第37話
容赦の無い暑い日差しが4人に照りつける。額に汗を浮かべつつ、黙々と赤茶けた道を歩いていた。
生い茂っていた草はいつの間にか、ディランたちの見慣れないものに変っていた。道も次第にごつごつした岩が多くなってきている。そして、時折風に乗ってくる硫黄の匂い。初めの方こそ、シャンヌは「くさ〜い!」とぶつぶつ言っていたものの、「温泉が近い証拠だ」というディランの一言にすっかり黙ってしまっていた。
「あぢ〜〜・・・」
Tシャツの首をひっぱり、それをパタパタさせながらルークは先頭を行くディランに文句を言った。
「おーい、ディラン!まだ見えねぇじゃねーか!」
「バカ。山が近付いてきてるだろ。その中腹にエルールはあるんだ」
「バカって・・・・」
「ルーク。我慢して」
リビアの言葉に、ルークはバカ呼ばわりされたことをぐっとこらえた。手の甲で額の汗をぬぐう。
「しかし、あっちーな。ここ」
生ぬるい風がルークの頭を撫でていく。シャンヌはポーニーテールにして露わになった首筋に手を当てながら、
「ねぇ、どうしてこんなに暑いの?」
と、隣のディランを見上げた。彼は小さくため息をつく。
「ここら辺はもともと火山地帯だったんだ。活火山もその山の向こうにあるしな。地熱を利用して暖をとったり、植物を育てたり、温泉を作ったり・・・。ほら、あの山の至る所から蒸気が見えるだろ?山から吹きつける風が暖かいのはあの蒸気を含んでるからだろ、きっと」
「ふぅ〜ん・・・。火山ってただ爆発するだけじゃないんだ」
「爆発したら、たまったもんじゃないんだけどな」
苦笑しながら答えるディランに、後ろのリビアが言葉を投げかけた。
「ねぇ、エルールって、何かの伝説がなかったっけ?」
「はぁ?伝説?」
ディランに代わり、ルークが答える。
「何の伝説ってんだよ?大食いヒーローか?しゃべる犬ってか?」
かかかと笑うルーク。リビアはその赤い後ろ頭をぺしりとはたいた。
「もうっ!そんなんじゃないって。ディランは何か聞いたことない?」
「さぁな」
肩をすくめるディラン。リビアは「そっか」と小さくため息をついた。もう少しで思いだしそうなだけに、何か気持ちが悪い。
そうこうしているうちに、山の入り口にさしかかった。ここからはなだらかな坂道が続いている。ただ道と言っても、岩や石がごろごろと転がっているようなところだった。
「はぁ・・・。ここ行くのかぁ〜」
シャンヌが大きくため息をついた、その時、どこからともなく小石がディランの足元に転がってきた。
「?!」
4人は山を登り始めたばかり。後ろは草がまばらに生えている平野。右手には岩の壁。左側には何もない。目の前――大きな岩の陰に隠れるようにして、何かがいる。
左手でシャンヌを自分の背に隠し、ディランは長剣を引き抜いた。
「おい、ディラン!」
「ああ。5匹・・・か?」
「はずれ。6匹よ」
ルークもリビアも身構えつつ、その岩影を見つめる。
「何だと思う?リビア」
「さぁ・・・。でも、先手必勝ってね」
言い、ルークにウィンクを送るとリビアは素早く口の中で魔法を唱え、それを岩に向かって
解き放った。
「『火炎魔法』」
炎の球は岩に当り、大きな音とともに四散した。――と、
「出たっ!ゴブリンだっ!」
「ってゆーか、なんか気持ち悪いしっ!」
ルークとシャンヌの悲鳴。突然の炎に驚いたゴブリンたちは岩影からぱっと姿を現した。その数、6匹。
「一人2匹!」
言いながらディランは走ってきた先頭のゴブリンの首を跳ね飛ばした。緑の血が岩に飛び散る。
「きゃっ」
という、シャンヌの悲鳴。その横を走り抜けたルークとリビアは、ゴブリンたちを取り囲むように左右に分かれた。
「『雷電魔法』」
空にかざした両手を一匹のゴブリンに向かって振り下ろす。
びばばばばばっ
雷を全身にまとい、ゴブリンはそのまま地へと倒れ、二度と起き上がることはなかった。
「はっ!」
ルークの右の拳がもう一匹のゴブリンの顔面を捉えた。
「ぎゅがっ・・・」
鷲鼻から緑色の液体を出しながらも、それはルークの頭上へ棍棒を振り下ろそうとする。
「させるかよっ!」
右足でその棍棒を蹴り飛ばし、そのまま踵をゴブリンの首筋に落とした。
がつっ
鈍い音。そして、それはゆっくりと前のめりに倒れていった。