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第6話:薬草の村・Ⅲ

「・・・うぅ」


病院の一室に呻き声が響く。


私の全身からは魔力が流れている感覚はあるし、彼の体は淡い青緑色の光に包まれている。


回復魔法は正常に機能している証拠。


しばらくすれば傷は完治し、普通に話せるようになるでしょう。




「う・・・あ・・・あれ・・・?」


彼の意識が戻って来たみたい。


「おはよう。ラエドさん」

「え、あ、はい・・・おはようございます・・・」


彼は何が起きたのかと不思議そうな顔をしながら身を起こそうとしている。


「あの・・・貴方は?」

「私はアウフタクト聖堂教会所属、マリナ・レイフィールと申します。先ほど、貴方の傷を治療致しました」


「え?・・・あ・・・ホントだ・・・」


自身の体をなで回したり捻ったりして、調子の確認をしている彼に、私は早速本題へ切り込んだ。


「この村で起きている失踪事件。知っていますね?」

「あぁ、知ってるも何も、俺はその、」

「私はこの事件を解決するためにここまで来ました。なので、言える範囲で構いません。貴方が知っていることを、教えていただけませんでしょうか?」


予め用意しておいた清潔な水を手渡しながら、村に来た目的、そして彼に会う理由を説明した。

長時間寝ていて、相当渇いていたのだろう。彼はコップに入ったそれを一気に飲み干し、喋り始めた。


「ああ、お安い御用です。私が力になれるならいくらでも」

「よろしくお願いします」

「・・・私は家具屋の二人が帰ってこない事を村長さんから聞かされて、その調査の為に来たの森に向かいました」

「その時のルートなどを教えて貰ってもよろしいでしょうか」


ベッドの横に置いてあるテーブルにローチェ村の周辺地図を広げ、ユイちゃんから借りた、マジックペン・・・?だったかしら?を取り出す。

原理はよくわからないけど、わざわざインクを使わなくても線が引ける優れものだ。

マジックの名を持つことを考えるに、あちらの世界の魔法的な技術なのかしら・・・


「わかりました。最初に入ったのは普通に北にある唯一のゲートからです。そこから伸びる古代樹に続く林道を進んでいました」

「道を外れたりは?」

「しませんでした」


地図に進行ルートを書き記していく。


「それで、見えない何かに襲われた、というのは本当でしょうか?」

「ええ、本当ですえっと・・・位置的にはこの辺りだったと・・・」


彼は地図の一部を指さしながら答える。

林道からは外れた位置ではない。


「なるほど・・・周囲にバグや野生動物の姿は?」

「いえ、見えませんでした・・・ただ、私は識属性は持ってないので、見落としがあった可能性はあります」

「そうですか・・・」


識属性は自身の知覚や周辺環境に干渉して、周囲の状況を探る事に適した属性。

直接戦闘に寄与することは少ないけれど、探し物の捜索や、隠れた敵の発見などに役に立つ。


そして一番の特徴として、幻属性の力と打ち消し合う特性を持ち、魔女が主に利用する幻惑系の魔法への対処に使える。


私も識属性は持っていないけど、教会からの貸与品である天の十字架がその役割を果たす。



そしてそれが無い場合、幻覚によって姿を隠した相手を視認できない可能性は十分にある。

今回のケースなら、何もない所、ではなく幻属性を使い隠れた敵が近くに居た、という事になる。



「識魔法が使えない分、周囲の動きを注意深く見ながら歩いていたんですが、すぐ真横でガサッと音がした瞬間背中に激痛が走って・・・あわてて辺りを見渡したんですが其れっぽい影は何処にも見当たらなくて、痛みを堪えながら必死に走って帰りました・・・」

