表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

20/109

結城真帆の刻苦事情(7)

 次の日の朝。

 教室に入る時、すごく緊張した。

 入学式でもこんなに緊張しなかった。

 言うことは決まってない。

 ただ、伝えたい。


 教室に入ると、皆の目が集まった。

 立ち上がった咲ちゃんが、こっちに走ってくる。

 直ぐ近くまで来て止まって、何か言いたそうな顔で私を見た。

 きっと咲ちゃんも言いたいことがあるんだ。


 でも、ごめんね。

 私から言わせて。


「……ごめんなさい!」


 思い切り頭を下げる。

 手が震えてる。

 口も震えてる。

 勇気を出して顔を上げると、咲ちゃんは驚いた顔をしていた。

 咲ちゃんだけじゃない。その後ろで、クラスの皆が同じように驚いた顔をしている。


「酷いこと言ってごめんなさい。大嫌いって言ってごめんなさい」


 そもそも、咲ちゃんは私の為に怒ってくれた。

 喫茶店やめよう。この言葉に一番早く文句を言ってくれたのは咲ちゃんだった。


「でも、やめない。絶対やめない。私、パティシエになりたいの! 本気なの! だからやめない! 絶対にやめない!」


 ギュっと目を閉じて言う。

 これが私の気持ち。

 ちゃんと伝えた。

 どうかな。

 怖いな、目を開けるの。


「……え?」


 聞こえたのは、予想とは違う、気の抜けた声だった。

 おそるおそる目を開く。

 ぽかーんとした表情の咲ちゃんが、そこにいた。


「ちょっと待って……やめないって、何を?」

「バイト……?」


 思わず、私も疑問形。


「何の?」

「スタリナ……?」

「それなに?」

「洋菓子店……?」

「……やめないって、そこのバイトの話?」

「そうだよ……?」

「……かきまぜたり、ぬったりっていうのは?」

「生クリームのこと……?」

「……えっと、えっと…………えええええええええええええええええ!?」


 クラス中が、同じような反応をしていた。

 とびきり大きい咲ちゃんの声で、頭が真っ白になる。


「あの、えっと……あたしてっきり……」

「てっきり?」

「ごめんなさい!」

「えっと……え?」


 どうなってるの?


「申し訳ッッ! ありまっせんでしたッッ!」

「わっ、え、なに?」


 滑り込んで来た犬飼君が、床に頭を叩きつける勢いで土下座。


「僕は、なんて失礼な誤解を……っ! 許してくれッ!」

「あたしもっ! ほんと、最ッ低! 信じらんない! ごめんなさい!」


 足元に、二人。

 目を上げると、クラス中が土下座していた。

 あ、いや、御門さんはケータイで……たぶん写真を撮ってる。


「おーい、チャイム……なんだこれ」

「……あ、先生」


 


 少し前から続く変な視線は感じなくなった。

 その代わり、新しい視線を感じるようになった。

 今度の原因は分かる。

 クラス全員に土下座させた女。

 不名誉な二つ名を、いただいてしまった。


 仲直りは出来たけど、なんか……。

 ま、いっか。

以上、結城真帆の刻苦事情でした。

少しでも心がぴょんぴょんしていただけたのなら幸いです。


学園祭の話は、書き終わったら短編もしくは短期連載ものとして投稿します(12/19)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