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第6話:薬草の村・Ⅰ

「さ、ここがローチェ村よ」


森の中の道を進んだ先にあったのは、小さな村だった。

ここが私達の目的地。


森の一部を切り開いたように全方位を森で囲まれた小さな場所だ。


地面は踏み固められた土のようになっていて、街道の石畳と比べると校庭のグラウンドのに近く馴染みある感じ。


点々と建つ家々も、その間に柵らしきものは見当たらず、どこからがどちらの領地なのかはよく分からない。


「・・・なんか、寂れてますね」


私は須直な感想を口にする。

実際、家の数も密度もあまり多くなく、人影も疎ら。

アウフタクトとは比べものにならない程に過疎っている。


「まぁ、辺境の村なんてこんなものよ?」


横を歩くマリナさん曰く、田舎はこんなもんらしい。

都会育ち、というかそれ以前の記憶が無い私にはキャンプ場にしか見えない。






とりあえず私達は村長さんの家へと向かった。お仕事の為にも、宿の為にも、まずは村長さんに会う必要があるらしい。


村の中心に、一際大きな家がある。

入り口には警備の人みたいな人も居て、そこが重要な施設だと言うことは一目で分かった。

そこに私達は赴いた。

入り口に近寄ると、それに気がついたら警備員さんが話しかけてきた。


「・・・ん、あなた達は?」


「聖堂教会アウフタクト支部から参りました、マリナ・レイフィールと申します。アウフタクトギルドに依頼を送ったのはこちらの村でよろしかったでしょうか?」


それにはマリナさんが応対する。

私は只の付き添いだしね。


「おお、お待ちしておりました。中へご案内いたします」


警備員さんはすんなりと通してくれた。





日が落ちかけてて暗かった外とは裏腹に、室内はオレンジ気味の暖かい光で照らされていて穏やかな気持ちになる。

そんな村長さんの家の家具は、装飾も凝っていて、元々はかなりの高級品だったのかもしれないけど、クッションが色褪せていたり、金具に所々錆がみえたりしている。


応接室のような部屋に案内された私たちは、特に何もすることなくソファに座って待っていた。

下手に色々触るわけにはいかないし、マリナさんもそうしていたから。


暫くすると、ドアがコンコンと二回ノックされ、灰色のスーツの様な服を着た、少し太ったオジサンが入ってきた。


「ああ、申し訳ない。お待たせしてしまったようで・・・」


なんか口の中で声が三割消えてるような嗄れた声のオジサンは、そのまま応接室の私達が座ったソファとは反対側に座った。

あちらのソファの方が若干ふんわりしてるみたい。

もしくは、オジサンの体重が私の想像より重いか。


「いえ、問題ありません。あなたがこのローチェ村の村長様でございますか?」

「いかにも。私が村長を務めておりますオーランド・マドリシア・ロイエンタールと申します。以後ロイエンタールとお呼びください」


日常生活であまり横文字の名前に触れてこなかった私には少々キツい名前だ。

その・・・ロイエンタール村長・・・でいいのかな?



「わかりました。ロイエンタール村長。では早速本題に入りましょう」

「魔女騒動の件ですね」

「ええ」


色々世間知らずな私でもわかる。

空気感が変わった。

本当に私ここに居てもいいのかな?という強い場違い感を感じる。


「とりあえず、事の発端から今日に至るまでの経緯を教えて下さい」

「わかりました・・・始まりは二週間前の事です。一人目は、とある家具屋の男性でした。その日、家具の材料となる木材を取りに北の森に行った彼は、二度と帰ってくることは無かったと、その奥さんから聞きました」

