第5話:新たな旅立ち・Ⅱ
「ユイちゃんも一緒に行くわよ?」
「え・・・・・・えぇ!?」
さっき危険だなんだって言ってたのに!?
私も行くの!?
「正直な所ユイちゃんはまだまだ危ういところが多いし、正直カレンには面倒は見られないのよ」
「すまないね」
カレンさんは手を合わせて謝罪をしてくる。
「どういうことですか?」
「カレンは回復魔法が使えないから、万が一の事があった際のケアはあまり得意じゃ無いの」
「ああ、まだ私は君の体質の事をあまり理解できていないしマリナさんの傍にいた方がきっと安全だろう」
「でも・・・そのお仕事って危険なんじゃないですか・・・?まだ私身を守るすべとかあんまり・・・」
それに私は教会に住んではいるけど、そういう事は全然専門外だし・・・
その疑問にはマリナさんが答えた。
「別にずっと危険な訳じゃ無いわよ。直接戦う時以外は全然危なくないから、宿屋にでもいれば大丈夫なはずよ」
「そうですか・・・それならまぁ・・・」
話を聞いて危なそうだったら宿屋に引きこもっていよう・・・
「でもアウフタクトと違って村は退魔石が少なくてバグの襲撃もあるから、護身用の魔法くらいは教えなきゃね」
「うえ・・・」
やっぱり危ないじゃん!
急を要する案件ということで、アウフタクトを出るのは明後日という急なスケジュールになってしまった。
私はそれまでに護身用の魔法を習得するはめになった。
魔法そのものは割とあっさり使えるようになった私だけど、安定して一般的な出力で魔法を出すにはまだ集中力が必要で、急に襲われたら、焦って呪文とか噛む自信があるし、もし使えても出力の調整をミスって辺り一面吹き飛ばしてしまうかもしれない。
それでは問題大有りなので、そこが課題になる。
なので、私はギルドの人達に話を聞く事にした。
魔法の扱いは、マリナさんよりも本職の人の方が上手いだろうと思うから。
少し前まで、マリナさんと一緒じゃないと外に出たくなかった私も、今では一人でギルドに行けるようになった。
少しずつこの世界に順応しつつある私。
休日とか平日とかあるのか分からないけど、今日もギルドは人がいっぱい。
ギルドにはもう何回かきているので、ある程度知り合いも出来た。
例えば、
「ん、ユイじゃねぇか」
話しかけてきたのはカイン・レーベンス君。
以前フウオウワシ撃退の際出会って、自警団に誘ってきた。
レイフィール名義だけど、マリナさんと被るから名前の方で呼ばれてる。
一応リクエ、っていう苗字・・・ミドルネームがあるんだけど、誰も使ってくれない。
「あ、レーベンス君。こんにちは」
「今日は何の用で来たんだい?討伐依頼なら一緒に行こうぜ!」
レーベンス君は腰に下げた剣を揺らしながら迫ってくる。
知り合いとは言えど、ギルドで何回か話した程度で、一緒にお仕事とかしたことは無い。
「いやだから私戦いとかはあんまり得意じゃなくて・・・」
「ちょっとくらいならカバーできるぞ?」
引き下がる気は無いようだ。
未だに自警団に誘うのを止めて無いし、私の魔力、相当欲しいんだろうなぁ・・・
あ、もしかして・・・
「あの、仕事のお手伝いは出来ないんだけど、ちょっと聞きたいことがあるの」
「ん?」
「レーベンス君ってさ、魔法、得意?」
「魔法?それはユイの方が得意なんじゃないか?」
「ううん。私、魔力が強いだけで魔法の知識とかは初心者だよ・・・?だから、ちょっと知りたいことがあったんだけど・・・」
要領を得ない私の説明に、レーベンス君は少し考え込んでから、顔を上げた。
「魔法の事ならレナールの方が詳しいな。おーい、レナール!」
レーベンス君が誰かを呼ぶと、奥の座席の方からメガネをかけた少女が一人こちらへ向ってきた。
彼女は黒いゴシック調のドレスを着ていたが、よくみると所々メッシュ状になっていて、地肌がうっすら透けて見える。
「・・・何?」
少女は少しぶっきらぼうな態度で聞いてくる。
「ほら、前に凄い才能の奴を見つけたって言ってただろ?それがこいつさ」
とレーベンス君が私をさして行ってくる。
それに対して、レナールと呼ばれた少女は、
「ふぅん」
とそれだけ。興味なさげだ。
「この子がレナール・エルドレッド。自警団一の魔法使いさ」
レーベンス君の紹介にも、あまりリアクションが無い。
「なんか魔法について知りたいことがあるんだってよ」
「へぇ・・・何?」
「こう・・・魔法の初心者でも咄嗟に出来そうな魔法の制御方法とか無いかな・・・って・・・」
滅茶苦茶都合がいい事言ってるのは分かってるけど、二日程度で習得するにはそれくらいしか・・・
「・・・初心者?」
レナールと呼ばれる子は、じろりとこちらを睨みながら聞く。
「うん。魔法は習い始めてまだ一か月くらいで、まだ全然うまく扱えなくて・・・」
今朝もクシャミで教会の壁を吹っ飛ばしたしね。
「へぇ・・・初心者・・・初心者ねぇ・・・ふふっ」
「あ、あのー・・・」
何か様子がおかしいような・・・?
