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敏捷値が高い=強い(旧題ランゲージバトル)  作者: また太び
5章 青の領域と赤の領域(続)
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夏休みの計画

「ただいま」


「おかえりー!颯太遅かったね」



伊澄の出迎えのあと、そのままクレアの家にいた颯太が家に帰ってきた頃には日が暮れていた。

いつも通り母さんが作る晩御飯の手伝いをしていたレーナは、てってってと走ってきて颯太に駆け寄る。



「一度家に帰る予定だったんだが、クレアさんから連絡があったもんでさ。そのままクレアさんの家にいたんだ」


「何してたの?」


「伊澄さんのお出迎えをしていた。夏休みの間こっちにいるんだってさ」


「ガンドレアも来たの?」


「あぁ、来たぞ。あっちの世界と何ら変わらない姿で」



颯太は『暑いな』と言って冷蔵庫の中の牛乳を手に取る。



「あ、そういえば言い忘れていたことがあった」


「え?」


「滉介とリーナもこっちに来るようだ」


「えええ!?」


「あら、レーナちゃんのお友達?」


「まぁ……お友達なのかな………いや、どうなんだろ…」


「歯切れが悪いわね」



そこで晩御飯を作っている母さんが会話に混ざり、颯太は渋い顔をする。



「今度うちに連れてきなさいよ」


「そうするか。どうせ何だかんだでうちに来そうだしな」


「あんまり気乗りしないなぁ…」


「そんなこと言ってないで仲良くしろよ?」


「む~…」



颯太はコップの中の牛乳を飲み干し、コップを流しに突っ込んで着替えるため2階へ上がって行った。






「ええええ!?伊澄さんこっちに来たの!?」


「今日な。その伊澄の出迎えの電話を入れたのだが、2人とも用事があったのなら仕方がない」


「そうだったんですか……伊澄さんが来るのでしたら委員長の仕事なんて後回しにしたのですが…」


「…クレアには出迎えなんていらないって事前に言っていたから気にしてないよ…」



無事テスト週間も終わり、颯太達は中央拠点の中庭で集合していた。そこでクレアが今日伊澄が仙台に来たことを知らせると、詩織は『あちゃー』と額に手をやり、香織も残念そうに目を伏せる。



「伊澄の学校のテスト週間日をうまく把握出来てなくてな。まさか今日来るとは思わなかったのだ。それで後手後手になってしまい、急いで君達に連絡を入れたのだ」


「まぁ2人とも用事があったから仕方がない。それで滉介はいつ来るんだ?」


「俺は颯太達と同じく今日テストが終わったから、ログアウトしたあと色々準備をする。チケットはもう少し先になりそうだ。夏休み前とあってなかなか取れなくてな」


「あ、滉介も来るんだ。リーナさんも?」


「ええ、本当なら一歩も外に出たくないのだけれど、滉介が行くと言うのだから仕方がないでしょう?」


「あぁ、そうだ。リーナ、空いた日でいいから家に来ないか?」


「わたくしが?何故?」


「母さんがお前に会いたいって言っていてな。良ければ会ってくれないか?」


「……ちょっと颯太こっちに来なさい」


「ん?」



皆が訝しげに見るなか、颯太は林の方へ手招きされたリーナに着いていく。



「なんだ?」


「あなた、わたくしとレーナのこと喋っていないでしょうね」


「それはどういう意味だ?2人が神器だということは喋ってはいないぞ」


「………まぁそれならいいんだけど」



リーナはどこかほっとした様子で息を吐き出す。今の颯太の言葉が彼女の求める真の回答だったのかは分からない。だが、颯太は今の回答が間違っていたと何となく気付いた。



「いいこと?わたくし達はあくまで神器よ。本来なら使い手たるご主人以外の人間との接触は極力避けるべきなの。でも、わたくしの考えをあなたに強要するのは間違っていると思うから仕方なく会ってあげるわ。それであなたの気が済むのならね」



