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第4話

「それで?あんた、どうしてラミアに行きたいんだ?デリー王のこと、『伯父様』って呼んでたろ?」

 

 ディランとシャンヌは<ロルカ国>を出て、ゆっくりとさらに南に位置する<ラミア国>に向けて歩いていた。ディランの「馬で行かないか?」という提案も「腕を組んで歩きたいの!!」という彼女のワガママにあっという間に却下されていた。有言実行とはこのことで、今も尚、ディランの右腕はシャンヌに抱かれている。


「ああ、あのね。私、デリー王の遠い親戚なの。それでね、ここに遊びに来てたの」


 青い空の下、暖かな風が緑の草原を揺らす。

 ディランはぴったりと身体を密着してくるシャンヌに問うた。


「ロルカ国に来るときは誰か一緒にいたのか?」


「うん。お父さんがね。でも先に帰っちゃった。急用だって」


「その時に一緒に帰れば良かったと思うが・・・?」


「もっと遊んでたかったの!!」


 言ってシャンヌはディランの腕を強く抱きしめた。


「それにね。こんな素敵な傭兵さんと知り合うことが出来たし」


 ディランに微笑んでみせるシャンヌ。ディランは大きくため息をついた。


「・・・あのな。俺は傭兵で、デリー王に頼まれただけだ。あんたと仲良くするいわれは無い」


「なぁによっ!ケチっ!!」


 プイッと横を向き、頬を膨らますシャンヌ。その仕草が昔の懐かしい顔と重なって見えた。


(そう言えば・・・元気にしてるかな、あいつら・・・)


 青く澄んだ空を見上げる。薄い雲がゆっくりと動いているのが分かった。と、ディランは自分の腕が強く引っ張られるのを感じた。


「ねぇ!ねぇってば!!ディラン!!」


「ん?」


「『ん?』じゃないっ!もう空ばっか見て!ラミアまではどうやって行くのか訊いてたのにっ!」


「ああ・・・悪い」


 頭を掻く。すっかり昔の懐かしい世界へと旅立っていたらしい。隣のシャンヌはぶーぶーと不満を言っている。ディランは彼女を手招きすると、地面に地図を書きながら説明を始めた。


「いいか?今はここ。ロルカ国をちょっと出たところだ。で、ここがラミア。そこに行くには途中、町を4つほど通っていく。・・・少し遠回りになるけどな」


「じゃあ、どうして町に入るの?」


 首を傾げる少女に、ディランはわざとらしく大袈裟にため息をついてみせる。


「あんた、野宿したいのか?俺は慣れてるから別に構わないけど・・・」


「イヤよ!イヤ!!ちゃんとしたベッドがいいもんっ!」


 首を大きく左右に振る。ふわふわとしたブロンドが波打った。


(・・・ほんとにお嬢様なんだな)


 小さく息を吐き、ディランはじっと彼の書いた地図を見ている少女を見つめた。彼女も何故かいつの間にか木の枝を持っている。


(何を・・・?)


 そう思ったとたん、彼女はその地図に落書きをし始めた。ロルカ国がネコに変わる。


「・・・・何をしてるんだ?」


「だ〜〜って・・・・。ヒマなんだもん」


 ラミア国がキツネのような犬に変わった。


「・・・俺の説明はもういいのか?」


「もう終わりじゃないの?」


「それじゃ、終わり」


 立ち上がりかけたディランのマントを、シャンヌは問答無用で引っ張った。予想していなかったことに、ディランは尻餅をつき、彼女を睨む。


「・・・お前な・・・」


「お話の続きして!!」


(お話って・・・・)


 ため息を一つ、ディランは胡坐あぐらをかいた。シャンヌの手から枝をもぎ取り、ロルカ国の近くにいつの間にか咲いたヒマワリをこんこんと指差す。


「ここらへんに町があって、南北に広がる森<ファロ・フォレスト>が広がってる。あと、ここら辺にはソルト湖。この・・・なんだ?コレは?」


「ネズミさん」


 ディランの指す落書きに視線を落とし、シャンヌは「かわいいでしょ」と付け加えた。ディランはそのネズミの耳辺りにガリガリと印を付ける。シャンヌの「ひど〜〜い」の抗議の声は無視した。