そう思ったとたん、少女のテンションが急変する。
「いいわ!教えてあげる!魔法の一から、えーっと・・・六くらいまで!その代わり、私の事はレナール先輩って呼びなさい?」
「は・・・はい、レナール先輩」
それくらいなら全然いいけど・・・実際私魔法に関してはド素人だし・・・
「あっ!いい・・・先輩・・・へへへ・・・」
おかしい。明らかに様子がおかしい。
「レナールは自警団の中で最年少で、かつ新参だったのがコンプレックスだったからなぁ・・・後輩ができてテンションがおかしくなってるんだ。付き合ってやってくれ」
「ちょっとカイン!それ言うなって何度も言ってるでしょ!?」
・・・
「こほん・・・とにかく、魔法についてよね。ここでぶっぱなすわけにもいかないし、開けた場所に行きましょう。後輩?」
「はいっ、先輩!」
「・・・はぁぁぁぁ・・・」
毎回恍惚の表情をするから締まらないなぁ・・・
とりあえず町はずれ。
私がこの世界にやって来た丘がある場所にやって来た三人。
「なんでカインが居るのよ」
「いいだろ?未来の自警団なんだから」
「だからまだ入るって決まった訳じゃ・・・」
なんかこの世界の人って、強引な人が多いかもしれない。
「で、知りたいことは、簡単な魔法制御法だっけ?なんで知りたいの?」
「えっと・・・明後日ローチェ村に行くことになって、それで護身用の魔法を習得しておきたくて・・・」
「護身用?だったら魔導具でも持ってけばいいじゃない」
レナール先輩がひょいっと何かを投げ渡してくる。
「うわっ!」
私はそれを必死に身をくねらせて躱した。
それは、片方に穴が開いたパイプのようなものだ。
「ちょっと!なんで避けるの!?」
「私感応器が暴走してて、魔導具は使いこなせないって言うか・・・フルパワーで出過ぎるって言うか・・・」
「・・・なにそれ」
先輩は落ちた魔導具を拾い上げ、空に向けて構えた。
すると穴から小さな火の玉が打ち出され、しばらく飛んだ後空中で燃え尽きた。
そして、次は私とでも言うようにそれを向けてくる。
私は魔導具に触れないように先輩の腕ごと穴を空中に向けて、おそるおそるパイプに触れてみた。
ドォォンッ!
明らかにさっきのとは大きさも音も段違いな巨大な火球が発射され、空の彼方へと飛んでいき、消えていった。
「「「・・・・・・」」」
その行く末を何も言わず見つめる三人。
「・・・ほら・・・触っただけでこうなるの・・・」
「・・・才能っていうか・・・なんていうか・・・"異常"よね」
「はぁー・・・困った・・・」
「どうしましょう・・・先輩・・・」
話題は振り出しに戻った。
その後前やったようなただ水を出すだけの魔法を披露して、その水量にドン引きされたりした。
「通常の魔導具や初級魔法じゃ強すぎて使えないとなると・・・そうねー・・・弱すぎる魔法を作る必要があるわね・・・例えば、これ、持ってみて?」
先輩がライターような物を渡してくる。
それを慎重に持ってみた。
「熱っ!」
機能はそのままライターだったのだろうけど、出てきたのはキャンプファイヤー。
腕を伸ばしてなければ前髪が全部持っていかれてしまう所だった。
燃え盛る炎に翻弄される私をよそに、先輩はそれを興味深そうに見てる。
「やっぱりね。出力がかなり多くなってる。それを前提とした構成をすれば程よい感じの魔法になりそう」
「あ、あの・・・これどうすれば?」
熱いんだけど・・・
「あなたいつもどうやって魔導具を止めてるの?」
「・・・普通は触らない・・・」
「魔導具なんて町中どこにでも溢れてると思うんだけど?」
「・・・だから全部使えないの・・・」
「難儀な体質ね・・・ちょっと待ってね」
先輩は何かをぶつぶつと唱えると、紫色の光を生み出して、私にぶつけてきた。
「うっ」
ズンと体が重くなった気がして、ライターから立ち上る魔力が消えた。
「あ、止まった」
「今のうちにそれ、返しなさい」
いうやいなや、ライターをぶんどられる。
すると、私の身体の重さは消えた。
「・・・今のは?」
「私の十八番、呪いよ。封魔の呪い。普通はかけた相手の方が苦しむはずなんだけど、あんたの魔力を抑えるのに必要な魔力が多すぎて私がキッツイわ・・・あと20秒くらい続けてたら死ぬかも」
呪い・・・何か怖い事するなぁ・・・私にいきなり有無を言わせず呪うなんて・・・
それにしても呪った側が疲弊するっていうのも変な話だ。
でも火を完全に消せるほどの強さだし、十八番なのは間違いないのかも。
普通の呪いがどの程度なのか分からないけど。
とりあえず、死にそうとか言ってるし、ちゃんと謝ろう。
「ごめんなさい・・・」
「まぁいいわ。これで答えは出た。明後日の朝には程よい感じの魔導具が作れてると思うわ」
「ありがとう!先輩!」
「あぁ・・・いい・・・やっぱ今日中に作るわ。だからもう一回呼んで?」
「別に明日でもいいけど・・・頑張ってください。先輩」
「さいこうだわ・・・」
本当に大丈夫かなぁ?