リーナは明らかに乗り気ではなかった。やっぱりこの少女はレーナやボルケーノ達とは考え方が丸っきり違うようだ。



「話は以上。皆のところに戻るわよ」


「リーナはレーナのことをどう思っている?」


「なに?藪から棒に」


「別に深い意味はない。ただ、少しだけ気になってさ」



踵を返したリーナに颯太はそう問いかけた。振り返ったリーナはやや不機嫌そうに聞き返し、顎に手を当てて『そうね…』と言いながら真面目に考え始めた。



「あの子はわたくしのライバルだけれど、何だか放っておけないのよね。ほら、わたくしとレーナって聖と闇。相反する存在として作られたでしょう?だからわたくしにインプットされた内容はレーナと敵対する関係を築くってことなのだけれど、何だかわたくしの思考回路に異常が発生しているみたい。レーナもそれが気になってもやもやしているんじゃないのかしら」



今度こそリーナは『話は終わりね』と言って一足先に皆のところへ戻っていった。



「やっぱり姉妹なんだな……2人とも」



颯太は神器にされてしまった2人の運命を少しだけ悲しんだ。





「何の話をしていたんだ?」


「ランゲージバトルのことを喋っていないかくらいのことだよ」



皆のところへ戻るなり、隣に座っている竜也がそう尋ねてきた。



「ま、喋るわけないよな」


「当たり前だ」


「さて、颯太とリーナも戻ってきた。ここいらで以前に話しをしていたギルドのオフ会についての計画を練って行こうではないか」


「む~ユキナも行きたかったなぁ」


「ユキナちゃんは仕方ないよ。もうちょっと大きくなったら行こうね」



香織の隣に座るユキナがむくれ顔でそう呟き、それを香織は笑顔でたしなめる。



「当初は滉介の家に殴りこみにでも行こうかと思っていたのだが、滉介本人がこちらに足を運ぶ故にその計画はおじゃんとなった」


「はぁ!?俺の家に来るつもりだったのか!?」


「あぁ、確か滉介が住んでいる場所とはなかなか景色が良い田舎町だというじゃないか。だからそこにしようと思っていた」


「俺の家そんなに広くないから無理だぞ…」


「と、本人もそう言っているので滉介の家はなしだ。そこで今日の午後に私、颯太、竜也、伊澄の4人でどこに行きたいかの案を2つほど出しておいた。伊澄は何も言っていないが」


「むぅ…」



クレアはストレージから小さなホワイトボードを取り出し、きゅっきゅとホワイトボードにペンを走らせる。



「遊園地、キャンプの2つだ。もしこの案の中にまだないものがあったら素直に言って欲しい」



クレアはしばらく皆の顔を見渡す。そして誰も手を挙げないようなので話を先に進めた。



「では、この2つから決めたいと思う。まず遊園地だが、これは竜也の案だったか」


「無難じゃないっすかね?皆も楽しめるっていう点では」


「そうね。兄さんにしてはなかなかかも」


「おい」


「でも、なんか近場って感じがして味気ないような…」


「あぁ、それ俺も言ったな。近場過ぎないか?って」


「だよね。それに1日で終わっちゃうでしょ?どうせならもっと皆で楽しめるような場所がいいな~って思う」


「そこで颯太の案のキャンプだな。これは私も賛同している。何せキャンプに行けば海にも行ける。海に行けば今年買った新作の水着が無駄にならなくて済むからな」


「はっ!?」


「あ…!」



クレアが放った『水着』という言葉に詩織と香織は息を呑む。伊澄と男3人と神器たちは何のことだ?という顔をしているが。



「く、クレアさん!明日あたしの買い物に付き合ってくれませんか!?」


「わ、私も!」


「んじゃわたしも…?」


「ふふ、いいだろう。しかし、まだキャンプに行くと決まったというわけではないぞ」



皆の意見が飛び交う。そんな中で颯太の膝に座るレーナが彼の顔を見上げながら尋ねた。



「ねえねえ颯太、キャンプって何するの?」


「なんて言えばいいんだろうなぁ……アウトドアな生活を楽しむってことでいいのかな」


「ん~…?よく分からないや」


「まぁこればっかしは俺もあんまり経験がないからな。確か父さんが今よりも忙しくなかった頃に一度だけ行ったきりだったかな」


「お父さん、前はそんなんじゃなかったの?」


「息子の俺が言うのもなんだけど、あの人、前から家族付き合いがうまく出来ない人っていうか不器用な人なんだよ。だから、あんまり家族で出かけるということもなくて、そのキャンプに行くっていう話も急だったんだ。それから課長になって、部下を多く持つようになってからはそれっきり家族全員でどこかへ出かけるということもなくなった」


