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第55話

「ルーク!あの街がそうじゃないか?!」


「ああ、みてーだな。あれって―――」


「<ゾーグ>だ・・・。やっかいなところだな・・・」


 雨が降り出していた。時折鳴る雷がパンサーの背にまたがる二人の耳に容赦なく聞こえてくる。それが、彼らに不安感を募らせていた。

 草原に続く馬車の轍に雨水が溜まっていく。早くしなければ、いずれこの目印も雨に流されてしまうであろう。しかし、彼女達が<ゾーグ>にいることは確かなように思えていた。一つは、この馬車の跡から。そしてもう一つは――フォードがディランをおびき寄せていると考えるならば――そこはかつて、フォードが行きたいと夢見ていた場所だからだ。

 灰色の街が徐々に近づく。二人はパンサーを街の手前で放してやった。このまま突き進むと人目を引きやすい。しかし、この激しい雨の中、外に出ているものは比較的少なかった。


「ディラン、どっち行く?!」


「ああ?」


 大粒の雨が彼らの髪や服を濡らしていく。したたる水滴。二人はそれをぬぐおうとはせずに、まっすぐに城への道をひた走っていた。


「シャンヌちゃんかリビアか・・・。どっちに行く?」


 ルークの言葉にディランは一瞬迷いを見せた。シャンヌは守るべき依頼人であり、そしてそれこそが彼の<傭兵>としての仕事である。しかし、一番やっかいな相手、フォードはおそらくリビアを連れている。相手があのフォードでなかったならば、ディランは迷うことなくルークに任せていただろう。が、現実はそう甘くはない。


(・・・俺は・・・・どうすれば・・・・。俺の・・・気持ちは・・・)


 顔に痛いほどに雨粒が打ちつけられる。二人の靴音は雷鳴の合間に石畳の街に響いている。

―――迷うことはなかった。

 ディランはまっすぐに城門を見つめながらしっかりとした口調で言った。


「フォードとケリをつける」


「・・・分かった」


 ディランの言葉にルークは苦笑いし、頷いた。そして二人は黒い城門をくぐって行った。





「・・・どうしたんだろ?」


 窓から外の様子を伺っていたランディは声を上げた。その様子を不思議に思い、シャンヌも窓に張り付く。


「何かあったのかな?」


「・・・もしかしてディランたちが来てくれたのかも!」


「・・・ちょっと待ってて」


 ランディはそういい残すと部屋から出て行き、すぐに慌てた様子で引き返してきた。そして、シャンヌの手を取る。


「ちょっ・・・ランディ!」


「ディアンたちが来たみたい。きっとシャンヌたちを探してる。だから・・・・そこまで連れて行ってあげる」


 ぐいっと手を引かれ、シャンヌはランディに引きずられるように部屋から出された。廊下に出て初めて分かった。兵士たちが右往左往している。階下からは剣の交わる金属音、そして悲鳴や怒声。その中心にディランとルークがいるのだ。シャンヌは少し恐ろしくなった。身を震わせる彼女を、ランディは心配げに覗きこむ。


「大丈夫?震えてるみたいだけど・・・」


「・・・だ・・・だいじょうぶ。ちょっと怖くなっただけ」


「あれ?ディランたちと旅しててこんなのは慣れたんじゃないの?」


 くすりと意地悪く笑うランディをシャンヌは恨めしげに睨んだ。


「そういうのじゃなくて・・・。お城の中でこんな騒ぎは今まで見たことないから・・・」


「大丈夫だよ」


 ランディは彼女の手を強く握った。


「僕がちゃんとディランたちのところまで連れてってあげるから」


 笑顔を見せる目の前の男。以前までの彼だったら逃げ出していたかもしれないこの状況。彼もまた、少しずつ大人になりつつあるようだった。


「シャンヌ。だから・・・・考えといてくれない?結婚はまだ先でもいいから・・・・」


「・・・・考えとく」


 シャンヌは兵士たちの罵声が行き交う中、一瞬時が止まればいいのにと思った。





 城門にはすでに多くの兵士たちが武器を構えて待っていた。ディランとルークの姿を見つけ、わらわらと群がってくる。


「面倒だな」


「ディラン。オレは中庭の方へ回ってみっから、リビアのこと頼んだぜ?」


「ああ。分かってる。シャンヌを頼んだぞ」


 剣を抜き放ち、構えるディランの横をルークは走り抜けていった。兵士たちの気が一瞬逸れる。


(殺さないように・・・・ってのは意外と難しいんだよな)


 頭の中でそんなことを思いつつ、次から次へとディランは兵士たちを地に伏していった。

 雨はますます激しさを増す。視界は悪くなる一方で、足場はぬかるんでいる。戦いに最適とは言えなかった。 

 剣を交えながらもディランはリビアを探していた。


(どこだ・・・・どこにフォードはいる?)


 城を見上げてみる。彼女はおそらくフォードの元にいるはずだった。


(中に入ってみるか・・・)


 中庭へと続く通路から兵士たちの悲鳴が上がった。誰がそこで闘っているのかは言うまでもない。とりあえず、ディランは近くの扉から中へ入ることにした。木の扉を押し開ける、と


「『凍結魔法フロウズ』」


 氷の塊がディランめがけて飛んできた。しかしディランは剣を一振りし、それをなぎ払う。そして、驚いている魔道士の首に素早く剣の切っ先を突き付けた。


「フォードはどこだ?」


「し・・・・知りません!!」


 ディランの問いに魔道士はついと視線を逸らし、お決まりのセリフを吐いた。ディランは小さくため息をつくと、剣を握る手に力を加えた。ぐっと呻く男。


「・・・・あいつの為に死んでもいいのか?」


「・・・北の棟の・・・一番上の部屋に・・・女といます・・・」


「よし」


 剣の柄で男の後頭部を叩き失神させ、ディランは身を翻した。『女』というのはもちろんリビアのことだろう。


(フォードのヤツ・・・フォードのヤツ・・・!!)


 頭の中には悪いことばかりが浮かんでくる。ふつふつとわき起こる怒り。

 北の棟は近づきつつあった。

次回はGW明けです。

少し間隔が開きますが、それまでお待ちください。

物語は佳境です。

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