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第28話

「なんだ・・・あいつ・・・」


 ポツリとルークがこう呟いたのは、フォード達の姿が完全に草原の向こうに消えてからだった。


「何だったんだ?」


 再び口にし、ルークはディランを見る。ディランは剣を鞘に収めると、大きく息を吐いた。


「あいつの名はフォード=ダラス。俺と同じ学校に通ってた」


「ああ、それでお前のこと知ってたのか」


 頷くルーク。


「でも、何か嫌味なヤツよね」


「しかも私に何か言ってたし!」


 ムスッとした表情でリビアはディランを見つめた。


「いったいアイツとはどういう関係なの?仲の良い友達って感じじゃあないわよね?」


 彼女の表情から「ちゃんと説明しろ」という意図が読み取れる。ディランは「仕方ないな」と小さく独り言を言ってから、その場に腰をおろした。その周りにリビアら3人も集まる。ディランはぽつりぽつりと話し始めた。


「7年前、俺は<マグウェイ>のウィック・チャックという剣士訓練学校に行った。そこにたまたまあいつがいた。俺とあいつは初めは仲が良い・・・かは分からないが、普通のクラスメイトだったように思う」

 

 リビアもシャンヌも静かにディランの話を聞いている。ただ一人、ルークは胡坐あぐらをかいて大きく舟を漕ぎ始めていた。


「でも、俺たちは次第に互いの存在が鬱陶うっとうしくなってきた。

 試験や実技その全てで俺たちは最後まで張り合ったしな。ある時は俺が勝ち、ある時はフォードが勝った。卒業と同時に分かれたが、シャンヌの護衛トーナメントで偶然出会って・・・・・って、お前、何か話すことあるだろ」


 今までディランの話を真面目に聞いていたシャンヌだったが、リビアとディランに見つめられ、ふと視線を手元に落した。そして小さく「ごめんなさい」とこぼす。

 そんな彼女にリビアは優しく話しかけた。


「シャンヌ=ルベリオン=ラミアって・・・あなた、ラミア国の王女様だったのね?」


「・・・ごめんなさい」


 再び謝るシャンヌ。うつむいているため肩からはらりとブロンドの髪が彼女の頬にかかった。

 その時、ルークのいびきが3人の耳にはっきりと聞こえた。いつの間にか大の字で眠っている。


(ったく・・・)


 ディランが彼の脇腹を蹴ると、彼は「んがっ」と声を発して飛び起きた。そして眠そうに赤毛をぽりぽりと掻く。ディランら3人に無言で見詰められ、ルークは無言で話の先を促した。シャンヌはつぐんでいた口を再びゆっくりと開く。


「ほんとにごめんなさい、隠してて・・・。大臣に言うなって言われてて・・・。身分を明かしたら危険だからって・・・」


「まぁな・・・。でもそれなら城の兵士たちに守ってもらった方がいいんじゃないか?こんな隠密おんみつ行動とるよりはさ」


 素朴な疑問を口にするルークに、シャンヌは困った顔を向けた。ちらりとディランを見てから、彼女はそれに答える。


「あのね、その理由の一つはね・・・兵士たちにかっこいい人がいなくって・・・」


 しばしの間。


「・・・・・・・は?」


「だから、兵士ってみんなおじさんっぽいって言うか、ちょっとムサイって言うか何と言うか・・・」


「だからトーナメントを開催したってわけか?!」


 ディランは声を張り上げた。シャンヌは恥ずかしそうに首を縦に振る。それを見て、ディランはこめかみに手を当てた。何と言っていいのか言葉が見つからない。

 彼に変わり、今度はリビアが若い王女に問いただす。


「でも、シャンヌ。もしトーナメントでディランみたいじゃなくて、もっと不細工なのが勝ったら・・・どうするつもりだったの?例えば――ルークとか」


「おい」


「ルークでも別に良かったよ。年が近い男の子と話してみたかったし。でも・・・・フォードはちょっと怖かったんだ。トーナメントの決勝でディランと闘ってるのをちらっと見たんだけど・・・。あの人、私、嫌い。だからディランが勝つようにってずっとお祈りしてたの」


 言うとにっこりとディランに笑いかける。不細工呼ばわりされたルークはややぶすっとして

いたものの、シャンヌに嫌われているわけではないと分かると、いつもの表情に戻っていた。


「私、ほんとにディランが勝って嬉しかったの。だからワガママ言って大臣とかついてこさせないようにしたし・・・。それに、リビアやルークにも会えたから、ディランにはほんとに感謝してるのよ」


「・・・分かった。もういい。あんたがワガママな理由も分かったしな」


 ため息とともにディランは言うと、彼は立ちあがった。ズボンやマントについた草を払う。


「今まで通り、シャンヌはシャンヌだ。王女と分かったからって特別扱いはしないからな?」


「うん!ダイジョーブ!」


 指でブイサインを作ってみせるシャンヌ。ディランは彼女からリビアへと視線を移した。彼女の明るい茶色の瞳を見つめる。


「リビア、お前も気をつけろよ。フォードはお前のこと・・・・その・・・・」


「うん。分かってる。十分気をつける」


 笑ってみせるリビア。自らも腰を上げ、隣に座っていたルークも引き起こす。


「それから・・・フォードとの・・・終わらせてくれてありがと、な」


「・・・・うん」


 ほとんど呟きに近いディランの声。しかしそれだけでリビアは幸せだった。


「ルーク、リビアを頼むぞ。俺はシャンヌで手一杯になりそうだからな」


「まっかせなさい!」


 ルークはそう叫ぶとガッツポーズをつ作り、にかっと笑った。


「ダブルデートと行きましょうか!」


『そういう意味じゃないっ!!』


 ディランとリビアのクレームの声はものの見事にハモったのだった。




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