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金髪少女の母親事情(3.75)

「お姉さま! 眠そう!」

「おー、ついでにあちこち痛くてマジダークネス……」


 いつも通り左手に自転車、右手に小さな手を持って歩く。普段はみかに合わせている歩調が、今日は素でゆっくりだった。マジ筋肉痛。

 ついでに寝不足でやべぇみくとは違ってチビは今日も元気。マジうるさい。

 ……あれ、静かになった。


「どーした?」


 なんか目が輝いてる。ついでに口開けておーおー言ってる。飛行機でも見つけたのかなと空を見るけど何も無い。みくを見てるっぽい。


「なんか付いてる?」

「ううん、そうじゃないの。みかは大人なお姉さまを想像してしまってわくわくがパズリンです」


 困惑パズリン(puzzling)なんて単語どこで覚えたし。

 てかやべぇ、語尾にダークネスとか付けたらそっこーでマネされちゃったよ。気を付けないと。


「そっかぁ、お姉さま! もう少しでお母さんになるんだね!」

「なに言ってんの?」

「だってぇ、あちこち痛いってぇ、そういうことだよねぇ」

「もじもじすんなキモイ。つか何処で覚えた!?」

「女の人があちこち痛いって言ったら九割の確率で半年以内に妊娠が発覚するって本に書いてあった!」

「そいつの書いた本は二度と読むな。分かった?」

「やっ!」


 こいつには近々メディアリテラシーを教えよう。マジで。

 この際いろんな本を読むことは仕方ない。諦める。

 

「つうか、どっから金が出てくるんだよ……」

「おばあちゃん!」


 やっぱりか……まぁ、かわいい孫の頼みなら断れねぇのかな。


「本が買いたいって言ったらいっつも諭吉さんくれるの!」

「金銭感覚っ!!」


 断る断らないの問題じゃねぇ!


「お金をくれるのは嬉しいけど、流石に諭吉さんは困ります」


 腕を組んでうーんと唸ってる。

 よかった。金銭感覚はまだまともっぽい。


「一度に持てないから、何度も往復しなくちゃいけません」


 ダメだった!


「よーし、今度姉ちゃんがお金の大切さ教えてやるからな。それまで一冊も本買うなよ?」

「やだなー、お金の大切さくらい知ってるよ?」

「ほんとかー?」

「うん! あんな紙切れ一枚がたくさんの本にかわるんだから凄いよね!」

「分かってねぇよ! 五歳が諭吉さんを紙切れ扱いするんじゃねぇ!」

「よぉし! お姉さまのテンションが上がって来たよぉ!」

「おかげさまでな!」


 みかが右手を弾むように振り上げた。

 みくは塞がった両手を動かせない代わりにハハハと息を吐いて苦笑い。


「それではお姉さま! お買い物に行きましょう!」

「……なに? 本?」

「あれ、嫌ですか?」

「べつにいいよ。どこ行く?」

「ほんとに嫌じゃない?」

「おー、嫌じゃないぞー」

「ほんとにほんと?」

「おー」

「途中で帰ったりしない?」

「しねぇよ」

「ぜったい?」

「しつこい。早くしねぇと暗くなっちゃうだろ」

「そのことば忘れちゃダメだからね!」


 さぁ行こうとぴょんぴょんスキップ。

 やーもうほんと元気なガキですこと。

 智花くらい大人しくなれとは思わないけど、足して割ったくらいは大人しくなってもいいんじゃね?

 

 育て方間違えたかなーとか間違えたんだろうなーとか考えながら、うっきうきのチビの隣を歩く。

 何が楽しいのか、最近流行ってる子供向けアニメの鼻歌が聞こえてくる。発言とは裏腹に感性はガキのままで微笑ましい。

 しっかし買い物ってどこ行くんだろ。本屋とは違う方向だけど。

 まいっか――と、数分前に考えた事を徐々に後悔し始めている。

 この道は知っている。

 すっげぇ嫌な予感がする。


「おーい、みか? どこ向かってんの?」

「えー? ケーキ屋さん?」

「なんで疑問形なんだよ」

「じゃー、お姉さま! の! 彼氏様のとこ!」

「どこだよそれ」

「みかは推理しました」


 人差し指をデコに当てて上を向く。アホっぽい。


「少し前、みかの誕生日にケーキを買ってきてくれたお姉さま! 一見すると普段通りですが、去年より明らかにケーキを食べるのが遅かったです……」


 んーと唸り下を向く。


「満腹という様子ではありませんでした。しかも、あのケーキすっごい美味しかったです。満腹でもぱくぱく食べちゃうくらい美味しかったです。だからおかしいなーって思ってました」


 んんっと唸り上を向く。


「みかは観察の結果、ケーキを食べるお姉さまが妙に嬉しそうだと気付きました。そうそれはまるで、恋人の手作りケーキを食べているかのような!」


 ピシっと小さな人差し指がみくを指す。


「つまり! あのケーキを作ったのが、お姉さまの彼氏様だと推理したのです!」


 ふふんと得意そうな顔。やっぱアホだった。


「だから挨拶するのです! お姉さまがいつもお世話になってますって言うの!」

「……まったく」


 まぁ、ケーキの件でお礼くらいは言ってもいいか。値引きしてくれたし。


「ところで、彼のお名前はなんというのですか?」

「名前? あー、店長でいいんじゃね?」

「てんちょう! お店の店長なのですね!」

「おー」


 そういや名前しらねぇや。べつにどうでもいいけど。


「では、店長さん! これからも末永くお姉さまをお願いしますとお願いしてきます!」

「いやいや、しなくていいから」

「ついでにベッドの上のお姉さまはどんな感じだったか聞いちゃうのだっ!」

「待て待て! それみくが誤解されちゃうでしょ!」

「またなーい!」

「みか!」


 あーもう! マジで検閲してやる! 今日! 今日帰ったら直ぐ! 変な本全部処分してやる!


「おいみか! 待て! 待ちなさい!」

「きゃー!」


 キャーじゃねぇよ。あと両手広げながら走るな転んだらどうすんだよ。

 てか、あいつ何で場所知ってんだよ一直線に向かってるじゃねぇか!

 ああもう! なんだこれ!


 心の中で叫びながら予想外に速く走る妹を追いかける。結局追い付かず少し遅れて店に飛び込んだ。

 みかに走るなと言いかけて、あいつの視線に気付く。ついでに智花を発見。なんで連れてきてんだよ。とか思ってる間にチビ達が自己紹介してやがる。あいつはあいつでなんかシリアスモードだし。まったく、マジなんだこれ。


「……ともかとは、どういう関係なのでしょうか?」


 関係? そういや妹って設定だったっけ。どーしよ。

 あーもう、めんどくさい。


「ひろった」


 我ながら投げやりな回答。でも事実だし。あと何か疲れたし。

 ほんと今さらだけど、こいつも巻き込んじゃえ。

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