「この耳の辺りにまた町がある。・・・・ま、俺についてくれば大丈夫だけどな」


 と、締めくくった。シャンヌは「ふぅ〜ん」と呟いたかと思うと、


「ねぇ、次の町はどこなの?」


 立ち上がったディランを見上げた。その言葉にディランはあからさまに嫌な顔をする。

 シャンヌも立ち上がり、心配げにディランの剣士とは思えない端正な顔を見つめた。


「・・・どうしたの?」


「・・・別に。・・・かなり気が進まないとこなだけだ」


「怖いの?!変なの?!」


 好奇心からか、恐怖からか、彼女の瞳が輝きを増している。ディランはほとんど吐き捨てるように言った。


「・・・・・俺の故郷」


「行きたぁぁぁぁい!!!」


 俄然はしゃぐシャンヌ。ディランの腕を取ると、ピョンピョンと跳ね回った。


「行く!行く!!ディランの故郷見たぁぁ〜〜〜〜い!!!お母さん見たぁぁぁ〜〜〜い!!!」


「分かったから、落ち着け」


 シャンヌの反応を予想していたディランだったが、予想外のはしゃぎっぷりに、半ば呆れていた。しかし、彼女は未だ「見たぁぁい!!行きたぁぁい!!」を繰り返している。


(・・・本当にガキのお守りだな・・・)


 思い、視線をシャンヌから何も無い街道に向け――次の瞬間にはシャンヌを抱きかかえるように脇道に倒れこんでいだ。


「ディ・・・ディラン?!」


 ディランの胸の中で赤くなっている少女には目もくれず、ディランは草地に視線を這わす。と、先程二人がいた場所の地面にぱっくりと亀裂が入った。小さく悲鳴を上げ、シャンヌはディランの胸に顔を埋める。


「な・・・なんなのっ?!」


「ヒュージマンティスだ」


 ディランの視線は草の中のあるものを捕らえていた。シャンヌもしばしそちらを見る。と、


「あっ」


 綺麗に草が刈られていく。その背景がぼんやりと霞がかったようになった。


「・・・やっと現れたな」


 緑の草の色のような体に鋭い鎌。擬態もここまで行くと賞賛に値する。

 ヒュージマンティスは擬態するモンスターであった。例えば、今回のような草原や森、果ては空の色にまで似せることができる。それによって獲物の目をあざむき、鎌の一撃で相手をしとめ、喰らう。ディランは先程から、やけに草が揺れているので妙だとは思っていたのだった。


(マンティス一匹か・・・)


 ディランは左の腰から長剣を抜くと、


「シャンヌ!動くなよ!!」


 言うが早いが、それに向かい走る。マンティスは大きな鎌を振り上げ、迫り来るディランに振り下ろした。ひゅっと耳元で風がうなったのが聞こえる。難なくかわすと、ディランはその緑色の腹に剣を突き刺した。


「やった!ディラン!」


 シャンヌから歓声が上がる。しかし、マンティスは再び鎌を持ち上げた。


「しつこいヤツだ!」


 舌打ち一つ。ディランは突き刺したままの剣をそのまま上へと振り上げた。


ザシュッ


 緑色の体から赤い血を噴き立たせ、縦に二分されたマンティスはそのままゆっくりと後ろに倒れていった。


「す・・・すごーーーい!!!」


 腰に愛用の長剣を収めたとき、シャンヌはディランに拍手を送っていた。


「すごい!!ディラン、すごいよ!!惚れ直しちゃった」


「はぁ?」


 聞き返すディランのその腕は再び少女に絡め取られる。


「すっごい強いんだね、ディランって」


「・・・剣士だから、それくらい当たり前だろ?」


「否定しないんだ」  


 クスクスと笑うシャンヌ。何が楽しいのか、「そっかそっか」と言いながら彼女は嬉しそうにディランの腕に擦り寄っている。


「ねぇ、またモンスター出てきたら、守ってくれる?」


「はぁ?当たり前だろ?それが仕事だ」


「言うと思った!!」


 そして再び笑い出す少女。


(・・・何、考えてんだ、こいつは・・・。やっぱりガキのお守りだよな・・・これって)


 空と風と草原とシャンヌの笑い声。

 ディランはしばらくはこの光景を見ていなくてはならなかった。――故郷<マトゥーラ>を目の前にするまでは――


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