユイちゃん雷の属性も持ってるよね?」

「うん。あるよ」

「だったら、魔法を使うときに雷の指向の力を使って、魔法の範囲を絞るとかかな?」

「指向の力・・・かぁ」


特性・・・だっけ?

属性ごとにそういう力があるのは知ってるけどいまいち理解しきれていない。


「そう。さっきの氷の魔法で言うなら、その魔法に雷の力を混ぜて、魔力の及ぶ先を一点に集める。それだけでもかなり影響範囲を小さく出来ると思うよ」



「あの・・・氷の魔法に雷の力って、混ぜられるの?」


一瞬、氷の魔法でも使ったかのように空気が固まる。


あ、あれ?私何か不味いことでも言ったかな?



とそれもつかの間、リズちゃんがあはははは!と笑い出す。


「当然!魔法の特性複合は基本だよー!」

「そ、そうなんだ・・・」


マリナさんからはそんな事少しも聞いてないけど・・・


私はそのレベルにも達してないって事かな・・・?

一応帰ったら聞いてみよう。


「・・・にしても、特性複合も使えないってなると、本当に初心者レベルなんだね・・・」

「最初から言ってるじゃん・・・勉強し始めたばっかりって」


家に戻った私達はテーブルの椅子に腰かけて会議を始める。


「でも、制御する方法を見つければ、かなり魔法使いとして良いとこまで行けると思うよ。威力は凄いし」

「威力だけはね」

「だからさ、特性複合魔法、覚えちゃおうよ」

「・・・難しくない?」


正直今の氷だけの魔法でも制御ギリギリだよ?

