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第29話

 遠くの方で何かが爆発している音がする。陽が傾きかけた空に灰色の煙が数個、見てとれた。

 4人は今、ディヤルバルクの町の近くを歩いていた。

 あれ以来、兵士はもちろんのこと、モンスターも現れてはいない。シャンヌはというと、疲労で口が利けない状態になっていた。


「ねぇ、今の音、何かな?」


「花火かなんかじゃねーか?ほら、空にその名残みてーなもんがあるしよ」


 リビアの問いにルークが答えた。顎でその空を指す。リビアは思ったことを口にした。


「お祭りでもやってるのかな?」


「お祭りっ?!」


 それにいち早く反応した人物がいた。その名はシャンヌ。疲れていることも忘れて、彼女は

隣を歩くディランの腕をぶんぶんと揺する。


「ねっ、ねっ、お祭り行こうよ!」


「はぁ?」


「行きたいの、お祭り〜〜!!」


 彼女の声に答えるように、再び花火が上がる。それをぼんやりと眺めながら、


「そろそろ休む時だと思わない?」


「女の子には優しくしねーとなぁ」


 リビアとルークがそれぞれ口にする。ディランは渋々頷いた。どちらにしろ、今日はディヤルバルクに滞在する予定だった。


「祭りはちょっとだけだぞ。フォードがどこかに潜んでるかもしれないからな」


「やった〜!!ありがと」


 疲れはどこへやら。元気に飛び跳ねているシャンヌ。彼女を見て、ディランは思わずため息を漏らしていた。


(子守りが一日また延びるのか・・・)


 シャンヌに手をひっぱられ、ディランら一行はディヤルバルクの町へと歩いて行った。





 辺りはすっかり暗闇に包まれていた。遠くの森の中からかすかにフクロウの鳴き声や獣のうめき声が時折耳に入ってくる。

 しかし、ここディヤルバルクは違った。質素な家や通りはきらびやかに飾られ、煌々(こうこう)とランプが灯っている。町の中央広場には手に稲の束を持った女神の像があり、その周りにはお供え物の果物や苗、酒などが置かれていた。人々はその周りで酒を飲みかわし、歌い、踊り、音の止む暇は無いと言っても過言ではなかった。

 ディヤルバルクはどうやら田植祭を開催しているようだった。


「うわ〜!!すごい!」


 街の入り口で感嘆の声を漏らし、シャンヌはディランの腕を引っ張った。


「ね、早く行こうよ!何かおいしいものとか、キレーなものとかあるかもしれないよ!」


 確かに肉の焼けるようなおいしい匂いがディラン達の元まで漂ってきている。カジノとは煌びやかさが全く違うが、素朴な町の活気にシャンヌは興奮しているようだった。町外れの門から広場への道をまっすぐに一人で突き進もうとしていた。


「おい!一人で行くな!」


「もう!早くー!」


 手招きをするシャンヌ。慌てて追いついてきたディランの腕を、シャンヌは嬉しそうに抱きしめた。溜め息と同時にディランは後ろを―リビアとルークを振り返る。二人はディランたちの様子をぽかんとした表情で見ていた。


「あ・・・。ちょっと、行ってくる」


「はいはい。行ってらっしゃいませ」


 手をパタパタと振り、ルークが答えた。


「俺たちもあとからゆっくり行くからさ」


「・・・・・分かった」


 一瞬リビアを見つめた。彼女は無表情にディランを見つめている。


(リビアは・・・ルークに任せるか。少しの間だ・・・何とかなるだろ)


 自分に言い聞かせるように、ディランはシャンヌに手をひかれ中心部へと半ば小走りに歩いて行った。

 しかし、この時のディランの不安は後に当たっていたのだということに、まだ彼は気づかないでいた。


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