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第13話

「ど〜でぇ!!見たかっ!このオレの実力をっ!!」


 リザードの腹に片足をかけ、ガッツポーズを作るルーク。しかし、


「すっご〜い!すご〜〜い!!リビア、いつどこで魔法覚えたのぉ〜?」


 シャンヌもディランもルークを無視していた。ルークに冷たい風が吹きつける。


「あ・・・えっと、3年前にルークと<コラート>に行ったんだ。そこで覚えたの」


「ルークとか?お前一人で行かなかったのか?」


「うん。ルークも武術覚えたいって言ってたから」


 はにかむリビア。ちらりとルークを見ると、彼はやっとリザードから足を離し、とぼとぼとこちらへやって来る途中だった。


(ルークと<魔道都市 コラート>まで・・・。そっちのほうが危ない気がするな)


 ディランが剣を腰の鞘に収めていると、こちらにやってきたルークが話しに割り込んできた。


「でさ、こいつ。半年で全部の魔法覚えちまったんだぜ?ひでーと思わねぇ〜?」


『半年で?』

 

 ディランとシャンヌの声が見事に重なった。リビアは二人に見つめられ、顔を赤くする。

 実際、魔法を教えてもらった先生にも驚かれたほどだった。別れるときの先生の言葉、『わしの中では最高の生徒じゃった』というのが今でも、リビアの耳に新しい。


「だからさぁ〜。オレが1年かけてやっと武術覚えたときには、こいつ自分で魔法をアレンジしてやがんだぜ?ムカつく女だろ?」


「なるほどな。それでさっきのは普通のと違ったのか」


 ディランは頷いた。これにリビアは驚く。


「ディラン、よく違いが分かったわね!ディランも魔法使えるの?」


「いや、俺は剣だけだ。知り合いに魔法を使うヤツがいるが、リビアほどじゃない」


「ったりめーだ!リビアは魔法の天才だぜ?リビア以上の魔法の使い手なんていねーぜ!!」


 言い、ルークは笑う。リビアが「それはちょっと言い過ぎよ」と苦笑しているが、その言葉もルークには届いてはいないようだった。


(確かに、な)


 ディランは思う。


(リビアの魔法は本物だ。たぶんアイツは炎系が得意なだけだし・・・。俺と同じくらいの剣の使い手ならわんさかいるんだけどな)


 嫌な男を思い出し、ディランは小さくかぶりを振ると歩き出した。すかさず、その腕にシャンヌが絡みつく。


「ね、どこ行くことにしたの?」


「・・・カジノだろ?」


「うんっ!」


 ディランの言葉にシャンヌはとびきりの笑顔を見せた。





「で、この川を渡ればいいのか?」


「おっかしいな〜・・・。橋があったはずなのになぁ〜・・・」


 ディランは広大な川を前に頭を抱えるルークに冷たい視線を送った。


「あっれ〜?おかしいな〜。前に来たときは確かこの辺りにあったと思ったんだけどなぁ〜」


 うめき、檻の中の猛獣よろしくうろつきまわる。


「・・・まったく」


 小さく首を振り、ディランはその場に腰を下ろした。その横にちょこんとシャンヌも座る。

 クリシュナ川はソルト湖へと続いており、湖から海へと流れている。そこをカジノ目当ての金持ち達は私用の船で通っていくのだ。現に今も、ディランたちの目の前を楽団を乗せた豪華船が楽しそうに横切っていった。


「どこにも橋なんてないじゃな〜い」


 ため息交じりのシャンヌの声。ディランはそれに「そうだな」と一言返しただけだった。ルークは未だ川岸を右往左往している。


(リビアは・・・?)


 彼女の姿はどこにも無かった。ルークもシャンヌも気付いている様子も無い。


(どこに行った?)


