伊国少女の恋愛事情(2)
信じられない!
いきなりナイフを投げてきた!
しかも……しかも……。
「ええっと、まずは自己紹介かな?」
この人が、同じチームの日本人!?
だれ!?
日本人は真面目だって言ったのは!?
私のバカ!!
「そうだな……ところで、彼女は知り合いかい?」
例の日本人の拙い英語に合わせて、ドイツの人がゆっくりとした英語で言った。
この人は真面目な人みたい。
顔付きとか、とても大人っぽい。
「いや、昨日ちょっと話したくらいだよ?」
それに比べてっ、比べてぇ!
「……そうか。早く仲直りしてくれよ。見ていて辛い」
「ちゃんと謝ったんだけどなぁ……」
入学式の後、各自チーム毎に振り分けられた部屋に向かった。
四人で作業をする時は、基本的にこの部屋を使うらしい。
人数の割には広く、家具は机が二つと椅子が五つ。
それ以外には何もなくて、部屋を囲む壁も真っ白。
常識の範囲で自由に使って良いらしい。
「ねー、早くしてよ」
このイギリスの人、なかなか強烈。
大胆に胸元を開けた服装で……大きい。
そんなことよりっ、座り方がおかしい!
反対! 逆!
そんな座り方したら椅子が痛んじゃう!
「それじゃ、言い出しっぺの俺から」
相変わらずヘラヘラした顔とカタコトの英語。
「パティシエとか良く分かんないけど、お菓子を作るが好きで、気付いたらここにいた」
……よくわからない? 気付いたら?
「聞いての通り、まだ英語が、苦手だけど? えっと、仲良くしたいと思ってる。よろしく」
私と同じで、ドイツの人が苦い顔をする。
当然だ。
ここは、パティシエを目指す全ての人にとって憧れの場所。
それを……っ!
グッと怒りを堪えていたら、ふと笑い声が聞こえた。
目を向けると、イギリスの子が楽しそうに笑っていた。
「あんた最高。ここで、パティシエとか良く分かんないとか……完全に喧嘩売ってる……」
何が面白いんだろう。
これが文化の違い?
「気に入った。名前は?」
「ああ、そういや言ってなかったな……えっと……」
なんで考えてるの? 名前でしょ?
「ナーダ。そう呼んでくれ」
……嘘っぽい。
「あっ、ははは。ナーダ。なに? 名無しってこと?」
「いいや。本名は灘征四郎っていうんだ。呼びにくいだろ? だからナーダでいいよ」
な、なだせ、ろ?
日本語の音、ゼンゼン分からない……。
「そういやアンタ日本人だっけ?」
「うん。俺以外みんな金髪で、ちょっと委縮してる」
「目立っていいんじゃない? あたしはアリス。よろしくね」
「……アリス?」
ナーダさんが首を傾げると、アリスさんは急に目を細めた。
「なに? ババ臭いとか言ったら殴るわよ?」
「ああいや、あれだ、不思議の国のアリス。あれ面白いよなーと思って」
ちょっと、それは余計に怒らせるんじゃ……。
えっと、どうしよう。アリスさん凄く震えてる……。
「私もあの話好き! さっすがアニメの国日本! よく分かってるじゃないの!」
「わり、まだ早口の英語わかんねぇから、ゆっくり頼む」
「あははは、面白い!」
どこ? どこに笑う要素あった?
アリスさんは、いつのまにか彼の隣に居た。
興味津々といった感じで、あれこれ話しかけている。
一方、彼は上手く聞き取れないのか、真顔。
それが面白いのか、アリスさんの笑い声は少しずつ大きくなる。
「そろそろ、いいか?」
それを遮って、ドイツの人が声を出した。
「俺はダニエル。本気でパティシエを目指している。正直、君達の態度は気に入らないが、同じチームになったのも何かの縁だ。仲良くやっていこう。よろしく」
「へー。ダニーでいい?」
「……あ、あぁ、構わないよ」
アリスさんの態度に戸惑いながら、ダニエルさんは苦笑いを浮かべた。
それと一緒に、私も頭を抱える。
……大丈夫かな、このチーム。
「んで、そっちのアンタは?」
相変わらず言葉遣いが汚いアリスさん。
……この際、仕方ない。
我慢して、受け入れよう。
これから数年間、このメンバーで頑張らなきゃいけないんだから。
大丈夫、そのうち慣れる。
「……キッカと申します。両親に憧れて、パティシエを目指しました。この学校に入れた事、皆さんのような個性的な方々に出会えたこと、嬉しく思います。なにかと足りないところもあるでしょうが、これから手を取り合って、頑張っていきましょう。よろしくお願いします」
ナーダさんの事を考えて、ゆっくりとした英語で話した。
頷いてるけど、ちゃんと伝わったかな?
ダニエルさんは、少し安心したような表情をしている。
アリスさんは……。
「あ、終わった? ごめん、長くて……あはは」
そのうち……慣れる、きっと。