「成る程・・・」


本当に失踪事件が起きてるんだ・・・

具体的な話を目の前で聞かされて、少し怖くなった。

自然と握る拳に力が入る。


「そして二人目はその話をしてくれた奥さんです。彼を追い森に入った後、帰っては来ませんでした」

「・・・」

「そして三人目の被害者は、村の衛兵をしていた男性です。二人を探して森に入った後、大怪我をして帰ってきました。彼は、"何もない所から襲われた"と証言しています」


「何もない所から?」


「はい。彼曰く、辺りには動物の気配も無かった。奇襲を受けた後辺りを見渡したが、それらしきものも見当たらず、急いで帰って来たとの事。彼は村一番の手練れ故、彼がこうもやられては我々では対処出来ないと思い、依頼を出したまでです」


「そうですか・・・三人も・・・」


マリナさんも、村長さんも、私も、皆暗い顔をして俯いている。

一人は大怪我はしたものの一命はとりとめているらしいからいいけど、家具屋の夫婦は・・・


今まで人の、死とか消息不明、といったものはニュースの中でしか見聞きしてこなかった私にとっては、ショックが大きい。


「もう一つ確認しておきたいのですが、被害は皆北の森でのみ発生しているんですよね?東や西の森林部ではどうなっていますか?」


不安で何も言えなくなる私とは裏腹に、マリナさんはきちんと情報を聞き出して、メモしている。

きっと慣れてるんだろうなぁ。


「西や東には以前から住人も居ますが、彼らが被害に遭ったという話は聞きませんね。昨日も普通に村に買い物に来ましたしね」

「そうですか・・・つまり被害は北の森でしか発生していないと?」

「はい」

「わかりました。ご協力ありがとうございます。今日はもう遅いですし、調査は明日以降にしようとは思いますが・・・」

「それならば、宿屋の方にはもう話を通してありますから、依頼書を見せれば無料で泊めてくれるでしょう」

「ありがとうございます・・・さ、ユイちゃん、行くわよ」



「え?あ、は、はいっ」


あれこれと被害者の事を考えていたら、話が終わっていたらしく、マリナさんが立ち上がっている。

私も慌てて立ち上がり、部屋を出ていこうとするマリナさんに付いていく。


「魔女騒動、力の限り協力いたしましょう」


部屋を出る時に、マリナさんがそういいながら一礼をして部屋を出ていくので、私も振り替えって村長さんに一礼をしておいた。








村長さんの言うとおり、宿屋では依頼の手紙を見せるだけで何の手続きもなく部屋へと案内してくれた。


その部屋は、ベッドが二つある木造の質素な部屋で、教会で私が泊めて貰っている部屋に似ていた。


「あぁー・・・疲れたぁ・・・」


休める場所に付いた途端に、私はベッドに座り込んで、アームカバーとケープとブーツとソックスを脱いで、過ごしやすい格好になる。

露出がだいぶ増えるけど、どうせこの部屋にいるのはマリナさんしか居ないし。


それにしても疲れた。

長距離移動は慣れていないので、足がパンパンだ。

軽くぐにぐにと揉むだけで疲れ成分が足を暴れまわる感じがする。


「大丈夫?」

「多分しばらくこうやってれば治ると思います」


マリナさんも、持ってきた荷物を机の上に広げながら私を心配してくれてる。

マリナさんの方が荷物いっぱいで大変だったハズなのに。


「マリナさんは大丈夫なんですか?」

「ええ、こうみえてもそこそこ鍛えてるのよ?」


と修道服を捲って腕を見せてくれるけど、あまり筋肉は見受けられない。

マリナさんとは何回もお風呂に入ったことはあるけど、別に腹筋が凄いとかも特に無いし・・・


それでも、ずっしりとした袋と、大きな十字架を担いでここまで余裕で来ているんだし、案外パワフルなのかもしれない。







引き続き足のマッサージを続けていると、マリナさんは部屋のテーブルに大きな紙を広げて、何か作業をし始めた。


気になってマッサージを中断して、そのテーブルを回り込んで中身を見てみた。

マリナさんはそれに何かを書き込んでいるようだ。


"被害状況:三名"

"家具屋の男性、木材伐採中に北の森で行方不明"