これ以上難易度が上がったら本格的に不味い。


「んー、まぁ確かにちょっと複雑にはなるけど、制御精度を上げることになるから、結果的にユイちゃんへの負担は減るんじゃ無いかなー?」


クッキーをチビチビ齧りながら、リズちゃんはいくつかの魔法の本をパラパラと見ている。


あああ、クッキーカスが本に落ちないか心配になる・・・


「複合魔法にも何種類かあるけど、単属性に単特性を混ぜる物は一番簡単だから、多分ユイちゃんでも出来ると思うよ」

「そ、そこまで言うなら・・・私もちゃんと魔法使いたいし・・・」


使う度に周りの被害を考えなきゃいけないのは、はっきり言ってめんどくさい。


「そうだね!・・・まぁ、今はお菓子食べながらお話しよっか」


テーブルの上に盛られた沢山のお菓子を前に、ちょっと練習するきにならない二人。

女子的感性はどこの世界も変わらない。


「・・・あ、紅茶無くなってるじゃん。今追加してくるね」


とリズちゃんは私の空っぽのティーカップを持ってキッチンに向かおうとする。


「あ、待って、私も手伝うよ」


私もやや慌てぎみに席をたち、リズちゃんの横に立つ。


「え?いいよいいよ、大丈夫。私一人でも出来るよ」


そういいながらリズちゃんが操作している装置は、私には見なれないものだった。

・・・ヤバい。

これどうやって使うんだろう・・・


手伝うよ、等と威勢の良いことを言っておきながら、紅茶の淹れ方わかりません、じゃカッコ悪い。


ここはお言葉に甘えるしかないなぁ・・・


とキッチンを見渡していたら、とあるものが目に入った。


「あ、これ・・・」

「ふふん、私の手作りだよ?」



それは、兎の縫いぐるみだった。

ボタンで目が作られているような、いかにもな造形の縫いぐるみ。

けれど、縫い目も綺麗だし、形も左右対称だし、パッと見でも市販品と大差ないクオリティで作られているとわかる。


リズちゃんはドヤ顔で私を見てくる。


「へぇー、可愛い。手先器用なんだね」


別にお世辞じゃない。

心からの感想だ。


「どうする?ユイちゃんも作ってみる?」

「え?いいの?」


思わぬ申し出に、後先考えない肯定の意志が飛び出てしまった。


「あ、でも魔法の勉強とか・・・」

「いいじゃんいいじゃん?私は縫いぐるみ作る方が好きだなー」

「じゃ、じゃあお言葉に甘えて・・・」


魔法の特訓は、まだ始まらない。






「で、そこで反転するの」

「あ、うん・・・ここでいいの?」

「うん、大丈夫。合ってる」


数分後、そこにはリズちゃんから縫いぐるみの作り方を教わる私の姿があった。


すぐに縫いぐるみが作れるほど、材料のストックは沢山あったのだ。


「いやぁ、私の趣味だったけど、人に教えるとなると俄然やる気でるね!」

「そ、そう?」


ピンク色の生地をすらすらと縫い付けていくリズちゃんの手元では、みるみるうちに何かの形が出来上がっていく。


当然綿は入っていないのでペナペナのままだけど、

筒が3つ繋がった様な何かでしかない私と比べれば、この時点でもう違いがわかる。


「あ、そこのコツはねー、」


リズちゃんは自分作業をこなしながらも私の作業をきちんと見ているようで、

所々でアドバイスをしてくれる。


私は作業しながら他の人を見るのは得意ではないから、憧れる能力のひとつだ。




そのまま私達は、時間も忘れて縫いぐるみ製作に没頭していた。






「・・・あれ、もうこんな時間に・・・」


気がついた頃には、外は暗くなり始めていた。


「えっ、うそっ!?帰らなきゃ!」


作りかけの縫いぐるみを放り投げ・・・は流石にしないけど、

それに近い勢いで立ち上がる。


なぜなら、マリナさんから、日が暮れるまでには帰ることを強く言われているから。

破ったらどうなるかわからない。


ただの門限ではなく、魔女騒動があるからこその約束。


「ごっ、ごめん!もう帰らなきゃ・・・」


帰り支度・・・といっても取り出した荷物は無いし、靴も脱いでいないので、そのまま玄関へと向かい扉を開けた。



・・・そして、立ち止まった。


「・・・うわっ」


家から一歩出たそこは、まだ薄暗い光に照らされているものの、森の中はもう、真っ暗で道などどこにあるかわからない状態だった。


「送ってこうか?」

「うん。おねがい」


いつの間にか真横に来ていたリズちゃんの申し出は、一切の躊躇なく受け入れるしかなかった。






「まーこのあたりには夜間灯なんて無いからねー」


けらけらと笑うリズちゃんの片手には、眩しく光るカンテラが下がっている。

火・・・の明るさじゃないし、多分魔導具の仲間だと思う。


それを見てようやく、私は光の魔法を使えることを思い出したが、それについては何も言わないことにした。


「こんな暗いなんて・・・いつもこんな道を歩いてるの?」

「普通はこんな時間に出歩いたりなんてしないよ」

「そ、そうだよね、ごめんね。付き合わせちゃって」


とても申し訳ない。


「いいっていいって、友達だしね」


先導するリズちゃんと、それにピッタリついて行く私。

一寸先は闇、文字通り月明かりスライド届かない漆黒が続いている。


「あっ」


ふとリズちゃんが声を上げ立ち止まる。


「な、何?」

「・・・見てあそこ、バグがいるよ」


リズちゃん道になっていない森の奥を指した。


「え、・・・えええ?」


バグは真っ黒な姿をしているので、正直にわからない。

目を凝らして、ようやく何か動いているかも、程度だ。


「ま、あいつは視覚が無いからこの光には寄ってこないし大丈夫だね」

「へ、へえ・・・そうなんだ」

「あれは魔力を頼りに寄ってくるタイプだから、下手に魔法作ったりとかはしなきゃ大丈夫」

「えっ」


数秒前の安心は何処かへぶっ飛んでしまった。

魔力を頼りに・・・?