「お父さん寂しいのかな」


「どうしてそう思った?」


「私は最近家族になったばかりだから昔のことは分からないけど、たまに一緒にゴルフするとき私に教えてくれるんだけど、その時のお父さん笑顔だったよ」


「え!?あの人笑うのか!?」


「うん、私がね、ちゃんと打てるとうまいうまいって言ってくれて笑いかけてくれるんだ。本当は颯太とか、和彦ともこんな風にやりかったんじゃないのかな」


「そうだったのか………」


「お父さん、頑張ってるよ。いつも忙しそうに見えるけど、実はちゃんと颯太達のために時間を作ってくれている。だから、颯太も今度一緒にゴルフいこ?」


「あぁ、そうだな。その時は兄貴も呼ぶか」


「うん!」


「どうやら皆の中の答えも決まっているようだ。ここで多数決を取りたいと思う」



どうやら颯太とレーナが目を離しているうちに会話が結構先のほうまで進んでいたらしい。颯太とレーナは話を聞き逃さないようにクレアへ目を向けた。



「皆、私が合図をしたら目を瞑ってくれ。そして私が遊園地、キャンプの順で名前を読み上げるから、どちら好きなほうに手を挙げてくれ。ちなみに私はキャンプ派なので予め1票をキャンプに入れておく」


