表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/63

第41話

「まぁ、お茶でもどうぞ」

 

 中年の男―アラークと名乗った―は、古ぼけたソファに座るディランたちにお茶を出してきた。濁った茶色い液体。シャンヌは湯気の立っているカップを手に持つと、そっとその匂いを嗅ぎ――静かに元に戻した。


「ディランさん・・・とおっしゃいましたね」

 

 アラーク自身もソファに座ると、カップを口に運んだ。一口すすり、そしてなぜか眉を寄せる。


「・・・・この茶は・・・・まずいな」


「ぶっ!!」


 ルークは飲みかけていた液体を噴き出した。リビアとシャンヌがそれぞれ「汚〜い!」と騒ぐが、そんなことは知ったことではない。


「そんな茶をオレらに勧めんなよっ!」


「いや、でも、まぁ。なんだ」


 アラークは茶菓子に手を伸ばした。茶色く丸い物体をつまむと、口の中に放り込む。


「ほぉんしぇんのほぉほぉをしぇりちゃいんだほ?」


「食ってから言え」


 冷やかなルークの声。アラークはしばらく口を動かしていたが、やっとのことでそれを飲み込むと、


「温泉のことを知りたいんだろ?」


「別に」


 そっけなく答えたディランの脇に、リビアの肘鉄が飛んできた。小さく呻き、ディランは「そうだ」と答えなおす。


「何か訳があるんだろ?村人たちが隠れていたのにも」


「・・・そうなんです」


 大きくため息をつき、アラークはまた茶菓子に手を伸ばし――


「これはダメっ!」


 ブロンドの少女に取り上げられた。悲しそうな顔をする中年の男、アラーク。再びため息をつくと、ぽつりぽつりと話しだした。


「昔は・・・・ここは有名な温泉地じゃった。どこからでも温泉が湧き、村人はそれを利用して作物を育てたり、エルール名物のまんじゅうを作ったり・・・。それはもう活気に満ち溢れていたんじゃ」


「・・・おっさん、口調が・・・」


「ルーク、静かにっ!」


 ルークの言葉はアラークには聞こえなかったのか、彼は先を続ける。


「しかし、いつの頃からか、わしらの命とも言える温泉が出なくなってしもうたんじゃ!これじゃあ、農作物も育たない!温泉まんじゅうもつくれないっ!お客さんも来ない!可愛い女の子の裸も見れないっ!!」


「・・・・犯罪じゃねーか・・・」


 ぽつりとこぼすルーク。アラークの眉がひくりと動いた。そして、ゆらりとルークを見る。


「お主には女子の裸を見たいという男のロマンがわからんのか?!」


「だーかーらー!!こっそり見たら犯罪だろーがっ!!こういう時は、堂々と真正面から――」


「どっちも十分犯罪よっ!!ばかっ!」


 リビアに後頭部をはたかれ、ルークもアラークも机に突っ伏した。それを見て、ディランとシャンヌが深いため息をこぼす。


「アラークさんも!ふざけてないでっ!!しっかりしてください!!」


「気の強い女子じゃぁ・・・。わしの好――」


「とにかくっ!」


 ばんっと音をたて、リビアは机に両手をついた。そして、きっとアラークを睨む。


「話を進めないと帰りますよ?!」


「う・・・うむ。分かった」


 アラークはこくこくと首を縦に振り、カップを口に運ぶ。そして、一言。


「まずい」


 生暖かい風が壊れた窓を通して部屋にまで入ってくる。

 誰かがゆっくりとソファから立ち上がった。


「んじゃ、これで」


「行くか」


「アラークさん、ばいばーい」


「あいよ、待たれいっ!!」


 はっしと手を掴まれたルーク。彼はあからさまに嫌な顔をした。


「あのな、オレら結構忙しいんだよね。単なる愚痴とかなら他のやつにしてくんねーかな?じゃないと、オレら暴れるよ?」

 

 パキパキと指を鳴らし、ルークはディランら3人を見渡した。彼らもゆっくりと頷く。もはや誰もアラークの話には興味はないようだった。

 男はやっとこの状況を飲み込んだのか、ひくひくと愛想笑いを浮かべ、


「い・・・イヤだなぁ。ジョークですよ。ジョーク」


 脂汗を浮かべ、へらへらと笑う。


「ほら、ルークさん。そんな怖い顔なさらずに・・・。ああっ!リビアさんもそのブーメランはなんですかっ!あっ!ディランさん、こんな部屋の中で剣なんかを抜いちゃ危ないですって!ほら、シャンヌさんもみなさんを止めて!」


 アラークにそう言われ、シャンヌは大きくため息をついた。

 そして、ぴっと人差し指でおろおろしている男を指し、


「・・・・っちゃえ」


 アラークの顔から、すーっと血の気が引いて行った。シャンヌの号令で、ディランたちがずいっと男に迫る。


「えっ?!わっ・・・やっ・・・あーーーーーー!!!!」


 アラークの悲鳴は、誰もいない屋敷に響き渡った。


明けましておめでとうございます。

2009年もよろしくお願いいたします。


更新がゆっくりめですが・・・・気長に待っていてください。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