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第7話:友達・Ⅰ


---翌日。


例の如く朝霧の出ている時間帯は寒くて出歩けないので、活動時間は暖かくなってからになる。


リズちゃんとの集合時間は朝なので、動けるようになってから、割と急ぎめに薬草屋に向かう。

道中ダイコンを渡してくるおばさんには出会わなかった。



・・・あ、そうだ。ダイコンで思い出したんだけど、結局あの大根はマリナさんに一度鑑定してもらったあと、宿屋の人に調理してもらって、大根の煮付けにしてもらった。

あのおばさんは、宿屋の人にも割と知られているようだ。



次の角を曲がれば薬草屋だなー


等と思いながら角を曲がったその瞬間、


「やっ!」

「うわぁぁっ!」


目の前に人影があって、驚いて尻餅をつきそうになった。


「りっ・・・リズちゃん・・・?」

「おはよー!」


その人影の正体はリズちゃんで、ヒラヒラと手を振っている。

流石にサプライズが過ぎる。


「どうして私が来るの解ってたの?」

「識魔法があれば余裕余裕!」

「し、識魔法か・・・」


確か周りの状況を探れる魔法だっけ・・・



「で、どうなの?お家にはこれそう?」


「あ、うん。日帰りなら大丈夫みたい」


乱れた着衣を直してる最中にも、リズちゃんは話題を変えて話しかけてくるので、それに答える。

っていうかこうやって衣服に意識が向くと、凄い格好してるなぁ、私・・・もとの世界に戻るときは着替えておかないと。



「やった!じゃあ早速行こうよ!日帰りなら尚更ね!」


私の妹のように手を引いて来る、とまではいかないが、割りと駆け足で移動する。


その積極性は、楽しみにしていた故か、それとも何か裏に策略があるのか。

友達を疑うとか、そう言うことはあまりしたくはないが、魔女の存在が確定した今、少し私も疑り深くなっているようだ。



「こっから出るんだよ!」


「・・・森だね・・・」


リズちゃんに案内されて村外れの門まで来たが、その先はうっすら道が見えるレベルの森と化していた。

・・・本当にここ通るの・・・?


