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第6話:薬草の村・Ⅳ

とりあえず宿屋に帰って来た私は、マリナさんを待つことにした。

何にせよ、マリナさんから話を聞かなければどうしようもない。



マリナさんが帰ってくるまでは、持ってきた魔法の基礎図鑑を見ている事にした。


魔力の暴走体質というおかしな体を持っている私だけど、魔法が使えない訳では無いので、色んな魔法を使えるに越したことは無い。

寧ろ、そのせいで魔道具が使えない以上魔法の選択肢がそのまま私の生活の利便性に繋がると言っても過言ではない。



「・・・」



ベッドに座りながらペラペラと図鑑をめくり、私でも使えそうな簡単な魔法を探す。

今読んでいるのは金属性の本。

私が今使える金属性の魔法は、緊急時に無意識に出てしまう拒絶の力だけで、意図的に使えるものはまだ無い。



・・・


錬鉄の魔法・・・金属性の魔力で、金属を錬成する。

質量は魔力量に、形は術者のイメージで決まる、金属性の最も基本的な魔法。


基本って書いてあるしまずはこれをやってみよう。


えーと、唱え方は・・・


「・・・我が身に宿る錬成の力よ、この手に金の恵みを与えよっ!」


私は、とりあえずこの世界では使えない百円硬貨をイメージしながら魔力を広げた手のひらに送り込んでみた。


すると、手のひらは灰色の光に包まれて・・・


ゴトンっ、


と、明らかにお金の音ではない音ともに、15センチ程の何かが現れ床に落ちた。


「あ、あれ・・・?」


床に落ちたそれを見てみると、それは円盤の形をしていて、真ん中に大きく100、と刻まれている。


下には、円盤の縁をなぞるように、平成17年、と書いてあった。


・・・間違いない。

これは百円硬貨だ。


私のイメージなので、細部は全然ガバガバというか、書かれている文字が柔らかくてファンシーなので、一目で偽物とわかる代物だけれども。


それよりも決定的に違うのは、その大きさ。

硬貨というよりも、ウェイトリフティングとかに使う重りみたいな大きさになっている。


足元に落ちなくてつくづく良かったと思うインパクトがある。

てっきり魔力の出力を間違えたら沢山の硬貨がジャラジャラと出てくるものだと思っていたからビックリだ。



「・・・どうしようこれ」


床に落ちたそれは、地面にピッタリとくっついて、指が入らず、私の握力では持ち上がらない。


物を動かす魔法とかあればいいんだけど、いや、あるにはあるんだろうけど、今の私は知らないのでどうしようもない。



なので、これをなんとかするのはマリナさんが来てからにすることにして、魔法の勉強を続けることにした。



要するに、諦めた。









そうして一時間か、二時間か、そこら辺経った頃、


「光よっ!」


蛍光灯のような文明的で白い光によって部屋が明るく照らされる。


魔法の勉強は楽しい。

やってみる出来事が、そのまま現実世界に現れるから。


直線上を動く点P云々等と言われても正直サッパリだけど、実際に自分で出した解の通りに目の前で点Pが動いてくれればワクワクもするだろう。


魔法は、やってみれば目で、耳で、直接感じることが出来る。




光を消して、今度はもう少し明るい光を出してみよう。


「万物を照らし出す真実の光明よ・・・」


右腕を高く掲げて、


「出でよっ!光・・・っ!」


ガチャっ


そんなタイミングで、突然ドアが開く。


「あっ、やばっ!」


それに気を取られた瞬間、私の魔力は一気に右腕に流れ込み、


「うわぁぁぁっ!」「きゃあぁぁ!」


目の前で何個ものフラッシュが焚かれたかのような莫大な光が迸った。






「ユイちゃーん!ユイちゃーん?大丈夫ー?」


視界は白なのか黒なのかよく分からない何かで埋め尽くされていて見えないので、下手に動くことは出来ず、多分マリナさんの声だと思う声に返事をすることしか出来ない。

今この部屋はデカイ百円玉とか落ちてて危ないし。


