表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/84

第3話:この世界で生きる為に・Ⅳ

「待って!待ってくださいマリナさん!」


必死に叫ぶ。




普段からお腹、背中、胸元は全開だし、

あるけば生足がチラチラ見える。


そんな格好で往来を歩くのはまだ抵抗がある。




「ギルドの方にはあなたみたいな恰好してる人はいっぱいいるから大丈夫よ」

「そういう問題じゃぁ・・・」


そのギルドとやらはそうかもしれないけど、

教会の近くには、そんな人一回も見なかった。

それはつまり、そこへ向かうまでは浮きまくってるって事だよね!?



「私と並んで歩いてればそんなにおかしくはないわよ・・・それに」


マリナさんは私にどんどん近づいて行って、

ついには私のスカートをめくりあげた。

スリットからパンツが見えちゃう!


「って、何してるんですか!」

「この衣装でちゃんと魔力の放出がスムーズにできるか、テストしなくちゃならないもの・・・」


私がスカートを叩き下ろすと同時にマリナさんも手を離して1歩後ずさる。


「とにかく、いつまでもそんなモジモジしてないで、一回外に出てみれば?案外拍子抜けしちゃうかもよ?」


・・・本当に?












恐る恐るマリナさんにピッタリくっつきながら教会を出る。


マリナさんを影にしてお腹と胸元を見られないようにして、

なるべく脚も出ないよう歩幅の小さい歩き方にする。


背中もケープの布をなるべく背中側に集めるよう肩を後ろに張る。





「もー・・・そんなモジモジしてたら逆に注目集めちゃうわよ?もっと堂々としてなさい?」


出来てたら苦労しない。




けど、確かにマリナさんの言うことは間違ってはいない。

格好もおかしいのに挙動もおかしいのではただの不審者だ。


それは流石に避けたい私は、マリナさんから1歩距離を取って、

私自身の体で隠すことにした。

幸い両腕の袖口は非常に広くて隠すのにはピッタリで、

片腕を胸元に、もう片腕をお腹に持っていけば、前上半身は全てカバー出来た。





これでなんとか不審者を脱する事が出来たかな?


「・・・ほら、堂々としてれば案外対したこと無いでしょう?」



・・・町を歩いていて気がついたことは、

町の人はこの格好に、あまり奇異の目を向けてこない事だ。


一瞬ちらっと見られる事はあれど、そこまでジロジロと見られる事はあまり無い。



すれ違う人は皆こんな格好はしていないけれど、見慣れていない訳では無いのだろうか。



「・・・まぁ、思ってたよりは・・・」


ほかのひとの視線が怖くて、外に出るのを怖がっていたけれど、

いざ出てみたら気にされない。

それならそこまで恐ろしくはない。



羞恥心は、他人の存在ありきなのだろう。

一人で自分の部屋で恥ずかしい格好するのと、

人前で恥ずかしい格好するのじゃ、全然違うしね。






すこし平常心を取り戻して来た私は、

マリナさんと歩きながら会話することにした。


「ギルドって、どんな所なんですか?」

「そうねぇ、酒場兼、交流所兼、依頼場、って所かしら」


うーん・・・よくわからないや・・・


「も、もうちょっと詳しくお願いします・・・」



「詳しく?・・・えーっと、言ってしまえばお悩みを解決してほしい人と、お悩みを解決してその報酬で暮らしていきたい人が集まる所ね。何か困ったことがあれば、それをギルドに申請して、掲示板に貼ってもらう。そして、それを見た他の人が助けてあげて依頼者からお金をもらう。全世界規模で行われてる助け合いシステムなのよ」



へぇー、この世界にもいろんな面白いシステムがあるんだなぁ・・・


「そこにその・・・私みたいな格好の人がいっぱい居るんですか?」


お腹出したり、足出したり・・・?


「そうね、ギルドに貼られる依頼の中には、近くに強いバグが出るようになったから退治してほしいとか、遠い町まで行くのに用心棒をしてほしいとか、普通の人には出来ないような依頼もあるから、強力な魔法使い逹が集まってくるのよね」


そういう魔法使い逹は、普段から効率よく魔法を使うために感応器を開けるために露出の多い服を着てる事が多いわ。



と、そうマリナさんは言っていた。



私はそういう風に効率よく魔法を使うためにこんな服着ている訳では無いけれど・・・











しばらく歩いていると、

街並みが変わって来た気がする。

建物は大きく、高くなり、人通りも増えてきた。

そして、いままであまり見ないタイプの人も見るようになった。



教会の辺りは、質素でシンプルな布の服、

みたいな感じの人ばかりだったけれど、



この辺りは、装飾が施されたキレイな服を来た人や、動物の毛皮みたいなものを羽織っている人、

所々に金属のプレートのような物を付けて、ちょっとした鎧のようになっている人もいる。

中には、剣やら槍やら、武器を担いだ人も。


そして、皆胸元が開けた服を着ていたり、不自然に脇腹だけ空いてる人もいたり、

たしかに露出の多さはかなり増した印象だ。



・・・あとは、水着並の露出度に、スケスケな布を纏っただけみたいな女の人もいた。

・・・・・・流石にそれは恥ずかしく無いのかな・・・?

