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博覧強記の曲学事情

「先生、まだ?」

「このクッキー食べたらはじめぅ~」

「そればっかり」


 未香達はガフトを出た後、てくてく駅まで歩いて、智花の家へ向かった。

 

「智花様も、どうぞ召し上がってください」

「お腹いっぱい」


 母親ももかにお菓子を差し出され、智花はぷいっと顔を逸らす。

 桃花は幸せそうに頬を緩ませながら、手に持ったクッキーで智花の頬をつんつんする。


「……ジュース」

「はい!」


 智花の要求を受け、桃花はクッキーをパクっとしてあふぅと言って部屋を出た。


「申し訳ありませんっ! ジュースを切らせてしまっていたようなので、直ぐに買って来ます!」


 ついでに家からも出た。


「桃花、すっかり元気になったね!」

「うん。先生とママのおかげ」

「智花が頑張ったからだよ!」

「そう?」

「そうだよ!」


 よーしよしと頭を撫でられ、智花は目を細める。


「そういえば、ママってお姉さまのことだったんだね!」

「……びっくり」

「みかもビックリした!」


 言いながらクッキーに伸ばした手が空気を掴む。


「あっ、なくなっちゃった……」

「始める?」

「んー、そうだね!」


 ピシっと立ち上がった未香は、慣れた様子で部屋の隅から紙と鉛筆を取り出した。

 それを机に並べて、智花と向き合う。


「智花さんは、これまでたくさんのことを覚えました!」

「……うん。頑張った」

「しかぁし! 知識を詰め込むだけでは立派な大人になれないのです!」

「……そうなの?」

「そう! 沢山の知識を適切に使うことが大切なのです!」

「……適切」

「そぉう! 誰かが言ってたことを鵜呑みにしちゃいけないってお姉さまが言ってた!」


 おーと興味津々な目をする智花を見て、未香はいっそ上機嫌で続ける。


「これが出来ると、世界の深淵を覗くことだって出来ちゃうんだよ!」

「……さっそく」

「すたーと!」


 未香と同じく六歳になったばかりの智花が未香の言葉を完全に理解しているのは、ひとえに智花が努力したからであろう。彼女はおよそ一ヶ月広辞苑と向かい合い、そこに記載されたうち六割程度の言葉を理解している。もちろん未香は全て理解している。


「人は忘れる生き物です。それはきっと覚えられる量に限界があるからです」


 人差し指をピシっとしながら話す未香先生。

 智花はいくらか前のめりになりながらコクコク頷く。


「だからこそ少ない知識で多くを理解する……そういう能力が必要なのです!」

「おー!」


 舌足らずな声で同い年の子供に小難しい話をする未香。姉である未来が見たら微笑ましいと感じながら、とりあえず叱るだろうか? とりあえず母である桃花は「うへへへ勉強する智花様かわいぃ」としか言わない。


「四面楚歌という言葉があります」

「……ん」

「なんで四面? 八方とかじゃダメなの?」


 うーんと智花は目を閉じる。


「語呂が悪い?」

「答えはこの時代のお城はっ――」


 朱雀青竜白虎玄武の四神に守られた四つの門が云々、と言おうとして、

 あれ、確かに八方楚歌だと語呂が悪い。しかも響きがお酒っぽい。お酒は悪だってお姉さま言ってた!

 と気付く。


「……ハッ、それだと四面も語呂が悪い! なんかメンって感じが嫌だ!」

「ラーメン?」

「あんまり好きじゃない! 体に良くないってお姉さまが言ってた!」

「……なんでラーメン?」


 名前の由来。


「ハッ! 気になる!」

「……考える?」

「もちろん!」


 うーんと呻る二人。


「らーめん……らー、めん。中国語でラーは引っ張る、めんは小麦だから、引っ張る小麦……それっぽい……でも、こんなツマラナイ答えはヤダ!」


 うがぁーと呻る未香。


「ラー、エジプトの神」


 智花が呟いた瞬間、未香の脳裏に電流が走る。


「そうだ! 神と言えば祈りっ! 祈りと言えばアーメン! ラーの前でアーメン! つまりラーメンは、神様に捧げる供物だったんだよ! 天才!」

「おー。ラーメンは、エジプト?」

「ハッ! ラーメンといえば中国っ、矛盾しちゃう!」

「……難しい」


 再びうーんと呻る二人。


「中国人が作った?」

「ハッ! それはつまり、この時代から中国とエジプトの交流があった事を示す説! しかもっ、神に捧げる重要な料理を他国の人間が作っていたとしたら! 大発見! 天才!」

「……なるほど。こうやって考える。発見する」

「その通り! 流石智花!」


 よーしよしと頭を撫でる未香。


「先生、智花、また成長した?」

「うん!」

「……やった。次は?」

「うーん……立派な大人になる為に、やるべきこと……」


 今日一番真剣な表情で、未香はうーんと呻る。

 やがて、クワッ、と目を見開いた。


「ずばり! 今覚えたことは全部忘れましょう!」

「……なるほど」

「ここからが本番だよ――」


 こんな具合に、図書館で出会って以来、二人は仲良く楽しく勉強している。


 ところで、桃花が智花の事を智花様と呼んでいるのは他でもない未香の影響なのだが、これはまた別の話。

 そんなこんなで、次から洋菓子店の経営と残念な美少女事情、最終章です。

 ちょっと書き溜めて、ドバっと毎日更新します。

 どうぞ見届けてやってください


 いやでも完結するわけではなくて話は続くのですが、区切りというか、お店と彼女達の事情が解決して、彼と彼女達の話になるからタイトルを変えたいというか、まぁ、そんな感じです。


 ※と、思っていましたが完結しました。続編は、真帆ちゃんの学園祭のみを考えています。ゆっくりと執筆してきます(12/19)

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