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敏捷値が高い=強い(旧題ランゲージバトル)  作者: また太び
5章 青の領域と赤の領域(続)
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緊張感のない戦場

「なんというか、辺り一面荒野だね~」


「赤側は全部こうなのか?」


「かもな。見ろ、青側の森がはるか遠くに見える」



赤側に攻め込んだ青側が建てた臨時拠点へとやってきた詩織達は、現在出撃に備えて待機していた。

颯太とクレアと言えば1時間前に部隊長室に行ったきり戻って来ておらず、現在詩織達は暇な時間を過ごしているというわけなのである。



「青側も結構奮闘しているんだね。私、結構接戦になると思っていたんだけど…」


「接戦だよ………ただ青側に運気が向いているだけで危ない橋を渡っている…」


「だな」



伊澄の視線の先には今も傷だらけで臨時拠点に帰ってくるプレイヤーが後を絶たない。それを見た竜也が頷き、詩織も『なんだかなぁ…』と退屈気味に言葉を漏らす。



「たまたま勝ちを拾えているってわけか」


「神器達にも被害が出ているらしいし、早くこんな戦い終わらせたい所だね」


「あと何日だ?」


「あと3日よ」



竜也の質問に香織が即答する。



「しっかし、いつまで話しているんかね?もうかれこれ1時間くらい戻ってきてないぞ」


「ユキナ飽きてきちゃった…」


「それだけ重要な話でもしているんじゃないの?隊長と副隊長以外はテントに入れないから、あたし達には分からないよ」


「もう戦いは始まっているんだぞ。余り長引けば前線を維持している部隊にも限界が来る」


「そうなんだよね~。香織、颯太から連絡は?」


「ううん……さっきのもう少しかかるって連絡だけ」


「そっか…―――――あ~もう!出撃したい~!」


「ユキナも戦いたい~!!」


「颯太かクレアさんに連絡でも入れたら?」


「そうか!その手があったか!竜也さん良いこと言うー!」



地面に倒れていた詩織は竜也の声に反応して起き上がり、ポケットからFDを取り出す。そして通話履歴から颯太のFD端末番号を呼び起こして電話をかけた。



「………あ、颯太?」


『すまない。連絡するのを忘れていた』



颯太は通話に出るなり、謝罪をした。しかし、どうも騒がしい声が聞こえる。



「なに、喧嘩でもしているの?」


『あぁ、絶賛喧嘩中だ』


「え!?」



罵詈雑言が飛び交う中で颯太はいつもと変わらない調子で答え、避けているのか風を切る音が聞こえる。



「な、なにしたの…?」


『ティアも知っての通り、ここは赤側の拠点と青側の拠点の距離から考えて作られた臨時拠点だ』


「うんうん」


『臨時拠点には後方にある青側の拠点のプレイヤーと俺達のような他の拠点から寄せ集められたプレイヤーの2種類が存在している』


「あ、もしかして……」


『分かったか?まぁ言ってしまえば意見衝突という奴だ。喧嘩の発端は本当にくだらないことだった。誰が一番最初に出撃するかという問題で、現在赤側の拠点を落として勢い付いている後方拠点のプレイヤーが先に出ると言ったんだが、そこでこの拠点に来たプレイヤーが喧嘩腰で……もう分かるだろ?この面倒な展開』


