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第6話:薬草の村・Ⅱ


「・・・・・・」




『コケコッコーッッッ!!!』




「っ!・・・あっ!・・・・?」


けたたましい鶏の鳴き声に飛び起きる。


ぼんやりする頭は身を起こして暫くしていると段々と晴れ渡って行く。



体を少し動かすだけでもベッドがギシギシと軋む。

あぁ、ここはローチェ村の宿屋か。思い出した。


起きてしまったからには仕方ないと

掛け布団を退けると訪れる、布団のせいで放出できずに蓄積された魔力が逃げ出していくような感覚も、今では慣れたものだ。

布の厚いパジャマではなく薄いスケスケのキャミならば、熱が籠りすぎる事もない。



しかし、いきなり昨日まではうってかわって底冷えするような寒さが全身を襲う。


「寒っ」


反射的に布団を身に纏いながら窓の外を見てみると、外は一面濃い霧に覆われていて外の様子を伺う事は出来なかった。


え・・・?何これ・・・?



「ん?あら、ユイちゃんも起きてたのね」


後ろからマリナさんの声がする。


「あ、おはようございます」


布団にくるまったまま振り向くと、マリナさんは起きてすぐに朝の支度を整え始めている。

いつもの修道服を持ち出して、着替え始めた。


早いなぁ・・・私なんてまだ布団から脱出できてないのに・・・

とはいえ、誰かが行動を始めると、なんか自分もやらなくちゃ、的な思考が働き、私もすんなりと着替えに移行することが出来た。


けど、部屋の寒さは相変わらずで、結局着替えてもお腹も背中も全開な私の服では布団無しではそこそこキツい。


「マリナさん・・・なんか寒いんですけど・・・」

「朝霧のせいね。もう暫くしたら霧が晴れて暖かくなるわよ」

「そうですか・・・じゃあ暖かくなるまで布団に潜ってて良いですか?朝食の時も・・・」

「うーん・・・本当はやめてほしいけど、まぁ、しょうがないわね」


なんとなくわかってた事だけど、魔力放出を促すために露出部位を増やさなければいけない私の服では、防寒対策が全く出来ない。

今はいいけど、冬になったらどうしよう?

仮に衣服をモコモコにしたって、お腹丸出しでは冷えて仕方ないし・・・



逆に露出を減らして蓄積する魔力の熱で暖を取る・・・?