 立ち上がり辺りを見回す。リビアの姿は見えなかった。


「どうしたの?ディラン」


 尋ねるシャンヌを半ば無視し、ディランはルークの傍へと駆け寄った。


「おい、リビアは?」


「はぁ?リビアなら、ほら、そこに・・・って、あれ?いねぇし」


 少し突き出た川辺を指差したルークだったが、そこに彼女の姿が無いことを知り、その指は空中をさまよった。


「さっきまでそこでカメと話してたんだぜ?」


「はぁ?何言ってるんだ?お前」


 頓狂な声を上げるディランに、しかしルークは至極真面目に、


「いや、マジで。さっきまでどデカイカメとそこにいたんだって!あ!ほら!」


 ルークの指差す方向にディランは視線を向けた。そこには巨大なカメが一匹。リビアは手に大きな葉っぱを持っている。


「・・・何をしているんだ?」


 ディランの冷ややかな声にリビアはやっと顔を上げた。ディランとルークを見てにこっと笑う。


「さっき、助けてあげたら懐かれちゃったの。今はお食事中」


 言うと手にした葉をカメの口に持っていく。カメはゆっくりとした動作でそれをむしゃむしゃと食べていた。


「ちょっと〜!ディランもルークもなに見てるのよぉ〜?」


 一人ぼっちになっていたシャンヌは、そう言いながらディランの横まで来た。そして彼らが見ているモノを見て、


「きゃぁぁぁぁっ!!!」


 案の定悲鳴をあげ、隣のディランに抱きつく。カメのほうも、シャンヌの悲鳴に驚き、首をすぼめてしまった。


「お〜お〜。羨ましいな〜。ディラン」


 首からシャンヌをぶら下げたディランに、ルークは羨望の眼差しを向ける。ディランは彼を睨みつけた。


「それなら、お前に譲るぞ?」


 左手でシャンヌの腰に手を回してはいるものの、それは彼女を支えるためで決して下心などというものではない。リビアはカメの甲羅を撫でてやりながら、おびえているシャンヌに優しく言った。


「シャンヌ、大丈夫だって。この子が私達をカジノまで連れて行ってくれるって」


「・・・カメさんが?」


 ディランの胸から恐る恐る顔を上げ、リビアへと向ける。彼女はにっこりと微笑んで頷いていた。その近くにはこげ茶色のような緑色のような巨大な物体――。


「いやぁぁっ!!そんなのに乗りたくないっ!!」


 叫び、再びディランにしがみつく。


「おいっ!シャンヌ!!まったく・・・・」


 毒つくディラン。そのとき、リビアと目が合った。彼女は意地悪い表情を浮かべると、


「とかなんとか言って、ちゃっかりシャンヌの腰に手を回してるんだからっ!」


「いいよな〜。ディランは。そうやってうやむやのうちに触れるんだからな〜」


「・・・・お前らなぁ・・・・」


 ディランはため息と共に言葉を吐いた。この二人には何を言っても無駄のように感じたディランは、やっと首を出してきたカメを指差すと


「それに乗っていけるのか?」


 と、リビアに問う。彼女は自信無さ気に頷いた。


「そう言ってると・・・思うんだよね」


 言うとリビアは「よいしょ」とカメの甲羅の上に乗った。途端にカメは立ち上がり、ゆっくりと川のほうへ歩き出す。


「ほら、ね?」


「どうするよ?ディラン」


 あごで未だディランにくっついているシャンヌを指し、ルークは言った。


「オレとリビアが先に行くか?んで、船かなんか借りてこようか?」


「ああ・・・でも・・・」


(心配だ。ルークと二人きりでカジノなんて・・・・)


 小さくため息をつくディラン。と、やおらシャンヌが口を開いた。


「私・・・私もディランとならカメさんに乗る」


「いいのか?」


「うん。ちょっと気持ち悪いけど・・・・けど、ダイジョブ」


 ディランから離れ、シャンヌは大きく頷いて見せた。そのブロンドの頭をルークは撫でる。


「よしっ!んじゃオレたちが先に行くから、帰ってきたカメに乗ってシャンヌちゃんたちも来ること!分かった?」


「うん!」


 片手を上げ、ルークはリビアの後ろへと飛び乗った。そして、カメはゆっくりと川の中へと入っていった。




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