二日後。
朝、今日はローチェ村に向かう為、アウフタクトを出発する日。
遠出の準備をしていると、トントンとドアを叩く音がする。
マリナさんはまだ部屋でゴソゴソしているし、カレンさんも教会の方の掃除をしているので私が応対する。
そこには、レナール先輩が居た。
「おはよう。レイフィールさん」
「先輩。おはよう」
「そう!それ!」
相変わらずのテンション。
先輩は、今日も私の先輩呼びでおかしくなる。
「約束の魔道具。できたわよ」
「本当?」
「ほら、これよ」
先輩が懐から取り出したのは、なんかちょっと古臭い感じの拳銃のようなものだった。
まるで海賊ものの映画に出てきそうな銃だ。
「まず、普通の魔導具だと触れた瞬間発動しちゃうみたいだから、引き金を引かないと基部に繋がらない古いトリガータイプの魔導具を選んだわ」
確かに、これを受け取っただけでは何も起きなかった。
ちゃんと銃を撃つ様に引き金を引く必要があるのだろう。
「実はトリガータイプは魔力の扱いがヘタクソな人向けの仕様だから買うのちょっと恥ずかしかったわ」
「う・・・ごめんなさい・・・」
「で、肝心の中身は私が分解改造して、思いっきりデチューンしてあるわ」
「デチューン?」
「弱体化って事。貴女の過剰出力に適応させてあるから、私が使ってもカスほども出ないわ。あなた、一回空に向けて撃ってみて?」
そう言われたので、私は銃口を上に向けて、引き金を引いてみた。
銃なんて水鉄砲くらいしか撃ったことないよ。
すると、
パキャーン!
と涼しそうな音がして、野球ボールほどの氷の塊が勢いよく飛んで行って、空中で弾けた。
「おおお・・・」
「うん。想定通り。これなら弱すぎず強すぎず。野生動物やバグ相手の護身用として最適でしょう?」
「うん。ありがとう。レナール先輩」
「はぁ・・・やっぱ後輩がいるっていいわね・・・ってことで、この銃の代金として、7000ゴルトね」
「あ、代金・・・」
お金・・・持ってないや・・・
マリナさんからおこづかいとして2000ゴルトくらい貰ってるけど、全然足りないね・・・
「まぁ、もしこれからも私の魔法レッスンを受けるっていうなら、代金はタダでいいわよ?」
「いいの?」
「もちろん、その間は私の事先輩って呼んでね?」
「もちろん。その程度だったら全然いいよ」
相当コンプレックスだったんだろなぁ・・・
先輩呼びなら丁寧語じゃなくてもいいみたいだし・・・
「あら、誰か来てたの、ごめんなさいね」
後ろから声がする。
マリナさんだった。
それに対して、レナール先輩も挨拶をする。
「あぁ、レイフィールさん。おはようございます」
「エルドレットさん?何の用かしら?これから私達外出する予定があるのだけど・・・」
「あ、いえ、大丈夫です。ユイさんに渡したいものがあっただけですので」
と、私が持っていた魔道具を私の腕ごと掴んでマリナさんに見せる。
「護身用の魔道具です。彼女でも使えるように調整しました」
マリナさんはその魔道具の手に取ってじろじろと見ている。
「ふーん・・・ああ、なるほど・・・旧式のトリガータイプね・・・確かにそれならユイちゃんでも使えるわね・・・」
相変わらず細かい事は良く分からないけど、今の私には、ちゃんと使えるって事実があれば十分だと思う。
いずれは故障した時とかに自分でなんとかできると楽なんだろうけどね。
「・・・ってことで私はここで」
そう言ってレナール先輩は去って行った。
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「ユイちゃん。出発の準備は出来た?」
巨大な十字架と大きなリュックを担いだマリナさんが話しかけてくる。
リュックの中には、村まで向かうのに必要な食料と、着替え、お金や仕事道具が入っているらしい。
キャリーバッグとかないのかな・・・
「はい。できました」
私の荷物は、何かメモする用のノートとシャープペンシル。
必携するよう言われたギルド証。
書店で買ってきた、初級魔法図鑑の、雷・金・水・氷・光、の五冊。これは勉強用。
中身が円からゴルトへとごっそり入れ替わった財布。紙幣という存在が無いのか、全部硬貨なので重い。
そして、レナール先輩から貰った護身用の魔導具。
これ以上は重量的に辛い。
充電が無くなったので、スマホは置いていく。
「じゃあ、そろそろ行きましょうか」
「はい」
ローチェ村。
私にとっては、ここアウフタクトから初めての遠出になる。不安と期待で胸がいっぱいだ。
あ、いや、ほとんどは不安で埋め尽くされている。
だって・・・危険だって・・・