「こっから20分位で着くよ」


「20分かー・・・」


今まで通っていた高校までの通学路も20分位だけど、

舗装された道を進む20分と、森を掻き分けて進む20分じゃあ全然違うだろう。


それでも、リズちゃん先行である程度道を作ってくれるだろうしと、覚悟を決めて一歩足を踏み出した。









「さ、付いたよ」


意外とあっさり付いてしまった。

森を掻き分けて進むとか思ってたけど、道中は割りとしっかり道になっていて、地盤も弛くなく、普通に歩けた。


よく考えれば、新たな道を開拓するのではなく、リズちゃんがいつも通る道を進んでいただけなので、既に踏み固められていてもおかしくはない。



・・・なんて、そんな事はどうでもよくなるような景色が辺りには広がっていた。



「へぇー・・・凄い綺麗なところに住んでるんだね・・・」

「でしょー?自慢のおうちだよ!見せるひとは居なかったけどね!」


そこは、森が開けて湖が出来ている場所だった。

そんな湖畔に、一軒の小屋が建っていて、

辺りには白い小さな花が咲いている。


まるで絵画のような光景が広がっていた。


「・・・」


美しさに言葉が出ない。

生きているうちに、こんな光景を目の当たりにするなんて、考えたことも無かった。


「何してんのー!こっちだよー!」


「うえ?あ、ごめん!」


小屋のドアの前でリズちゃんが大きく手を振っている。

小走りで小屋に向かって走り出した。


「さ、これが私の家だよ。上がって上がって?」


鍵はかけてないのか、そのままガチャリとドアを開け、部屋へと案内される。











「リビングで待っててね、今紅茶入れてくるから」


そう言いながらパタパタと奥へと駆けていくので、言われた通り、多分リビングだと思われる、玄関入ってすぐの場所にある大きな部屋のソファに座って待っておく。


この家の家具、結構新しいなぁ・・・新品の様にピカピカしてるし、本棚に入っている本も装丁が綺麗だ。


・・・そう思いながら、何の気も無く本棚をひと撫でしたら、


「あっ、痛っ・・・?」


新品の様に見えたが、刺だかささくれだかがあったのかもしれない。ちょっとした痛みと共に、指先に紅い数本の線が走っている。

出血まではしていないが、皮膚が裂かれてなんだか嫌な感じ。


新しそうだからってやっぱり不用意に木造製品を安易に撫でるもんじゃないね。


・・・リズちゃんに絆創膏・・・は無いのかな。包帯を借りようかな。



「おまたせー、ユイちゃんアウフタクト出身だっったよね。だからチェラ菜の紅茶にしたよ!」


リズちゃんがティーカップを二つ持ってやって来た。

正確にはアウフタクト出身では無いが、似たようなものだろう。


「あれ?手、怪我してたの?」


私が不自然に指を抑えているのを目ざとく見つけてきた。


「え、あぁ、いや。ちょっとね」

「大変!ちょっと待ってて!今薬草取ってくる!」

「あ、うん。ありがと」


・・・薬草?


