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第54話

 傭兵都市<ゾーグ>

 ラミア国とは正反対のマト・グロッソ高原の東に位置するかなり大きな都市である。<傭兵都市>と呼ばれているだけはあり、武力的地位は他に類を見ない。傭兵学校を卒業した多くの生徒がここで働いてもいる。

 戦争があるわけでもないのに、武力を強化して何か得があるのか―――他の国々の人はそう囁いている。

 この地に、リビアとシャンヌの二人は連れてこられていた。


「ちょっとー!何なのよぉー!ここの責任者は誰ー?!」


 豪華な部屋に連れて来られたシャンヌはわめき散らしていた。目の前には大きなソファとテーブル。綺麗に飾られた花。天井にはシャンデリア。窓からは広大な草原が見える。


「・・・ここ・・・どこよ?」


「<ゾーグ>だよ」


 声はシャンヌのすぐ後ろからした。いつの間に部屋に入ってきたのだろう。目の前のまだ年若い男はシャンヌを面白そうに見下ろしている。


「ここは<ゾーグ>。キミのラミア国とはちょうど反対側にある都市だよ。気に入った?」


「気にいるわけないでしょ!バカランディ!!」


「バカランディって・・・。僕の名はランディだけだってば」


 にっこり笑うランディ。柔らかそうな薄い茶色の髪、淡緑色の瞳。飾りを押さえたガウンの下には、王子様らしくきっちりと正装していた。腰に剣も吊るしている。

 そんな彼を見上げ、シャンヌはやや声を荒げて問うた。


「・・・・どうしてよ?」


「キミが断るのが悪いんだよ?」


 ランディは肩をすくめた。


「兵士たちに頼んで連れてくるように言ったのに、それを返り討ちにしてくれちゃったから、僕のお小遣いが無くなってきちゃってさ」


「答えになってないわ」


 きっと彼を睨みつけるシャンヌ。ランディはくすくすと笑いながらシャンヌの周りを歩いた。ふわりと甘い香りが部屋に広がる。ディランからはこのような匂いを嗅いだ事が無かった。


「キミが悪いんだよ。僕との縁談を破棄してさ。前からあんなに言ってるのに。国にとっても良いと思うんだけど?」


「国って・・。貴方のお父様の国でしょ?!私は国のために結婚したくないだけよ」


「ふぅ〜ん」


 ランディはシャンヌの目の前でぴたりと止まった。まじまじと彼女を見つめる。たじろぐ彼女に、彼は口を開いた。


「ちょっと見ないうちに大人になったね、シャンヌ」


「・・・・うるさいわよ」


 ランディの自分を見つめる瞳に胸が高鳴り、シャンヌは顔を伏せた。嫌いなわけではなかった。幼馴染でもあり、歳も1つ上。顔もまずますかっこいい。ただ、そのしつこい性格を除いては。


「貴方・・・しつこいのよ」


「だってシャンヌのこと好きだもん」


 あっけらかんと言われ、シャンヌは顔を赤らめた。ますます俯く。


「だから、誰にも渡したくない。あのディランっていう剣士にもね。それで・・・・フォードを雇ったんだ。けど・・・」


「けど・・・?」


 シャンヌはランディの異変に気づいていた。頭をポリポリと掻き、落ち着きなく部屋をうろうろする。


「どうしたのよ?・・・・もしかして・・・」


 ランディはか細い声で答えた。


「うん・・・。アイツ・・・・暴走しちゃって・・・」


「で、命令聞いてくれなくなった・・・とか?」


「・・・・・まぁね」


 苦笑いを浮かべるランディ。シャンヌは深いため息をついた。もしかしたら、兵士たちにシャンヌたちを傷つけないでくれとでも命令していたのかもしれない。フォードのせいでうまく伝達されていなかったのだろう。


「ほんとに・・・・バカランディ」


 シャンヌの漏れた呟きと同時に空は光り、そして大粒の雨が音をたてて降り始めた。





「ちょっと!!開けなさいよ!どうして私が閉じ込められなきゃならないのよっ!」


 北の棟の一室にリビアは閉じ込められていた。

 気がついたのはつい先ほど。誰かが扉を閉める音でリビアは目覚めていた。


「こらーーー!!ここどこなのよーー!!・・・こうなったら・・・・」


 腰のブーメランはすでに没収されていた。リビアは急ぎ口の中で呪文を唱えた、その時、


「おいおい、まさか扉壊す気かよ?」


 声は扉の向こう側からした。そして、


がちゃり


 音をたて、それは内側に開いた。そこに立っていたのはもちろん、フォード。


「『火炎魔法フレイム!!』」


 リビアは唱え終わっていた術を問答無用でフォードに放った。無数の小さな炎の弾がフォードに迫る。しかし、彼は素早く腰からダガーを取り出すと、それを全て叩き落とした。


「オレにそれは通用しねぇって言わなかったっけ?」


 呆然と立ちすくむリビアに、フォードはにやりと笑って見せた。


「魔法が得意ってのはもう分かってるって。懲りないネーちゃんだなぁ」


「その呼び方やめてくれない?!」


 きっとフォードを睨むリビア。フォードは手の中のダガーを弄びながら、一歩部屋に入った。それとは逆に彼女は一歩退く。


「んなに、怯えんなって。取って食おうってんじゃねーし・・・なら、ヤっちゃう?」


「誰がっ!!」


 カッと頭に血が上り、リビアは叫んだ。フォードは後ろ手に扉を閉めるとくつくつと笑う。そして、先程までリビアが眠っていたベッドに腰を下ろした。なぜか嫌悪感が込みあがる。


「ここ、どこよ?!」


「ん?<ゾーグ>だけど?」


 ぽんぽんとベッドを叩く。「ここに座れ」とでも言いたいらしい。リビアは首をぶんぶんと左右に振った。


「私を舐めてかかると、すっごい痛い目に遭うんだから!!」


「分かってるって。リビアちゃん」


 ちゃん付けで呼ばれ、リビアの全身に鳥肌が立った。思わず悲鳴のような叫び声を上げる。


「やめてよっ!気持ち悪い!!」


「リビアだろ?名前」


 フォードはリビアを見上げた。リビアは訝しげに眉を寄せる。


「リビア・・・でいいんだろ?アイツがそう呼んでたし」


「・・・・何よ。今更・・・それがどーしたってのよ?!」


「強がんなって。オレが怖いくせに。早くアイツに助けにきてもらいたいんだろ?実際のとこ」


 本心をつかれ、リビアの頭の中は一瞬真っ白になった。が、


「笑わせないでよ!ディランはシャンヌの傭兵よ!助けにくるはず―――」


「来るぜ。アイツは」


 稲妻が光った。一瞬部屋が真っ白になる。フォードはベッドから立ち上がると、リビアの目の前に立った。そしてその顎を持ち上げる。


「お前は餌・・・なんだよ。ディランを釣るための、な」


「バカみたい」


 リビアはフォードの手を叩いた。苦笑し、フォードは叩かれた手をさする。


「それが意外とバカなことでもねーんだよなぁ〜。あんたも気づいてると思ってたんだけ

ど?」


 フォードは窓の外を見た。大粒の雨が窓を激しく打ち、滝のようになっている。

 リビアには分かっていた。フォードの言わんとしていることが。ディランはおそらく、リビアのところへ来る。なぜなら、彼は・・・・


「女の好みがアイツと同じなんてなぁ〜・・・」


 フォードの呟きは雷鳴にかき消された。 



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