「奇襲を受けたあとも姿は見られなかったのですね?」

「・・・はい。力になれず申し訳ありません」

「いえ、それも貴重な情報になります」


奇襲の後も姿を捉えられなかった・・・

本来幻覚の類いは一度認識されるとその効力を大きく失うもの。

その上で見つかっていないと言うことは、相当に用意周到に作戦を立てているか、もしくは幻惑の力が強いか・・・

なんにせよ立てた仮説のひとつ、力が衰えているという可能性は薄そうね。

優れた魔法使いでも直接触れて不可視を維持できる物はほぼいない。


「何か他に見かけた物などはありますか?」


彼は少し考えたあと、はっとした顔でポケットを漁りだした。


「あ、そうだ、私が襲われた所より少し手前に、こんな布片が引っ掛かってたんです」


彼がポケットから取り出したのは、薄いピンク色の布切れだった。

力任せに引き裂かれたような後がある。

しかし、赤黒い血痕のようなものはついているが、それ以外にはそこまで汚れてはおらず、比較的最近洗濯されたものに見える。


「これは・・・?」

「この辺りで木に引っ掛かってたものです。素材的にはこの村で一般的に衣服に使われてるものですね」


彼が襲われた地点より少し村に近い位置を指差しながら彼は言う。


色から推測するのは偏見かもしれないけど、恐らくは二人目の失踪者である、家具屋の奥さんのものね。


これでわかったことは、少なくとも二人は別々の場所で襲われた事になる。

そこから考えて、周囲の景観に溶け込みやすい食肉植物の類いでは無いことがわかる。


「こちらは一旦預かっても?」

「ええ。かまいませんよ」


遺留品から情報を探すのは調査の基本。

私はそこまでプロフェッショナルというわけではないけど、ある程度の情報は掴めるはず。

私はそれを清潔な布に包み、大切に保管する。


「・・・他には何か見つけましたか?」

「いえ、私が見たのはこれだけです」

「わかりました。ご協力、感謝します」


そうして私は病院を後にした。


・・・さて、あとは村を一通り見て回って痕跡を探しましょうか。

魔女が村に出てきてるなら、その魔力が残留しているはず。







--------------------------




「えーっと・・・化粧品だったね・・・」


リズちゃんは、店の奥の化粧水コーナーに陳列された商品をひとつずつ順番にじっくりと眺めている。


「ユイちゃんはこの保湿液とかどんくらい詳しい?」

「その・・・書いてある植物の名前とかも何一つわからなくて・・・」


せめてシソとか、ラベンダーとかならなぁ。

まぁ知ってる植物だったとしてもそれがどんな効果があるのかとか、インターネットに頼らないと分からないんだけども・・・


「じゃあ一個ずつ全部教えてあげるよ。人によっていい悪いがあるからこれだってオススメは無いんだよね」

「そうなんだ・・・」


やっぱそれはどこも一緒か・・・

リズちゃんは左端の者から順番に説明してくれた。


「まずこのエリデン草濃縮液はね、美肌効果はものすごいんどけどね、かなり臭いのが難点かなぁ、人前に出るのは無理だし、寝る前に使おうにも自分の鼻との戦いになるね」

「うーん・・・臭いのはちょっとなぁ・・・」

「だよね」


流石に自分の鼻との戦いになるなんて言われるようなものは使いたくない。


「逆にこのマナ・アタラ花抽出はいい香りがするよ。でも保湿性はそんなでもないから、ぶっちゃけ香水として使うものだね」

「じゃあこれだけだと化粧水としては不十分?」

「まだ君の肌はキレイだしこれでも十分じゃない?」

「えー?そうかなぁ」


お世辞でもキレイだって言われると嬉しいものがある。


「あとこれはね、効果もそこそこだし無味無臭。だけどすごいネバネバしてる」

「ネバネバは嫌だなぁ・・・」


それが嫌だからアウフタクトの奴じゃない奴を探しに来たんだし・・・


「じゃあこれはどうかな?」


彼女が取り出したのは少しピンク色をした液体が入っているビンだった。

ころころと振っているが、動きは滑らかで、粘ついてはいないようだ。


「これは私が使ってる奴で、肌に優しくて効果もある、ほんのりいい匂いがして肌持ちもいい!」

「最初からこれオススメしてくれれれば良くなかった?」

「お値段12000ゴルト」

「あー・・・そういう系か・・・」


他の何倍も高いのか・・・


「私は原材料を直接集めて作ってるから元手ゼロだけど、普通に買うとキツイよねぇ」

「高級品だね・・・」


厳しいなぁ・・・

私はあの香水もどきみたいな奴でいいかなぁ。


「でも今日はお近づきのしるしに一個プレゼントしちゃうよ」

「え、いいの?」


私初対面だよ?

見ず知らずの人にこんな高級品、いいの?