「うん、すっごい分かる……―――で、それ終わりそう…?」


『混沌支配で黙らせてもいいんだが、クレアさんが許してくれなくてさ、もう少し長引きそうだ。皆を待たせてしまって悪いな』


「ううん、まぁこんなこと言うのもおかしい気もするけど、喧嘩頑張って」


『あぁ、それじゃ』


「喧嘩ってなに…?颯太くんとクレアさんは何をしているの…?」



颯太との通話を切るなり理解出来ないといった表情で香織が聞いてきた。



「意見衝突があったみたいで、現在乱闘中みたい」


「ええええ!?」


「何してんだか……全くそういうのはこの戦いが終わってからにしてくれよ」


「テントにサテライトキャノン撃っていい…?」


「クレアと颯太もいるんだぞ」


「あ、そっか……それならダメだね…」



伊澄がビームライフルをテントに向けており、滉介はそれを真顔で止める。



「それでもう少しかかりそうだってさ。ホント味方で争っている場合じゃないのにね」


「最初は皆協力していたのに……どうして…」


「もう少しで勝ちそうだから気が緩んでいるんじゃねえの?」


「あながち間違いじゃないかもな」


「うううう!!もうユキナ我慢できないー!」


「あ!ユキナちゃん!待って!」


「お、おい!どこ行くつもりだよ!?」



突然唸ったかと思うと、ユキナは勢いよく立ち上がり走って臨時拠点を出て行ってしまった。

香織は反射的に追いかけて行き、竜也も香織のあとを追っていなくなってしまう。



「え?ちょっと2人とも勝手に…」


「もう遅い」


「…………わたしが行ってくる……2人は颯太とクレアを呼んできて…」


「わ、分かった!」


「頼んだぞ」


「…うん」



伊澄はいつもと変わらぬ調子でガンドレアに変身するとイオンブースターを展開し、ジェット機のエンジンのような音と共に臨時拠点を飛び出して行った。



「あ、あたし達も」


「いや、俺はお前が颯太とクレアとすれ違った時のことも考えてここにいる」


「それじゃあたし行ってくる!」



詩織は紺色のコートを風で翻しながら隊長たちが集うテントへ向かった。




中からむさ苦しい男達の怒声が聞こえるテントに着いた詩織は、一瞬本気で嫌そうな顔をしてからテントの中に飛び込んだ。



「颯太はどこだー!」


「ティアか!」



入り口で詩織が叫ぶと一斉に皆がこちらに振り返るが、またすぐに喧嘩を始める。しかし、詩織の声はちゃんと颯太に届いたようで、颯太は1人のプレイヤーの首根っこを掴んでプレイヤーの頭を踏んづけながら入り口まで戻ってくる。



「誰それ…」


「あぁ、こいつは喧嘩を起こした張本人だよ」



颯太に引きずられているプレイヤーはぴくぴくと白目を向いており、完全に気絶している。



「あぁ……この人が気に食わないって言って…」


「まぁそういうことだ」


「クレアさんは?」


「クレアさんは後方拠点で突撃部隊のリーダーをしていたという男をぶん殴ってる。とりあえずその2人のリーダーを鎮めれば喧嘩も収まるかなって思ったんだが、もう皆熱くなってしまっている」



