表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/84

第3話:この世界で生きる為に・Ⅴ


ユイ・リクエ・レイフィール



新しい名前を申請書に書き込み、性別などの諸々の情報を書き込む。


年齢は、22歳っと・・・


一応マリナさんにもそのことは話したので、ここに関して、特に言われることは無い。







順調に書き込んでいくが、ふとペンが止まる。

それは、得意な事の欄。



まだ私はこの世界の事全然知らないし、魔法の勉強を始めたばっかりだし、まだ水を出す魔法しか使ったこと無いし、得意な事なんて・・・


精々生徒会をやってた経験位しか・・・



「得意な事・・・得意な事・・・」


ペンをテーブルに置き、うんうんと考えるが、何も出ては来ない。


「ユイちゃんの得意な事事ねぇ・・・」


いつのまにか隣の席に座っているマリナさんも、考えているようだ。



「やっぱりユイちゃんにしか出来ない事といえば、大量に魔力を使う事なんじゃないかしら」


600倍の魔力。

私の中に眠るそれは、確かに他の人には出来ない私だけの力だ。


問題は、それ自体を私がひどく持て余していて、まだ水しか出せないこと。



「・・・でも、まだ水を出す魔法しか使えませんよ・・・?」


「今はね?でもいずれは色んな魔法を使えるようになるはずよ?と、言うよりも、今は暴走のリスクを考えてそれしか使ってないってだけで、本当はもう他の魔法も使えるハズなのよ」


「それは・・・そうですね・・・」


「だから、そこは大きく出ちゃっても良いと思うわ。そこは依頼の参考にするだけだから」


「わかりました」


マリナさんがそういうので、得意な事の欄には、

大量に魔力を使う仕事

と書いておいた。





NGな事の欄には勿論、

激しい動きや、体力の消耗が激しい仕事

と書いた。


私の体は、常人よりも遥かに貧弱なのだ。


実際、仕立て屋からここまで歩いてきただけでも、ちょっと疲れている。

この衣装、金属の装飾がなされているからか、ちょっと重い。






一通りの記入事項を書き終えた私はそれをマリナさんに見せることにした。


「書いてみましたけど・・・どうですか?」


紙を受け取ったマリナさんは、それをちらっとだけ見て、


「うん。ちゃんと書けてるわね。じゃあ、早速出しに行きましょうか」



そう言ってゆっくりと椅子を引いて立ち上がった。

それに合わせて、私も席を立つ。


「申請は本人が提出しないとダメだからあなたが出すのよ」


マリナさんが申請書を返してきた。

それを受け取った私は、そのままトーマスさんがいたカウンターへと向かう。


ちゃんとマリナさんが着いてきていることを確認しながら。





「あの・・・これ、お願いします・・・」


恐る恐るカウンターの向こうにいるトーマスさんに申請書を手渡した。


トーマスさんはそれを一瞥すると、

「・・・はい了解しました」


そう言って、申請書の開きスペースにすらすらと何かを書き込んで、


「ではここに魔力を流してください。そんなに強くなくてもいいですよ」


と、その申請書を返してきた。



そこには、読めない文字の羅列が記されている。

どうすればいいんだろう・・・と思っていたら、後ろからマリナさんが、


「これは魔力を流すと、本人の似顔絵が浮かぶ魔方陣ね。ユイちゃんは触るだけで勝手に起動すると思うわ」


と補足を入れてきた。

似顔絵・・・多分証明写真のような扱いなのだろう。


触るだけでいいって言うのは楽でいいんだけど、

大抵の場合、他の人よりも数段強い出力が出てしまうので、どうなるかちょっと不安だ。



「い・・・いきますよ・・・?」

一応ひと声かけてから、


似顔絵が過剰出力されるってどうなるのかわからないけど、碌なことにはならなそうなので、

細心の注意を払いながら、そっと魔方陣に触れた。



瞬間、バシュンッ!

と、今まで聞いたことのないような音が響き、申請書が眩く輝いた。

思わず目を瞑ってしまって、


目を開けた時には、申請書は一変していた。



そこには、たどたどしい笑顔を浮かべ、なぜかピースサインをしている、私の"全身絵"が浮かんでいた。

着ている服装も完全再現されている。

てっきり証明写真だと思ってて、バストアップで写ると思っていたから、ちょっと意外だ。

・・・なんで笑ってるしピースサインしてんの・・・?記念写真じゃないんだから・・・



「マリナさん、出来ましたけど・・・」



何故か記念写真みたいになってしまったが、

出来上がった申請書をマリナさんに見せる。

何かある度いつもマリナさんだけど、私が頼れる人は今の所マリナさんしか居ないからいつもこうなる。



「どれどれ・・・?・・・なんで全身写ってるのかしら・・・?」

「・・・え・・・?」


やっぱり間違ってた・・・?


