第1話 箱庭創造
メタトロンとの契約はあっさり完了した。
メタトロンが俺に触れて「契約完了」と言っただけだ。
「で、これからどうする?」
「どうするって?」
「いや、これから詩篇収集に行くのかな?と思ってね。」
行くわけない。
戦う術もスキルも揃っていないのだから。
「行かない。」
「だよね〜。
じゃぁ、どうする?」
「まずは空間をどうにかする。」
「ここを?」
「そ、真っ白な空間ってのは2日も居ると精神に異常をきたすって知ってるか?
というか、メタトロンはよくこんな場所で生活できたな?」
「え?してないよ。」
「ん?どういう事だ?」
「だって、ここは君を呼び込む為だけに創った場所だからね。
だから、君にここの所有権もあげたじゃない?」
流石神様、俺を呼び込む為だけに場所を創るとか、無いわ。
「じゃぁ、此処は俺の好きにして良いってことか?」
「どうぞ〜。」
そう言うとメタトロンは何処からともなく直径1m程の球体を俺に差し出した。
「これは?」
「この場所の《世界の核【ワールド・コア】》だよ。
そこに込められた力を利用して世界の有り様を決定していくってわけ。
といっても、此処は箱庭みたいな物だからコア自体はそれ程大きくないけどね。」
なるほど、いきなりファンタジーだ。
「どうやって使うんだ?」
「コアに手をかざして『天地創造【ワールド・クリエイト】』って唱えれば、後はメニュー見ながらでなんとかなると思うよ。」
「大雑把な説明だな。
まぁ、いいや『天地創造【ワールド・クリエイト】』」
スキルを使用すると目の前にメニュー画面が開いた。
メニューには1日の長さ、1年が何日で構成されるか、日照時間、季節の有無から砂漠地帯、草原地帯、森林地帯など地形情報、海の有無や山脈の有無など結構細かな設定が出来るようだ。
取り敢えず、1日24時間、1年365日とするのは確定として、季節には四季を設定した。
これはまぁ日本人としては仕方がないと思う。
「因みにここはどの程度の広さが有るんだ?」
「そうだね〜。
大体40×40×2,000Kmって所かな。」
思ってた以上に広かった。
高さが2,000Kmってそんなに要らないだろ普通…。
まぁ、狭いよりはいいか。
「取り敢えず、模型使ってシュミレートしながらか?」
「どんな風になるか期待してるよ。」
まずは床面から50Kmを地表として設定してみる。
すると、箱庭模型に大地が表示された。
次に模型の手前から10Kmを海として定義。
海底は徐々に深くなるようにしておく。
水際を砂浜として設定すると共に、地表は草原地帯として設定する。
「こんな感じか?」
一通り設定してみて、メタトロンと模型を確認してみる。
「結構、殺風景なんだね〜。
山脈とか、川とかは設定しないのかな?」
ふむ…。
言われてみれば、草原と海しか無い。
殺風景といえば、殺風景か…。
「なら、奥に山脈を設定して…。
直線だと面白味に欠けるから、右側を迫り出して左側に行くにつれ徐々に奥にしてみるか。
山脈の標高にも手を加えて…、っと。
せっかく山脈を創ったから、左側に川を蛇行するように海まで延ばして、右側は面倒なので10Km程を森にしてしまうか…。」
「なんか、急に拘りだしたね〜。」
「こういう事ってやり始めると拘りたくならないか?」
「気持ちは解るよ。」
さて、ここまで拘ったからには住居エリアにも拘ってみますか。
まず、地表がなだらかなのは面白く無いので、小高い丘を設置する。
丘の麓に湖を設置し、山脈から海まで続く川から支流を接続、そのまま森を斜めに横切るように川を設置する。
住居は丘の上にメニューにあったデフォルトの家を設置、建築技術もないし、様式は何でも良かったので当たり障りのない中世風木造2階建住宅にを選んでいる。
部屋は2階に3部屋、1階にリビング、食堂、台所、風呂、トイレ。それと個室が2つ。
トイレについては必要か不明だが、無いと困りそうなので設置。
風呂は趣味だ。別に無くても良かったが、有っても困らないので設置してみた。
俺とメタトロンの自室は2階の個室を使う予定。
「あ、蔵書を仕舞うスペースを創るの忘れてたわ。
メタトロン、どんな形がいい?
やっぱり図書館みたいなのが良いのか?」
「ん。あぁ、そんなに広く無くても大丈夫だよ。
蔵書はこれに1冊づつ記憶させてあるから」
といってメタトロンが差し出したのは薄い板のようなものだ。
「これは?」
「これは[神書の記録板【ブック・リーダー】]ってアイテムだよ。」
ゴスッ。
説明を聞いた瞬間、メタトロンの頭に俺の拳骨が落ちていた。
「いったいな! 何するのさ!」
メタトロンは涙目になりながら抗議してきたが…。
「阿保かお前は!
本ってのは紙である事に意味が有るんだよ!
紙のページを一枚一枚捲りながら、情景を思い浮かべ書き手の想いを受け止めながら読み進めるのが良いんだろうが!」
「だって、紙だと重いじゃないか…。」
「それが良いんだろうが!
そんな薄っぺらい板っきれで読んで何が楽しんだ」
「板っきれ…。
ジーク、君ね、これがどれだけ貴重なアイテム解ってる?
これなら重い本を持って無くても良いんだよ。
便利じゃないか。
まぁ、何故か世界に堕ちると普通に紙の書物になるんだけどね…。
回収するのに重いから嫌なんだよね…。」
こいつは阿保だ…。
それも筋金入の阿保だ…。
「メタトロン…。ちょっとそこに座れ…。」
「ジーク…。なんだか目が怖いんだけど…。」
この後俺は神様に2時間程説教する事になり、涙目のメタトロンは板から書籍化して図書館に仕舞う事を了承するのであった…。
取り敢えず住居整備の話です。
ジークのステータスやスキル説明は次回にでも行う予定です。
ご感想やご指摘あれば、どしどしお願いいたします。
2016/6/6
箱庭の地面傾斜が大変な事になっている事に気がついたため、加筆修正しています。