颯太はぽいっと掴んでいたプレイヤーを脇に捨てると『それよりも用があったんじゃ?』と尋ねてきた。



「あ!そうだった!あのね、ユキナちゃんが我慢出来なくなっちゃって1人で戦場に飛び出しちゃったの!」


「なんだって!?他の皆は!?」


「香織と竜也さんと伊澄さんも追って出て行っちゃったの!」


「伊澄さんがいるだけまだ大丈夫だな……」


「颯太どうしよう…」


「追うぞ。滉介は?」


「滉介は私がテントに向かっている間に颯太とクレアさんがこっちに来てしまった時の場合を考えてまだ薪火のとこに」


「そうか。なら、一度薪火まで戻ろう」


「クレアさんはいいの?」


「クレアさんにはここの連中の争いにカタを付けてもらう。あの人なら言わずとも分かるはずだ」


「本当にやっちゃいそうで怖いなぁ…」


「やれると信じているから任せられるんだよ。それじゃ、戻るぞ」


「うん!」


「なにイチャイチャしてんだこのガキがァ!!」


「――――ッ!!」



テントから出ようとした瞬間剣を持ったプレイヤーが颯太の真後ろから襲い掛かり、颯太は油断していた隙を突かれて反応が僅かに遅れた。



「ふっ!」


「ぶべッ!?」



だが、風を裂きながら颯太の顔の横を突き抜けて行く詩織の右足が男の顔面を抉り、これを見事撃退する。



「助かった」


「もちろんあたしも信じてくれているよね?」


「あぁ、もちろんだ」



足を降ろした詩織は颯太にウィンクをし、颯太は強く頷いて同意した。




「滉介!」


「颯太、一体お前達は何をしていたんだ」


「それはすまない…」



薪火へ戻ると滉介が颯太の声に気付いて立ち上がると同時に颯太を軽く睨む。



「それでどうするつもりだ」


「滉介はここでクレアさんが戻ってくるまで待機。クレアさんが戻ってきたら改めて指示を受けてくれ。俺とティアは香織さん達を追う」


「了解だ。まぁ俺がついて行っても足手まといになるだけだからな」


「ユキナがここを出てから何分だ?」


「大体15分くらいだ。だが、ビャッコは速い。きっとあの3人ではユキナが足を止めない限り追いつけない」


「だろうな。香織さんも竜也も伊澄さんも敏捷値が足らない」


「颯太でも少し分が悪いんじゃないのか?」


「いや、シーザーを使えば問題ない」


「なるほど、その手があったか。俺もそろそろテイムモンスターを捕まえるべきかな」



ストレージからシーザーを呼び出した颯太を見ながら滉介が自嘲気味に語る。



「ティア、後ろに乗れ」


「うん」


「滉介、もし香織さん達が戻ってきたらたとえユキナを連れていなくても外に出るなって言っておいてくれ」


「あぁ、了解だ」


「それじゃ、行ってくる――――――シーザー!」


「オオオオオン!」



シーザーは足元に紫電を散らしながら稲妻の如く臨時キャンプを飛び出した。





「おや、滉介1人か」


「アンタか」



颯太と詩織が臨時拠点を飛び出してから更に20分後、クレアが戻ってきた。



「颯太達なら勝手に出て行ったユキナを追って行ったわ。わたくしと滉介は待機するように言われたのよ」


「なるほど。ユキナは我慢出来なかったか」



大体の事情を察したクレアは拠点の外の戦場へ目を向ける。



「そっちの話しはついたのか?」


「やっとついたよ。これから出撃だ」



クレアが親指で後ろを指差し、滉介は視線だけを向ければそこにはやっと慌ただしく出撃し始めたプレイヤーの姿があった。



「で、俺達は?」


「颯太が出て行った以上、竜也たちが戻ってくることも考えて誰かしらリーダーがここにいなければならない」


「んじゃ俺達は待機か」


「すまないな。退屈な時間を過ごさせて」


「いや、構わないさ」


「滉介、待機なら何かジュースでも買ってきなさいよ。喉が渇いたわ」


「あぁ、了解。アンタは?」


「私はコーヒーでもいただこうか」


「あいよ」



滉介は気怠そうに立ち上がって飲み物を買いに行った。



「彼も大分私達のグループに慣れてきたな」


「今更じゃないかしら」


「それもそうなんだが、こうやってゆっくり話せる機会がなかったものでな。なかなか気付く暇がなかったのだよ」



滉介の後ろ姿を眺めながらクレアがそう言い、リーナは特に興味もなさそうに答える。



「まぁ確かに言われてみれば、ここ最近ずっと戦ってばかりだったわね」


「このバトルアリーナは個人戦ではないからな。サボるわけにも行かないのだ」


「でも今わたくしたち今はサボっているわよね」


「そんなことはない」



クレアは苦笑する。



「そう言えば気になったのだけれど、香織とティアって颯太のこと好きなの?」


「そうだな。直接本人に聞いたわけではないが、傍から見た限りでは恐らくそうだろう」


「あなたは?」


「私か?私は確かに颯太のことは好きだが、あの2人とは少し違うかもしれないな」


「どう違うの?わたくしにも分かるように説明しなさい」


「愛でると言った表現が合っているかもしれない。私は年下が好きだからな」


「年下趣味なの…?」


「あぁ、そうとも。その中でも颯太は一際私の琴線に触れるモノがあってな。彼の成長を見届けたい、そんな感情すら芽生えるほどだ」


「ごめん、少し理解出来ないわ……それは好きってことではないの?」


「微妙なラインだな………―――ふむ、一種の家族愛に似たものかもしれない」


「家族愛?」


「親が我が子を愛するのは当然だろう?」


「そうね」


「それと似たようなものだ。確かに私は颯太のことが好きだ、愛している。でも、それは颯太の子を産みたいとか、そういう感情ではなく、親が我が子を見守る愛と同じだと言っているのだ」