「だ、大丈夫です!でも、今ちょっと目がやられてて・・・」


「それは私もよ、しばらくすれば治ると思うから動かないでね?」


「は、はい!」


相手との距離感がわからず、自然と声が大きくなる。





しばらくそうやって声だけでお互いの存在を確認しあっているうちに、目が元に戻ってきて、辺りが見えるようになった。


マリナさんも同じタイミングで治ったのだろう。

辺りを見回しながら部屋に入ってくるのが見える。


「何があったの?」

「その、魔法の勉強をしてて、突然ドアが開けられてビックリしちゃって制御を外しちゃって・・・」

「あぁ、なるほど、じゃあ辺りに転がってるこれも・・・」

「はい・・・私の魔法の残骸です」


床に散乱している大小様々な硬貨を拾い上げてまじまじと見つめている。


「・・・これ、あなたの世界のお金だったかしら?」

「はい」

「これなら大丈夫だけど、ゴルトを錬成するのは重罪だから絶対にしないでね?」

「は、はい。わかってます」


やっぱり偽造貨幣はダメなんだ・・・










部屋に戻ったマリナさんは、大きな地図をテーブルに広げて、真剣な目で、色々と書き込んでいる。

町中の至るところにマークと数字を書き込まれてゆく。


「何かわかりましたか?」


この事件そのものには直接関係は無いが、全く気にしなくていい身でも無いので、情報を貰うために聞いてみた。

そんな質問に、マリナさんはかなり真剣な顔をしながら振り向いてきた。


「・・・そうね。一つわかっている事があるわ」


マリナさんは、顔だけでなく、身体ごと私に向けてきた。

シリアスな空気に、私も体を向けて固まる。


「・・・村に魔女の痕跡があったわ。・・・つまり、ここ数日の間に魔女がこの村に来ている事になるわ」

「っ!」


思わず半歩後ずさってしまう。


「・・・魔女の存在が確定した以上、あなたも今以上に注意を払ってもらう必要があるわ」

「・・・はい」


今まで、心の隅で、"実はバグ辺りが原因で、魔女なんか居なかった"という可能性はずっと考えていた。

それなら平和に終わる・・・


いや、犠牲者が出てる以上平和ではないけど、あんまり怖い思いとかはしないんじゃないかな・・・なんて事も考えていた。

けれど、そうでないと決まった以上、一番望む展開は消え失せてしまった。


「・・・ユイちゃんは魔法の勉強を色々してるみたいだけど、何か戦闘用の魔法を覚えておいた方が良いかもね」

「戦闘用ですか・・・」


・・・戦う用の魔法とか、あんまり好きじゃないけど、身の安全の為には仕方が無いのかな・・・

前にフウオウワシを薙ぎ払ったあれも、美味しかったとはいえ多少心が痛まない事も無い。

こう、バグはなんか生物感が無いし、敵意むき出しだからあんまりそんな気は無いけど。


「そうね。この先ずっと一緒に居るのも辛いでしょうし、自分の身は自分で守らないとね」



マリナさんはそう言って、地図に向き直りまた作業を始めた。

そんな時に悪いけど、言いたい事はまだある。


「・・・あ、その・・・今のとは関係ないんですけど、ひとつ聞きたいことがあるんです」

「何かしら?」

「今日、薬草屋に行った時、同じくらいの年齢の子が来て、友達になったんです」


一応、リズちゃんの事を聞いてみる事にした。


「あら、お友達?良かったじゃない。この世界でも友達が出来たのね」

「ええ、まぁ、それは良いんですけど・・・」


一応レーベンス君やら、レナールさんやらも友達と言えなくも無いけれど。


「でですね、その子は薬草を採取して暮らしてる子なんですけど、家に招待されたんです」

「家ね・・・」


マリナさんは難しい顔をして考え込んでいる。


「・・・何かマズかったりしますか・・・?」

「いえ、そんな事は無いわ。で、ユイちゃんはどうするの?行くの?」

「それで悩んでるんです。その子の家って、東の森にあるみたいで・・・」

「村の外なの?」

「・・・はい。それで一応マリナさんに聞いてみようかなって・・・」


ずっと立っているのも辛いので、マリナさんの背後のベッドに座って、マリナさんからの答えを待った。

