焦燥
「はぁっ…一体何が…?」
黒羽は銀髪の少女を見送った後、急いで学園へ向かう。
学園へと向かう大通りは沢山の生徒であふれかえり、混沌としていた。
そんなザワザワとした喧騒の中、遠くから爆発音が聞こえてくる。学園の方からは目視できる場所ではないようだが、その音の大きさから爆発の規模は小さくないようだ。
「こっちだー!落ち着いて進めーー!!」
教師の誘導に従い、生徒は各々の避難所に進む。黒羽たち一年生は一年校舎の地下に設置してある大規模演習場だった。
とある事情からこの演習場にあまりいい思い出のない黒羽だったが、そんな事を気にせず混乱とした場内でクラスの集まりを探した。
「おーい、黒羽?。こっちだ!」
キョロキョロとしている黒羽に向かって、大きな声がかけられる。彼は同じクラスの雑賀レオ。数少ない黒羽の男友達の1人だ。
「雑賀くん!よかった。無事だったんだね。」
「ああ、無事っつっても俺には何が起こったかさっぱりわからんけどな。緊急マニュアルの発令といいさっきの爆発音といい、やべえ事が起こってるのは事実だろうが…」
「そうだね。ところで雑賀君以外のクラスのみんなは無事なの?」
「いや、それが実は……」
答えを窮する雑賀に、嫌な予感を感じた黒羽は、緊迫した表情で問いかけた。
「雑賀くん…?」
「ああ、その、まだ1人だけここに来てねえやつがいるんだ。」
なにか大変な事が起こっているという焦りと、クラスの誰かがいないという不安の中で、黒羽は一つの事実に気付く。もしこんな状況で自分がいたら、真っ先に駆けつけて泣きじゃくっているはずの1人の女の子がいない事に。
「まさか、朝衣さん!?」
「ああ、そのまさかだ。まだ朝衣は来てねえ。でも確かあいつの居住区は結構学園から遠かったはずだからそれで遅れてるのかも……」
雑賀が全てを言い切るまえに、黒羽は朝衣の携帯デバイスに連絡を入れた。この携帯デバイスは学生間の基本的な連絡手段となっており、腕輪型ということもありほとんどの学生はいつも身につけている。
「たのむ……出てくれ……っ」
黒羽は神にでも祈るようにコールを送るが、朝衣はいつまで経っても反応しない。
「くっ…朝衣さん。まさか何かに巻き込まれて…。」
いつもは黒羽のコールならワンコールで取り、逆に自分のコールを黒羽が取るのが遅れると泣くような朝衣だ。普通なら連絡に気づかないと言う事はないだろう。そう、もし彼女が普通の状況ならだ。
「黒羽、まあ朝衣も今あの雑踏の中でコールに出れないのかもしれない。一旦おちつ――」
その瞬間、黒羽と朝衣のデバイスが繋がる。
「!?朝衣さん!大丈夫?」
黒羽の問いかけに対し、朝衣は答えない。ただ、何かが破壊されるような音が朝衣のデバイスから断続的に聞こえてくる。
「ねえ、朝衣さん!何か喋って!大丈夫なの!?」
繰り返し黒羽はデバイスに語りかけるが、デバイスは周りの音を拾うばかりで何も答えない。すると一際大きな爆発音がデバイスから聞こえた。
「朝衣さん!!!!っ…くそっ!」
黒羽は避難所の外へ向かって走り出す。しかし、雑賀が黒羽の腕をつかみ引き止めた。
「おい!黒羽。どこ行くんだ!」
「朝衣さんのところだよ!きっとさっきの爆発のところにいるんだ。このままじゃ危ない!」
「辞めろバカ!救助活動は先生達に任せろ。俺たちみたいな羽無しが行ったって出来る事なんてねえ!」
雑賀は黒羽を怒鳴りつける。その言葉に、先ほど銀髪の少女に言われた忠告を黒羽は思い出した。しかし、黒羽は怯まない。
「それでも!それでも行かなくちゃいけないんだ!」
黒羽は雑賀を振り切り、走り出す。
「頼む朝衣さん。無事でいてくれっ――」
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