いや、そんな事したら多分私の体が持たない。


まぁ後半年あるし平和なときに考えておけばいいか。



朝食はパンとスクランブルエッグと紅茶だった。

なんか慎ましいヨーロッパの朝食って感じ。



朝食を食べているうちに朝霧は消えていて、少しずつ過ごしやすい気温になってきた。

そうなればもう布団に潜る必要はないので、布団を片付けて外出の準備をする。

ポケットに財布と護身用の銃を入れるだけだけど。


マリナさんも色々と準備をしている。

魔法的なやつっぽいので私には何をしてるのかさっぱりわからないけどね。



「あの、マリナさん」

「何?」

「私、薬草屋に行きますけど何か注意しておいた方が良いこととかあります?」


外出前の親子みたいな会話


「そうね。まずは、絶対に一人で北の森には近寄らない事。何があってもね」

「はい」

「後は、私達が魔女狩りに来たこととかを、他の人に喋らない事」

「言っちゃダメなんですか?」

「ええ、まだ魔女が何処に潜んでるかわからないからね。ユイちゃんが魔女を探していることが魔女に知れると狙われるかもしれないでしょう?」

「わ、わかりました。黙ってます」


狙われる、とか、そんな事言われると急に怖くなる。

さらに、追い討ちをかけるようにマリナさんは畳み掛ける。


「あと、もし何かに襲われたら全力で抵抗して逃げなさい。周りの被害とか気にしちゃダメよ。ユイちゃんの本気ならきっと撃退出来るはずだから諦めないでね」


「・・・わかりました」


襲われたら、なんて事を言われてしまうと、嫌でもそのときの想定をしてしまう。

何もないところから襲われた、なんて話しもされたし、相手の正体は依然として掴めていない。


私の全力・・・

まだ私は本気の本気で魔法を使ったことはないけど、くしゃみで家の壁を破壊出来るような私だし、木造の家くらいなら吹き飛ばせるのかもしれない。









霧が晴れ、暖かくなった村の朝は、昨日までの人気のなさが嘘のように人がいる。

勿論アウフタクトとは比べ物にならないくらいには少ないけど、昨日の家屋の明かり以外に人の気配を感じない光景に比べれば、どこを見ても最低一人は居るし、大違いだ。


薬草屋はここから少し東にあるとマリナさんに聞いたし、早速向かおうと歩き出した。




暫く歩いていると、向かいからやって来た、農業でもやってそうな格好のおばあさんに話しかけられた。


「あら、見ない子ね。旅の人?」

「え、あ、はい。そんな感じです。アウフタクトから来ました」



おばあさんは私と同じくらいの背丈だ。

元の世界のおばあさんもこのくらいだし、そこら辺は変わらない。


「それにしてもまだ若いのに大胆な格好ねぇ。町ではそういうの流行ってるのかねぇ」

「えっ!?」


待って、こういうの馴染みない地域もあるの!!

アウフタクトのほうだとこの格好でも別に変な目で見てくる人とか居ないから別にいっか。

的な感じで居られたのにここは違うの?


「あ、いや、えっと・・・これ、私の体質というか・・・体内に魔力が溜まりすぎるからこうやって肌を晒して定期的に出していかないとダメというか・・・」


弁解というか説明というか、とにかく、この衣装は好きで着ている訳では無いことをアピールする。


「はぇー、あんたさんも大変だねぇ・・・じゃあこれをあげるよ」


おばあさんはそう言いながら、背中に背負ってたカゴから大根のような根菜を差し出して来た。


けど、大根っぽいからってそうと決まった訳では・・・



「ほら。ダイコンだよ」



大根だった。







---------------------------







「・・・いらっしゃい・・・」


薬草屋のあからさまに葉っぱの看板がある店のドアを開けると、落ち着いた・・・というか、暗い感じの声で迎え入れられる。


店内は落ち着いた雰囲気で、八百屋のように沢山の草や花が木箱に入って陳列されている。

大量の薬草で、店内はかなり臭い。


「あのぅ・・・化粧品ってどこに置いてます・・・?」


カウンターの向こうでのんびりと本を読んでいる男の人に聞いてみる。

その人は私の質問に気が付いて本から顔を上げる。

少し髭の浮いた顔つきのその人は、多分20代中盤位だろうか。眠たそうな顔をしている。


「化粧品?ああ、そっちの方にあるよ」


顔は上げたが、あまり私の方は見ず、店の右奥の方を顎で指した。

・・・店員としてのやる気みたいなのがあまり感じられない。

まぁ、場所は教えてくれたので別にいいけど。



その人が指した方向へと向かってみると、確かにそこの棚には、液体が入った小瓶が沢山並べられている。

私はそれを一つひとつ眺めた。


エリデン草濃縮液、2700ゴルト・・・


マナ・アタラ花抽出、3200ゴルト・・・



あ、ダメだ、私が見てもわからない奴だコレ。

せめて入ってる成分だけでも書いておいてくれればいいのに・・・


店員さんに聞けばわかるかなぁ、とそんな思いを巡らせていたら、


ガランガラン、


と店のドアに付けられたベルが音を立てる。



「おはよー!ジェイク!今日も薬草持ってきたよ!」



威勢の良い元気な女の子の声が店の入り口の方から聞こえる。

誰か来たみたい。


私は化粧品を眺めながら入って来た人たちの様子も伺う。



「あー、リズか。ちょっと待ってくれ、今お客が一人来てるんだ」

「あ、そうなの?わかった。ちょっと待ってる」


私の事じゃん!