村長さんから聞いた話をまとめていた。

でも一応聞いてみよう。


「何してるんですか?」

「情報を整理してるのよ危険で難しい案件だからね」

「ふーん。何か分かったこととかあります?」

「そうね・・・今のうちにユイちゃんと情報を共有しておいた方が良さそうね」


マリナさんはペン先をインクの瓶に浸け直しながら話す。

こんなペンとインク初めて見た。


「まず、失踪事件が起きているのは北の森だけだという事、とはいえ、外で起きない保証もないからあまり村の外には出ない方がいいかもね」

「はい」

「絶対に北の森には入らないでね?」

「・・・わかってます」


興味本位でそんな危ないところ近寄るタイプじゃないし。


すると、マリナさんが色々まとめながら難しい顔をしている。

「・・・それにしても妙ね・・・」

「何かあるんですか?」

「被害者三人、皆森に入る動機があるのよね・・・」

「動機があっちゃおかしいんですか?」


動機が無くておかしい、ならわかるんだけど・・・


「魔女は幻覚や幻惑で人を惑わして、人気のないところに誘い込んで襲うのよ。だから基本的には失踪する人物はその直前に不自然な行動が見受けられるケースが多いの。でも・・・」

「今回は行動が理にかなってるって事ですか?」

「そう。一人目は木材の採集、二人目はその奥さんで探しに行ったのが原因、三人目はそれをおかしく思った村の衛兵。皆因果関係があって流れが一貫してる・・・」

「つまり・・・どういうことですか・・・?」


「まだ断言はできないけど、いくつか仮説は立てられるわ。一つは、魔女が原因でない事。バグか何かが原因で失踪してしまっている可能性。もう一つは、魔女が幻覚を起こせないほどに弱ってしまっている可能性。最後に、魔女がアリバイを作れるくらい策士な事、最後のケースが一番まずいわね」


「なるほど・・・」


「ま、まだ可能性の段階だし、明日以降本格的な調査をしないと分からないけどね」


そう言いながらスラスラと紙に情報や、さっきの仮説を書き連ねていく。


すると、コンコン、とドアがノックされる。


「御夕飯をお持ちしました」

「はい」


え、ちょっと!?人入ってくんの!?

部屋着というか、下着に近い格好な私はあわててケープを羽織る。


「本日の夕飯は、モト鶏の薬草焼きです」


出された料理は、麦ごはんみたいな奴と、何かの汁物、そして、大きな鶏肉に、何かシソみたいなシワの多い草が挟まれた焼き料理が出てきた。

モト鶏っていうのはよくわからないけど、薬草焼きっていうのは香草焼き的な物かな?



「とりあえず、先に食べちゃいましょうか」

「はい」


情報の整理を中止し、先に夕食にすることにした。


香草焼き・・・じゃなかった、薬草焼きは、肉の生臭さも、薬草の薬臭さもちょうど打ち消されて、肉の旨みと薬草の爽やかさがいい感じにマッチして、とても美味しい。



「マリナさんは明日は何をするんですか?」


夕飯は誰かと雑談しながらする方が楽しい。

とは言っても、人が失踪してる村でその事件を解決しようとしてる最中なんだけど。


「そうね、まずは三人目の被害者の人に話を聞いてから、村全体を回って聞き込みかしらね・・・」

「へぇ・・・その時、私は何かやっておいた方が良いでしょうか・・・」

「うーん・・・魔法も、魔女関連も素人のユイちゃんに協力してもらっても危険が増すだけだし・・・」

「そうですよね・・・」


実際、何を聞けばいいのかもよくわかってないし。


「まぁ、村の外に出たりしなければ自由にしていていいと思うわ。ユイちゃん化粧品が欲しいとか言ってなかった?」

「あ、はい言ってました」


植物由来のね。

その、スライムから採れるやつとかじゃないやつ。


「だったら明日薬草屋に行ってみたら?何かあるかもしれないわよ?」

「そうですね。寄ってみます」


明日はそこに行ってみよう。

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