少し経って、マリナさんが口を開く。


「・・・そうねぇ、少し危険かも知れないけど、ユイちゃんが行きたいなら止めないわ」

「え、いいんですか?」


てっきり、「森の外は危ないから出ちゃダメよ」とか言うかと・・・



「でも勿論無条件に、とはいかないわね」

「・・・」

「まず、そこで泊まらないこと。毎日ここに帰ってくる事。もし諸事情で帰れないのなら、絶対に寝ないこと」

「・・・わかりました」

「もし相手が魔女だった場合、寝首を掻かれる可能性があるわ」


やはりマリナさんは、リズちゃんも魔女である可能性を視野に入れているようだ。


「そして、何か怪しいと思ったらすぐ私に伝えること」

「怪しいとは?」

「必要以上に何かを勧めてくるとか、お出かけさせたがるとかね」

「・・・なるほど・・・あ、そうだ。その人が勧めてくれた物があるんですけど・・・」


と、リズちゃんに貰った高級化粧水を取り出した。

途端、マリナさんの顔が険しくなる。


「・・・使った?」

「いえ、まだです」

「ちょっと貸してくれるかしら?」

「はい」


それをマリナさんに手渡すと、マリナさんは一枚の紙を取り出した。そこには魔方陣が描かれている。

その真ん中に化粧水を置くと、すっと目を閉じて、その魔方陣に魔力を送り始めた。


「・・・・・・」


ほんの十数秒、マリナさんが目を開けて、こちらを向いてきた。


「・・・これには特に魔法の力は感じないわね。安全よ」


化粧水を受け取り、それをそのままポケットにしまった。


「・・・って事は、これは使ってもいいんですね?」

「そうね。その友達が魔女である危険性がゼロになった訳じゃないけど、物見の魔法も無いところを見ると、少なくとも狡猾なタイプじゃなさそうね」


「じゃあ、行っても良いんですね?」

「ユイちゃんが行きたいなら良いわよ?でも決して油断はしない事。命の危険には常に気を付けておくように・・・そうね、一応これを渡しておきましょうか」


そう言いながら何か紙を一枚取り出した。

前のと同じように魔方陣が描かれているようだ。


「これは毒見の魔方陣よ。この上に食べ物を置いて魔力を流し込むと、もしそれが魔力を注いだ本人が食べると良くない事になる物が入っていた場合、紫色に光るのよ」

「・・・それ私が使っても大丈夫ですか・・・?」


魔導具は例外なく暴走して、予想外の動作を引き起こしてしまう私だ。

きっとこれも変な事になる気がする。


「安全な食べ物なら何も起きない魔法だし、そのまま使えると思うわよ。もし毒だったら・・・どうかしらね・・・」


不安な事を言いだすマリナさん。


でも、貰った食べ物を食べて死んだら嫌だし・・・いや、嘔吐とか下痢程度でもいやだ。

とりあえずその紙切れに触れてみたが、何も乗ってないしいきなり爆発とかはしなかった。当然と言えば当然かな?


魔力を吸われている感覚も無いし、持ち歩く分には問題は無さそうだ。


・・・と思っていたけど、なんだか薄っすら紫色に光ってる気がする。


「・・・これ・・・なんか光ってません?・・・微妙に・・・」

「・・・そうね・・・何かしら・・・何も乗ってないのに」

「うーん・・・空気・・・とかですか?」

「どうかしら・・・」


空気だったらだったでそれは私が吸うと良くない事になるって意味でマズいんだけど・・・

空気・・・あ、もしかして・・・


「これ・・・ウィルスとかですかね?」

「ウィルス?何?それは」

「あれ、私の世界にしか無い単語なんですか・・・?」

「そうね。聞いたことないわね」

「そ、そうですか・・・」


・・・とはいえ、この世界にも"そういうもの"はあるのだろう。

地球では、日々大気中にウィルスが舞っていて、抗体で戦う日々を過ごしているらしいし、ここもきっとそんな感じなんだろう。


・・・でも、いざこうやって紫色に光られるとなんか嫌だなぁ・・・

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