第14話
巨大なカメは滑るように泳いでいた。背にリビアとルークを乗せたまま。
「へぇ〜。結構速いのね」
「きっもち良いな〜。すっげーラク」
リビアの髪が風になびく。その度に良い香りがルークの鼻腔を刺激した。
「・・・なぁ、リビア」
「なぁに?」
青く広い空。ルークは思いつめたように彼女に訊いた。
「シャンヌってさ、ディランのこと好きだろ」
「そうよ。今頃気付いたの?」
ルークの意に反して、彼女は事も無げに言う。
「ルークって意外と鈍感なんだね」
「いや、お前はそれでいいのかなっ・・・てさ」
ルークの言葉に、リビアは少々体を強張らせた。そして前方を見据えたままでゆっくりと口を開く。
「・・・ルークには関係ないよ」
「関係ないかもしれないけどよ。お前、自分の気持ち分かってんだろ?昔からあいつのこと好きだったんじゃねーのかよ?シャンヌに取られてもいいのかよ!」
「関係ないでしょ?!ほっといてよっ!」
半ば叫ぶようにして答えたリビア。その後ろに座るルークからは彼女の表情は分からなかった。
「・・・悪かった」
ルークは消え入るような声で囁いた。
「オレは単にお前に素直になってもらいたかっただけで・・・・って、なんかオレ、超キザっぽくねーか?」
ルークがふとリビアを見ると、彼女の肩は小刻みに震えていた。泣いてるのかと思い、彼女に慌てて触れる。
「リビア、ちょ・・・泣くなって!って・・・笑ってんのかい!!」
思わずノリツッコミをするルークにリビアは声を上げて笑った。
「だーって、せっかくかっこよく決めてたのに、最後はいつものルークに戻るんだもん。もう可笑しくって!」
お腹を抱えて笑うリビア。つられルークも笑顔になった。
もう目の前にカジノの建物が見えている。どうやらこのカメは船着場から少し離れたところに行くつもりのようだ。
「ありがと、ルーク。私を心配してくれたんでしょ?」
リビアは振り向きルークに言った。ルークは少々照れた笑顔を見せ、
「だーって、オレ、お前のこと好きだもんよ」
「私も好きだよ。ただし、友達として、だけどね」
カメから降りた二人は、ディランとシャンヌをつれてくるようにカメに頼んだ。ゆっくりとカ
メは元来た道を泳いで帰る。
「お願いね!カメさん!」
甲羅に手を振るリビアの横で、ルークはしゃがみこんで水面を見つめていた。
「あ〜あ。オレはどう頑張っても恋人にはならないのかぁ〜・・・」
「あのねぇ、ルーク。あなた――」
言いかけ、リビアは素早く腰のブーメランを抜いた。ルークもすぐに立ち上がり、身構える。
「どこだっ?!」
川岸、空、陸・・・そのどこにも気配はない。ルークがキョロキョロと辺りを見ていると、
「ルーク!川っ!!」
リビアの声に振り向くと水面が大きく波打っていた。そしてその中に光るモノの姿。
「おいおいおい・・・マジかよぉ」
げっそりとした声でぼやくルークとは対照的にリビアは言う。
「シースネイルの大群なんて、へっちゃらでしょ?」
「・・・数がすげーけどな」
シースネイルはうねうねと川からルークたちの足元に上ってきていた。
「ま、なんとか」
「やってみるかっ!」
言うとルークとリビアの二人は這い上がってくるその大群に身構えた。