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下手な女の子

 少しずつ夏の気配が漂い始める6月初め。少年、黒羽 廻(くろはね めぐる)は苦境に立たされていた


「あ、あの!本当に僕は大丈夫だから!本当に!」


「え~。せっかく私が黒羽君のためにお弁当作ってきたのに食べてくれないんだ。くすん、やっぱり黒羽君は私のことなんて嫌いなんだ。」


「ち、違うよ。朝衣さんのことは嫌いじゃないけど、お腹はいっぱいだしこれから授業もあるし、ね?」


「ふ~ん、私のお弁当は授業がある日は食べられないんだ。って授業がある日に食べられないなんて言ったらほとんど毎日食べられないじゃない。やっぱり黒羽君は私なんか嫌いなんだね。そうだよね私みたいな女の友達になってくれる人なんていないわよねやっぱりそうよねだって馬鹿だし運動できないしコミュ障だしこんなカスみたいなやつとほんとは会話すること自体嫌だよねでも黒羽君は優しいから付き合ってくれてるんだよねごめんねこれからは近づかないようにするからでももしそうなっちゃったら私どうしよういきるたのしみなんてなくなっちゃうよこれからどうやって」


「わかったわかったわかった!食べるよ!食べるから!」


「ほんとぉ!やったぁ!」


 少女、朝衣 麻里(あさぎぬ まり)は、先ほどまでのこの世の終わりのような顔から一変し、太陽のような笑顔をみせる。既に蓋が開かれている弁当箱には、恐らくから揚げだと思われる物体X、ポテトサラダだと思われる白い名状しがたい何かといったように、およそ人間の食物とはいえないようなものが集められ、もはやメシマズの総合芸術と化している。


「――――じゃあ……食べるね。」


 悲壮感を漂わせながらも決意を決めた漢の顔で、黒羽は弁当箱へと箸をつける。彼が選択したのは紫色をしている卵焼きだった。この中ならばマシだと思ったのだろうか。しかし、その予想は大きく外れることとなった。


「どう?どう?おいしい?」


 朝衣は料理の感想を尋ねる。彼女からしてみれば当然だろう。初めて異性につくった料理、しかも自分では自覚していないが意中の男への弁当だ。彼女は黒羽の感想が気になって仕方なかった。

 しかし――――


「」


「私すっごく頑張ったんだ!やっぱり黒羽君に普通のものを出したら失礼だと思って××××とか頑張って入れてみたの。美味しく食べてもらえるといいなぁ。どう?どう?」


「」


「え?黒羽君、どうしたの?」


「」


「え、ちょっと大丈夫?ねえねえもしかしておいしくなかった?お~い黒は……ってき、気絶してる!?ええええええっとこういう時はこういう時は――――」


 少年、黒羽廻は座ったまま白目をむき気絶していた。彼はいったい、どうしてこんなことになってしまったのだろうか。

 それは二か月前、彼らが授業を受けているこの学園の入学日に遡る―――――――――――――


 








 「ここが……これから僕が通う学校、不死鳥学園か。」


 廻は自分が通うことになる学校の巨大さに圧倒されそうになりながら、そんなことをつぶやく。不死鳥学園、この学園は世界中から異能力者を集め兵士へと育成する学園だ。なぜこのような学園が創設されたか。それは2XXX年、この世界を震撼させた異世界からの侵略、通称次元侵略への措置としてだ。異世界から現れる謎の生物に対抗するため、人類は次元侵略の同時期に急激に増加した異能力発現者を集め、世界を守るための組織『不死鳥機関』を設置、また同時に見込みのある若者を兵士として育てるための学園、『不死鳥学園』を設立した。現在、この学園には将来世界を守るために兵士として多くの若者が各国から集まっている。


廻は自分のクラスへと歩みを進める。この学園には入学式や卒業式といったものは存在しない。ひたすら合理的に兵士へと育成するため、その様なイベント事をやっている暇が教師にも生徒にもないのだ。


(とは言っても、クラスで自己紹介ぐらいはあるか)


そんなことを考えながら、廻は校舎へと進んでいく。校舎は1年、2年、3年、4年と分かれており当然のように1年校舎へと廻は向かう。

 

 (結構な人数がいるな……)


 校舎に入ると沢山の生徒でごった返していた。中には浮足立って大きな声で回りと話している者や、緊張に押しつぶされそうな顔をしている者もいる。


(僕のクラスは……ここか。)


彼が雑踏を抜け、到着した教室はDクラス、このクラスには能力が未発現な者、また発現してはいるものの、あまりにうまく扱えない者などが集められる、いわゆる落ちこぼれが集められるクラスだ。そう、黒羽廻は未だ、能力が発現していない。いや、正確に言えば発現しているが使用法が(,)(,)(,)(,)(,)状態だった。


(早く能力を特定して、強くならなくちゃ……)


そんなことを考えている途中突然背中に小さな負荷がかかる、恐らく誰かが背中にぶつかってきたのだろう。


「ご、ごめんなさい。少しボーっとしてて。」


そう言いながら彼が振り返るとそこには


「ごごごごめんなさいぶつかってしまって下を向いて歩いていたので気づきませんでしたああ言い訳をしているわけじゃなりません本当にごめんなさいって思ってますああああどうしよう入学初日からこんなことをしてしまうなんて本当に本当にごめんなさい怒らないでくださいほんとうにごめんなさい」


明らかに少し変な、かわいい女の子が立っていた。





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