模擬戦闘2
(あ、危なかった…)
黒羽は全速力で走り、天咲との距離を離していく。どうして彼が潰されなかったか、それはタネを明かせば単純で、彼が家に入った後、隠れるのではなく、二階に駆け上った為だった。
(骨組みがほとんど鉄で出来た家に逃げ込んだ場合、天咲さんは恐らく家の攻撃方法として家屋そのものを使う。それなら隠れた様に見せかけ、油断を誘った方が逃げられる確率が上がる……)
そう、黒羽は家を立て籠もるのでは無く、一旦身を隠す場所として利用したのだ。家に入り急いで二階に駆け上がった黒羽は、ベランダから屋根の上に登り、家が完全に崩壊を始める前に離脱。まさに時間が命の脱出劇だった。
(完全に運次第だった。それにもし天咲さんが鉄骨で身を守ってなかったら使えない手だった。)
この脱出法は完璧な方法ではない。天咲が鉄骨で身を守っていなかったら、この作戦の成功率は急激に下がっていただろう。
(天咲さんから隠れて,できるだけ目立たない様に屋根の上に登るとはいえ、ベランダから屋根の上に上がるなんて瞬間が目に入らない保証なんてない。屋根に乗った後もすぐ見つかって巨大な金属を飛ばされる可能性すらあった。それが可能となったのは……)
それは、天咲が自分の周りを鉄骨で囲い、まさに鉄のカーテンとしていた為だ。鉄壁の防御を誇っていた為、逆に彼女の視界が制限されてしまった事でこの作戦の成功率は格段に上がっていた。
(とにかく天咲さんから距離をとって。とりあえず今は射程圏外なはずだから――――っ!?ここだ!)
市街を走り抜けていた黒羽は、ある一つの大きな家屋を見つけるとその中に急いで入る。
「はぁっ…はぁっ…どこに行った黒羽!隠れていないで出て来い!」
天咲は黒羽を追い掛け、道路を走っていた。いや正確には浮遊していたと言った方が正しいだろう。彼女は靴に金属を取り付けており、能力を使う事で、走るのでは到底出せないスピードで疲労もより少なく長距離の移動ができる。
(くそッ…一体どこにいる…)
とはいえ、障害物も多く見通しの悪い市街地の路地だ。いつ黒羽の急襲があるかもわからない中での移動。先ほどミスを犯した自分への苛立ち。そしてなにより能力の継続的な使用によって疲労がじわじわと溜まっていく。
黒羽はこの入り組んだ道を利用して、天咲の追跡を既に撒いていた。
(上空から見てみても発見出来ないということは、道路上にはいないと言うことだ……つまり家屋か何かの陰に隠れている可能性が高いが、私に丸ごと潰される危険が高い家に立て籠もるなんてそんな真似をするだろうか……いやまてよ、そういうことかっ!)
一度冷静になる為、自身をそれなりの高度まで浮遊させていた天咲は、ある大きな家屋に向かう。そこは非常に大きな敷地の家であったが、重要なのはそこではない。その建物が木造建築だったことだ。
「なるほど、考えたな。確かにこれほどの敷地があり、木造建築であれば私が扱える大きな金属は射程圏内にはない。一度に扱える磁力にも限度があるから安心という訳だ。」
いくら強力な能力といっても制限はある。『磁場』は彼女を中心に半径50メートルの範囲のみに働かせることが出来る力であり、また一度に操れる金属類の重量も約20kgまでが限界だ。
(だが黒羽。私は鉄骨を5本浮遊させ持ってきている。武器のない君はどうやって対処するかな?)
ずらりと鉄骨を5本背面に浮遊させながら、天咲は家屋へと侵入していく。
古い建物なのだろうか?建物は立派だがところどころ老朽化も見られており、独特な匂いもしている。扉を開ける様なことはせず障害物は全て鉄骨によって破壊しながら、天咲は進んで行った。
(不味いな、幾らかは金属を持ち込まれると思っていたけど、あんなに鉄骨があるとは……)
家に侵入する前の天咲を中からこっそりと観察していた黒羽は、天咲の能力の強さを警戒しながら、行動を起こしていた。
(後はどれだけ時間を稼げるかだ……この屋敷にはあんまり隠れられる場所は無いし、やっぱり戦うしかないか……)
ある作業を終えたのち、黒羽は覚悟を決めると家を少し壊して手に入れた角材を持ち、中庭に面したある一室で待機する。すると程なくして、部屋を破壊しながら天咲が現れた。
「やっと見つけたぞ。黒羽。」
そういうと彼女は背面の鉄骨を一本黒羽に射出、しかしそれを黒羽は危なげなく躱すと少し天咲から距離を取る。
「ふん、逃げてばかりかな?」
そう言うと天咲は二本目を黒羽が躱した場所に射出。しかしそれも身を低くして躱すと、黒羽は距離を詰め角材を右から振り上げる。
「逃げてるんじゃありません。戦略的撤退ですよっ!」
そう言いながら天咲に角材を当てようとするが、彼女も即座に距離を取り、鉄骨で防御する。
「それを一般的に逃げてると言うん……だっ!」
角材の一撃を受け止めた鉄骨が即座に黒羽を押し返そうとする。黒羽もすぐ後ろに飛んでそれに対処しようとした。しかし!
