第27話
「っか〜〜!!空が青いぜ、ちくしょ〜!!」
青空を見上げ、伸びをしながらルークは意味不明なことを叫んだ。そして、視線を空から緑の草原へと移し、
「おっ・・・」
思わず声を漏らしていた。ルークの視線の先には、武装してラウンに乗っている兵士の姿。その数7人。
ラウンとは鳥と馬を足して二で割ったような体の動物である。二足歩行のため羽は退化し、体の脇に小さくついているだけだが、その脚力はすばらしく、一説ではチーター並みのスピードが出るとか。カジノだけではなく、頻繁に町や村単位でレースが開かれることも多々ある。そのラウンに乗った一人が、ディランたちに近付いて来た。
「ディラン=ハートフィールドだな?」
突然のぶしつけな問いに、ディランはややむっとしながら口を開く。
「・・・違うといったら?」
「いや、お前はディラン=ハートフィールドだ。こっちにはお前とシャンヌ様を知っている者がいる」
「なら聞く必要、ねぇーじゃねーか」
「・・・・確認のためだ」
ルークの言葉に兵士はむっとしながら、ディランから視線をシャンヌに合わせた。
「シャンヌ=ルベリオン=ラミア様。我々と共にいらしてください」
『シャンヌ=ルベリオン=ラミアぁぁ?!』
深々と礼をする兵士とは対照的にディランら3人はそれぞれ叫んでいた。振り向いたディランの瞳に、シャンヌが指でバツ印をつくっているのが映る。
「そっちへは行きたくないそうだが?」
「・・・そうか・・・」
ディランの言葉に兵士は小さく舌打ちし、
「ならば仕方無い」
言い放つとラウンの背から降り、すらりと腰の剣を抜き放つ。
「7人か・・・。ルーク、リビア、2人ずついいな!」
「OK!」
「もっちろんだぜ!」
ディランは剣を、リビアはブーメランを構える。ルークはパキパキと指を鳴らすと口の端を持ち上げた。
「殺さねーから安心しな!」
言い終わるより早く、ルークは駆け出していた。後方で控えていた兵士二人の元へ。彼らはちょうどラウンから降りたところだった。
「!!」
慌てて兵士たちは身構える。しかし、それもすでに遅く、ルークの繰り出した右の拳が兵士一人の鳩尾に入り、左の蹴りでもう一人もあっという間に地へと倒れ伏す。
リビアもルークの後を追っていた。ブーメランを兵士二人に向かい投げる。ブーメランは兵士の剣をかいくぐり、軌道を変えると兵士一人の後頭部に直撃した。
「くそっ!」
毒つき、リビアに剣を振り下ろすもう一人の兵士。それを身を沈めることでかわすと、地に落ちているブーメランを拾い投げる。弧を描き、それは兵士の剣を弾き飛ばす。
「悪く思わないでね」
ぺろっと舌を出し、リビアは手元に戻ってきたブーメランを兵士の頭へと振り下ろした。
「シャンヌ様を渡せっ!!」
叫び、隊長格と思われる兵士がディランに迫る。ガキっと火花を散らす剣と剣。ディランの後ろにはぴたりとシャンヌがくっついている。
「そっちには行きたくないそうだ!」
ディランも叫び、足で兵士の足元を払った。剣を放り出し、兵士はあっけなくひっくり返る。そこに別の兵士が突っ込んできた。振り下ろされた剣を右へかわし、ディランは剣の柄でその男の脇腹を突いた。
「ぐっ・・」
小さく呻き、うずくまる兵士。立っているのは、先ほどひっくり返った隊長格の男と、もう一人の兵士だけだった。ラウンは戦い開始と同時に、どこかへ逃げてしまっていた。しばし、地に伏している兵士たちのうめき声がその場を支配する。
「はっ!!」
それを破ったのはディランの気合いの入った一言だった。右に大きく振りかぶっていた剣をそのまま水平に左へと薙ぐ。―――と、
「・・・えっ?!」
衝撃派が立っている二人に直撃した。腹を押さえ、兵士ら二人は呆然とした表情のままゆっくりと倒れていった。
「なんでぇ。口ほどにもねぇ」
パンパンと手を払い、ルークが言ったその時、
「確かに。ディラン一人だけかと思ってたが・・・」
声がした。ディランらの後方、森の中から。木の陰に人影が見える。
「それにおまけがいろいろとついてちゃあ、しょーがねーか」
声はディランの知ったものだった。剣を持つ手がじっとりと汗ばんでくる。掠れる声で、ディランは言った。
「・・・フォード・・・。あんたか・・・」
「よぉ。ディラン。悪いな、オレも<傭兵>でね」
言うや否や、背中の大剣をいとも容易く抜くとそのままディランに切りかかる。
「ディラン!!」
悲鳴に近いシャンヌの声。ディランはかろうじてそれを受け止めていた。剣を合わせたままでフォードは言う。
「へぇ・・・。女が二人か。うち一人はお姫様ね・・。どっちが好みだ?」
「黙れっ!!」
剣を弾き、ディランが今度はフォードに切りかかった。しかし、相手はそれを難なく受け止める。彼は口元にうっすら笑みを浮かべると、
「オレはこっちのネーちゃんの方がいいけどな」
言いリビアを見る。
「なぁ、あんたオレの女にならねーか?」
「なっ・・・」
「フォード!!」
リビアが声を発するより早く、ディランは剣を押すとそのまま振り下ろした。刃が合うその度にキンッと澄んだ音が響き渡る。
「いーじゃねーか、一人くらい。こっちによこしたってよ」
「黙れっ!」
ギンッ キンッ
火花を散らす二本の剣。そして、何度目かの睨み合い。――その時
「『風陣魔法』」
澄んだ声と共に、ディランとフォードの間に一陣の風が吹き抜けた。あまりの強風にディランもフォードもバランスを崩す。
「おっととと・・・。んじゃ、ま、今日はこのくらいにしとくか。邪魔も入っちまったしな」
言うと、フォードはリビアを見つめた。
「じゃーな。ネーちゃん」
そして、自分を睨んでいるディランには「またな」と一言、負傷した兵士達を引き連れいずこかへと姿を消した。