第26話
「さぁーてと。次はどっちに行くんだ?<ディヤルバルク>か<エルール>か」
朝食を食べ終えた4人は、カジノ<ラゼルム>を出て、森の中を歩いていた。空は今日も澄み渡るような快晴。心地良い風も吹いている。
先頭を行くルークが朝食時にディランから貰ったものをひらひらさせながら振り返った。
「どっちにするんだ?ディラン」
「ここから一番近いのは<ディヤルバルク>だが・・・。カジノで時間食ったし、<エルール>でもいいぞ」
「それに方向は途中まで一緒だしね。あんたは魔除けのお札でもおでこに貼ってなさい」
リビアの言葉にシャンヌはくすくすと笑う。左手首にはシルバーのブレスレットが輝いていた。
ディランはシャンヌにブレスレットを、リビアにはおしゃれナイフを、そしてルークには余ったコインで魔除けのお札5枚をあげていた。これには最初、ルークは猛抗議をしたものだった。
「男女差別はんたーい!!リビアやシャンヌちゃんにはいいモノあげたくせに、オレだけなんで魔除けなんだよ〜!今時、お札なんて古ぃ〜よ!」
「甘いよ、ルーク。こんな時代だからこそ!ディランは魔除けのお札を選んだのよ!いざというとき、ルークが颯爽と現れて、魔物をそのお札で退治する!!かっこいいじゃない!」
「そうだよ、ルーク!!私も、そのえ・・・っと、魔除けのお札で退治してるルークの素敵な姿、見てみたいもん!」
そうリビアとシャンヌに無理やり刷り込まれ、ルークは機嫌を回復した。そして、今や先頭に立って「魔物が出てこないかな〜」などと鼻歌交じりに歌っているのである。この時代に魔物なぞ存在しないというのに・・・・。
「・・・単純なやつ」
ぽつりとつぶやいたディランの言葉に、腕をからませていたシャンヌが顔をディランに向けた。
「ルークのこと?」
「ああ」
「でも、いい人だよね。強いし」
「まぁな」
口の端を上げて見せると、シャンヌは嬉しそうにギュッと腕を抱きしめた。それにディランが眉を寄せる。
「おい、歩きにくいだろ」
「いいじゃない。ちゃんとモンスターが出てきたら離れるもん」
「そういう問題じゃない!」
ちらりとリビアを伺うと、彼女はディランとシャンヌのやり取りなど興味無しといった顔で颯爽と歩いていた。シャンヌは小首を傾げる。
「リビアが気になるの?」
「あ・・・いや・・・」
思わずそう答えた時、振り向いたリビアと目が合った。ディランは息をのむ。
「なぁに?いいんじゃない?ラブラブで。シャンヌも戦いになったら邪魔しないって言ってるんだし?そうやって一緒にくっついてきたら?」
「ほら!リビアだって、ああ言ってるし。ね?ディラン」
「・・・・ああ」
ため息交じりにディランは頷いた。あどけなく笑うシャンヌはディランから見ても可愛いとは思う。しかし、
(・・・自己中・・・だよな、やっぱ)
左腕にぴたりとくっつき、鼻にかかった甘い声で小さく歌を口ずさむシャンヌ。そのやや前方にはリビアが、そのさらに先にはルークが歩いている。
(さっきのリビアのセリフ・・・なんかトゲがあったような気がしたんだが・・・。気のせいか?)
当の本人のシャンヌはその彼女のセリフを良いように理解したのだが、ディランには皮肉のようにも聞こえた。遠回しに「こんなところでいちゃついてるんじゃない!!」と言われているような・・・。
「いいな〜。傭兵っつーのは、モテモテでよ」
ルークが皮肉を言った。後ろ向きで歩いているため、時折草や石に足をとられている。
「オレも傭兵になろっかな〜」
「バカ。そんなに簡単なもんじゃない」
「わぁーってるって。ディランだからなれたんだもんな。それに、オレはそんなに戦い好きじゃねーしよ。モテるのは嬉しいけど、傭兵なんて仕事、オレには向いてねーよ」
くるりと向きをかえ、ルークは普通に歩きだした。あのお札は今はポケットにしまっているようだ。その彼の後ろ姿をディランは見つめた。
(俺は別に戦いが好きだから傭兵になったわけじゃない。なら、どうして剣士になった?兄貴の影響か?親父を見返したかったからか?)
ぼうっと虚空を見つめているディランの腕をシャンヌは引っ張った。
「ねぇ、どうしたの?」
「・・・別に」
シャンヌに見向きもしないディラン。少女は悲しそうに睫毛を伏せると黙って彼の横を歩いていた。その彼女にリビアが声をかける。
「ねぇ、シャンヌ。あなたの出身って<ラミア国>?」
「え?う・・・うん。そうだけど・・・?」
隣で並んで歩くリビアに向い、シャンヌは曖昧な笑顔を作った。ディランに軽く無視されたことが、シャンヌには自分で思っているより堪えていた。
「なぁ、そこってどんなトコだ?」
ルークが話に割って入ってくる。シャンヌは眉を寄せ、う〜んと唸ってから
「う〜〜ん・・・。あのねぇ、広くってキラキラしてて、お花がいっぱいあるところ」
「・・・他に言い方はないのか?」
黙って聞いていたディランはたまらず口を挟んでいた。
「幼児か、お前は」
「だーって!印象ってこれくらいなんだもん!あ、あと女の人がキレー!」
「お!いいね!それ!!」
ぐっと親指を出すルークにシャンヌも笑ってそれに答えた。
「お花がいっぱいのところか・・・。素敵なところなんだね」
「そうなの!だから、みんなに早く見せたいんだ」
無邪気に笑うシャンヌ。そんな彼女をリビアは羨ましそうに見つめていた。
(こんなに可愛い依頼人なら、ディランじゃなくても惚れるよね、きっと)
リビアの小さな溜め息とルークの「森を出たぜ」の声はほとんど同時だった。