リズちゃんは直ぐに戻ってきた。

一枚の小さな葉っぱを持って。


「ちょっと怪我したところ見せて!」


と、そう言っている段階では既に私の手をとって傷口を見つめている。


「うん。このくらいならすぐ治りそう」


と、突然リズちゃんは手に持った葉っぱを傷口に擦り付けてきた。


「痛っ!しみるしみる!」

「ちょっと我慢してね、これが終わればすぐ治るよ」


私が貧弱なのもあるけども、リズちゃんの筋力は中々強く、じたばたと暴れても、傷口に押し付けられた薬草をかわすことは出来なかった。


「うぅ・・・酷くない?」

「けど効果あるんだよ。これ。傷が膿まない内にやっとくと治りが違うんだよ」


そうなのかもしれないけど・・・


それともこの世界の医療はこれがスタンダードなんだろうか・・・






怪我由来の痛みも、薬草由来の痛みも、ゆっくり紅茶を飲みながらちょっと待っていればすぐに治まった。


そうしながら話す内容は、専ら私の事だった。

勿論、別の世界から来たなんて言えば普通にドン引かれるだろうから、先月アウフタクトで目が覚めた、過去の記憶が曖昧な人という設定で話す。


・・・いやまぁ実際に私は記憶喪失で、中学以前の事は覚えていないのだけどね。


「そっかー、昔の事はあんまり覚えてないんだね。でも大丈夫だよ!きっと思い出せるよ!」

「うん。そうだね」


リズちゃんの淹れてくれた紅茶は、言っちゃ悪いけど、マリナさんが淹れてくれたものより美味しかった。

やっぱり、薬草とか、茶葉とか、そういうものに対する知識は、こっちが上なんだろう。

年齢が低くても、やっぱりそれで生活するとなると詳しくなるんだね。


「・・・って事は魔法はどれくらい使えるの?」

「魔法はね・・・目覚めた時に全部忘れちゃって、今は基礎魔法を勉強してる所だよ」


マリナさんに聞いたが、基礎魔法は私の世界でいう、小学生とか、その辺りで習うものらしい。

ただ火を出すだけ、風を起こすだけ。

魔法の中でも最も簡単でシンプルで、ほとんどの人は意識せずとも使える魔法。

私はいちいち唱えないと使えない上に、ちょっと気を抜くと大暴走する。


仕方ないんだけど、小学生以下のレベルでしかないと思うとちょっと惨めな気持ちになる。



「基礎魔法かー。私で良ければ教えられるよ?」

「いいの?」

「うん。私もそんなに魔法得意じゃないけど、基礎魔法くらいなら持ってない属性も教えられると思う」



それは願ったり叶ったりだ。

例え年下でも、大半の人より魔法知識は不足してるしね。



「そーだなー・・・ユイちゃんがどこまで勉強してるのかはわからんけどー・・・」


ぶつぶつと独り言をしながら、本棚からひょいひょいといくつかの本を持ってくる。

みんな厚くて、丁寧な装丁の成された高級そうな本だ。

古い本なのだろうか。少し色あせている。



「・・・基本16属性については知ってる・・・よね?」

「・・・覚えきれては無いけど、自分の属性くらいは一応・・・」


マリナさんからは初歩の初歩として、初日に教わったところだ。

けど、16種類もある上にそのひとつひとつに特性なんてものがあって、正直覚えきれて無い。



「まぁ、そんなもんだよね。私も陰系の属性は微妙だしね」

「陰系って・・・なんだっけ・・・」


えーっと・・・確か・・・


「陰系は、光、闇、識、幻、霊、重、空、時の8個の属性の相称の事だよ。現実にある現象を司る陽系と対になってて、目には見えないものをまとめてるやつだね」

「リズちゃん詳しいね」

「これくらいは基礎知識だよー」

「そ、そっか・・・・・・」


基礎知識かぁ・・・・・・

魔法に関しては初心者とはいえ、面と向かって、基礎知識、と言われると、己の無知が恥ずかしい。



「でもさー、今でこそ16属性だけど、昔は9属性だったらしいよ?」

「そうなの?」


そんな話は聞いてないなぁ・・・


「うん。って言っても、この本に書いてあっただけなんだけどね」


そう言いながら、ひときわ古ぼけた本を取り出した。

・・・もうこれ博物館ものじゃないの・・・?ってくらいのものだ。


その本をパラパラとめくって、とあるページを見せてきた。



「今から3000年以上前は、属性は、火、水、金、木、光、識、霊、界、夢の九つに別れていました・・・へぇ・・・」


・・・そうなんだ・・・

これくらいの数の方が覚えるの楽そうだなぁ・・・


「それが時と共に細分化され、火からは雷が切り分けられ、水からは氷が切り分けられ、それぞれが二つに分割された結果、今の16属性に別れました・・・だってさ」

「へー、私まだ歴史は全然だから初めて聞いたよ」


時代と共にどんどん属性が分かれて・・・あれ?

9つの属性が2分割されて16・・・?おかしくない?



「ねぇ、今の話ちょっと引っかかるんだけどさ・・・9つの属性が二つに別れたら18じゃ無いの?」


流石に算数は出来るよ?私。


「あ、やっぱそこ気になる?」

「気になるよ、どの属性が別れて無いの?」

「それね・・・今でもこの世界全体の謎なんだ」

「謎?」

「そう。過去あったはずの属性、"夢属性"はね、今は完全に失われてるの」

「失われてる?」

「うん。使える人も一人も居ないし、そんな魔法があったのかも何も残ってない。今の属性解析でも全く反応しない。昔、そんな属性があったって文献しかない」


・・・何それ・・・ミステリーじゃん。


「本の中でしか存在しない謎の属性。実際は存在してなかったんじゃないかって話もあるよね」

「そんなのもあったんだね・・・」


なんか、どの世界にもそういうのあるんだなー、って感じ。

アトランティス大陸とか、そういうの私の世界にもあるもんね。


「まぁ、今魔法使う事に関しては何も関係無いし、ぶっちゃけ忘れてる人の方が多いよね」

「都市伝説みたいなものだね」

「としでんせつ・・・?」

「あ、ごめん!私の身内の間でだけ流行ってるやつだった、これ」

「ふーん」


この世界には無いのかぁ、都市伝説。

なまじ日本語が通じる分、たまに伝わらない単語があるのがもどかしい。



「とりあえず、外に出て、ユイちゃんがどこまで魔法使えるか試してみよっか」

「その・・・引いたり笑ったりしないでよ・・・?」


超初級の魔法を暴走させて意味不明な威力でぶっぱなしたりとか、今でも普通にやらかすから・・・

一番最初に教わった水を出す魔法も、出してる最中は他の事はあまり考えられない。





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今回の魔女騒動には、不可解な事がある。


魔女の痕跡、失踪する住人、

起きている事自体は一般的な魔女事件の案件ではあるけれど、問題はその痕跡。


普段見る魔女の痕跡は、町の広い範囲で見つかるが、総合的には物陰や裏路地等、人目に付かない所で見つかる事が多い。

だが、今回のケースでは、そう言った特徴が見受けられない。

広い道の真ん中、店の中、町の中央の広場。

そういった、村の中でも人通りの多いところにも平然と出没している痕跡がある。


・・・それは、町に溶け込む能力が高いという事。


人を襲う為に、随分と前から準備をしていた可能性・・・その場合、ただの聞き込みでは有力な情報は得られる可能性は少ない。


・・・なんとかして、魔女を見つけなければ・・・



私は、大きな十字架を担ぎなおすと、決意と熱意を胸に宿を出た。

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