「それは本当に甘いぞ!黒羽!」
後ろに飛んだ先には先ほど躱した鉄骨が二本飛来している。このまま飛べば二つの鉄骨が黒羽の体を背中から貫くだろう。
「ぐっ……ああああっ!!」
黒羽は跳躍を中断し、背中から倒れこむ。二本の鉄骨を躱す事には成功したが、無理な姿勢で倒れ込んだ為隙を生んだ。
即座にその場に鉄骨が上から飛んでくる。黒羽は身をよじる事でそれらを躱そうとするが。腕に鉄骨が当たり黒羽にダメージが蓄積する。
「くっ…まだまだ!」
腕の痛みを庇いながらも黒羽は即座に立ち上がり、木材を構える。
「ふっ、流石にしぶといな。それじゃあ最初の趣旨通り、君が死にかけるまでやるとしようか!」
黒羽が天咲の隙を見て打ち込み、鉄骨で防がれ、天咲が黒羽に鉄骨を射出しそれを黒羽が躱す。この様な事を何回繰り返しただろうか。目に見えて黒羽の動きが悪くなってきた。
(当たり前だ。私が黒羽1人に気を配っていれば良いのに対して、黒羽は鉄骨5本を常に意識し戦っている。持久戦になれば黒羽が先に根をあげるのは火を見るより明らかだ。)
「はぁっ…はぁっ…うおおおおお!!」
それでも黒羽は木材を片手に持ち、懸命に天咲へと向かっていく。しかし、そんな黒羽にこの戦いで最もと言っていいほどの大きな隙が生まれた。
それを逃す天咲ではない。鉄骨を二本。黒羽の前方と後方から黒羽に向かって射出する。
(これで終わりだ――――っな、なんだと!)
黒羽の意識外からの射出、まさに躱す事は不可能と思われた攻撃であったが。黒羽は体を鉄骨が当たるギリギリのところで躱し、即座に天咲との距離を詰める。
(黒羽、君は私を誘ったな!こんな圧倒的不利な状況でここまで出来るとは……)
先ほどの攻撃は事前に予測していないと躱す事が不可能な一撃だった。その一撃を躱すということは、さっきの攻撃は黒羽に読みきられていたということだろう。恐らくこれを最後のチャンスと踏んで、天咲にリスクのある攻撃を仕掛けたのだ。
(本当に流石だよ黒羽、君の戦闘センス、そして身体能力は本当に常人を超えている。――――だが私にも先輩の意地がある。ここは勝たせて貰うよ…!)
黒羽は、鉄骨全てが手元になく無防備と言ってもいい天咲に木材を振るう。
「うおおおおおおおおおおおおお!!」
しかし天咲はそれを超える異常なスピードで蹴りを繰り出した!
(これが私の隠していた手だ。金属付きのブーツに磁力でブーストをかけた私の渾身の蹴り!これは流石に……っ!?)
天咲の蹴りはとても反応できる速度ではない。しかし黒羽はそれすら予想していたかのように体を左に逸らし、無理な姿勢で木材を振りかぶる。振り下ろしが振り上げになってしまったがそれは確実に天咲へとヒットした。
(やっと入った!でもこれじゃ……ぐはぁっ!」
天咲に一撃加えることには成功するものの、その材質が木材であること、無理な姿勢での攻撃であった事も含めて致命傷には至らなかったのか、強烈な蹴りが黒羽を捉え、屋敷の外まで飛ばした。
中庭に飛ばされた黒羽に対して、天咲が語りかける。
「ぐっ……いい一撃だったよ。だが私の蹴りも中々のものだろう?」
「が、ぐ……なかなかどころじゃないですよ…。先輩は中距離タイプで近接戦では分があるとおもってたんですけどね……」
「なあに、ぐっ…女には裏の顔があると言うことさ。さあ、私の勝ちだ。降参するかね?」
黒羽は蓄積されたダメージで、もはや動く事ができない。それに対し、ダメージはあるもののまだ能力を使う事ができる天咲の勝利は、もはや確定したように天咲は思った。
「降参したら僕を追い詰める事にならないじゃないですか、勿論最後までやりますよ。」
「それでこそ黒羽君だ。だけど鉄骨が体に刺さるのはそれなりに痛い。覚悟して……」
「いいえ、大人しく負ける気はありません。それに、僕の中ではもう僕の勝利は確定しました。」
「何を言っている。この状況で君がどうやって……?」
そう言うと黒羽は懐からマッチを取り出し点火して、天咲の方に投げた。その時天咲は気付く、この家屋からどことなく漂っていた不思議な匂いの正体と、今から何が起こるかを。
「く、黒羽ええええええええ!!君は!!!!!」
「体が燃えるのはそれなりに痛いですよ。覚悟してください。」
黒羽がそう言った瞬間。その日本家屋は大爆発を起こした。
沢山の方に読んでいただき感動しています。
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