「いやねー、この村若い女の子少なくて友達少ないんだよー。だからこれあげるから友達になって?」


「私ここでやる事終わったら帰るよ?」


「じゃあそれまででもいいから!」


凄い必死にビンを抱えてすり寄ってくる。

ホントに友達居なさそうなマジトーンだ。

凄い断りにくい・・・


「わ、わかったから・・・これ貰うよ・・・だから友達になろ?ね?」


差し出してくるビンを受け取って、空いた手を握る。


「あー!ありがとう!今日からは楽しく過ごせそう!」


「あ、あはは・・・」


年齢的には近いかもしれないけど、この世界にやってきてまだ数か月程度なので、

この世界でしか通じない若者のノリとかには絶対付いていけないし、リズちゃんの希望通りのお友達にはなれないかもしれない。


でもできる限りは仲良くしていこうと思う。

マリナさんが調査をする期間も未定だし、娯楽の少なそうな村でずっとじっとしていられる期間もあまり長くないだろう。

魔女は勿論怖いけど、暇すぎるのもそれはそれで嫌だ。


そう思っていると店の奥から店員さんが戻って来た。


「鑑定できたぞ、67200ゴルトってとこだな」

「オッケー、あ、あとこれ買ってくから差し引いといて?」


リズちゃんは、さっきの化粧品を私の手から抜き取ると、カウンターに走っていって店員さんに見せつける。


「・・・それいくらだっけか」

「10000ゴルト」


あれ?12000じゃなかった?


「バーカ、2000ゴルトちょろまかそうとしてんじゃねーぞ、値段決めてんの誰だと思ってんだ」

「ちぇ、ジャイクなら忘れてると思ったのに・・・」


仲いい友達居ないって言ってたけど、店員さんと凄い仲良くない?

これ本当に同年代である事を重視した付き合いを求めてるのかも・・・

私へのプレッシャーが凄い。


私の世界の中高生のノリならわかるけど・・・通じるかなぁ・・・








無事買い物(私は一ゴルトも払ってないけど)を済ませた私は、空っぽのカゴを抱えたリズちゃんと一緒に店を出る。


薬草屋での滞在時間は大したことなく、太陽は高いままだ。今日はまだまだ時間はある。

とはいえ、私はこの村に来てまだ24時間経ってない。どんな施設があるのかもわからない。

っていうか、この村飲食店にあたる店ってあるの?


何にもわからないので、知っている人に聞くしかない。

つまり私の真後ろにいるリズちゃんだ。



これから何するの?

そう聞こうと思い振り返った瞬間、逆にあちらから話しかけられる。


「そういえばユイちゃんなんでダイコンなんかポケットに入れてるの?」


あっ、忘れてた。

薬草屋に来る前に貰ったダイコンは、手に持っておくのも邪魔だし、ポケットの大きさに任せて詰め込んでおいたのだ。

はっきり言って半分程度しか入ってなくて、葉っぱは思いっきり見えてるし、重くて重心が少し後ろに持っていかれる。


「あー、これはね、なんかここに来るときにおばあさんに貰った」


そうとしか言いようが無い。

話しかけられて、駄弁ってたら貰った。ホントにこれだけだ。


「あー、あれかな。レイヤおばさんかな?」

「レイヤおばさん?」

「うん。旅人に会うたびに色々話して作ってる野菜とかをあげていくの」

「そんな人いるんだ・・・」


ちょっと愉快なおばさんはどの世界にも居るんだなぁ・・・


「最近この村にやって来た人で、なんでも孫が大人になって旅に出ちゃったから、一人のどかな村でのんびり過ごしたいってここに移り住んだらしいよ?」

「へぇー」


第二の人生ってやつだろうか。

私の世界でも話題になっていたような気もする。


「それで今はゆっくり野菜とか花とか育ててるよ」


じゃあ私が特別目を付けられたとかそういう感じではないのかな。

ちょっと安心。



「ちょっと話は変わるんだけ「あ、そうだ、今から私の家に行こうよ!」

「い、家?」


これから何をするのか聞こうと思ったら、それに被せるように答えを言われた。

リズちゃんの家に?


「私の家は村を出て東の森をちょっと行った先にあるよ」

「あ、ま、待って、村を出るなら・・・えっと・・・一緒に来た人の許可を貰わないと」


マリナさんに、村から勝手に出るなと強く言われてる。

北の森は何があっても行くなって言われたし、そこ以外でも似たようなものだ。

それに、魔女の危険がるとなっては私も怖い。全力で抵抗すれば勝てるらしいけど、やっぱり前例が無いと怖いことには変わりはない。


「いつ聞けそう?」

「多分昼の内は無理かも・・・」

「そっか、じゃあ明日にしようか。明日の朝、薬草屋の前で待ってるね」

「わ、わかった・・・」


リズちゃんはかなり聞き分けが良かった。

コミュニケーションはグイグイくるからかなりしつこいかと思ってたけど、そうではなかったようだ。


「じゃあ、また明日ね!」


そう言ってリズちゃんは小走りで走り去っていった。



・・・


にしても、


・・・村の外かぁ・・・


でも高い化粧品貰ったし・・・恩を返さない訳にもいかないしなー・・・


宿屋に帰ってマリナさんを待って、一応話してみようかな・・・

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