第40話
「あ・・・あの・・・」
リビアがおずおずとその男性に声をかける。彼はじろりとリビアを見つめ、その後ろにいるディランら3人を順番に見つめていく。シャンヌは自然とディランの背に隠れるような行動をしていた。
「温泉について・・・知りたいだと?」
ほとんどリビアの呼びかけを無視し、その男は独り言のように言った。
「それを知って、どうずるんだ?」
「どうって・・・。いや、なんで枯れてるんかな〜って不思議に思ってさ」
リビアに代わり、ルークが肩をすくめる。
「それに、なんで村の人たちが誰もいないのか、とかさ」
「いないんじゃなくて、隠れてるんだろ?何かからかは知らないけどな」
ディランの言葉に、男の眉が片方ぴくんと跳ね上がった。掠れた声でかろうじて言う。
「お前・・・・知っていたのか?」
「畑も手入れが行き届いてるし、道の状態も悪くない。村人がいるって考えるのは当然だろ?」
ディランはさらりと言い放った。そこに、リビアが声をかける。
「ちょっと、ディラン。気づいてたならそう言ってよね!」
「ほんと!無人の村かと思って怖かったんだから!この家、ぼろぼろだし」
「・・・悪かったな。ぼろぼろで」
シャンヌに静かにツッコミを入れる男。彼女は「ひっ」と小さく悲鳴を上げると、ディランの背に再び隠れた。
「ただ直すのが面倒くさいだけだ」
「って、窓とか取れかかってるっすよ?」
「暑いからちょうどいいんだ」
「この雑草は?」
「うさぎの餌だ」
沈黙。
「・・・・・・・・・で?」
腕組みをして聞いているルークが促した。
「そんで?」
「何が?」
間。
しびれを切らしたのはルークの方だった。
「だーかーらー!!なんで温泉が枯れてて、村人が隠れてるんだって聞いてんだよ、オレらはっ!」
「おー。そうだった」
ぽんと手を打ち、男は思い出したように再び生気のない表情を作った。
「この村には呪いが――」
「嘘だろ」
再びの間。
ルークが男の相手をしてくれているのを良いことに、ディランら3人はもはや彼らのやり取りを聞いてはいなかった。いつの間にか家の中から出てきていた白いウサギに夢中になっている。最も、ディランはリビアとシャンヌがウサギと戯れているのをぼんやりと見ているだけだったが。
「んじゃ、オレらもう行くわ」
付き合いきれなくなったルークが立ち去ろうとしたまさにその時、左腕をぐいっと引かれた。思わずつんのめりそうになるのを、ルークはかろうじてこらえる。
「待たれいっ!!」
「待たれいって、どこの時代だよっ?!」
突っ込みを入れてしまうルーク。男はルークの腕を掴んだまま、すがりついてきた。
「旅のお方、どうか我々を助けてくだせぇまし!このままじゃ、村が駄目になっちまうだぁ!」
「おっさん、口調変わりすぎ!つーか、演技なのバレバレだし!誰もひっかからねーって!」
「いやいや、そう言わずに!ほれ、連れの御三方!どこに行きなさる?温泉について聞かせて進ぜよう」
逃げようとしていたディランたちにも声をかける男。もはや口調がちぐはぐで、聞いている方が恥ずかしかった。
「ルーク、後は任せた」
「頑張って、ルーク」
「じゃあねぇ〜」
「ちょい、ちょい!待て、お前ら!見捨てるな〜!!」
ルークの悲しげな悲鳴は、しばらく村中に響いていた。