入学式
「先程はありがとうございました。あの、良かったら学校まで一緒に行きませんか?」
「ああ、そうだな。一緒に行こうか」
また不良に絡まれるかもしれないからな。それに、同じ高校なのだから、わざわざ別々に登校する必要もないだろう。
「山本さんはこの近くに住んでいるんですか?」
「まあ、近いほうだな。実家は遠いが」
かなり曖昧な返事だが、事実だ。それにしても琴浦は緊張しているのだろうか。同い年なのだから敬語など使わなくても構わないのだがな。
「す、すみません……」
「なぜ謝る? そんなに緊張しないでもいいぞ。名前も呼び捨てで構わないし、敬語も使わなくていい」
「わかりました。あ、わ、わかったよ! 山本くん!」
ニコッと笑う琴浦に、俺のほうが少し緊張してしまった。
「着いたな」
「う、うん。なんか緊張するね」
私立大国高校。国内トップの偏差値を誇る高校でもあり、スポーツも盛んである。学力だけではなく、その他の能力も、合格の判断基準に含まれるらしい。
そういえば、俺は面接の時にダジャレを言わされたな。あれは何か意味があったのだろうか?
「えーと、入学式の前にクラスを確認しないといけないみたいだね」
「なるほど」
俺は自分の名前を探す。……H組か。
「山本くん、何組だった? 私はH組だよ」
「同じだ。俺もH組だ」
「よかったー! じゃあ教室まで一緒に行こう!」
「おう」
下駄箱で上履きに履き替えた俺たちは教室に向かう。
「綺麗な学校だよねー」
「そうだな」
「あ、ここだ!」
教室に入ると半数くらいの席が埋まっていた。どうやら座る位置は決まっているらしい。
「出席番号順だから、ちょっと遠くになるね」
「仕方ない」
「じゃあ、またあとでね!」
「ああ」
琴浦と別れ、俺は自分の席に着いた。窓側か。なかなか良いな。
後ろと隣の席には既に人が座っている。俺は話しかけようか迷った。
隣の席は女子だ。隣といっても距離は多少ある。それに本を読んでいるので話しかけられる雰囲気ではないな。そもそも女子と話すのは得意ではない。
後ろは金髪の男だ。なんとなくだが、話しかけやすそうな気がする。なんとなくだが。
そんなことを考えていると、後ろの男が話しかけてきた。
「君、名前なんていうの?」
「山本大和だ」
「僕は優木 流。よろしくね」
「こちらこそ、よろしくたのむ」
よく見ると優木は、なかなか整った顔立ちをしている。ハンサムというやつだな。
「そういえば、大和君はあの女の子と知り合いなの?」
「女の子?」
「ほら、あの席の」
そう言って優木は琴浦を指差した。
「ああ、琴浦のことか。知り合いと言えば知り合いだな。今朝知り合った」
「すごい最近だね」
優木は笑いながら、なるほどね、と言っている。何が「なるほど」なのかはわからないが。
優木としばらく談笑していると、教師と思われる人物が教室に入って来た。
「初めまして。私は利根橋 京子といいます。このクラスを1年間担当するから、みんなよろしくね」
教師の自己紹介が終わり、生徒の出欠の確認が始まった。
相川さん、安藤くん、稲葉さん、……次々と名前が呼ばれていく。
これは俺の自論だが、返事の声の大きさなどで、大体の人間性などがわかるような気がする。
このような時に声が小さい人は、自分に自信がないような、そういう印象をうける。
もちろん俺は誰よりも大きな声で返事をした。
「うーん、何人か来てない人がいるみたいね」
たいして問題でもないように、利根川先生はつぶやいた。
空いてる席は三つある。三人来ていないということか。多くないか?
「じゃあ、体育館に移動しますよー」
入学式は体育館で行われる。大国高校には講堂もあり、始業式などはそこで行われるのだが、入学式と卒業式に限ってはなぜか体育館なのだという。
「はーい、とまってー。クラス毎に中に入っていくから、列崩さないようにね」
ふむ、おそらく在校生はもう体育館の中で待っているのだろう。
「すみませーん! すみませーん!」
女子が、小走りで利根川先生に近付いて行った。
どうやら遅刻をした生徒らしい。
周囲がざわつく。
遅刻してきたことへの反応なのだろうか。それとも彼女の髪の毛が、この大国高校では珍しい金髪だからなのだろうか。
しかし、あの金髪はおそらく地毛だろう。と、どうでも良い推測をしてみる。
「入学式早々に遅刻するなんて……。なにかあったんですか?」
「いやー、今日が入学式だってこと忘れてましたー」
「今度からは気をつけてくださいよ」
「はーい」
いきなり遅刻するとはなかなか度胸のある奴だ。
「それでは入場するので、みなさん付いてきてください」
他のクラスが体育館に入るのを見送り、俺たちのクラスも入場する。
拍手の音が響く体育館。新入生はどこか歩き方がぎこちない。在学生は新入生を比べるように見る人もいれば、隣の人と何かを話す人もいる。
「新入生一同着席」
その言葉でおよそ300人の生徒が一斉に座る。
「校長の言葉。校長先生、お願いします」
特に珍しいこともなく、式は進行する、と思っていた。
「入学おめでとう! 以上だ!」
壇上に上がった白髪の男性はその一言で、自らの役目を終わらせた。それで良いのか、校長。
「続いては生徒会長から」
黒髪で長髪の女子生徒が壇上に上がる。
「おはよう、諸君。まずは入学おめでとう。君たちはこれから、この大国高校でいろいろな経験を積み重ねると思う。その経験はこれから先の人生でかけがえのないものになるはずだ。一見すると意味のないようなことでも、きっと何かの役に立つ。そのことを忘れないでほしい。そして後悔をするな。何かをしなかったことへの後悔は絶対にするな。それくらいだったら行動して後悔したほうが良い。迷ったら進め。それから……」
なるほど、素晴らしい言葉だ。若干長いが。いや、かなり長いが。もう話し始めてから10分以上経ってる。
「……以上だ」
生徒会長の話が終わり、その後は淡々と式が進められる。
「以上で入学式を終了いたします」
終わった。各クラスは担任の指示に従い、各々の教室に戻っていった。