「・・・まぁ、顔はちゃんと判別できるし、変なポーズだけどこれでも申請は通ると思うわ」

「ごめんなさい・・・いつも変な事になって・・・」

「まだ気にすることは無いわよ。魔法の勉強初めてまだ一週間じゃない。まだまだこれから。ね?」



マリナさんはいつも優しい。

最初に出会った人がマリナさんじゃ無かったら、私はまだ絶望しっぱなしだったと思う。


・・・いや、もしかしたらオーバーヒートしたあの日、死んでた可能性もあるかも。







一応、その申請書は、そのまま通過して、

私は晴れてギルドの一員になる事が出来た。


会員証を受け取った私は、腰についていたポケットにそれをしまう。

するとマリナさんがポンッと手を叩いて、


「じゃあ、ここでお昼ご飯にしましょう」

と提案してきた。


「そうですね・・・ちょっとお腹すいてきたかも・・・」


今の時間はわからないけど、多分結構いい時間になってるんだと思う。



ギルドのカウンターは、

トーマスさんがいる、ギルド登録に登録したり、困ったことをギルドに依頼する受付口、

依頼を受けたり、その結果を報告して報酬を貰う受付口、

そして、普通の飲食店としての注文受付口の三つがあるらしい。


私達はその足で注文受付口に向かい、

各々食べたいものを注文する。


マリナさんは、私が聞いたことのない名前の料理を注文していた。

多分美味しいのだろうけれど、流石にどんなものなのか分からないものは頼めなかったので、

私は普通にパンケーキだ。


注文した後は、待っていればウエイトレスさんが持って来てくれるらしい。

そこは私の知っている飲食店と似た感じだ。

なので、さっきまで座っていた二人掛けのテーブルがまだ空いていたので、二人そこに腰を下ろし、

料理が出来るまでマリナさんと、この町について話していた。



「ここって、オルケス王国って国の町なんですよね?」


一昨日、オルケス国報誌という、新聞が教会に届いていた。

なんでも月に一回、国の主要な情報が纏められて載せられるらしい。


「そうね。ここは西の端っこの方にあるわ」


教会にはオルケス王国の地図が張られていたけれど、

随分と東西に広い領土を持っていた。



「ここって、どんな町なんですか?」


私はこの町しか知らない。

庁舎周辺はかなり賑わってると思ったけど、他の町はどうなんだろう。



「うーん、アウフタクトはオルケス王国の西側の貿易の拠点になってるから、大きい港町のはずよ」

「そうなんですか・・・だからこんなに人が多いんですね」


市場の方も、かなりの人が居たし、場所によってはかなり人が居る。

だけど、教会の近くは人気が少なくて、のどかな感じだ。


「基本的には貿易都市だから、中央部と港、市場以外はそんなに多くないけどね」

「だから教会の周りは静かなんですね」

「そうね、あの辺りはアウフタクトの中でも西の方だし、あれより向こうは平原しか無いから、教会に用がある人以外はそこに住んでる人以外は来ないわね」



そうだったんだ・・・平原って、私が初めていたあの平原だよね。

あれ、本当に王国の端っこだったんだ・・・


そういえば、町の反対側はちょこっとだけ海が見えてたような気がしないでもない。




「おまたせしましたー」


ぼんやりとそんな事を考えていたら、料理が運ばれてきた。

マリナさんの・・・えっと・・・見ても結局なんなのか分からない料理と、

私のパンケーキ。

クリームが乗っていて、都会のお洒落なパンケーキって感じ。

そんなオシャレなパンケーキなんて一回しか食べたこと無いけどね。



「それじゃ、早速いただきましょうか」

「はい・・・いただきます」


ナイフでそれを切り分けて、クリームをつけて食べる。

前に食べたときは写真に撮ってから食べたけど、今はスマホ持ってきてないし、

圏外なので上げる先も無いし、気にせず食べる。



「あっ、美味しい!」

パンケーキ自体にもほんのり甘みがある。何か入ってるのかな?