今の季節寒そうだし・・・




・・・とにかく、多種多様と言うか、ゴチャゴチャしているというか・・・

確かにここなら私も紛れる事ができそうだ。




「ね?この辺りになってくると、皆ユイちゃんみたいな感じでしょ?」


マリナさんは、ちょっとドヤ顔にも見えなくもない顔で私に話しかけてくる。


「えぇ、まぁ・・・そうですね」



皆見慣れない格好なので、まるでコスプレ大会だ。



そうと分かれば、何も自ら歩きにくい姿勢で歩く必要は無い。

腕は体を隠す為に使うのではなく、歩行時の重心取りに使うし、

歩幅だっていつも通りの歩幅に戻して構わない。


その方が、逆に恥ずかしく無いから。




歩いていくと、何か大きな建物が見えてきた。

この辺りは、教会があったところに比べて、大きい建物だらけではあるけれど、その中でもひと際大きい建物だった。

他の石造りの建物よりも、綺麗に磨かれた石を使っていて、高級感がある。



「さぁ、そろそろギルドに着くわよ」


横でマリナさんが言う。


って事は、この大きい建物がそうなのかな?


マリナさんと私はそこにどんどん近づいて行って、ついにその建物の前の通りで立ち止まった。


だけどそこは、その建物の向かい側。

そこそこの大きさの木造の建物。


煌びやかな装飾がなされていて、入り口付近は沢山の人々が集まっている。



「さぁ、ここがオルケスギルド・アウフタクト支部よ」

「あの・・・向かいの大きな建物は何ですか?」


正直な所、今気になっているのはそっちだった。


「あれはアウフタクト町庁舎よ。町の行政とかをするところね。市民登録の発行とかはあそこでするのよ」


ああ、なるほど、市役所なのか。

道理でひと際大きくて豪華なわけだ。




ギルドと呼ばれた建物は、常時開放型の入口で、ドアなどは無かった。

代わりに、入り口は大きな屋根で覆われていて、これで雨風を凌ぐ作りなのだろう。



マリナさんの後に続くようにギルドの中へと入る。



説明の通り、中は酒場のようになっていて、沢山の人々が昼間から卓に着いて談笑している。


私達が入って来た途端、周囲の喧騒が聞こえてくる。


「お、あれ、聖堂教会のレイフィールさんじゃないか」

「珍しいな、ギルドまで来るなんて」

「なんか新しい子連れてるね」

「結構可愛くない?」


入口からカウンターの所まで向かうだけで、

刺さる視線がくすぐったくて恥ずかしい。

格好は皆こんな感じだから別にいいけど、純粋に視線が痛い。



自然とマリナさんとの距離を詰めてしまう。

この世界に来て以来類を見ない人の多さに、ひるんでしまっていた。


「あ、あの、マリナさん・・・」


言いたい事とかは特にないけれど、どうしてもこの空気感に堪え切れず、

マリナさんの修道服の裾をつまみながら声をかける。


それに対してマリナさんは、多分不安げな顔をしているんであろう私の方を見て、

優しく背中に手を回して抱き寄せてくれた。


「大丈夫よ。ここにる人達は見た目とか態度とかはちょっと怖いかもしれないけど、決して悪人じゃないわ。ここに居るのは基本的に、何か悩みを抱えた人か、それを解決させたい人達よ」