「……なんだか複雑ね。つまりあなたは傍観者だと」


「私があの2人の恋路に割り込むわけにもいかないだろう。唯一の相談役だと思われている私がまさか颯太を取るつもりでいたらそれこそ人間関係崩壊に繋がる。崩壊してしまったらこのギルドも散りぢりになり、リアルの世界でも彼女らの生活に支障をきたす」


「え、現状の状態でもやばいような気がするのだけれど」



そこに気付いたリーナははっと息を呑む。



「やばいとも。ティアが何を言ったのか分からないが、実際にここ最近香織の元気がない」


「悩んでいるのかしら…」


「相当な。それに颯太も颯太だ。小学生時代も中学生時代も陸上一筋でやって来たから恋愛とか、そう言った話に疎く、彼女たちの精一杯のアピールに全く気付いていない」


「ストレートな表現をしなければ気付かないのね」


「そうだ。レーナクラスの感情表現をしなければ彼は一生気付かないだろうな」


「え、なにもしかして膝に座れと?」



リーナは顔を歪ませて冗談めかしに言うが、クレアは至極真面目に頷く。



「えぇ……」


「颯太は君たちが思っている以上に子供だ。他人の恋愛ならともかく、いざ自分の身となれば小学生並みに初心だ」


「香織もティアも難儀なものね」


「3人とも恋愛に関しては初心者だ。最近の高校生のように軽い気持ちで付き合うとか、そういう選択肢は全く持ち合わせていないからな」


「そういうクレアは?」


「私が高校2年生の時に1度だけある」


「あら、意外ね。あなたほどなら数多引く手でしょうに」


「あったとも。だが、私はモデルの仕事が忙しく、自分のために裂く時間が余りにも少なかったのだ。だから、そういう文通も呼び出しも全て断っていた」


「でも、気になるわ。どうして断っていたのに1度だけ付き合ったの?」


「それは――――」


「おい、持って来たぞ」



そこへ丁度滉介がカップに入ったジュースとコーヒーを持ってきて話が途切れると。



「私の話しはまた今度だな」


「えー!?良い所だったのにやめちゃうの!?」


「ん?」


「あぁ、そもそも戦場には関係のない話だったしな」


「自分から始めた癖に………―――もう!滉介!あと少し遅れてから来なさいよ!」


「え?お、俺が悪いのか?」


「そうよ!」


「はっはっは!また空いた時間が出来たら話そう。それまで楽しみにしていてくれ」



クレアはコーヒー代を滉介に渡しながらカップを受け取ると笑ってコーヒーを口に運んだ。



「なんだかクレアには一生敵わない気がするわ」


「そんなことはない。リーナも私をあっと言わせる話でも持ってくるといい」


「それが難しいのよ……」


「一体何の話をしていたんだ?」


「男のアンタには関係ない話よ」


「なに、ちょっとした恋バナさ」


「なんだ、それなら俺は関係ないな」



滉介はどっかりとリーナの隣に座り、リーナは少しむくれながらジュースを飲むのであった。

どうも、また太びです。

ここ最近素麺が食べたいなと思って親に言ったら、仕送りの中に大量の素麺が入っており、処理をしていたら体重が激減しました。

元々太りにくい、痩せにくい体質だったのですが、流石に3日のうち2日くらい夜素麺のペースで食べていたらそりゃ痩せますよね。


そもそも朝飯を食べませんし、昼もがっつり食べないものですから………――――う~ん、酷い食生活……。

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