第3話:この世界で生きる為に・Ⅲ
今日もお風呂はマリナさんと一緒だ。
「ユイちゃん、ちょっと傷はあるけど、それ以外は綺麗なお肌ねー」
「あ、ありがとうございます・・・」
一応、化粧品には気を使ってきたつもり。
消えない傷があるから、完全なフラットな肌にはならないんだけど・・・
昨日の段階で、私は魔道具が使えないと言われてしまった。
つまりそれは、この世界のいろいろな機器が使えないというわけで・・・
キッチンの蛇口、お風呂の蛇口、トイレの流す所、電灯・・・
てっきり私はこの世界でも水道施設はちゃんとしていると思っていたのだけれど、
出来ているのは下水処理だけで、
上水道は全部魔道具だった。
・・・つまり、私はそれを一人じゃ使えない。
・・・それヒドイよね。お風呂もトイレも使えないんだよ!?
私高校生だよ!?
一人でお風呂入れないってひどくない?
実際一回使ってみたけど熱湯が出てきたからね?
でも、トイレは私が自分の魔法で流せる事に気が付いた。
トイレはお湯である必要は無いから私の水の魔法で十分。
昨日までのように、いちいちマリナさんに流してもらうような最強の羞恥を浴びる必要は無くなった。
やっぱり魔法って大事だね。
ただ、普通に魔法を使うだけでも、他の人の数段強い魔法が出てしまうので、そこそこの勢いというのが、思ったよりも難しい。
気を抜くとすぐに消防車だ。
なのでその日からは、
暴発や過剰出力をなんとかするための練習が続いた。
魔法を制御する勉強。
危険なのでまだ水属性の魔法しか使ってない。
そんな日々を一週間ほど過ごしていた。
食事はいつも美味しいし、青空も気持ちいいし、マリナさんやカレンさん達も皆優しい。
服装的に、教会の外には出られないけど、思っていたよりもここはいいところだ。
その間に、私の世界と、この世界のいろいろな違いを確認していた。
まず、お金が違う。
たしかにこっちの世界にも、円とか、ドルとか、ユーロとか、色々あるけど、
ここでは"ゴルト"という単位が使われているようだ。
あの日以降私は外に出ていないから市場価格は市場で見たあの時にしか見て無いけど、
大体相場としては円と対して変わらないように見えた。
キャベツ1個120ゴルトくらいだったし。
違うものはまだまだあって、長さの単位も違う。
私たちは今までメートルをよく使ってた。
でもここでは"メルト"って単位を使うみたい。
ミニメルト、ヤヤメルト、メルト、デカメルト・・・
ミリとかキロとかより直球な言い方をする。
1センチは大体1ヤヤメルトだ。
長さ同様に、重さも違う言い方をする。
グラムの代わりに"シグル"を使う。
やっぱりミニシグル、シグル、デカシグル、
この方が分かりやすいと思うな、ミリとかキロとかよりも。
1グラムと1シグルはほぼ同じ重さ。
・・・ま、使っていけば慣れると思う。
私はそこまで適応力が無い訳じゃ無いと思うしね。
そんな頃、事件は起きた。
「うーん!ユイちゃんカワイイ!」
「ああの・・・」
「だいぶ可憐な感じになったわねー」
マリナさんは手を合わせて大喜びしている。
私は今までしたことのない格好をさせられている。
マリナさんが、私に特別な衣装を買ってきたとかで、
私はそれを着せられているのだ。
インナーは、
下着としてのパンツと、キャミソールとタンクトップの中間みたいなトップス。
トップスは意外と形がしっかりしていて、身体にフィットしている。
丈も短く、どちらかというとスポーツブラに近いかも。
どちらも金属製の装飾がなされていて、すべすべとした質感と装飾とで、高級そうな印象がある。
かなりピッタリしててまるでオーダーメイドで作ったみたい。
このままだとただの上下揃った下着なので、勿論上着もある。
アウターは、上半身はケープのようなものだ。
さっきと同じ、高級感のある生地や装飾だけれど、
背中や、肩、胸元の辺りには布地が無く、金色の鎖で止めるようになっていた。
つまり、その部分は露出している事になる。
確か、その辺りは出しておかないとダメなんだっけ・・・?
インナーも背中や、肩、胸元は出ているので、二枚重ねでもその部分は肌が見えている。
下半身は踝くらいの丈があるロングスカート。
だけど、かなり深いスリットが右前、左前、右後ろ、左後ろと、四つも入っている。
その内側はパンツなんだから、その・・・見えちゃわない・・・?
と思って鏡の前でちょっと歩いてみたら、脚はチラチラ見えるけど、パンツが見える事は無かった。絶妙なバランスで保っている・・・
・・・足は太腿までガッツリ出るけどね・・・
それ以外の特徴としては、ベルトで止める形らしく、ポーチのような形をしたポケットがいくつかついている。
中々の収納性だ。
その他のパーツとしては、
同じようなテイストの膝丈くらいのソックス、
和服のように袖口がとてもゆったりしているアームカバーがあった。
どちらもベルトが付いていて、ソックスは膝の所で、アームカバーは二の腕の所で止めておくことができる。
ソックスはともかく、アームカバーは片手で装着するのに苦戦しそう。
「どうかしらユイちゃん。感応器からの魔力放出を阻害しないように、かつなるべく露出が目立たないようなものを選んでみたのだけど・・・」
試着してみた私を見て、嬉しそうにマリナさんが言ってくる。
正直な所、派手だという印象が強い。
普段はこんなコスプレチックな格好なんて絶対しないし、
精々文化祭の時に魔法少女の格好をしたくらいだ。
言ってしまえば、普段外出る時はミニスカートすら穿かない。
普通のシャツのそこそこの丈のスカートくらいだ
今までこんなにお腹や背中が出る服は着たことが無いし、スカートも切れ込みだらけなので、
このスースーする感じがくすぐったい。
「・・・でも・・・仕方ないんですよね・・・?」
お医者さんに露出させなきゃダメだと言われた部位はきちんと出しつつ、
それ以外の部位では布地が多いので、そこまで露骨な感じじゃない。
・・・お腹とか、太ももとかはどうしようも無かったんだろうなぁ
と言う事を考えれば、
全体的なシルエットは柔らかで、なんとなくマリナさんが着ている修道服に近い印象がある。
・・・でもやっぱりまだ恥ずかしいなぁ・・・
夜に来てたあのスケスケキャミソールよりははるかにマシだけど。
「そうね・・・ユイちゃん的にはちょっと恥ずかしいのかもしれないけど、ユイちゃんの命の事を考えると、少し我慢してもらう必要があるわね」
「う・・・はい・・・わかりました・・・」
どうせ慣れる。
慣れればなんてことない・・・
そう必死に自分に言い聞かせる。
「じゃあ早速町に出てみましょうか」
「・・・え?」
・・・外にでるの?