「我に投票する権利は?」


「もちろんある。神器諸君らも是非清き1票を手にする者として手を挙げてくれ」


「私はどちらでもいいんですけどね」


「ふふ、私は既に答えは決まっているぞ」


「なんだか琥太郎ノリノリだね…」


「一歩も家から動きたくないのだけれど」


「ちゃんと手だけは挙げろよ?」


「はいはい、言われなくても挙げるわよ」


「私も決まっているもんねー!」


「ユキナは?」


「ユキナももし自分ならどちらに行きたいかを思って手を挙げてくれ。それでは、投票に移る」



クレアの声と共に皆が目を瞑る。



「最初に遊園地に行きたい人は手を挙げてくれ」



きゅっきゅとペンが走る音が聞こえる。



「次にキャンプへ行きたい人は手を挙げてくれ」



クレアは『ふむふむ』と頷きながらホワイトボードに書き込んでいく。



「OK。皆、目を開けていいぞ。多数決の結果、こうなった」



皆の目がホワイトボードに寄せられる。颯太も例外ではなく、結果を知るため目線をホワイトボードに移す。



「遊園地が5票、キャンプが11票となった。よってランゲージバトルのオフ会はキャンプに決定だ」


「あ~やっぱりキャンプになるのね。分かっていたけど」


「やっぱりお前は遊園地か。でも、良かったんじゃないのか?プールとは違うが、泳げるだろ」


「わ、わたくしは滉介と二人っきりで行きたいのであって……」


「え?もごもご言われて聞こえないぞ」


「う、うるさい!別になんでもないわよ!」


「な、なんだよ。そんなに怒鳴らなくてもいいじゃないか…」


「颯太殿、私の料理の腕を振るう時が来たようだ」


「お、琥太郎は料理が出来るのか?」


「もちろんだとも。颯太殿、楽しみにして待っているといい」


「そいつは楽しみだな」


「なんかさ、最近琥太郎の忠誠心があたしより颯太の方が高いよね。どうして?」


「颯太×琥太郎?うそ、んな馬鹿な…」


「おい、レーナどこで覚えた」


「ま、皆が楽しめるのなら遊園地じゃなくてもいいか。海か川か分からないけど、いっぱい泳ぐぜー!」


「我も存分に楽しむとしよう。竜也、我に合う水着はあるだろうか」


「え?お前火のドラゴンなのに泳げんの?」


「水くらいなんともない」


「そうなのか。ま、合う水着もあるだろうよ。今度買いに行こうぜ」


「火ってなんだっけ…」


「火は普通水に入れれば消えるものですよ、香織。ですが、ドラゴンにその定義が当てはまるかは分かりません」


『あ、私の声も反映してくれたのですか、クレア』


「あぁ、もちろんだとも。お前も、私の大切な神器だからな」


『ありがとうございます』


「水……ガンドレアは大丈夫…?」


『ガウゥ…』


「ダメか……ガンドレアはお留守番だね…」


『くぅん…』



よしよしと頭を撫でられるガンドレアは悲しげな声を漏らす。



「ユキナも行きたいなー!もう皆ばっかずるいー!」


「確か今度のアップデートで水着が実装されるそうだ。それを着てフリーマップの海にでも行こうか」


「クレアさん…あそこのマップは海中から出現するモンスターだらけですよ……」


「倒しながら遊べばいいだろう?」


「すっげーデンジャラスな海水浴になりそうっすね…」


「それいいね!そこだったらユキナも遊べる!」


「ゆ、ユキナちゃん?今の話聞いてた?危ないんだよ?」


「え?倒しながらだったら全然問題ないよ?」



クレアの冗談なのか本気なのか分からない発現に颯太達は苦笑するが、ユキナは目を輝かせて賛同する。



「流石1世代目神器使い……あそこのモンスターを問題なしと言うか…」


「あぁ、そういえばあそこの敵即死効くから問題ないな」


「え!?颯太くんも!?」


「俺も即死効くのなら問題ないぞ」


「滉介も!?このチート神器使い共め!」


「ティア、それ俺たちにとっては褒め言葉だぞ」


「はう!?逆効果だった…」


「まぁそこも追々考えていくとして、今はキャンプのことを考えていこう。車の手配とかもあるしな」


「あぁ、車か。13人じゃちょっと多いですよね」


「生憎私の車は5人乗りでな。竜也はもう免許を持っていたか?」


「ええ、もちろん車もありますよ。あれは8人乗りだったかな」


「おお、それは重畳だ。しかし、ガンドレアを人と数えていいのか?女子だけを集めてしまうと6人となってオーバーするわけだが」


「ガンドレアはペット……だから、問題ない…」


『ガウ』


「ほら、本人もそう言っているし…」


「言っているのか…?それは」


「言ってる言ってる……」


「言っているようには見えるけどね…」


「んじゃ、俺の車には残り男子とレーナちゃんとリーナちゃんでいいのかな?」


「あぁ、そうなる。レーナも颯太とは離れたくないだろう?」


「うん!颯太いないとこなんて嫌だもん」


「リーナもだな?」


「べ、別に滉介がいなくてもいいわよ。で、でもそっちの人数がオーバーするのでしょう?なら、本当に仕方がないけど滉介が乗る車でいいわよ」


「と、ツンデレもいただいたことだし、決定だな。さて、日程は皆の都合を合わせながら追々連絡する」



クレアは仮想ウィンドウを開いて時間を確認しながらそう告げる。



「そろそろ開戦だ」


「んじゃ、働くとしますかね」


「バリケード構築は万全なの?」


「ええ、加山さんに聞いたらこの前の戦闘で壊されたバリケードは無事修復したそうよ。だから、思う存分暴れてきてくださいと」


「レーナ、今日も頼んだぞ」


『うん!頑張ろうね!』


「リーナ、行くぞ」


『はいはい、疲れない程度に頑張りなさいよ』


「ガンドレア…」


『ガアアアア!』


「よーし!ユキナ頑張っちゃうぞ!」



拠点のメンバーが次々と拠点内のワープホールを使って最前線へ飛んでいく。颯太達も例外ではなく、神器を武器に変形させながらワープホールへと歩き出した。

また太びです!


GWは皆さんどのように過ごしましたか?社会人の方は『ナニソレ、オイシイノ?』状態かもしれませんが……。


私のGWは何だったんでしょうね………ふと振り返れば新作の小説執筆に追われ、ああでもない、こうでもないと悩んで書いては消しての繰り返し。

やっと納得が行く話しが出来たのですが、いかんせんタイトルが決まってなくて、なんだかなぁ…という感じです。以前に新作を執筆中と活動報告に書きましたが、その話し消したんですよね……読み返したら面白くなくて『あぁ、これウケないな』と自然に言葉が口をついてしまってその勢いで消しました……。


もう4作ほど書いている私ですが、消した話は結構多いです。その時の気分によるんで、上がり下がりは酷いです。

ふとゲームとかで猫耳や狐耳を見た瞬間に『あ!ファンタジー系で狐耳のヒロインが出てくる話を書こう!』と突然頭に思い浮かび、気付いたら3万文字くらい書き上げていたことなんてざらにあります。

現在納得が行った話がその狐耳のヒロインが出てくる話でして、もし自分の中でもっと磨き上げることが出来たら次の賞があったときに公開するかもしれません。

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