第62話
あれからどれほどの月日がたっただろう。
以前、ルークから手紙が届いたことがあった。
「リビアは元気だ」
そう記してあった。そして、
「とうとうオレ、パパになるんだ」
オーガスタ大陸の南部にあるムロムという名の小さな村。そこの唯一の宿にディランはいた。
(あれから・・・・もう何年だ?)
彼女を忘れたことなど一度としてなかった。自分のためだけに、剣を振るってきた。何をしたいのか、夢はなんなのか。それを探して、やっと手に入れたもの・・・。
「おい、ディラン」
自室の扉を勝手に開けて、男が顔を出した。
「そろそろ出発だとよ」
「ああ、分かってる」
窓の外には大きな熱気球があった。<マグウェイ>の国旗と共に数十人の兵士たちが集まっている。
「久しぶりの帰省だな」
「・・・そっちがだろ」
言うと、赤茶の短髪の男は髪をぽりぽりと掻いた。
「まさか、兄の俺を差し置いて軍の総指揮官になるとはなぁ〜。どういうコネを使ったんだよ?」
「・・・そっちが女のケツを追いかけてる間に、俺は闘ってたんだ。当り前だろう?」
「はいはい。何とでも行って下さいな。指揮官様」
ディランはベッドから身を起こした。左の胸には勲章。銀色の鎧と兜。左腕に緑色のバンダナを巻いていた。立ち上がると、剣を背負う。
「変わったよな、お前」
「・・・何が」
「流されなくなった」
兄のロイドは無邪気に笑った。
「あの頃は、お前いつも切羽詰まったような顔してたもんな。何かを断ち切ろうと無我夢中でさ。でも、今のお前は・・・なんか吹っ切れてる。やっと大人になったか?」
「・・・守るべきものが見つかったから・・・かもな」
自嘲気味に言うと、ロイドは腹を抱えて笑った。ディランの肩をバシバシと叩く。
「そんなもん、初めから分かってたくせに。5年もかけやがって。村でリビアちゃんが干上がってたらどーすんだよ?!」
「干上がる?!あいつが干上がるワケねーだろ!たった5年くらいで!」
「へぇ・・・。いい度胸じゃねーか」
言うと、ロイドは意地悪く目を細めた。
「んじゃ賭けるか?リビアちゃんがお前を殴るほうに金貨10枚」
「ぐっ・・・」
何も言えなくなったディランを再びロイドは笑い飛ばす。
「ま、殴られて、プロポーズして、んでまた殴られろ。その方が俺にはおもしろい」
「・・・言ってろよ」
宿の階段を兄弟は降りる。主人に礼を述べると、兵たちが待っていた。
「ディラン指揮官。ご準備のほどはよろしいでしょうか?」
「ああ」
軽く頷く。隣のロイドを見ると、彼も頷いていた。ぽんぽんと胸を叩く。
「それでは、ここよりロライマ大陸<マトゥーラ>へ出陣いたします」
「・・・出陣って・・・大げさだからやめろ」
「何をおっしゃいますか!」
うんざりするディランに、兵士が敬礼をしながら口を開いた。
「指揮官のプロポーズも兼ねているんですよ?ロイド将軍からお聞きしました。何でもお相手は絶世の美女の魔道士で気が強いとか・・・」
「・・・ロイド・・・」
「うん?当たってるだろ?」
にかっと笑う将軍。つられて兵士たちも笑いだした。ディランだけはため息をつく。一人の兵士が口を挟んだ。
「指揮官殿は5年ぶり、将軍殿にいたっては15年ぶり・・・ですよね?村も変わってるんじゃな
いでしょうか?」
「いや」
ディランは首を横に振った。
「あそこは変わらないよ。今も、昔も―――」
何かに想いを馳せるように、ディランは青い空を見上げた。ロイドや兵士たちも空を仰ぐ。
「まさか大陸ごと任されるなんてな・・・運が良いよな、俺たち」
「・・・運が悪いのかもしれないぜ?」
兄に答える弟。その顔は笑っていた。
熱気球に乗り込む。ゆっくりとそれは浮上し、故郷への道を突き進んでいく。
(・・・リビア・・・)
最後に見た、あの寝顔。あの顔が怒るところをもうすぐ見れるのだと思うと、口元がほころんでくる。
自分を見たらどんな顔をするだろう。最初は泣くかもしれない。そして怒り出し、また泣く。
天気のようにころころ変わる彼女の表情。その表情の持ち主はこの青い空の下で、ディランの帰りを待っているに違いなかった。
「・・・ルークのやつ・・・」
「うん?」
ディランの独り言に、ロイドは首をかしげた。
「ルークがどうしたって?」
「あの、例の手紙さ」
「ああ、あれか」
思いだし、ロイドはくつくつと笑った。
「王宛に出したやつな。『魔物がロライマに集中的に出現している。助けに来られたし。マトゥーラのルーク=マクベル』」
「絶対、裏があるよな?」
「・・・シャンヌちゃんとか?親父とかってこと?」
ロイドは肩をすくめた。
「ま、なるようになったって考えようぜ。花婿さん」
青い空に、白い熱気球。赤い顔をした指揮官をのせた船は一路、故郷マトゥーラへと飛ぶ。
愛する者のいる処へと―――。
ここまで読んでくださって本当にありがとうございました。
ディランくんとリビアちゃんの直接なラブラブはなかったですが、きっと幸せになってくれると思います。
初めのころとちょっと文体が変わったかな・・・と思っていますが、読みづらかったら謝ります。ごめんなさい。
個人的には後半の話のほうが好きです(笑)
まとまってますし。
うだうだと書いてしまうので、長くなるんでしょうねぇ(他人事)
いろいろご感想・ご批判お待ちしております。
最後に、ほんとうにここまで読んでいただいてありがとうございました♪♪
感謝感激です!!!