私が原因で何かを待たせているようなので、奥からゆっくりと出て謝っておく。



「あ、私まだ決まって無いので何かするのなら先にやってていいですよ?」


カウンターの方には、小さな女の子が居た。

大体中学生位の背丈で、薄紫色の髪の毛をしている。


この世界の人は皆髪色が様々で、黒か茶色か、みたいな日本出身の私には違和感が凄い。


そんな彼女は、ポンチョにミニスカートとブーツみたいな、森ガール的なファッションと、これまた大きな篭が目立つ。

なかには大量の草が入っているようだ。

彼女は、私を見るなり不思議そうな顔をする。


「うん?あれ、こんな人居たっけ?」

「いや知らん。多分旅人だろ?」


「あ、はい。そうです。アウフタクトから来ました」


反射的に自己紹介をしてしまう。

それでもマリナさんの言い付け通り、魔女狩り云々は黙っている。


「へぇ。旅人かぁ。何を買いに来たの?私も薬草には詳しいよ?」


その子は私に興味でももったのか、どんどん近寄ってくる。


「え、あぁ、いや・・・化粧品でも無いかなぁ・・・って・・・」


正直私はこうやってグイグイくるタイプが苦手だ。


「化粧品?なるほどぉ、どんなのが目当てなのかな?」


が、私の願いは届かずごりごりのコミュニケーション地獄に引き込まれてしまった。


「えっと・・・まだ植物由来のやつって事しか決めてなくて・・・」

「ここの化粧品は全部薬草から作られてるよ」

「ですよね・・・」


説明を見ても何言ってるのかわからなかったけど、少なくとも薬草や花を濃縮や抽出しているのはわかった。


「じゃあ私が一緒に見てあげよっか」

「え?なんか悪いですよ・・・」

「いーのいーの、暇だし。それにそこの美容に興味ない男よりよっぽど知識あるよ?」


彼女はカウンターでのんびりしている店員さんを指して言う。


「あ、そうだジェイク。私が見てる間に鑑定やっといて?」

「ハイハイ」


そういいながらジェイクと呼ばれた店員さんは、彼女が持ってきた篭を持って店の奥に入っていってしまった。

それを見届けた彼女が私の方へ向き直る。


「じゃあ改めて、私はリズだよ。東の森で薬草の採取をして暮らしてるんだ。よろしくね」


そういって彼女は握手を求めてきたので、私も自己紹介をしながら握手を返す。


「ユイです。アウフタクトに住んでます」


「ユイちゃんね。よろしくっ!」












アウフタクト聖堂教会の名に懸けて、この仕事は失敗出来ない。


既に三人の被害者が出ている以上、隠し通すことは出来ないし、小さな村で疑心暗鬼に陥れば、破滅は免れない。



けど、今回の魔女騒動。

少し様子が違う。


その正体を探るため、まずは、現状被害者唯一の生還者の元へ向かった。



「失礼するわ」


ローチェ村唯一の病院。その一室に入った私の前に現れたのは、


「・・・うぅ」


力無く呻くひとりの青年だった。

質素なベッドに横たえられ、じっとしている。


「・・・貴方がラエドね」


その青年の名前を呼ぶと、彼も小さく頷く。


様態はまだ回復してはいないみたい。

ここからでは傷口は見えないけど、事件発生の期間から逆算すると、相当に酷い傷だったか、もしくは呪いの類いが付与されているか。


私の見立てでは前者。

呪いならば、ロイエンタール村長がそう説明しているはず。

オルケス王国立法により、公的に登録された町村には、呪いを含む病症の知識が有るものを在中させることが義務付けられているもの。




「安心して頂戴。今楽にしてあげるわ」


既に医者から許可は出ている。ならばこの力を万全に使える。


「ここに癒しの力を・・・心身全てを真から癒す天使の羽よ・・・」


高貴な家の出身でもなく、名のある勇士と関係があるわけでもなく、大きな戦果をあげた訳でもない、只の一介のシスターである私が、アウフタクトという主要貿易都市の教会の管理を任されるまでに至る理由の一つ。





「彼の者に大いなる祝福よ、我が魔力にて与えたまえ」






"回復魔法"


それは木属性の生命と成長の特性を用い傷を癒す術。


それだけでは比較的ありふれたものではあるが、それだけでは真に傷を癒しきる事は出来ず、精々応急処置的な扱いでしかない。



元来魔力というものは人それぞれ個性があり、他人に流し込んでもうまく馴染んではくれないのだ。

その為、体の真まで癒すには、木属性に加え、水属性の浸食の力が必要となる。

さらに、人類の根源たる魂にまで効力を及ばせるとなると、そこに霊属性を加えなくてはならない。


魔力系統、陽系4種、陰系1種を持つ人間という種において、その3つを兼ね備えた人間は非常に珍しい。




そして、その3つを保有する者の一人がマリナ・レイフィール。



・・・つまり、私なのだ。





そしてそれこそがユイちゃんをここまで連れてきた理由。

カレンも木属性は持ってるから簡単な治療は出来るけど、膨大な魔力を持つユイちゃん相手だと、水属性の補助無しでは押し負けて弾かれてしまうから、

危険を承知で私の元に置いておく必要があった。


普通に生活しているだけでも、その"もしも"の危険性のあるあの子は、実の娘ではないけど、保護する責任と覚悟には近いものがあるから・・・

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