「あの、リズちゃん・・・私、魔力駄々漏れだけど大丈夫・・・?」

「あっ・・・」

「・・・・・・」


広がる沈黙。


は、長くは続かず、彼方からガサガサと草木を掻き分け迫ってくる音がする。


「やっぱりだめだった!」

「ど、どうするの!」


完全にテンパってしまって、魔法の使い方なんて度忘れしてあたふたする私、

えーっと、

えーっと・・・


魔法、魔法・・・こういうときは・・・



「ええい!これしかないっ!」


リズちゃんは空いている方の手を前に出し、

そこから真っ赤な魔方陣が出現する。


そこから火の玉がいくつか飛び出して、

それはまるでミサイルみたいに複雑に軌道を曲げて木々の合間を縫いながら暗い森の中へと飛び込んでいって、


ドドドッン


と、連続で爆発が起きる。


それに驚いたのか、影の主が立てるガサガサという音は遠ざかっていく。

一瞬、森の中で火!?、と思ったけど何処にも燃え移ってはいないようだ。


「ふぅ、なんとかなったね」


汗を拭うような仕草でこちらを向いてくるリズちゃん。


でも汗なんかひとつもかいてないし、なんなら冷や汗で私の方が汗をかいてる。

まぁ、肌に直接布が触れる面積が小さいからあまり気にはならないけど。


「リズちゃんも、魔法凄いね」


私は見たままの感想を告げる。

ゲームとかでしか見ないような動きを目の前で見せられたら、こんな感想しか出ない。


「今のが特性複合魔法だよ。炎に、雷の指向の力を加えて向きを操れるようにしたの」

「へ、へぇ・・・」

「ユイちゃんも雷の属性持ってるし、練習すれば出来るよ?」

「そっか・・・そうなんだ・・・」


無意識に手のひらを見てしまう。

・・・私もあれを・・・


心の奥底で、少しワクワクしてる私が居るのかもしれない。

今までただ漠然としていた魔法使いという存在のビジュアルが、こうして目の前に存在している。




「そろそろ動かないとさっきの音に反応したバグが集まってくるかも」

「え、ちょっと、それはまずいよ」

「うん、だから早くここから移動しよう」

「わ、わかった・・・」



だだ、もう少し物騒じゃない世界だとよかったんだけどね・・・






「さて、ここまで来れば大丈夫でしょ」

「うん、ありがと」

村の入り口のゲートまで送って貰った。

ここからは青い退魔石や、夜間灯の光で道が照らされている。

明るさで言えば住宅街の街灯よりは暗いけど、まぁ見える範囲だ。


「明日も縫いぐるみの作り方、教えてね」

「勿論!美味しいお菓子作って待ってるよ!」

「う、うん。またね」


お菓子を作るところまではやって貰わなくてもいいけど、

本人がそう言ってるなら仕方ないよね。


そう思いながら、私は踵を返して、宿屋へと向かった。








宿屋の重い両開きのドアを開けた瞬間、そこにはなんとも言えない表情のマリナさんが仁王立ちでもしてるかのような体勢で立っていた。


「ユイちゃんっっ!!!」


そしてマリナさんは私を見つけるなり、パタパタと駆け寄ってきて、私がリアクションをとるより早く抱き締める。


「もう!心配したのよ!?こんな時間まで帰って来ないから!」

「ーー!!ーーーっ!!」


思いっきり胸で締め付けられている私からは言葉らしい言葉は出なかった。

解放されてからようやくしゃべることが出来た。


「ごめんなさい。友達と遊んでたらついうっかり・・・」

「・・・ならいいけど、次からはちゃんと守ること。いい?今この村は本当に何があるか分からないんだから」

「は、はい・・・」


久しぶりの真剣なマリナさんの気迫に押されそうになる私。


でも、しょうがないよね。

マリナさんの言いつけを破ったのは私なんだから。



「さ、とりあえず部屋に戻りましょうか、話の続きはその後でね」


マリナさんさんはそう言うと、私達が借りている部屋へと戻ろうとするので、私もその後を付いていった。


「今日何があったか、ちゃんと聞いておかないとね」









-----------------------




「なるほどね、そんな所にも家があったのね」

「薬草の採取地域に近い方が楽なんだそうです」


部屋に戻ってきた私は、マリナさんに今日リズちゃんとしてきた事を報告していた。

縫いぐるみの話とかね。



「・・・それにしても、」


そんな話を聞いていたマリナさんが、ふと何かを考えるような仕草をする。


「特性複合魔法ねぇ・・・確かに使えるようになると便利になるわね」

「リズちゃんからは練習すれば私にも使えるようになるって言われましたよ」

「そうね、単属性の物と比べてとても不思議な動きはするけど、これもきちんと法則に乗っ取ったものだもの」


そう言いながらマリナさんは手のひらから、茶色の魔方陣を出して、そこから少し大きめの石を産み出した。


そして、その石は緑の光に包まれた後、まるでガラスのようにスゥッと透けて、殆ど透明になってしまった。


「・・・こ、これは・・・?」

「土属性で作った石に、風属性の隠伏の特性を与えたのよ。重さも固さも石だけど、見た目だけ透明に出来るの」

「へぇ・・・凄いですね」

「でしょう?普通じゃ有り得ないことも魔法は叶えてくれる。私達人間がここまで発展できた理由よね」


マリナさんが産み出した石を持ってみるけど、やっぱり石だ。

ざらざらゴツゴツとした手触りや、両手に重くのし掛かる重量感。

とてもこの透明のものから出せる感じではない。


「その子から特性複合魔法、教わってみても良いかもしれないわね」


勿論、暴走には気を付けてね。


と付け足されながら。


「そうですね・・・」


そんなありきたりな返事を返しながら窓の外を見る。

都会では到底見られなかった星空が広がる夜空をぼんやりと見つめながら、

これまでの事、これからの事を考えていた。


私の事、マリナさんの事、魔法の事、リズちゃんの事、魔女の事。

まだまだわからないことたらけだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