初めての死
そこは地獄だった。
絶対に安全だと思われていたこの場所で、まさかこんな惨劇が起こるとは誰も予想できなかっただろう。
建物は破壊され、多くの生徒は奴らに喰われた。
「くそっ…誰か、誰か居ませんか!」
そう叫んでいる少年は、背中に少女を背負っている。少女は身体中が血にまみれ、今にも命の火が消えてしまいそうだった。
何処に向かったら良いのかもわからないのか、血塗れの少女を背負った少年はただあてもなく前に歩を進める。
「なんで、なんでこんな事に……ゲートがまさかこんな場所で開くなんて…」
そんな事を呟きながらも前に進む彼は、しかしついにその足を止めざるを得なかった。
「こんな、こんなところで終わっちゃうのか……」
彼の目の前にある景色が歪み、調和が取れなくなっていく。やがてその歪みは周りの世界から明らかに分離し、この次元に大きな裂け目が生じた。
裂け目からは巨大な怪物、アルトアイゼンが現れる。トカゲの様な顔、ムカデの様な体に鳥の羽をつけた白い体、見た所飛行タイプの様だが、こちらを真っ直ぐ見据えており、少年を無視し今すぐ空に旅立ってくれそうにはない。
「クギャァァァァア‼︎」
少年に向かってそう叫んだ怪物は、自らが見定めた標的に向かい真っ直ぐに滑空する。
もし彼が今後ろの少女を見捨て、1人で逃げれば生き残る可能性はあるかもしれない。しかし、彼の中にそんな選択肢は無かった。ただ、彼は一歩も動かず怪物を見据えている。
怪物の巨大な口がその少年を飲み込み、噛みちぎる。彼は後ろの少女をかばう様にむしろ自ら体を差し出した様にさえ見えた。
その時少年、黒羽 廻は初めて死んだ。