「でしょ?ここの料理美味しいから、ギルド関係ない人も食べにきたりするのよ」

「へぇー、そうなんですか・・・」


辺りを見回すと、確かに派手で露出多めな人たちに混ざって、

普通の格好の人たちも、談笑しながら料理を食べているのが見える。



そのままお昼時の賑やかなギルドで昼食を食べ終えた私たちは、その足で帰路に付いた。

ここへ来るときは道行く人々の格好ばかり気にして、あまり街並みをよく見れていなかったけれど、

見返してみれば、この辺りは、商業地区のようだ。

飲食店や、雑貨店、武器や防具を取り扱う店もある。

ショーケースにいろいろな物が飾られているスタイルは、この世界でも一緒のようだ。


流石に剣や鎧が展示されてるのは初めて見るけど。



「そうだユイちゃん」

「はい」


マリナさんが声をかけてきたので、それに答える。


「体に異常とかはないかしら。暑かったりはしない?」

「いえ、全然大丈夫です」


言われて初めて、そういえばその為に新しい衣装にしたんだったと思うくらいには、

一切体の熱を感じる事は無かった。


「そう、なら良かったわ。これでこの衣装を着れば長時間の外出もできるようになったわね」

「そうですね」


今までの薄着と言えば、下着の上に、薄く透けるワンピースとか、そんな感じだったので、絶対に外出は出来なかった。


でもこの衣装なら、


いやこれはこれで露出多いからできればあんまり・・・って感じではあるけれど、

曰く死なない限界の露出だって言うから、致し方ない。


一生外出ないんじゃ、元の世界には帰れないしね。




人間慣れる生き物っていうし、いつかはこんな格好にも慣れていくのかな・・・


なんてことを思いながら、マリナさんと並んで町を歩いていて、少し狭めの路地を歩いていたら、先の通りの方がなにやらザワザワしている。


「あら、何かしら」


マリナさんも不思議そうに呟いている。

しかし、その正体はすぐに分かった。



「強盗だー!!」



そんな、誰かの叫び声。

久しぶりの外出だけど、もう二回目のトラブルに遭遇だ。この町、案外治安悪いのでは・・・?

それとも、治安の良さトップの日本に慣れ過ぎていて、これくらいが全世界のスタンダード?



「えー、ど、どうします?マリナさん」


帰り道なので迂回して行こうかどうか、相談を持ち掛ける。

強盗なんて、近寄る気にはならない。


「そうね、ちょっと遠回りしましょうか」


そうマリナさんが人だかりの方から、脇道の方を見た時、

目の前の人だかりがさっと割れた。


そこから、数人の人が飛び出してくる。


「えっ!」


思わず声が出た。

その人たちは皆、長い剣と、大きな袋を持っていて、覆面で顔を隠していた。


もしかして、強盗って、この人達・・・?


「ま、マリナさん!」

「っ!!」


さっと振り向いたマリナさんは、私をかばうように、私の前に立つ。




「退けェ!てめぇらァ!!」


マリナさんの陰から、強盗の人たちが見える。


「・・・大丈夫よ」


そう、マリナさんは言うけど、強盗犯たちはそんなマリナさんに向けて、長い剣を振りかぶっている。


このままじゃ・・・マリナさんが!

いやそれだけじゃない。私も・・・!



「いやあああぁぁぁぁぁぁぁ!」


出来る限りの声を張り上げた。


その瞬間、私の身体の中で、何かが弾けた気がした。

それは、今まで何度か感じたことのある感触。



そう、魔力。



そして、それと同時に、ガイィンッ!という、重いものが金属にぶつかるような音と、


「グファアッ!」

という誰か男の人の叫び声がいくつか上がる。



マリナさんの陰から向こう側を見ると、さっきまで向かってきていた強盗犯が吹っ飛ばされている。


「・・・あ、あれ・・・」



そんな光景を、私は前に見たことがある。

そう、前にマリナさんと平原に言った時、バグと遭遇した時。

その時も、訳が分からず吹っ飛ばされた一匹が居た。




「おお!そこのシスターたちがやっつけたぞ!」

「今だ!捕まえろ!」


転倒した強盗犯に、近くに居た野次馬たちが殺到し、剣や袋を取り上げて、羽交い絞めにしていく。



「・・・た、助かったんですか・・・?」


未だ恐怖で縮こまっている私の方を優しい目で見ているマリナさんに聞く。

別にマリナさんが知ってるはずもないのに・・・


「・・・ようやくわかったわ・・・」

「な、何がですか・・・?」

「さっき、強盗が跳ねられたでしょ?」

「はい」

「あれ、ユイちゃんがやったのよ」


私・・・?

嘘・・・



「あれは間違いなく、金属性の拒絶の力よ」

「金・・・属性・・・」


ああ・・・確かに私には金属性があるって言ってたし、

金属性には拒絶の特性があるって書いてあったかも。


「やっぱりユイちゃん、感情が高ぶると出ちゃうのね・・・」

「・・・そうなんでしょうか・・・」


あの時も、危ない!死にたくない!

って、そんな感じの感情の時だった。


・・・出そうと思ってはいなかったけど、勝手に出てしまった。

・・・っていう事は、



「・・・これも暴走が原因・・・なんですよね」

「そうね。今回はいい方向に転がってくれたからいいけど、いつもこうなるとは限らないし、気を付けなきゃね」

「そうですね」






強盗を撃退して、お店の人からは感謝されて、少しばかりお礼として、お金を貰ったけど、

私としては、それよりもやっぱり暴走がこうやって、突発的に出てしまう事が心配だった。


出力の制御が問題だと思ってたのに・・・

それ以外にもあるなんて・・・

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