そんなマリナさんの言葉が、今はとてもありがたい。







私達が向かったカウンターには、ダンディな雰囲気なおじさんが立っていた。


「こんにちはトーマスさん」


マリナさんはその人に気さくに声をかける。


「あぁ、レイフィールさん。いらっしゃい」


すると、そのおじさんも軽く挨拶を返す。

どうやら知り合いのようだ。


「ふむ・・・今日は見たこと無い人を連れているようですな」

「えぇ、先々週位に教会にやって来たの」

「ユイです。よろしくお願いします」


マリナさんに聞いたのだけれど、ここでは六依 由依

といった、姓、名の名乗りかたは浸透していないらしい。


外国のような、ユイ・リクエみたいな名乗りかたは全く慣れていないし、皆ユイちゃんユイさんって呼んでるから、名前だけ名乗った。



多分、それでも問題は無かったのだろう。

トーマスさんと呼ばれていたその人は、特に咎めてくる事もなかった。


「で、今日は一体何のご用事で?」

「ええ、この子をギルド登録しに来たのよ」


マリナさんがまた私が知らないことをしようとしてくる。


「えっ!?なんですかそれ?」

「ギルドのお仕事をするにはね、ギルドに登録する必要があるの。見ず知らずの人に大事な案件を任せる訳にもいかないしね」


言ってることは分かる。

それに、いずれは私もギルドでお仕事して、ちゃんとお金を稼ぐようにとマリナさんからも言われてた。

だけどこんないきなり・・・


「う、ううん・・・」


決して間違った事は言われては居ないので、反論もできず、黙り込んでしまう。



「じゃあこの書類に諸々の記入、お願いしますね。レイフィールさんが居るから、説明は不要でしょう」

「ええ。私もきっちり覚えているわ」


その間に、私のギルド登録の算段がどんどん整っていく。

もう逃げられない。







結局、登録申請書を持って、空いているテーブルまでやってきてしまった。


「さ、さっさと済ませちゃいましょう?」

「は、はい・・・」


まぁ・・・登録だけなら・・・今日からお仕事!とか言われたらちょっと困るけど・・・

せめて来週辺りから・・・



そう思いながら椅子に座り、テーブルの上の書類に目を落とす。


書類は、登録申請にしては記入欄の少ない紙きれだった。


何せ、書く欄が、名前と、年齢、性別、魔法属性、

後は、得意な事、出来ない事、の欄。

これだけだ。

住所や連絡先を書く欄すら存在しない。


とりあえず名前から書いていこう、


六依由依りくえ ゆい


と、書類と一緒に貰っていた鉛筆を書類へと落としたその時、マリナさんが待ったをかけた。


「あ、そこの名前だけど、レイフィール姓で書いておいてくれるかしら?」

「え、何でですか?」

「私の家の子って事にしておくと色々楽なのよ、手続きとかがね・・・あ、でも・・・その・・・」


後半いきなりマリナさんの声が小さくなる。


「・・・あなたの本来の姓を捨てろって、そう言ってる訳じゃないからね・・・?」

「はい・・・それは、わかってます・・・」


マリナさんはそんな人じゃないって、今まで一緒にいて痛いほど思い知ってる。





・・・だけど・・・





私の心にとってはたったの2年。

私の体にとってはそこから20年。



生まれる前から定められてきた六依の姓を、

目覚めてからでも名乗り続けた六依の姓を、

妹や、両親との繋がりを証明する、その六依という姓を、


今、ここで眠らせて、いいのだろうか・・・



・・・この姓は・・・私が、元の世界の私と繋がる、その要素の核なのではないか・・・




申請書の名前欄。


ユイ・




ここから先が書き出せない。


手を、動かせない。




「・・・ごめんね、やっぱり・・・難しいよね・・・」


ギルド内はとても騒がしいけれど、

後ろからはっきりと、マリナさんの声が聞こえる。



「・・・ごめんなさい・・・でも・・・・・・私・・・」


やっぱり・・・この姓は、外せない・・・





「・・・そうよね・・・勝手なお願いだったわよね・・・」


・・・これは・・・たとえマリナさんのお願いであっても、

私の中身が、魂が否定していた。


私にも、どうすることも出来なかった。









そのままその先を書き出せずにいると、何処かからか怒号や物が割れる音が聞こえてくる。



「なんだ!この俺に楯突くのか!」

「あたりめーだろ!ルール破ってんだから」

「なんだと・・・このアルスフィン・ローゼ・クリードバッハに向かってルール破りだとぉ!」



はぁ・・・なんなのいきなり・・・

ここはいい人ばっかりじゃなかったの・・・?


いやまぁ、私の世界だって、朝の駅とかに居るサラリーマン達を見て、別に悪い人は居ないよ、

って言うかもしれないし、でもたまに些細な事で揉めてる人も見るかもしれないけどさ・・・



「あー・・・ま、まぁ、お酒が入る場所だし、たまにこういう人も居るのは事実よ・・・」



マリナさんも苦い顔をしてる。

お酒のトラブルかぁ・・・私はニュースでしか見たことなかったなあ。


「そんなに頻度が多い訳じゃ無いし、こういった騒動があったら店側が対処してくれるわ」




そんなマリナさんの言う通り、揉めている二人の元へ、スタッフと思わしき人が向かっているのが見えた。


「ほらほら二人とも、いい加減にしないと登録取り消しになりますよ」

「このアルスフィン・ローゼ・クリードバッハの名を汚されたのだぞ!」

「いいからその長ったらしい名乗りをやめろ馬鹿」

「長ったらしい!?アルスフィン・ロー」

「今やめろって言ったばっかじゃねぇか!」





・・・





・・・





・・・・・・





・・・・・・!!



「「あっ!」」


私とマリナさんが同時に声を上げ、二人向き合う。





「「ミドルネーム!!」」




考えていたことは同じだった。



六依の姓を捨てずとも、レイフィールを名乗る方法。あるじゃん!

ミドルネームに入れてしまえばいいんだ!




ユイ・リクエ・レイフィール。



まぁちょっと変な感じにはなっちゃったけど、

この世界で生きていくための、私の新しい名前だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