黒猫、出逢う。
このお話は別視点
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ハァハァ…ゲホッー…
「(…チッ、しつけぇな…、)」
あれからどれくらい走っただろう…、
一度は撒いたはずの奴らに見つかり、俺は傷だらけの身体を酷使して深い森に迷い込んだ。
本来なら苦もなく走れるのだか、何分今は両手に枷が嵌められている。しかも、身体中動かすだけで軋むくらい痛めつけられてるのだ、恐らく何本かは骨がいってるな…、下手したら内臓も傷ついているだろう。
だから、足元の木の根が今は煩わしく感じたー…
「(…っ、声?いや、歌か…?)」
森に迷い込んでから半刻が過ぎたころ、追手も大部分を撒いたところだった。
常人より感度のいい俺の耳に微かにだが届いた歌声…、心が揺さぶられる様な透き通った声だー…
最後の力を振り絞って追手を撒き、歌声のする方へ引き寄せられるように近づいた。
声を辿って行くと、暗い森から光の差す開けた所に出た。そこには泉があり、眩い光が空から降り注いでいる。
歌声の正体を目で追うと、日当たりのいい木陰に黒いローブを頭から被った奴が座っているのが目に入った。見るからに怪しい服装だったが座っている奴の周りには、大小様々な動物が歌声に引き寄せられたように集まっていて、頭や肩、膝の上には鳥やらウサギ、リスなどの小動物が乗っていた。極めつけには、滅多に人前に姿を表さない精霊族にあたる妖精までもが飛び回っているのだ。
俺は少しの間、呆然としたが歌っている奴に気づかれない様に距離を取って、近くの木に背中を預けて座った。
一度身体を休めるとドッと疲れが押し寄せてくるー…
しばらく目を閉じて歌声に耳を傾けてみた…
「(…声的に女か…?不思議な響き、だな…)」
どうも、心動かされる歌声だった。
断ち切れ やがて やがて 生まれる光に
君が 笑顔になれるなら
どんな時だって 手を差し伸べようーー…】』
リリリィーーンー…
暫く聴きいっていると歌声が止み、一陣の風が吹き抜けて澄んだ鈴のような音が辺りに響いたー…
それを綺麗だと感じながらも、段々意識が薄れていきそうになっていたー…
『それで、そこの満身創痍な君は大丈夫?』
「…っ!」
涼やかな声で問いかけられ、薄れていた意識が一気に浮上する。
まさかの事態に俺の中で警戒心が急激に膨れ上がった。
『…ん。警戒するのはいいこと。でも、一人に集中するのは良くないな。“水の障壁”』
「はっ…?」
警戒に対して返って来た言葉はあまりにも緩かったー…、しかも聴いたことの無いような言葉で俺に対して魔法が発動したのがわかった。
それを感じた瞬間には、ちょっとした衝撃が伝わってくる。
それは決して俺を攻撃したものではなくて、何かから守る様に俺の半径1mをドーム状に展開した水の魔法だった。
そのドームに阻まれ飛んで来た風の矢は打ち消されたみたいだ。
『…手負いの奴一人に多勢で攻撃って、小せぇ奴ら…。んー、10人…?めんどくせぇー…』
「!(チッ、囲まれてたのか…!油断した…、)」
撒いたと思ってた奴らが撒けてなかったみたいだ…、情けねぇ…。
それにしてもあいつよく分かったな追手の人数…、姿見えてないだろうに…。しかも、すげぇ口が悪いんだが…?
俺は重たい身体を引きずり、木の影から様子を覗った。
魔法を使ったやつは追手の奴等に対して威嚇している動物達をゆったりとした手付きで宥めると、ゆっくり立ち上がった。
『…君たちは森にお戻り。』
フードで表情は見えないが優しい声で促す。それを理解して動物たちはそれぞれ森に帰っていったー…、
『…さて、どうしようか…?』
動物たちを見送ると、そいつは溜め息を吐きながら怠そうに呟いたのだったー…
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次へつづくー