第15話
「はぁ〜。気持ちいいねぇ〜」
「・・・そうだな」
「はぁ〜。良い天気だねぇ〜」
「・・・そうだな」
カメの上に乗り、ディランとシャンヌの二人も川を渡っていた。乗る前は「いやっ!気持ち悪いっ!」を連呼していたシャンヌも今はこの調子である。
(まったく・・・女ってのは分からないものだな。・・・シャンヌが特別か・・・?)
思い、小さくため息をつくと、前に座っているシャンヌが振り返った。
「んもうっ!どうしてディランはいつもいつも暗いのよぉ!少しは笑ったらぁ?」
「俺は暗くない」
ディランは無表情で答えた。シャンヌは頬を膨らます。
「暗いよぉ!もっと楽しくできないの?」
「出来ないな。俺には」
言い、肩をすくめたそのとき、対岸が光った。
「なにっ?!」
「何なのっ?!今の!」
シャンヌが短く悲鳴を上げる。ディランはカメの上に立ち、その方向に目を凝らした。
(リビアとルークが・・・何かと戦ってる・・・?)
戦っているその相手まではまだ見えないが、どうやらリビアが魔法を放ったらしい。黒煙がゆらゆらと昇っていた。
「おい、急いでくれ」
甲羅をこんこんと叩くと。カメはゆっくりとだがそのスピードを上げていった。
「ディラン・・・?」
心配げなシャンヌの顔。ディランはその愛らしい顔を見下ろした。
「ルークたちが・・・何かと戦ってる」
「えっ?!」
「・・・急ぐぞ」
ディランは腰の剣を抜いた。
ぱしぱしぱしぱし・・・
軽快な音と共に、シースネイル数匹がリビアのブーメランの前に倒れていく。そして、彼女は急ぎ口の中で魔法を唱え、
「『光球魔法」
左手の中に集まった光の弾を下からすくうように、そのうごめく群れの中に投げ入れた。
ごぉぉぉん・・・・
それはまばゆい光を放ち、シースネイルの大群を地面もろとも吹き飛ばした。リビアの髪が爆煙になびく。
「ルーク!そっちは?!」
「すっげーめんどくせぇ!!」
一つ一つをパンチや蹴りで倒していくルーク。それは一発で死ぬものの、あまりの多さにルークは閉口していた。
「っだぁぁぁっ!!!うらぁぁぁ!!」
大群の中に突っ込み、手足を振り回す。飛び込んできたシースネイルは、ことごとくルークに当たり、絶命していた。
「『雷電魔法』」
空にかざした両手をシースネイルの群れへと向け、リビアは叫んだ。
ビバババババ!!
雷に似たプラズマがそれらの体に纏わりつき、ひしめき合っていた群れの一つをやっと壊滅させた。
「もうっ!まだいるしっ!」
「げーーー!!マジ疲れる!!」
ルークは叫び、ふと川を見た。カメの上では、すでに剣を手に持ったディランの姿。その後ろには心配気なシャンヌの姿もそこにはあった。
「ディラン!」
足元にひしめいているシースネイルをぷちっと踏み潰しながら、ルークはカメに近づくと、デ
ィランは甲羅の上から飛び降りた。ぷちっという感触に、ディランは眉を寄せる。
「・・・何だ、これは?」
「シースネイルっつー、海のかたつむり。チョー弱いんだけど・・・この通り、数が半端ねーワ
ケ」
「成程」
足元のそれを剣でぷすっと刺し、ディランはルークに問う。
「それで、どんな攻撃をしてくるんだ?」
「だいたい噛み付くか、体当たりしてくるかのどっちか。噛み付かれたらちょっとマヒるみてー
だけどな」
「わかった」
言うなり、ディランは剣を一振り。突き刺していたシースネイルはぽちょんと川へ落ちていった。
「シャンヌはそこにいろよ!」
「うん!頑張って!ディラン!!」
カメの上から声援を送るシャンヌ。するとルークと目が合った。
「シャンヌちゃん、オレはっ?!」
「もっちろん!!頑張って!!」
「おっしゃっ!」
ルークは笑うとガッツポーズを作って見せた。